終末期を迎えている“多重債務者問題”

2014-03-03 17:30:33 | 日記
今年1月24日、政府の「多重債務問題及び消費者向け金融等に関する懇談会」が開かれた。多重債務者対策と言うと、国を挙げて取り組んできた大きな施策ではあるものの、一時期の過熱報道はすっかり鳴りを潜めた。もう殆どの人々は興味も関心も失っていることだろう。

貸金業者から5件以上の借入をしている多重債務者は2012年11月末時点で20万人を切り、07年3月末時点の191万人から大幅に減少。ヤミ金融被害が社会問題化した03年以降、20万人を切るのは初めて。その旨、上記の政府懇談会で報告された。

既に記憶にない人々もかなり多いであろうが、「ヤミ金融被害が社会問題化した03年」の前も後も、貸金業者とヤミ金融業者をきちんと区別して語る政治家や有識者は多くないのではないか。貸金業者とは、貸金業法の登録を受けて貸金業を営む者のことで、いわば法律に従って貸金業を営む金融事業者のことを指す。ヤミ金融業者とは、こうした正規の貸金業者ではない金融事業者のことを言う。違法な金融事業者であり、定義も何もあったものではない。

多重債務問題は、貸金業者への債務なのか、ヤミ金融業者への債務なのか、明確な区別なく一緒くたにされたことが不幸の始まりであったように思う。金融庁によると、5件以上の借入がある多重債務者は昨年11月末時点で19万人となり、昨年3月末の29万人から10万人減少したが、借入が3件以上ある人は168万人。

誰も覚えていないだろうが、06年12月の旧貸金業規制法改正による現行貸金業法制定に至る経過の中で、金融庁は多重債務者のことを「5件以上の借入がある人が200万人」という説を流した。今更ながら、この言い方はおかしい。多重債務者にとって本当の苦しみは、自分が何社から借入をしているかではない。何社から借り入れていようが、債務の総額が結局いくらであるかが問題になる。即ち焦点を当てるべきは、「多重債務かどうか」よりも、「過重債務かどうか」なのだ。

「多重債務問題」の定義は「多重債務問題(貸金業を営む者による貸付けに起因して、多数の資金需要者等が重畳的又は累積的な債務を負うことにより、その営む社会的経済的生活に著しい支障が生じている状況をめぐる国民生活上及び国民経済の運営上の諸問題」とされているが、実際の政策対象として数えられる「多重債務者」とは、その借入先が正規の貸金業者である場合に限られている。

ヤミ金融業者は違法業者だから、金融当局も全貌を把握できようがない。ヤミ金融業者を把握する唯一の方法は、警察当局が公開するヤミ金融の摘発件数だけである。例えば、多重債務者が昨年11月末時点で19万人となったわけだが、ヤミ金融業者が借入先である債務を持つ債務者のことは不明なままだ。正規の貸金業者の5社以上が借入先である債務者の数を評価してみても、真の多重債務者数が減ったと喜ぶのは早計である。
 
下の資料1〔=5件以上無担保無保証借入の残高がある人数及び貸金業利用者の一人当たり残高金額〕で書かれている借入先の件数は、借入先である正規の貸金業者の件数であって、それ以外のヤミ金融業者などは含まれていない。下の資料2を見るとすぐにわかるのだが、ヤミ金融業者数は摘発件数でしか出てこない。改めて言うが、借入先として正規の貸金業者が何社になっているのかというのは、多重債務者(より正確には過重債務者)の債務状況を適切に反映しているわけではないということだ。多重債務者数も、過重債務者数も、今は、正確に把握する術はない。

政府のセーフティネット貸付というのがある。これは公的資金による融資制度で、返済能力の乏しい借り手や信用力の著しく低い借り手が対象となっている。だが、どのような貸付制度であっても、返済に窮する場合が少なくない。公的融資制度の資金回収率が民間融資と比べても相当に低いのは、資金が公的なものかどうかではなく、あくまでも借り手の返済能力に依る。そういう借り手には、おカネを貸し付けるべきではない。返す側も、返される側も、大きな苦労を強いられることになる。そういう借り手には、おカネを貸すのではなく、返済不要な補助金のような形で支援するように転換していくべきだ。

いずれにせよ、この問題はもはや終末期を迎えている。新たに黎明期を迎えるのは、正規の貸金業市場が資金需要に応えられなくなっていることが政治問題化する時であろう。



<資料1:5件以上無担保無保証借入の残高がある人数及び貸金業利用者の一人当たり残高金額>

(出所:内閣府資料


<資料2:ヤミ金融事犯の検挙状況の推移>

(出所:警察庁資料