kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

2023年07月09日 | ★★★☆☆
日時:7月7日
映画館:109シネマ広島



第1作目「レイダース/失われた聖櫃」を観たのは中学校の時だったから、今、ワタシが普段会話する人の半分くらいはまだ生まれてなかったことになる。自分も年を取ったわけだ。(そういう自分も大好きなマカロニ・ウエスタンや007シリーズの開始時は生まれてなかったのだが)

時代の変遷はオープニングでもいきなり実感させられる。最初の出てくるのはパラマウントのロゴではなく、ディズニーのシンデレラ城のロゴなのだ。

さて、時は1945年、ナチドイツ崩壊時にインディ・ジョーンズはトビー・ジョーンズの考古学者と一緒に2000年前の精密機械、アンティティキラ争奪戦に関わる。

ここで敵役となるナチ親衛隊の大佐役は嬉しいことにトーマス・クレッチマン。ドイツ版「スターリングラード」から「ヒトラー最後の12日間」「ワルキューレ」に至るまで21世紀にドイツ軍人役ならこの人である。ここ数年はでっぷりお腹が出てしまって、かっての精悍さがなくなったのは残念なところだが、インディを縛り首にしようとする非道さを発揮する。
砲弾飛び交う戦場で縛り首ってどっかで聞いたようなシチュエーションだなあ・・・。
いつものようにお気軽なアクションを展開し、20mm対空機関砲でドイツ兵をなぎ倒したおかげでアンティキティラはアメリカの手に。

さて、時は飛んでアポロ11号の3人の凱旋パレードで賑わう1969年、インディも70歳。大学の退官パーティのさなか、アンティキティラを狙う一団に襲撃される。インディ、アンティキティラをほぼ私物化しており、相変わらず手癖が悪い。

アンティキティラ自体は現実に実在しており、正確には「アンティキティラ島で発見された機械」と言われている。用途は天体の動きと暦を連動させた天文計算機だったらしい。
ただそれでは面白くないので、劇中ではさらに不可思議な機能が備わっている。実際のアンティキティラ島の機械になかなかの謎設定を付加するあたり、面白いプロットだと思う。

途中から今回のヒロインでトビー・ジョーンズの娘、ヘレナと一緒に、謎の一団(って顔ぶれからすぐにナチの残党と分かる)が追うアンティティキラの正体を探す探検の旅に出る。
トビー・ジョーンズと言えば、「ジュラシック・ワールド/炎の王国」の金持ちとか「キャプテン・アメリカ」の科学者とかどちらかと言えば敵側の人間って感じで、その娘となると何かと胡散臭い。

「いつもと一緒でいつもと違う」という続編ものの鉄則どおり、今回も「古代の人はなぜそんな面倒くさいことまでして隠した?」という謎解きがあり、インディシリーズお約束の「生き物いっぱい」のシーンもちゃんとある。

今回の敵役はマッツ・ミケルセン扮するフォン・ブラウン博士がモデルになったような数学者。劇中言及はされないが、たぶん欧州大戦の終了後、米軍のペーパークリップ作成でアメリカに連れてこられ、宇宙開発研究に従事していたという設定なのだろう。一学者に過ぎず、背後に強力な権力の裏付けがないので、これまでの悪役に比べるとちょっとパワー不足の感は否めないが、目的のスケールのデカさではシリーズ随一。ただの骨とう品泥棒ではない。

ただパワー不足なのは70歳になったインディも同様。「レイダース」のカーチェイスみたいな派手なアクションは、さすがに無理があるのでもはや展開されないし、得意技の鞭も1回しか振るわない。それに映画途中から体を張る役回りはヘレナに移る。

実はジョン・ウィリアムの音楽も同様。もちろんテーマ曲は健在だが、重いシーンでも肩の力を抜かせる軽妙なジョン・ウィリアム節が聞こえてこない。彼の音楽を聴くと「映画館で映画観た」って実感できたのに、今回はさみしい限り。

それに今回、ワクワクするような巨大メカが出てこない!

