
約束の日。
オレコちゃんはやってきた。
黒い車に乗って。
喪服のミグノンの代表友森さんにつれられて。
友森さんと同行者の男性が喪服だったのにはわけがある。
オレコちゃんと同じタイミングで、友森さんから推薦していただいたわんこが他にいた。

杏里ちゃんという。
突然、杏里ちゃんの預かりボランティアさんが亡くなったそうで、彼女も新しい家を探していた。
オレコちゃんか、杏里ちゃんか。
どうぶつを、犬を引き取るということを決めたあと、もうひとつの岐路。
オレコちゃんは保護されたばかり。
おまけに若く愛らしい容姿をしていて、人気ものらしい。そして元気だ。
だから私たちのほかにも預かりたいという候補はいるかも。

でも杏里ちゃんは。
突然のことで、本人(犬)もショックだろうし。

一日も早く預かり先が必要だ。
私はとてもかわいいと思ったが、老犬だし、病気などを経験していて、
少し元気がないようにも見える。耳の形も変形している。

でも杏里ちゃんの写真を見ていると、彼女の性格が伝わってくるようで、どうしても放っておけない気になってくる。
引き取ることを決めたけれど、誰を?というところで、家族と話し合って、結局結論はでなかった。

それで友森さんにはオレコちゃんにご縁を感じるけど、引き取り手のない子を預かりたいと申し出た。
翌日また事情は変わり、杏里ちゃんは預かり先だったおうちが、
「お葬式などが済んで落ち着いたらまた引き取りたい」
といっているそうな。
よかった(涙)。
・・・これで決まった。

やっぱりオレコちゃんには縁があるらしい。
それで、友森さんは明日は福島という忙しい日に、大変な業務をこなし、
亡くなったボランティアさんのお通夜に出席、その帰り道に、オレコちゃんをつれてきてくださった。
時間がかかるかな?と思っていたけどたった30分でいらっしゃった。

オレコちゃんのいろいろな話をきいて、お世話の方法や、
避妊手術のスケジュール、体調管理、次回の譲渡会は欠席させていただくことなど、
友森さんの手際よさのおかげでぱぱっと打ち合わせは終わり、ものの5~10分でお帰りになった。

玄関までお見送りして、オレコちゃんと私が残された。
移動用ケージとサークルを貸してくださった。
オレコちゃんがこれまで使っていたもの。助かる。
少しの間、家の中の探検が終わってから、お二人が去ってしまったので、玄関のあたりのにおいをかいで、
くんくんきゅんきゅん泣いていたオレコちゃん。
心配になったけど、泣いたのはその少しの間だけだった。
どうやら賢い。薄情なんじゃなくて。
そして思ったより小さい。
細い。
肉付きをよくすることが目標なので、運動と、食事。
これが何よりの課題。

友森さんもおっしゃっていたのだが、オレコちゃん、どうやら過去にちょっと虐待を受けていた節がある。
手を頭の上にあげられると、目がしばしばとけいれんのようにまたたき、そして少し首をすくめる。
「やめてください」
という顔をする。胸が苦しくなる。

車での移動だったので、酔っているかもしれないから落ち着いたら散歩とごはんを、といわれていた。
30分くらい一緒にいて、私はいつもどおり、着替えたり、くつろいだり、その間ずっと声をかけ続けた。
オレコちゃんはそのうち私の後追いを始めた。
「じゃあ散歩いこうか」
用意した中型犬のリードとハーネスだったが、散歩中に食いちぎるかもしれないので、
もう1本用意して、2本使ったほうがいいといわれていたので、1本しかないうちは、注意しなければ。
21時ごろ外へ出る。
通りはまだ車が多く、オレコちゃんはかなり緊張している。
でも散歩は大好きみたい。
家の中ではおとなしいのに、走る、走る。
ぐいぐいとひっぱる。
これはうれしい。
どうやら自分の記憶にある場所を探しているようだった。
遠く離れた別の町ということが、そんなすぐには理解できるものではないだろう。
初めての散歩が夜でかわいそうだなと思った。
1時間近く散歩したけれど、おしっこもうんちもしない。
心配だったが、とにかく食事もしなければ。
家に帰り、ごはんを出すと(ミグノンさんから頂いた)、がつがつがつ、と平らげる。
ああ、よかった。
出るものは出なかったけど、食べてくれて。
それから一緒にすごすうちに、どんどん打ち解けてくれたよう。
緊張していたんだね。
必ず一緒にいたがる。
さびしかったんだね。

洗濯物をたたんでいたら、別のソファに座ってたオレコちゃんが、
飛び移ってきて、腕の下や、胸元に顔を押し付ける。
ふんふんにおいをかいで、私のひざの上で、体を丸める。
ああよかった。
嫌われなくて。
だけどオレコちゃんはとても賢くて、
「あ、せんたくものたたむのよね」
という感じでもといた場所に戻った。

