昨夜のあーちゃんが来た。
店のオープンと同時に入ってきた。
昨夜のことなどすっかり忘れてしまったかのような表情で。
さすが、マツタケのパワー。
みるみる満席になる。
トモちゃんファミリー、リカコ夫婦、問題の医師、東京のリサさん、名古屋を活動の場としている女性シンガーQちゃん。
声をかけてない人も、誰かに聞いたのだろう。いつもと同じようにやってきた。
みんな楽しく騒ぎ、感激してくれる。
「マツタケっていい香り」
「贅沢だね。こんなに焼きマツタケが食べられるなんて」
「生きてて良かった」
大げさに喜ぶ人や、やたら声が大きくなる人。
それでも、店は幸せでいっぱいに感じられた。
突然、あーちゃんが涙を流した。
みんな驚いた。
「どうしたの?」
「悲しいこと、思い出した?」
僕は彼女の涙は理解できる。
しかし、この場を乱すのはいけない。
みんな楽しんでいるのだから。
「あーちゃん、泣くのなら帰れ」
僕はあーちゃんを小声でたしなめた。
「違うよ。感激の涙。生きてて良かった。こんなおいしいもの食べたの初めてだよ」
涙を流しながら、精一杯の笑顔で言い訳するあーちゃんが悲しかった。
今日このまま、尾鷲に実家に帰っていくのだろう。
服装と、小さなバッグがそれを物語っている。
「相談事なら僕が聞いてあげるよ」
また、馬鹿医師がしゃしゃり出る。
「モテナイ嫌われ者の先生は黙ってて」
トモちゃんファミリーの中の女性が言う。
みんな大きな声で笑う。
「小さいマツタケだけど、本当においしい」
誰かがつぶやく。
また、馬鹿医師。
「僕は、秋には、10万円以上のマツタケのコースを食べに行くんだ。だからこんなのは慣れてるんだ。
女の子なんか、みんなそれを楽しみにしててね。いつもみんなを連れて行ってやるんだ。シーズンになったら10回くらいは行くんだ。みんなすごく喜んでくれるよ。みんなには、あまり縁のない話だろうけど」
もう誰も相手にしない。
「ねぇ、聞いてるの。本当にすごいんだって、大きなマツタケがごろごろ出てさ」
「お前のホラはいい。黙って食え。不満なら、この店に来るな」
銀行マンが言った。
みんな「そうだよ、不愉快になるよ。先生の話は」
この人を見ていると、情けなさと、侘しさが感じられる。
そこに、ミユキちゃんからの電話。
急患が出ちゃったから、行けなくなった。月曜日に行くから残しといて、というものだった。
ナースの仕事は過酷だ。
みんなも残念そうだった。
すぐに、アキちゃんからも電話。
土曜日の臨時出勤は、ハードで、深夜になりそうだ、というものだった。
彼女も月曜日に来るといった。
やはりみんなも残念そうだった。
「僕も月曜日に来てあげるよ」
馬鹿医師はなかなか懲りない。
「月曜日は、予約でいっぱいなんですよ」
僕はうそをついた。
それでいい。
心の通じない人には、それでいい。
「先生、わたし、そろそろ」
あーちゃんが立った。
目が潤んでる。
「また来いよ。楽しい話を持って」
僕は笑顔で送った。
「最後にキスしてほしかったよ。先生。元気でね」
彼女は精一杯の笑顔で帰っていった。
ひとつ席が空いている。
「これ誰かの席?」
「うん。来るって行ってたけど、なかなか来ないね」
その席は、最後まで埋まることはなかった。
これなくなったら、きちんと連絡すればいいのに。
薄情というのではなく、人間関係をきちんと作れない人なんだろうなぁと思った。
騒々しさの中にも、幸せがあった。
悲しさもあった。
空しさも、侘しさも、薄情さも見た。
また今日も、いろいろな人間模様を見たような気がした。
店のオープンと同時に入ってきた。
昨夜のことなどすっかり忘れてしまったかのような表情で。
さすが、マツタケのパワー。
みるみる満席になる。
トモちゃんファミリー、リカコ夫婦、問題の医師、東京のリサさん、名古屋を活動の場としている女性シンガーQちゃん。
声をかけてない人も、誰かに聞いたのだろう。いつもと同じようにやってきた。
みんな楽しく騒ぎ、感激してくれる。
「マツタケっていい香り」
「贅沢だね。こんなに焼きマツタケが食べられるなんて」
「生きてて良かった」
大げさに喜ぶ人や、やたら声が大きくなる人。
それでも、店は幸せでいっぱいに感じられた。
突然、あーちゃんが涙を流した。
みんな驚いた。
「どうしたの?」
「悲しいこと、思い出した?」
僕は彼女の涙は理解できる。
しかし、この場を乱すのはいけない。
みんな楽しんでいるのだから。
「あーちゃん、泣くのなら帰れ」
僕はあーちゃんを小声でたしなめた。
「違うよ。感激の涙。生きてて良かった。こんなおいしいもの食べたの初めてだよ」
涙を流しながら、精一杯の笑顔で言い訳するあーちゃんが悲しかった。
今日このまま、尾鷲に実家に帰っていくのだろう。
服装と、小さなバッグがそれを物語っている。
「相談事なら僕が聞いてあげるよ」
また、馬鹿医師がしゃしゃり出る。
「モテナイ嫌われ者の先生は黙ってて」
トモちゃんファミリーの中の女性が言う。
みんな大きな声で笑う。
「小さいマツタケだけど、本当においしい」
誰かがつぶやく。
また、馬鹿医師。
「僕は、秋には、10万円以上のマツタケのコースを食べに行くんだ。だからこんなのは慣れてるんだ。
女の子なんか、みんなそれを楽しみにしててね。いつもみんなを連れて行ってやるんだ。シーズンになったら10回くらいは行くんだ。みんなすごく喜んでくれるよ。みんなには、あまり縁のない話だろうけど」
もう誰も相手にしない。
「ねぇ、聞いてるの。本当にすごいんだって、大きなマツタケがごろごろ出てさ」
「お前のホラはいい。黙って食え。不満なら、この店に来るな」
銀行マンが言った。
みんな「そうだよ、不愉快になるよ。先生の話は」
この人を見ていると、情けなさと、侘しさが感じられる。
そこに、ミユキちゃんからの電話。
急患が出ちゃったから、行けなくなった。月曜日に行くから残しといて、というものだった。
ナースの仕事は過酷だ。
みんなも残念そうだった。
すぐに、アキちゃんからも電話。
土曜日の臨時出勤は、ハードで、深夜になりそうだ、というものだった。
彼女も月曜日に来るといった。
やはりみんなも残念そうだった。
「僕も月曜日に来てあげるよ」
馬鹿医師はなかなか懲りない。
「月曜日は、予約でいっぱいなんですよ」
僕はうそをついた。
それでいい。
心の通じない人には、それでいい。
「先生、わたし、そろそろ」
あーちゃんが立った。
目が潤んでる。
「また来いよ。楽しい話を持って」
僕は笑顔で送った。
「最後にキスしてほしかったよ。先生。元気でね」
彼女は精一杯の笑顔で帰っていった。
ひとつ席が空いている。
「これ誰かの席?」
「うん。来るって行ってたけど、なかなか来ないね」
その席は、最後まで埋まることはなかった。
これなくなったら、きちんと連絡すればいいのに。
薄情というのではなく、人間関係をきちんと作れない人なんだろうなぁと思った。
騒々しさの中にも、幸せがあった。
悲しさもあった。
空しさも、侘しさも、薄情さも見た。
また今日も、いろいろな人間模様を見たような気がした。