今回のインディ、目新しいところがほとんど感じられない。いずこも見たような設定とシーンばかりだし、クライマックスのくだりはTVの「ミステリーゾーン(トワイライトゾーン)」で全く同じ話があったほどだ。
しかし、よく考えてみたら元々「レイダース」のコンセプト自体がスピルバーグとルーカスの「昔、ラジオや映画館で楽しんだクリフハンガーものを現代に甦らせよう」だったわけだから、長年映画ファンをやっていると仕方ないのかも知れない。

物足りない部分もあるが、前作「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」よりは面白かったし、クライマックスの大仕掛けと伏線は個人的には好みだ。(まあどうやって帰れたのかは目をつむろう)
なので評価は

★★★☆☆(0.5★くらいはプラスしてもいい)

ところで、本作の重要なテーマは「時間の経過」である。
そこには70歳すぎでもまだまだ頑張れるというインディの姿もあるだろうし、その一方で裏メニューは「強い意志を持てば25年でも我慢できる」なのだろう(ちょっと違う)







題名:インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
原題:Indiana Jones and Dial of Distiny
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、マッツ・ミケルセン、アントニオ・バンデラス

ダークグラス

2023年07月03日 | ★★★☆☆
日時:6月23日
映画館:サロンシネマ



こちらは来館者記念の80年代風ポストカード。「恐怖倍増!戦慄の〇〇サウンド!」の惹句は欲しかった(笑)

聖地に蜘蛛は巣を張る」と同じ日に観たのがダリオ・アルジェント10年ぶりの劇場用作品「ダーク・グラス」。こちらも娼婦連続殺人事件を描いており、期せずして「恐怖の娼婦連続殺人二本立て!」

現代のローマ、コールガールをターゲットにした連続殺人が発生、主人公のコールガール、ディアナも犯人に狙われる。犯人から車で逃亡する際、中国人家族が乗る車と接触する大事故を起こしてしまう。この事故のせいで彼女は失明し、中国人家族も10歳の少年だけを残して両親は死亡する。
やがて二人は出会い、故あって共同生活を始めるが、そこに犯人の魔の手が迫る。

ダリオ・アルジェントの連続殺人ものといえば「サスペリアpart2」や「シャドー」「フェノミナ」を思い出すが、随所にらしさが散りばめられている。

今回、みんな真っ先に言うであろうが、嬉しくなるのがアルノー・ルボチーニの音楽。80年代のこの手の映画を彷彿とさせるサウンドだ。その世代にはすぐにわかるあのリズムですよ。逆に今の世代の観客には新鮮に聞こえるのだろうか。
劇中、この音楽がしつこいくらい流れ、かえってメリハリがないくらい(笑)

黒手袋も登場するし、ちょっと頭を抱えたくなるようなストーリー展開も健在。そこはアルジェント研究会の矢澤会長によると「現実世界からアルジェントの夢の世界への移行」だという。なるほど。

アルジェント好きが期待するようなビックリ仰天の殺しのテクニックはほとんど披露されないし、直接的に描かれる被害者も少ない。そんな光がどこから出ているのかと思うような極彩色で彩られた世界観も登場しない。最後に家も燃えない(笑)上映時間が短いせいとか予算とかもあるのか、その辺はちょっと残念。

今回印象的だったのは、何度も登場するシンメトリー構図の画面構成。アルジェントはこの構図を多用する人だっただろうか。

そういえば、ジャロとかイタリアホラーにはなぜか盲目の人がよく登場する。イタリア映画界の何かの暗喩なのだろうか。
観終わってから思ったのだが、本作「フェノミナ」の焼き直しのようでもある。連続殺人犯に狙われる女性というのはよくあるが、社会から疎外された主人公や〇〇〇〇な警察官をはじめとするサブキャラクター設定、犯人が判明する手がかりの設定、生理的な嫌悪感を醸す水攻め、クライマックスなど「フェノミナ」にそっくりだ。となると主人公と心を通わす中国人少年は昆虫かチンパンジーの役どころなのか?(笑)

ちょっと食い足りないところもあるので、
評価は★★★☆☆

ところで、一部のアルジェントファンには、とある重要な役でワタシが出演していたと見えるらしい(笑)







