その男は素晴らしい歌声をしていた。
声楽のことは詳しくないが、音域は恐らくテノールってやつ。
何を歌っているのかは聞き取れないが、多分何も歌っていない。
素人耳でもあれは「あ~」や「お~」、「ろ~ろ~ろ~」とかをでたらめに繰り返しているだけだ。
とにかくあれは、まるで日曜の朝にだけお目にかかることができるような、本当に素晴らしい歌声なんだ。
しかし、何故だ。
何故そんなテノール歌手がこんな本当になんでもない路上にいるんだ。
何故俺のほうに向かって走ってくるんだ。
ポロシャツの上にベンチウォーマーを羽織り、ジャージパンツにタッグイン、メーカー不明のスニーカーとリュックサック。
髪は密度こそ薄いが、もしゃもしゃとインドのサドゥのそれのような質感をたたえている。
言い方は悪いが、そのいでたちはまるで○的障○者だ。
いや、実際彼は知○障害○なのだろう。
でなければ、駅前の人だらけの場所であんなに高らかに歌ったりしない。
こんなに俺を追っかけてきたりしない。
こんなに俺も全速力で逃げたりしない。
何なんだ一体。
どうして俺だ。
俺が何をした。
は、速い!
どうしてちっとも腕を振ってないのにこんなに速く走れるんだ。
何故の嵐。
見る見る間に縮まる距離。
遂に捕まってしまった。
き、気持ち悪い!
犬みたいにじゃれついてくる男。
ベンチウォーマーのシャリシャリという摩擦音。
強烈な頬擦りのジョリジョリ感。
そして相変わらずの至高のテノール。
その場でもみくしゃになり倒れる男二人。
俺も全力で抵抗するが、10キロ以上はありそうな体重差はそう簡単に覆されない。
すっかりへっぴり腰になってしまった俺に良いパンチなんて撃てるはずもなく、
全く迫力の無いげんこつ(あるいは「ぐるぐるパンチ」)は申し訳程度にもしゃもしゃ頭にヒットしていく。
もしゃっ もしゃっ もしゃっ もしゃっ
くそっ、離れろよキ○ガイ野郎!
誰か、誰か助けてくれ!
このキ○チガイをどっかにやってくれー!!
周囲10メートルにも聞こえているのか情けない俺の声。
誰にも聞こえていないのだろう。
男の歌声以外は。
その時ふいに見知らぬ少女がしゃがみこんで仰向けの俺の顔を覗きこんできた。
「いいの?そんなこと言っちゃって」
いつの間にいたのか、やおら割り込んできた少女の姿は女子高生だった。
それこそ電車の中で見かける思わず殴りたくなる生意気そうなまさに女子高生といった感じである。
「あんまりその子にそういうこと言わない方がいいと思うなー。あーあこんなに喜んじゃって」
お前は何を言っているんだ。
「だってその子は君達の言う所のあれだよ?そう、天使なんだよ?」
お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ 。
畜生、お前もこのサイコ野郎の仲間なのか。
「え、あたし?言わなくても分かってるんじゃない?」
いつの間にか手にしてたピンク色の缶から煙草を取り出す女子高生。
「あたしはぁ~・・・」
立ち上がる女子高生。
あ、パンツ見えそう。
終
恒例の今日の夢の話でした。
声楽のことは詳しくないが、音域は恐らくテノールってやつ。
何を歌っているのかは聞き取れないが、多分何も歌っていない。
素人耳でもあれは「あ~」や「お~」、「ろ~ろ~ろ~」とかをでたらめに繰り返しているだけだ。
とにかくあれは、まるで日曜の朝にだけお目にかかることができるような、本当に素晴らしい歌声なんだ。
しかし、何故だ。
何故そんなテノール歌手がこんな本当になんでもない路上にいるんだ。
何故俺のほうに向かって走ってくるんだ。
ポロシャツの上にベンチウォーマーを羽織り、ジャージパンツにタッグイン、メーカー不明のスニーカーとリュックサック。
髪は密度こそ薄いが、もしゃもしゃとインドのサドゥのそれのような質感をたたえている。
言い方は悪いが、そのいでたちはまるで○的障○者だ。
いや、実際彼は知○障害○なのだろう。
でなければ、駅前の人だらけの場所であんなに高らかに歌ったりしない。
こんなに俺を追っかけてきたりしない。
こんなに俺も全速力で逃げたりしない。
何なんだ一体。
どうして俺だ。
俺が何をした。
は、速い!
どうしてちっとも腕を振ってないのにこんなに速く走れるんだ。
何故の嵐。
見る見る間に縮まる距離。
遂に捕まってしまった。
き、気持ち悪い!
犬みたいにじゃれついてくる男。
ベンチウォーマーのシャリシャリという摩擦音。
強烈な頬擦りのジョリジョリ感。
そして相変わらずの至高のテノール。
その場でもみくしゃになり倒れる男二人。
俺も全力で抵抗するが、10キロ以上はありそうな体重差はそう簡単に覆されない。
すっかりへっぴり腰になってしまった俺に良いパンチなんて撃てるはずもなく、
全く迫力の無いげんこつ(あるいは「ぐるぐるパンチ」)は申し訳程度にもしゃもしゃ頭にヒットしていく。
もしゃっ もしゃっ もしゃっ もしゃっ
くそっ、離れろよキ○ガイ野郎!
誰か、誰か助けてくれ!
このキ○チガイをどっかにやってくれー!!
周囲10メートルにも聞こえているのか情けない俺の声。
誰にも聞こえていないのだろう。
男の歌声以外は。
その時ふいに見知らぬ少女がしゃがみこんで仰向けの俺の顔を覗きこんできた。
「いいの?そんなこと言っちゃって」
いつの間にいたのか、やおら割り込んできた少女の姿は女子高生だった。
それこそ電車の中で見かける思わず殴りたくなる生意気そうなまさに女子高生といった感じである。
「あんまりその子にそういうこと言わない方がいいと思うなー。あーあこんなに喜んじゃって」
お前は何を言っているんだ。
「だってその子は君達の言う所のあれだよ?そう、天使なんだよ?」
お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ 。
畜生、お前もこのサイコ野郎の仲間なのか。
「え、あたし?言わなくても分かってるんじゃない?」
いつの間にか手にしてたピンク色の缶から煙草を取り出す女子高生。
「あたしはぁ~・・・」
立ち上がる女子高生。
あ、パンツ見えそう。
終
恒例の今日の夢の話でした。