kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

日本のいちばん長い日

2015年08月23日 | 邦画
日時:8月20日
映画館:八丁座
パンフレット:A4横版820円。監督・出演者・スタッフのインタビュー満載で、読み応えたっぷり。

新旧問わず邦画はあまり観ないのだが、そんな中でも大好きな作品の1つが岡本喜八の「日本のいちばん長い日」(以下、岡本版)。オールスターキャストの群像劇で、ひとつの組織、ひとつの時代の終焉を描いて、面白かった。

その再映画化なのだが、岡本版とは違い、物語を昭和20年4月の鈴木首相就任からスタートさせ、8月15日に向けて、収束させていく。岡本版とは、史実の時間も映画の上映時間も異なるので、当然、映画のアプローチの方法も異なってくる。

原田監督が話しているように、本作は昭和天皇、鈴木首相、阿南陸相の3人を軸に展開する。監督の狙い通り、家族のつながりをベースにしたストーリー展開は、ディテールを緻密に積み重ねながら、それぞれの登場人物のドラマを進めていった岡本版とは異なっており、面白く出来ている。(よって岡本版前半の山場で、個人的に好きな終戦の詔書を巡るやりとりや、玉音盤録音のくだりなどは、あっさりと描かれる。)

原田版のいいところはその顔ぶれにあると思う。今、映画でもTVドラマでも出演者のほとんどがどこかで見たことのある顔ばかりで、どうしても役者の印象が他の出演作他にひきづられてしまう。
岡本版の頃は俳優の顔はスクリーンでしか見なかったから、オールスターキャストにも意味があったが、今は事情が違いすぎる。
しかし、原田版は主に舞台で活躍する俳優を起用しており、あまり顔になじみがないおかげで、ドラマに没入することができる。TV受けする顔ではないが、ものすごくみんないい顔なのだ。(ワタシ自身が知らないだけなのだが、これが功を奏した。)

そうなってくると、逆に浮いてしまうのが、やっぱり役所広司の阿南陸相。岡本版の三船敏郎の印象が強いとはいえ、「聯合艦隊司令長官 山本五十六」と同じ違和感を覚えてしまう。何を演じても役所広司なのは、あの印象的な声のせいではないだろうか・・・。

一方で山崎努の鈴木首相は、岡本版の笠智衆とは違うアプローチで描かれる。岡本版でむしろ省略されていた、息子が秘書官だった史実が今回は盛り込まれ、耳が悪かった事実がうまく人物造形に活かされている。山崎努、上手いなあ。

松坂桃李の畑中少佐をはじめとするクーデター派の将校も、文字通り血気盛んだった岡本版の顔ぶれと違った、参謀将校としてのエリートくささがよく出ている。それがゆえに、その知性を間違った方向に使ってしまった悲劇性が際立ったような気がする。とは言え、黒澤年男の狂気じみた目つきは、言うまでもなく大好きです。

後半はモンタージュで、同時進行で進む物語を手際よく見せてくれる。史実を知っているだけに、もう少し描きこんで欲しかったところではありますが。岡本版で天本英世が演じていた佐々木隊長役を、彼が特別出演しているのには驚き。ギャップの大きさに吹き出してしまう。(笑)

こういった映画の常として、史実を知っているのと知らないのでは全然、観る印象が違うと思うのだが、初めて観る若い世代はどんな印象を受けるのだろうか。

ところで、劇中、ヴェラ・リンの「We'll Meet Again」が流れるのはビックリ。同曲といえば、やはり「博士の異常な愛情」、8月には欠かせないセレクトです。(どうでも良いことだが、安井藤治役で出ている山路和弘は「博士の異常な愛情」DVD版で、ピーター・セラーズの3役を吹き替えている。)







題名:日本のいちばん長い日
監督:原田眞人
出演:役所広司、本木雅弘、山崎努、堤真一、松坂桃李

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