題名:ダークグラス
原題:Occhiali Neri
監督:ダリオ・アルジェント
出演:イレニア・パストレッリ、アーシア・アルジェント、アンドレア・ゲルペッリ、

ナイトメア・アリー

2022年04月19日 | ★★★☆☆
日時:4月14日
映画館:イオンシネマ広島

ギレルモ・デル・トロ監督のアカデミー賞候補作。
今年は本作に「コーダ/あいのうた」「パワー・オブ・ザ・ドッグ」「ドント・ルック・アップ」「ベルファスト」とほとんどの主要作品を観ている珍しい年。(何か抜けてないかって?知りません。)

ほとんど事前情報なしで鑑賞したのだが、ダークファンタジーっぽい雰囲気がいかにもデル・トロ。

自宅を焼き払ったらしき男、スタン(ブラッドリー・クーパー)は長距離バスの行きついた先でカーニバル一座に巡り合う。そこで日雇いの仕事を得て一座に入った彼はある出し物の技術を伝授されマスターする・・・。

とここまでしか書けないのが悩ましいところのミステリー映画。
画面の作り方がいつものデル・トロらしく観終わってからでないと気付かなかったのだが、この映画、超常現象も謎の生き物も全く出てこない純粋なノワール映画なのだ。ファンタジーではないデル・トロ映画って初めてじゃないだろうか。

原作小説は未読だが、とにかく先が読めない。影のある登場人物たちの思惑が交錯し、タイトルの「悪夢小道」どおりの展開となっていく。上映時間も2時間30分と長尺だが、時間を感じさせない緊張感と展開の切り替えが素晴らしい。たぶんテレビ画面に映っていたらついつい見続けてしまうそんな感じだ。

配役としてはちょっと異色に思えるブラッドリー・クーパーの起用だが、これがなかなか魅せてくれる。つくづく芸達者な人だと思う。
他にも常連ロン・パールマンとかデビッド・ストラザーンとかトニー・コレットとかクセのある顔ぶれが意味深で良いのだが、個人的には「時をかけるおばさん」ことメアリー・ステーンバーゲンの登場がうれしかったな。70歳近くだが、相変わらずキュートだ。

今回、原作アリのノワールものということもあってか、デル・トロの「世の中に馴染めない者への優しい視線」があまり感じられなかったのは残念。こうやって並べて見ると今年は「コーダ/あいのうた」が優しさでとび抜けていた映画だと実感しますね。







題名:ナイトメア・アリー
原題:Nightmare Alley
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、トニー・コレット、デビッド・ストラザーン



ザ・フォッグ/ゼイリブ

2022年02月23日 | ★★★☆☆
日時:2月12日
映画館:サロンシネマ

ジョン・カーペンター・レトロペクティブ、「ニューヨーク1997」に続く残りの2作は「ザ・フォッグ」と「ゼイリブ」。



「ザ・フォッグ」
創立100周年を迎えた港町アントニオ・ベイ。しかし、同町は金銀を積んだ船を岩礁に誘導して沈没させ、引き上げた金銀で築かれた暗い過去を持っていた。100周年式典の夜、濃霧とともに沈没船の亡霊が町に襲い掛かる。

怨霊が濃霧とともにやってくるというアイディアはカーペンターらしく素晴らしいのだが、逆に脚本があまいという点もカーペンターらしい。亡霊のターゲットが町なのか沈没事件の子孫なのかイマイチはっきりしないし、ジェイミー・リー・カーティスのキャラクター造形は強引、実の母親であるジャネット・リーは何の役なのか最後まで分からない。亡霊も元々謀殺された犠牲者なので物語全体にはっきりとした悪役がいない。

が、それを補って余りあるのが、やはり夜の雰囲気と霧の演出、そしてカーペンターの音楽だ。霧の中に立ち並ぶ亡霊のビジュアルのインパクトは素晴らしい。物語の甘さを力技で押し切ってしまう。

主人公はこのころはまだヒロインだったエイドリアン・バーボー。こうやって見ると整った顔立ちだが、この後はそのキツさを活かして悪女・猛女役で大活躍。「アルゴ」でニセ映画の銀河の魔女役で登場した時は嬉しかったなあ(笑)

