カウンターの中から客をのぞくといろんなことが見えてくる

日本人が日本食を知らないでいる。利口に見せない賢い人、利口に見せたい馬鹿な人。日本人が日本人らしく生きるための提言です。

良くない事だとわかっているのに、人は不運と嘆く。

2012-07-04 | 人間観察
「訴えられちゃってねぇ」

こんなことを平然と言ってのける人がいる。

朝から大雨になり、また昨日と10度も差のある涼しい午前。

それでも午後は、雨は小降りになり、湿度は97%という異常気象だ。

気温もどんどん上がり、また32度。

雨は夕方になっても小降りが続き、客も来ないのじゃないかと思えるような日だった。

休みの日に少し無理をしたせいか、脚が痛み、イマイチ、やる気のない日だった。

「悪い事したんじゃないですか?」

男は少し薄笑いを見せた。

「浮気したんだよ。人の女房と。だから旦那に訴えられた」

「そりゃ、当然ですよ」

「まぁ、不運だったよ。こんな事で訴えられるなんて」

「いや、立派な反社会的行為ですよ。お客さんだって、自分の女房が誰かに抱かれてたら、嫌でしょ?」

「いやぁ、うちの女房はそんな甲斐性はないからなぁ」

「どうですかね。お客さんと一緒で、悪い事なんて思ってないんじゃないんですか?」

僕はわざと嫌がらせをしてみた。

「俺は悪いとは思ってないんだ。いい女だと思ったからやった。女だって嫌いだと思ってセックスなんかしないさ」

僕はあきれてしまった。

僕は恋をする事は素敵だと思っている。

人を好きになる事は、若さを保つ秘訣だとも思っている。

しかし、他人様の家庭を荒らす事は好きでない。

自分勝手な感情で、不幸な人を作りたくないし、
それよりも、憎みあうような争いはしたくない。

不倫は、道徳上の問題であって、法で裁く事はできない。

心の痛手をお金に変えるという手段で、争うしかないのである。

しかし、だからといって、つまらない事だ。

早く誰かほかの客に来てほしいと願ったが、こんなときに限って誰も来ない。

こんな天候では、わざわざ傘を差して来たくない。

それでも男は話し続ける。

「女だって喜んでいたくせに」

「物好きですね、その女も」

「欲求不満だったんだ。旦那が悪いんだよ。自分の女房さえ、満足させていないんだから」

「お客さんのせいじゃなくて、旦那の責任ですか?」

「そう思うよ、俺は。たまたまメールを見られたから、こんな事になったんだ。不運だったんだよ、俺は」

「悪い事したんじゃないですか。不運じゃなくて、不貞ですよ」

「いやいや、女だって喜んでた。そうじゃなかったら、何度も会わないじゃないか」

「それって、自慢なんですか?」

「そうじゃないけど、こんな事で訴えられるなんておかしいよ」

「僕は当然だと思うんですけどね。それに、そんな事を自慢してる人が要るってことが不思議ですよ」

それでも男は、自分の正当性を話して帰っていった。

もう店を閉めようとしたとき、35歳独身の女性が入ってきた。

昼のランチには毎日来てくれる人だ。

「珍しいね、夜に来るなんて」

「よかったほかにお客がいなくて。こんな天気だから、マスターに相談してみようかと思って」

女性は、元気そうに振舞っていたが、空元気であることは一目でわかる。

「結婚って楽しい?」

とんでもない質問に僕は驚いた。

「結婚なんて、って言ってたじゃないか」

「最近友達がみんな結婚してさ。友達がいなくなっちゃった」

「それで結婚したくなったのか?」

「少しはね」

「結婚なんて、自由がなくなるだけだ、って言ってたじゃないか」

「口ではね」

「正直だね」

「見栄張るのも疲れたって感じかな」

「恋した事ってあるの?」

そう聞きたくなるほど、服装に色気がないのだ。

その割りに人の批判は大好きだ。

「付き合うのが面倒くさいからね」

「付き合った事あるの?」

「ない」

女性は笑った。

「一度もない」

「自慢にならないぜ」

「そうだね。私も好きな人と付き合ってもいいかなって思うようになった」

「楽しいよ、好きな異性とと楽しく過ごすのは」

「チャンスがないよ」

「チャンスを作らなかっただけさ」

「でも男の人って、体だけが目的じゃないの?」

「それでもいいじゃないか。迫られた事もないなら、それは不幸だよ」

「ない。私堅いから」

「堅いんじゃないさ。もてない事の言い訳さ」

「だって、本当にもてないんだもの」

「積極的ななってさ、男に飲みにつれてってもらったりしてさ。寄った振りしてやられちゃえばいいんだよ。簡単にひっかるよ。結婚も夢じゃないぜ」

「でも、セックスって、虜になってしまうって言うじゃない?」

「それでいいさ。セックスの悦びを知ってるから、結婚したいと思うんだ」

「友達でセックスの事ばかり言ってる子がいる。私にはついていけない」

「したくないの?」

「興味はあるけど」

「不倫だって何だっていいさ。人を好きになる事。そして付き合う楽しみや、セックスの魅力を知ると、もっと人生楽しくなると思うけどね」

「マスター、いい人いない?」

「あせってるね。それでもいいさ。いろんな人と付き合ってみるほうがいいさ」

「女から誘うの?」

「もちろん。さりげなくね。来週、行きたい芝居があるんだけど、友達が行けなくなったて言うの。もし、時間があれば、付き合ってもらえませんか? 一人では行きづらくて。なんて言えば、男なんていちころさ。そのとき着ていく服装は、僕がデコレートしてあげるから」

「下着も?」

「もちろん。いざというときのために」

女性は笑った。

「本当に? 私がやっても大丈夫かなぁ」

「大丈夫さ。あなたは、そこから始めなくちゃあね」

「お酒飲めないけど」

「飲めばいいじゃん。すぐにフラフラになって、ホテルに連れ込まれたら」

「ふふっ」

女性は元気に帰って行った。

言い訳で生きるのは寂しい。

もっと自由で、責任の取れる生き方のほうが素敵だと思うのだが。

もちろん僕だって、決して誇れる生き方をしているわけではない。

それでも、今は自信を持って生きている。

自分のために。

大げさだけれど、社会のために。