KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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お久しぶりの代表選考問題

2015年04月15日 | 五輪&世界選手権
お久しぶりっこぶるぶるぶりっこ!

四ヶ月ぶりの更新の挨拶がこれでいいのかと思いつつ、お久しぶりの話をしよう。先月、今夏に北京で開催される世界陸上選手権のマラソン代表が発表されたが、久しぶりにその代表選考が物議を醸した。

今大会よりマラソンの出場枠が3人に変更された。代表として発表されたのは名古屋ウイメンズマラソンで3位(2時間22分48秒=日本歴代8位)の前田彩里。同じ名古屋で4位(2時間24分42秒)の伊藤舞。そして、あと一人に、横浜国際女子マラソンで優勝(2時間26分57秒)で優勝した田中智美を選ばず、大阪国際女子マラソンで3位の重友梨佐が選出された。

この選出結果に、記者会見の席上でスポーツライターの増田明美が

「なぜ、優勝して田中さんが選ばれなかったのか?」

と疑問を呈した。

五輪や世界選手権の代表選考において、選考レースの優勝者が落選したことは、23年ぶりの事態である。ここは大事なことである。このような事態は初めてではないのだ。

1992年のバルセロナ五輪の選考。今も語り草になっている、有森裕子と松野明美との代表選考争い。それについてはまた、後に述べるとして、この大会の選考において、選考レースだった前年の東京国際女子マラソンの優勝者の谷川真理、名古屋国際女子マラソン大江光子が落選した。その時、代表に選ばれたのは、前年の世界選手権で日本人で初のメダルを獲得した山下佐知子。大阪国際女子マラソンで初マラソン初優勝の小鴨由水、そして、世界選手権4位の有森裕子だった。

大阪で2位の松野明美と有森との間のバトルは今も語り草だ。当時の彼女の後援会がセッティングした記者会見で自分を選んで欲しいとアピールした松野が落選したことで世論が激しく二つに分かれた。

有森を選んだ陸連に対して、非難を寄せるメディアもあった。世論の大勢も松野に対して同情的だった。その影で、谷川(補欠に選出)と大江の事は見事に忘れ去られた。

バルセロナ五輪で、有森は銀メダルを獲得した。彼女と死闘を演じた金メダリスト、ワレンティナ・エゴロワは前年の東京国際女子で谷川に敗れたランナーである。谷川が代表から漏れた理由は、
「優勝したものの、強い外国人選手と戦っていない。」
というものだった。松野は、「自分も暑さの中で戦える」ことをアピールするために、8月の北海道マラソンに出場するも4位に終わった。

有森が銀メダルを獲得した翌日、「そんなユウコに惚れました」という見出しをつけ、
「やはり代表に有森が選ばれるべきだったのだ。」
という書き出しの記事を掲載したスポーツ紙もあった。

アトランタ五輪の代表は全て、代表選考レースの優勝者から選ばれた。北海道優勝の有森、東京国際女子優勝の浅利純子、名古屋国際女子優勝の真木和。大阪国際女子でカトリン・ドーレに敗れた鈴木博美は落選した。

シドニー五輪の代表は、前年の世界陸上銀メダルの市橋有里、東京国際女子優勝の山口衛理、名古屋国際女子優勝の高橋尚子が選ばれ、大阪でリディア・シモンに敗れた弘山晴美は落選した。そのシモンと争い、高橋尚子が金メダルを獲得した。

このように、代表選考レースで優勝することが、代表に選ばれることが、「定着」したかに思えた代表選考だが、アテネの代表選考は大きく紛糾した。代表選考レースである大阪国際女子で優勝した坂本直子と、名古屋国際女子マラソン優勝の土佐礼子が前年の世界選手権銀メダルの野口みずきとともに代表に選出され、東京国際女子で2位に終わった高橋が落選したことで、陸連がかつてないほどの非難に晒された。

この辺のことは、もう、このブログでも何度も書いてきた話だ。twitterにも最近書いた。ここで、代表選考レースに優勝したランナーが代表に選出されたことが激しく非難されたのだ!
ネット上では、当時の陸連会長が「売国奴」とまで罵倒された。

「出たら勝てる選手を落として、代表に選ばれただけで満足の選手を選んだ。」

とまで言われたのだぞ。えっ、その事忘れたわけじゃないだろうな?