評価は★★★☆☆


「ゼイリブ」
今回上映された3作の中で唯一劇場で観た作品。当時、ロディ・パイパーとキース・デイビッドの延々と続くプロレスシーンに唖然としてしまい、それ以来見ていなかったので30年ぶりの再見。

流れ者のブルーカラーの主人公が偶然手に入れたサングラスを通して見た世界は、人間を装った異星人に乗っ取られ、大衆はヤツらに搾取されていた。

とまたもやワンアイディアで突っ走るカーペンター映画。全盛期にあった夜の描写も少なく、物語も一本調子。警官に化けている異星人に殺されそうになったことから街中にいるヤツら(見た目は一般人)を射殺しまくる主人公はさすがにヤバすぎるだろう。

なのだが、あれから30年、本作で描かれた世界がまさに今現実になっている。地球の富裕者層・指導者層とヤツらは手を組んで、地球の環境を改変し、大衆はメディアによって消費を喚起され、ゆりかごから墓場まで首根っこをつかまれ、貧困層は一層貧困になり、富裕者層は一層富裕になる。
もう、今の世の中を予言したかのような話でちょっと見る目も変わったな。これから革命も起きず搾取され続けるなら、いっそ南極から飛び出した「遊星からの物体X」によって27,000時間で人類が食い尽くされる方がよっぽどマシかとも思えたり・・・。

評価は★★★☆☆

ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒

2020年11月29日 | ★★★☆☆

あえてという訳でないんだが、なぜか年1本くらいの割合でストップモーションアニメ映画を見ているような気がする。

今年は「KUBO/二本の弦の秘密」の制作会社スタジオライカの新作が登場。いつものようにクオリティの高い作品。

【以下、ネタバレあり】

時は19世紀、英国紳士のフロスト卿はロンドンの紳士クラブに入会し、高慢ちきな貴族のクラブトップを見返すため、世界中でUMAを探していた。
そんな折、アメリカからビッグフット目撃の情報が入ったことから現地に向う・・・。

ここからビッグフット探しになるかと思いきや、何とすぐにビッグフットと遭遇。しかも流暢に人間語を使う高い知能を有し、同類のイエティに会うべくヒマラヤに行きたいと言う。
ここからフロスト卿とリンクと命名されたビッグフットの珍道中が始まり、さらにそこにフロスト卿の元カノで友人の未亡人、メキシコ人のアデリーナが加わる。

今回もスタジオライカのアニメが素晴らしい。素晴らしすぎてCGアニメと見分けがつかないくらい。予告編やエンドクレジットでもタイムラスプで製作風景が紹介されるが、いつものように絵作りへのこだわりや仕掛けの大きさに感動させられる。

駅馬車の車中では室内装飾のカーテンのフリンジが馬車と同じように揺れる!し、川のせせらぎや海原の波もストップモーションアニメで再現(どうやっているんだ!)する。
大嵐に揺れる船中の大活劇はこの映画の見せ場の一つだ。大波に叩き割られそうになる客船など「女王陛下のユリシーズ号」さえ思い起こさせるくらい。

舞台となっている19世紀の世界旅行のワクワク感にもあふれている。西部開拓時代のアメリカでは列車と馬で旅をしてドンパチはお約束。敵役の殺し屋はまんまリー・バン・クリーフだし(笑)
物語の中では、なんと世界一周半くらいしてしまう。劇中時間では2年は経過しているだろう(笑)

なのだが、映画全体で気持ちが盛り上がらない。ストーリー展開が他社のアニメと同じように見えるのか、出来が良すぎてストップモーションアニメのアナログ感が感じられないからか、キャラクター設定が観客に寄せすぎなのか・・・

総評として批評家受けは良かったが、ヒットせず赤字だったというのもさもありなん。

ところで、声優陣はヒュー・ジャックマンほかなのだが、エマ・トンプスンはすぐにわかる。こういう知的な熟女系女優が好きです(笑)






題名:ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒
原題:MISSING LINK
監督:クリス・バトラー
声の出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・ガリフィアナキス、ゾーイ・サルダナ、ティモシー・オリファント、エマ・トンプソン

