KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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第85回箱根駅伝予選会雑感

2008年11月01日 | 駅伝時評
ケーブルテレビに加入したおかげで、昨年から箱根駅伝の予選会を生中継で見ることができるようになった。

現在、箱根駅伝に出場できるのは20チーム。そのうち1チームは予選落ちしたチームのタイム上位のランナーを選抜した「関東学連選抜」で、上位9チームがシード権を獲得。残り10チームがこの予選会で選ばれる。

選考レースは襷リレーで選ばれるわけではない。20kmのロードレースで行われる。各校12人までがエントリーできるが、そのうち、上位10人のタイムの合計で競われる。今回は記念大会で、出場枠が13チームに拡大している。11位以下の3校は、「関東インカレポイント」と呼ばれる、関東地区の大学対抗陸上競技大会の成績から得たポイントをタイムから差し引いたタイムで選ばれる。

当初、このルールは、個人的には「理不尽」にも思えた。予選会の成績そのもの以外の要素を選考に反映するのはいかがなものか。しかし、そのようなルールの導入に踏み切らざるを得ないほど、「箱根偏重」に傾いている現状あってのことだという。このルールが無くなれば、「陸上部員全員男子の長距離ランナー」というチームが増え、箱根を年間の最重要レースと位置づけるために、トラックの競技会にも出場しないチームが出てくるチーム(学校)も出現しかねない(実際、それに近いチームは存在していたという)からだ。「過熱」に一定の歯止めをかけるためだろう。高校野球だって、似たような現状はあるだろう。野球部の予算が、他の運動部の総予算を上回る学校って、けっこうありそうだ。

かつてよりも、出場資格も厳しくなったそうで、参加資格タイムは5000m17分以内、ないし10000m35分以内。
弱小校なら、この記録を持つランナーを10人揃えることも厳しそうである。

3校枠が増えたとはいえ、前回の箱根では3校が途中棄権に見舞われた。それも東海大、順天堂大、大東文化大と本来ならばシード権を得ていて当然の伝統ある実力校ばかりである。

舞台となるのは東京都立川市。スタート地点は陸上自衛隊の駐屯地の滑走路でここを2周(約5km)走った後、市内を出て、昭和記念公園のゴールを目指す。

昨年、初めてこのレースを見た時、
「これはけっこう苛酷なコースではないのか?」
と思った。アップダウンがきついから、ではない。飛行機の滑走路を走るからだ。

北京五輪のマラソン・コースについて、「路面の固さ」を問題にする報道が、五輪前にはされていた。北京の市街地の道路は有事の際には飛行機が発着したり、戦車が走れたりできるように、固いコンクリートで舗装されているのだという。
ならば、滑走路というのもかなり固い路面ではないか。スタートから5kmハイペースで固い路面を走ると後半、かなり足にダメージが生じるランナーもいめのではないか?

この数年、予選会の上位はケニアからの留学生ランナーが占めていた。彼らの走りは、路面の固さも関係無さそうだ。キックに頼らないフォームを身につけているからだろう。固い固いと言われ続けた北京のロードを軽やかに駆け抜けていった、サムエル・ワンジルのように。

今回は参加者全員日本人ランナーだ。山梨学院大がシード権を獲得し、流通経済大や平成国際大が「留学生頼み」から方針転換した為である。そんなわけで、優勝争いもなかなか面白いかなと思った。

マラソンと駅伝、興味のない人には混同されがちだが、両者は全く別のスポーツだ。マラソンは個人と個人の戦いであり、駅伝はチームスポーツだ。走り方も全く違う。「チームの順位」重視の駅伝において、最もタブーなのは、「後半にペースを落とす走り」、所謂「ブレーキ」につながる走りだ。

そういう意味で、この予選会は他に類のない「奇妙な」レースだ。見かけは20kmのロードレースでありながら、ランナーたちは「駅伝の走り」をしている。
5km毎のチェックポイントでも、テレビの画面に映るのは、ランナーの順位ではない。各校の通過人数が紹介され、10名通過した順にランキングされる。先頭集団を走るランナーたちも、ここでトップでゴールするよりも自らの「ノルマ」を果たすことに集中している。皆、目に見えない襷をかけて走っているかのようだ。おそらく、自分の走りよりも「仲間の走り」の方を気にしているランナーもいるだろう。「エース」と呼ばれている立場のランナーならば。

エースの「貯金」に頼るチームもあれば、全員が平均したタイムでゴールすることを目指すチームもある。昨年の拓殖大は、この点で作戦ミスだった。一昨年、1秒差で出場権を逃した同校は、前回には、チームで集団を形成して走る作戦に出た。しかしながら、先頭のペースが予想外に速くなり、抑え気味のペースで入ったために後半ペースを上げることが出来なくなっていた。

現在の大学最速ランナーである、東海大の佐藤悠基や、前半先頭を引っ張った明治大の松本昴大が不調だった。佐藤にとっては、このコースは初めてだったはずだ。固い路面が後半足にダメージを与えたのか?

ゴールに最初に戻ってきたのは東京農大の外丸和輝。ただ1人、1時間を切ってのゴール。前回、5区の山登りで途中棄権した順天堂大の小野裕幸が10位でゴールした。

しかし、ここでは個人の順位が大きな意味を持たないのだ。

重要なのは、どのチームが先に10人ゴールできるか。

ラストにゴールしたランナーのタイムは1時間26分44秒。1時間20分をオーバーしたランナーは3人いた。僕がハーフマラソンのベストを出した時、20kmを1時間20分切っていた。自慢話みたいになるが、僕は5000mのベストは18分台だし、10kmのベストは36分台。今思えば、あの時、こんなタイムがよく出せたものだ。信じられない。ともあれ、この予選会に出ることが目標、というチームも少なからずある。彼らにとっては、この昭和記念公園こそが、忘れ得ぬ場所だろう。

参加者全員がゴールした。しかし、ここからが「ドラマ」なのだ。

記録の集計が終わり、出場校が発表される。校名と記録が読み上げられる毎に、場内から歓声が沸き上がる。この「決定的瞬間」が生中継される、というのがテレビ視聴者的にはたまらない。しかし、参加したランナーたちには、一年間の努力の結果がここで決められるのだ。自分の校名が読み上げられるのを待つ心境というのは、とても他では味わえぬものであろう。

13番目の校名が読み上げられた時、歓声に悲鳴が入り混じり、すすり泣く声も響く。

今回、涙を飲んだのは法政大。

上武大が花田勝彦監督就任から5年目に初出場を決めた。監督就任当初の様子を自身のホームページに書いていたが、それを読んでいた者には、感慨深い。とうとう、そこまで来たんだなあ。そして、33年ぶりに青山学院大が箱根出場を決めた。過去の箱根のエピソードを紹介する「箱根今昔物語」の中で、僕が最も印象深いのは、青学が最後に箱根に出場した際、アンカーのランナーがゴールを目前にしながら途中棄権をしてしまい、それ以来襷が途切れたままになっている、という話だった。ようやく、そのアンカー氏の無念も晴れたことだろう。

先に述べた、「学連選抜」チーム。昨年は選抜チームが4位に入賞という健闘を見せた。上武大や青学も、選抜チームの一員としては、箱根出場(復帰)を果たしていたし、立教大、東京大、筑波大、慶應大など本選出場が遠ざかっている学校の代表が走ることが、箱根を盛り上げる大きな要因になっているのだろう。

ともあれ、通常のロードレースとも、駅伝とも異なるレースとして、毎年、観戦が楽しみな大会となった。



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