23年前の陸連は、松野よりも谷川よりも大江よりも有森が「本番で活躍出来る選手」と判断して、有森を選んだ。そして、有森は銀メダルを獲得した。当時の陸連を擁護するわけではない。代表選考とか采配とかは結果が全てである。

そして、一番本質的な問題。「代表選考」とはいったい何か?「本番レースで活躍出来る選手を選ぶ」というのなら、必ずしも、代表選考レースで優勝したかどうかは関係ないということだ。

アテネ五輪以後、代表選考は、「実績よりも選考レースの結果重視」になった。北京、ロンドンの五輪二大会連続での入賞ゼロという結果を受けて、「実績重視」に選考の基準が変わった。横浜で優勝したものの、自己ベストは更新できなかった田中よりも、ロンドン五輪代表の実績があり自己ベストが2時間23分23秒の重友に陸連は賭けた。あるいは、ナショナルチームの合宿での練習や体力検査等のデータも参考にされたのかもしれない。それこそ、記者会見では公表出来ない、「特定秘密」も存在するのかもしれない。

代表選考が、「選考レースで頑張った選手に対するご褒美」でなくなったことには、残念という想いもある。しかしながら、今は「結果」が要求されている。繰り返すが陸連を擁護するつもりではない(一応、僕も陸連の末端の関係者である。今春より、陸連傘下の任意団体の理事という役職に就いた。)が、今回の選考が正しいか否かは北京世界陸上の後で判断しても遅くはない。

今回、23年前の有森と松野の選考をめぐる対立がクローズアップされた。これが何度目のことだろう。しかしながら、有森がバルセロナの難コース、モンジュイックの丘でエゴロワと繰り広げたレースの事はもはや語られることがない。ちなみに、有森と松野は同じマラソンを走ったことは一度もない。代表選考の話よりも、語り継ぐべき話は他にあるのではないか、いくらでも。

(文中敬称略)

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2 コメント

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感想&思い出したこと (HEYTAK)
2015-05-06 20:13:51
おっしゃる通り結果がすべて、終わった後なら何とでも言えます。
田中選手がやるべきは今後の結果で選ばなかった連中を見返してやることだと思います。
私が選考委員なら重森さんを落として田中さんを選びますが、
今回の選考が「100%無し」とまでは思いません。
選ばれた者、選ばれなかった者、どちらにも過酷な道が待っていることでしょう。

有森vs松野のバルセロナ代表選考バトルの影で選考レース優勝者が補欠にすらなれなかったことは
私は奇異には感じませんでした。
それはひとえに男子の「実質福岡で一発選考」を見ていたからだと思います。
1983年福岡で日本人4位となり、ロス五輪男子マラソン代表入りを逃した伊藤国光さんはご自身の手記で
主だったメンバーが福岡に回ってしまい有力な日本人選手の参加が無かった「びわ湖」から声がかかった時、
「僕が優勝したら代表に選んでもらえますか」と言って断るしかなかったと懐古しています。
びわ湖が代表選考レースに指定されているにもかかわらず「実質福岡で一発選考」が
不文律としていかに浸透していたかを如実に表すエピソードであると思います。

あとバルセロナでは
「優勝争いの相手が東京で谷川さんに負けたエゴロワであるなら有森さんには勝って欲しかった」
とパソコン通信(死語!)の掲示板に書いた記憶があります。
アトランタ五輪代表選考での鈴木博美さんは選考レースで最も良いタイムでしたよね。

最後に、有森さんは東京の世界選手権では4位だったので訂正をお願いします。
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コメントありがとうございます。 (かんちゃん)
2015-05-14 14:18:13
まず、ご指摘の点、訂正させていただきました。

選考基準がだいぶ明確化したとはいえ、まだ関係者だけしか分からぬ「暗黙の了解」が存在しているのではないかと思いました。それこそ、三つの選考レースに「序列」があるのではないかと。

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