そして私があれこれ普段どおりの家事をこなす間、
寝息も立てずに眠りこけた。

必ず私のいる方角に頭を向けて。
(インターミッション)
真夜中に夫が帰ってくるというので、
出るものが出ないオレコちゃんをもう一度散歩にさそう。
午前3時の外へ出ると、もう車も殆ど走っていない。
オレコちゃん、さっきより、すごくうれしそうで元気。
地面に足をつけたとたんに走り出す。
すぐそばを夫の車が通ったので、ブレーキをかけ、彼が来るのを待った。
暗闇に大男。
それも真っ黒な服。
しっぽが下がって丸まっちゃった。
「こわいんだね~」
名前を呼び続けて、彼女のほうから来るのを待っていた夫だったが、
さびしそうにあきらめた。
家の中でスキンシップはかればいいか。
じゃあねといって、夫を残し、二人で暗闇を突っ走った。
オレコちゃんは住宅街が好きなんだね。
あっちこっち冒険したがり。
30分くらい歩いてまだおしっこをしないので、心配したが、
もう帰らないとなあ、と思った頃に、急にしゃがんで、
「ちー」
という感じで、ちょこっとお小水。
飲んだ水の量からすると、少ない気がするけど、まあいいか。
出るようになったらもうけもん。
大きいほうはだめだったけど、かえろうね。
それから家に帰って、夫がいて、びっくり。
でも徐々になれて、一緒の部屋でくつろぐ。
だけどやっぱり私のそばにいる。(いひひ)
ソファがお気に入りみたいだったけれど、
明日からはお留守番もしなければならないし、
今日は予行演習のつもりで寝るときはオレコちゃんのお部屋に。
扉を閉めた。
少ししてから見に行った夫が、
「立ってたよ」
といった。
んでも、ココロを鬼にして、
「慣れてもらわなくちゃ」
と私は寝てしまう。4時半だったかな。
翌日おきれるかなーとか思いながら、
1時間半の散歩で体も疲れて、ぐっすり。
久しぶりの快眠。
2時間ごにすっきりした目覚め。
低血圧でなかなかおき出せないんだが、
パキっと起き上がり、オレコちゃんのお部屋に。
もう、待っていたらしい。
まんなかで、立っていて、しっぽがぷりぷり。
「おはよう。お散歩いこうね」
少し残していたごはんも平らげたみたい。
大きいの出るといいけどな。
お弁当の仕込みなど、家事を済ませて、外へ。
待ってる間、
「ねえ~、まだかなあ?」
ていう感じのオレコちゃんのかわいかったこと。
徹夜続きの夫はぐったりしていたのでそのままに。
二人で朝日いっぱいの町へ出て行く。
オレコちゃんは元気いっぱい。

あっちこっちで犬連れのおじちゃんおばちゃんおばあさんに会い、みーんなから、
「かわいいわねー」
といわれる
「若いんでしょう」
といわれる
「おみみがおれているのねー、チャームポイントねー」
といわれる
「おりこうなのねー」
といわれる
えっへん。
でもぜんぜん、私の関与するところではないんだけど。
ゆうべは暗かったし、怖かったし、おどおどしてたけど、
今朝のおれこちゃんはうきうきしてる。
散歩が大好きなんだね。
ぐるぐるまわって、走ったり、ジャンプしたりした神社では、
大きな羽虫が地面をぴょんぴょん飛び跳ねていて、それをつかまえようと、
猫みたいな動きをする。あ、コレ違う。なんかでみたことある。
北極ギツネが雪原のウサギ穴を攻めるときのあれだ。
そういえば、オレコちゃんって、きつねにも似てる。
ゆうべ、夫と、
「ダックスにも似てる気がするし、ジャックラッセルにも、シェルティーにも似てるよね」
とか話していたんだった。でも結局、素人にはルーツなんてわからず。
遺伝子検査ならわかるんじゃないのというと、そんなんじゃなくてさ、と来た。
「そういうの、わかる人いないのかな?ああ、この子はあれが入ってるんですよ」
そんな池上さんみたいな犬マイスターがいたら会って話を聴いてみたいけど、大体その「~ですよ」の根拠は何なんだ。
しばらくして、大きいほうが出た。
ココロの中でガッツポーズ。
しかし小が出ない。
55分の散歩から帰ってごはんをあげたが食べない。
いろいろ忙しそうな私を見ていて、
「たぶんるすばんなんだろうな」
と察知したようで、そばから離れない。
台所に立っている間もずっと、足元の少し離れていたところで寝ていた。
から揚げあげてるから危険だけど、おとなしくて、賢いので、大丈夫。
他の子だとこうはいかないな。

三次元の動きをする猫なんて、もってのほかだ。
実家には空気読まずに背中におんぶしてくるやつもいるし。
こういう賢さがちょっとけなげでもあり、もっとわがままいってほしいなあ(困るけど)というココロの複雑を呼ぶ。
ベランダにも出てみた。
お花にお水をあげるとき、興味がわいたみたいだった。
少し笑顔になってた。ちょっと楽しそうだった。
徹夜続きの夫のしたくがすっかり整って、さあ出かけますとなる5分くらい前に、
オレコ部屋に入ってもらい、扉を閉めた。
「かえってきたらあそぼうね」
賢い。
多分、真ん中で立って、扉を見つめているに違いないけど、鳴いたり、扉をがりがりしたりはしない。
「わかった。待ってる。でもまた扉あかないかな」
そんな感じ。
鍵をかけて出て行くときも、ひとつも騒がなかった。
この子は相当いい子だ。
オレコちゃん、あとはおしっこだね。
帰ったら、また、いっぱいいっぱい、散歩しよう。
仕事ばかり、時間に余裕のない、ギスギスした生活に、いきなり「ハリ」が出た。
なんかしあわせ。

猫のいる生活を知ってしまうと、
猫がいない生活は耐えられなくなる。
できれば今も猫がいてくれたほうがいい。
だけども。
想像していなかった犬との暮らし。
以前よりずっと、しあわせだ。
犬も猫も一緒に暮らせたらなあ。
完璧だな。