コリー二事件

2020年11月28日 | ★★★☆☆
(本ポスト、かなり支離滅裂ですのでご注意ください)

プロモーションとは裏腹に「帰って来た続・荒野の用心棒」と言いたくなるような作品。

【以下、妄想とネタバレあり】

まずこの映画、「戦後ドイツの<不都合な真実>」がコピーなのだが、それってナチと戦争犯罪以外にある?
もういきなりネタバレしているのだが、舞台は2001年ベルリン、ドイツ人実業家マイヤーが射殺される。犯人はフランコ・ネロ演じるイタリア系ドイツ人のジャンゴ・・・ではなくコリーニ。

トルコ系ドイツ人の主人公が国選弁護士として指名されるが、実は彼の後見人がマイヤーで、さらに孫娘とは恋人関係にあった。何も語らないコリーニに対峙した彼は恩人の殺人犯の弁護に苦悩しながら、真相に迫っていく。

基本、法廷ドラマなのでドイツの司法システムが垣間見えるのは面白い。
のだが、フラッシュバックを交えながらの背景説明が長い。動機が戦争犯罪絡みって明白じゃん!!(身もふたもない)

犯行に使われた銃はワルサーP-38(戦中型)で、現在、入手すら困難な銃を使用したことが真相解明のキーポイントになる。コリーニは墓場に埋めたこの銃を掘り出して使用したのだ(ウソ)

やがて1944年にイタリアのコリーニの出生地でナチによる住民虐殺事件が起きていたことが判明し、その陣頭指揮を執っていたのが武装親衛隊保安部だったマイヤーであることが発覚する。コリーニの父親もその犠牲者だったのだ。
フラッシュバックで描かれる戦時中の惨劇。
幼いコリーニの前で撃ち殺される父親、そこでコリーニに「音楽でも吹いてやれ」とハーモニカを渡す親衛隊のマイヤー。
そこから、現代に転換しマイヤーに銃を突きつけ「祈れ」とつぶやくジャンゴ・コリーニ。「お前は誰だ」とつぶやくマイヤーの口にハーモニカをくわえさせるコリーニ・・・・
あれ、そんな映画じゃなかったっけ。

実は戦時中の虐殺に絡む殺人事件だけがテーマではなく、この事件の裏にはナチ戦犯を無罪放免にする法律の存在があり、途中から話題がそこにスライドしてしまう。
この部分をはじめ、この映画、何か所か乱暴な展開がある。小説だとちゃんと説明されているのかも知れないが。

にしても、元々Django大好きなお国柄でフランコ・ネロがキーパーソン、フラッシュバックを多用したストーリー展開、ドイツでは普通に映画を作ってもマカロニウエスタンしてしまうのに違いない!
それは「戦後ドイツの<不都合な真実>」というコピーの映画がナチと戦争犯罪を描いているとの同じくらい自明のことなのだっ!!

なので、この映画、ドイツでリバイバルされる時は「Django Collini」になっていると思います。






題名:コリーニ事件
原題:Der Fall Collini
監督:マルコ・クロイツパイントナー
出演:エリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、フランコ・ネロ


テネット

2020年11月28日 | ★★★☆☆

前評判で「難しい」と言われる本作、確かに分からないです。

さて、どこかの諜報機関に属する「主役」はアバンタイトル・ミッションで死にそうになり、救出後、謎のシステムを悪用した陰謀を阻止するよう命じられる。そのシステムが本作のキモである時間逆行システム。(タイムマシンではない)
主役は007並みに世界中を飛び回って、その陰謀を突き止めて阻止しようと奔走する。

主役の立ち振る舞いや悪役との接し方、クライマックスの戦闘まで007のフォーマットそのままでうれしくなってくる。(個人的に007のクライマックスは「サンダーボール作戦」~「女王陛下の007」「私を愛したスパイ」みたいに集団戦となるのが大好きなのだが、ここ何十年かは個人戦ばかり。5本に1回でいいから集団戦になってほしい。)

