KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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日本選手権雑感~ドラマチック・ナイト・イン・トドロキ

2008年07月07日 | マラソン観戦記
日頃は興味が無いスポーツであっても、「五輪代表権決定戦」と言われたら、ついつい見てしまう、という人も少なくないと思う。僕も今年の冬は初めて、ハンドボールの試合をまともに見たし、先日は久しぶりに男子のバレーボールをハラハラしながら見ていた。

毎年、6月に開催される陸上競技の日本選手権、今年は2日目の決勝戦を夜7時30分からNHK総合で全国中継された。競技のスケジュールも、全国中継をどの程度意識したのか知らないが、男子ハンマー投げに男子400mハードル、そして男子200mと、「世界」のメダリストが続々と登場。

いきなり、400mハードルで為末大が見せてくれた。昨年の世界選手権での「まさかの惨敗」以後、低迷していたが、最後の大舞台できっちりとA標準記録で優勝。このところ、競技以外のことで話題になることが多かっただけに、ほっとさせた。

「孤高のアスリート」室伏広治。今年初の公式試合で、大会14連覇。もはや目指しているものが、2位以下の選手たちとあまりにも違いすぎる。彼の後輩で、8年連続2位の土井宏昭に、もっと脚光が浴びてもいいのではと思った。

第一人者が、額面通りの実力を発揮する中、走り幅跳びの池田久美子は不調だった。花岡真帆との「死闘」が随分昔のことのように思える。優勝した桝見咲智子は、駅伝の名門、九電工に所属している。マラソンや駅伝で見慣れた黒と黄色のユニフォームが宙を舞う様は実に新鮮だった。

さて、僕にとっての本日のお目当ては女子10000m。マラソンの代表選考レースで敗れた渋井陽子がここに来て絶好調、今年の大阪国際女子でマラソン・デビューに失敗した福士加代子、「ママさんランナー」として、注目度の高い赤羽有紀子らがA標準記録を突破し、優勝争いが実に混沌としてきた。

僕の予想はいい意味で裏切られた。お互いが牽制しあう展開になるかと思ったが、渋井がスタートから積極的に前に出て、A標準記録を大きく上回るハイペースで引っ張り、そこに赤羽、福士、加納由理、松岡範子らが一列になって後を追う。5000m過ぎて、先頭集団が渋井、赤羽、福士、松岡の4人に絞られる。皆、北京五輪参加A標準記録突破者である。松岡もかつては日本代表も期待されながら交通事故で長いブランクを経てカムバックしたランナーだ。それぞれの想いが一周400mのトラックを駆け巡る。誰が先に25周走り終えるのか?

先頭の渋井のペースは一周75秒をキープしている。悪くすると、このままペースメイカーになってしまうか?

7000m過ぎて福士だけが水分補給をした。松岡が集団から離れていく。

8000mで福士がスパートをかけた!
しかし、渋井もつく。赤羽も追いついた。カメラがイケクミの失敗ジャンプに切り替わった間に赤羽がトップに立ったようだ。しかし、また、福士がトップに。福士が二人を振り切れない。ペースは一周70秒に上がっている。

ラスト一周、スパートをかけたのは赤羽。前にいた周回遅れの集団の中には、弘山晴美もいた。赤羽を捕らえる渋井。福士は追いつけない。疾走する赤羽。母は強し!しかし、最後の直線で赤羽の同郷の先輩でもある渋井が前に出た!

大会記録である31分15秒07で渋井が優勝!0秒27差の2位で赤羽。3位の福士も大会記録を更新。4位の松岡も「カムバック賞」ものの力走だった。

優勝した渋井だけでなく、赤羽も福士も精一杯に喜びを表わした。陸上記者の寺田達朗氏は、
「陸上競技を観戦して楽しむには予備知識が必要。」
と語っていたが、渋井が7年前から
「夢はアテネること。」
といった言葉で、五輪への想いを語っていたことや、赤羽が都道府県対抗駅伝などで渋井とともに栃木県チームで走っていたことなどを知る人には、ゴール後の二人が抱き合う姿を感慨深く見つめていただろう。「2歳の愛娘とともに五輪を目指すランナー」として、大会前からスポーツニュースで赤羽が取り上げられていたが、そういった番組で赤羽を知り、今回、NHKにチャンネルを合わせた人たちは、渋井や福士らを相手に、堂々たるレースを見せた彼女の姿に大いに驚かされたと思う。決して彼女は「世界を目指すママさんランナー」という話題のみが先行して、実力が「偽装」されていたわけではない。ランキングが五輪出場資格圏外なのに、ヴィジュアル面のみで話題になっている某競技のアイドルとは違うのだ。

そして、観戦歴の長いマラソン・ファンなら、彼女の所属企業ホクレンの監督が森田修一氏だと聞くと、
「ああ、あの森田が・・・。」
とまた、特別な感慨にふけるだろう。バルセロナ五輪前年の福岡国際マラソンで優勝しながら、中山竹通、谷口浩美、森下広一の「史上最強トリオ」の一角は崩せず、補欠にも選ばれず、その後は故障に苦しみ、競技生活を終えたランナーだった。ホクレンの前監督は、彼の恩師である白水昭興氏(現・日清食品陸上部監督)がリッカーミシンの福岡支社で駅伝を走っていた時期に、本社の陸上部のマネージャーにならないかと声をかけた、布上正之氏(元10000m日本記録保持者)である。

陸上部員たちを競技に専念できるような環境を整え、結婚し、出産後も第一線で競技を続ける道を作った森田氏の功労にも脚光を浴びて欲しいものだと思う。ママでも五輪へと行くためには、本人やパートナーの努力や情熱だけではどうにもならない部分もあるだろうから。

ともあれ、ゴールデンタイムの生中継にふさわしいレースが見られて良かったと思う。これならば、来年以降も、土日の競技も夜に実施して欲しかったと思う。



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