(前回のはなし)
ミグノンの保護犬情報や、ジモティーなどを見ていると、なぜこんなに柴犬の里親募集が多いのか不思議になる。ペットショップの生体販売のコーナーに行くと必ず子犬が売られているし、写真集やカレンダー、グッズやらもたくさん販売されていて、人気が高い。それなのに、飼い主を必要としている柴犬がこんなにも多くいる。
・・・なぜなんだろう?
長い間、疑問に思っていたのだが、うちにころが来て、やっとその理由がわかった気がする。
いろんなサイトや雑誌などでも『飼い主に忠実で飼いやすい犬』として周知されている柴犬。
しかし、本当にそうだろうか。
いや確かに、従順で扱いやすく、特別利口な柴犬の子犬もいるにはいるだろう。
うちも実際、最初にミグノンからやってきたオレコ(ゴールデンと柴と秋田とテリアなどいろいろ)は、いたずらもせず、聞き分けが良く、実に手がかからないお利口さんで、とても育てやすかった。
その次に保護したこんちゃんは老犬で、冬期に長期放浪したためかなり衰弱しており、保護当初から元気がなく(おまけに持病がたくさんあった)、回復してからも、性質的におとなしく、ひとの話をちゃんと聞き、素直に協力してくれるタイプで、しかも抜群におもしろかったので、こちとらノンストレスだった(後に痴呆で大変な時期が来るとして少なくともたっぷり2年半は穏やかな日々を過ごさせてもらったのだ)。
犬ってたいしたものだなあ、ちゃんと人間の話を聞いてくれるし、しっかりわかりあえるんだものなあ、と感動していたものだった。
ところがである。
ころが来て、すべての犬がそうではないのだと、考え方が180°変わった。
なんだこの生き物は。子犬というのは。こんなに大変なものなのか。(『あほあほマンの赤マント。』)
床でもふすまでもなんでもゴリゴリかじってしまうし、ペットシーツなんていつだってびりびりの粉々だ。スリッパなんて、脱いだそばから隠さないと、たちまちのうちにボロンボロン。おまけに誰に似たのか(我が家のみんなだよ)小さな頃から底なし胃袋の大飯ぐらいだ。
からだが大きくなってくると、盛んにラブラブ攻撃をするようになり、それをオレコが嫌がるようになって、ころがリビングに飛んでくると「ああたいへん」とばかりに、別室に待避するようになってしまった。
そんな乱暴者なのに、一方で、「なぜ?」と言いたくなるくらいどんくさく(後ろを向いて走りながら柱にぶつかったり、こたつの角に顔をぶつけたりして泣きそうな顔をしていたりなんてのはしょっちゅうだ)、そのくせすぐに立ち直り、いつだって「えへへえへえへ」と笑っている。性格はめっぽういい。にこにこいつでも愛想がいいのと、犬も猫も人ももうなんでも大好きで、裏表のない、のびのびした子なのである。こういうところはきっと、外飼い全盛の頃には問題なかったのだろう。
一緒に家の中で暮らすには、ほんとうに大変だけれど。
オス♂の気が強くなってからというもの、(これは、本格マーキングというか、一緒にメス♀が暮らしているからもう、習性として、仕方がないらしいのだが)子犬の時に折角出来ていたトイレマナーは崩壊、目を離したスキにリビングで大きいのをしたかと思うとこれみよがしに食糞するわ、散歩に行けば拾い食いバイキング(もちろんその度に阻止する)、毎日毎分目が離せないドタバタ劇場で、育児疲れというのか、身も心もへとへとになっていた。
ころの逃亡は、そんな中で起こったのだった。
ハーネスとリードを持って、心臓が破れそうなくらい走る。時折、脚がもつれ、倒れそうになった。
不思議だが、心と体が思うようにならないからか、頭は静か、冷静だった。いろんなことをいっぺんに考え、すべきことと段取りが、構築されていく。
まず警察、そして愛護センターに電話、もちろん家族にも知らせる。
散歩でよく会う人たちと、ころが逃げ出した場所が人気のお店だったので、スタッフの方に声をかけ、連絡先をお知らせし、協力をお願いした。
警察と愛護センターには、まだ一昨日手術したばかりで、協会への事務手続きはこれからなのだが、マイクロチップが挿入してあることも伝えた。
その場ではID番号がわからなかったので、手術してくれた病院(それまでマイクロチップを管理していたから)を知らせておく。
『身に何もつけていない、生後7ヶ月の赤茶の柴犬』というデータしかないが、どこかで保護されてチップの確認をしたときに、反応はあるはずだ。
飼い主情報は判明しなくても、購入した病院の連絡先はわかるかもしれない。
それにしても、マイクロチップの事務手続きである。
手術の翌日にコンビニで払おうとして、思い出した(オレコとこんちゃんの時にもそうだった)。
払い込みは郵便局のみなのだった。これは平日でないと手続きできない。
ところが、明けて月曜は思いのほか業務が忙しく、郵便局に行けなかった。
「仕方ない、明日にも手続き(1000円を払い込む)をしよう」
そう思っていたところだった。そんな時に起こってしまった。
散歩している時は気づかなかったが、こんな小さなエリアでも、野放しになった子犬を探すとなると果てしなく広い。
以前行った十勝平野を思い出した。今にもサケ獲りヒグマが現れそうな、キラキラ輝く札内川(清流日本一平成7回ランキング)が脳裏に浮かぶ。
犀川と梓川も美しかったけど、札内川は別格だった。ああ、けど、黒部のトロッコ列車から見た川も美しかったなあ。
こんなときなのに、いやこんなときだからか、現実逃避とばかりに、今じゃないとだめですか?なことばかり、思い出してしまう。
虚勢手術したばかりだし、子犬だし、きっと知らないところへは行かない。今日だけならきっと、移動するのはお散歩した範囲だ。
でもどこに潜んでいるのか、どこにいるのか。知った町がこんなに怖い風景に見えるなんて思いもしなかった。
この段階でもSNSに助けを求めるのは躊躇していた。
通知が多くなるとバッテリーが落ちてしまうし、通知を切ってしまうと万が一有力な情報が寄せられた時にどうするんだと地団駄。
一方、警察や愛護センター、お散歩仲間からいつ連絡が入るともわからない。
・・・でもな。何が助けになるか、わからないんだよな。
悩んで悩んで、公開することにした。
またもやつづく