実質的に指令を下す"M"はハリー・パーマーことマイケル・ケイン。キングスマンも仕切ってたから、死ぬまでにル・カレ作品の敵役、カーラを演じてほしい。マイケル・ケインならできるでしょう。

クリストファー・ノーランの映画は重苦しくて小難しい印象があるが、思うに基本の話はヒーロー物、SF、戦争映画、スパイものとワタシたちの世代が好きそうなものばかり。
そこに監督なりの独特の見方や新解釈、表現が入って際立って見えると同時に受け入れやすくもあるんだろう。

その新解釈のキモが前述した時間逆行システム。なのだが、何が何だか分からない。「インターステラー」はまだ飲み込めたが、これはもう不明。
むしろ、科学的な裏付けがあるわけではないので理解するのではなく、映像的に「なんか面白いもの観た」と感じるのが正解。
一瞬「タイムコップ」みたいなベタな展開も期待したが、それはないなあ。

一見無関係なことが結びつく因果関係は他のノーラン映画でも取り上げられてきたし、時空を超えた再会ものって実は大好き。主役よりも相棒ニールのキャラに惹かれるなあ。

時空を超えて再会したのはエリザベス・デビッキ。190センチもの身長とその雰囲気のせいでスパイものとかSFとかしか出演できないんじゃないかと思うが、「0011アンクルの男」もさることながら、ル・カレ原作のTVシリーズ「ナイトマネージャー」では本作と全く同じ役柄(本当に全く同じ)で出演しており、もう途中からどっちの作品だったか分からなくなってしまう平行世界(笑)

アイディア重視すぎで、全体の背景説明に弱い点があるのが難かな。あと、上映時間が長い!

ところで、クライマックスではワタシの好きなロシア版ハンヴィーGAZ-2330が走り回ってくれます。エストニアロケしたそこはポイント高しです(笑)







題名:テネット
原題:TENET
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー

ミッドウェイ

2020年11月28日 | ★★★☆☆

太平洋戦争の転機となったミッドウェイ海戦を描く戦争映画。

この監督が「インデペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」「2012」のデザスター系監督のローランド・エメリッヒ。
もう不安しかないのだが、事前情報ではそこそこ良いし、コロナ禍で映画館のラインナップも全滅のような有様なので、劇場へ。

ミッドウェイ海戦がクライマックスになるが、実は真珠湾攻撃からの主要な戦闘を全て、日米双方から描く。
映画的にはほぼいきなり真珠湾攻撃が始まるが、いまひとつ緊張感がない。「トラ・トラ・トラ」なんて映画史に残る傑作があるから止む得ないんだが、戦艦アリゾナの撃沈なんてもっと描きようがあるだろう。

しかし、映画が進んでいくと、映画として表現が難しい大戦の一局面を、政治的な大局と戦う個人の目線の双方から細かいエピソードを積み上げて、立体的に構成している。
作りとして「インデペンデンス・デイ」に近いとも言えるし、何といっても戦争映画の傑作「史上最大の作戦」を思わせる。

日本側の戦略の組み立てや暗号解読のくだりはなるほどと思わせるし、実際海戦が始まり、索敵、潜水艦戦、空中戦、爆撃、雷撃、急降下爆撃、自沈と局面ごとに分かりやすく描いている。

特に空母への猛攻撃で日米双方の視点から「殺す側」と「殺される側」の恐怖感を取り上げているのは、映画としてよく出来ていると思う。
「男たちの大和」に欲しかったのは、この双方の視点なんだよ。

ただ、娯楽映画に寄りたかったのか、再現ドラマにしたかったのか、軸足がはっきりしない感が終始つきまとって、その辺が作り手の才覚なのかなあと思わせたりね。

太平洋を舞台にしたスケールのデカイ話なので、ある程度基礎知識がないとついていけないのは戦争映画として止む得ないところだが、この手の映画が好きな人はぜひ。






題名:ミッドウェイ
原題:MIDWAY
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンズ、 豊川悦司、浅野忠信、國村隼

ワールドエンド

2020年07月05日 | ★★★☆☆
映画館:イオンシネマ広島

コロナ禍の影響で映画公開スケジュールが大混乱。週末ごとのチェックが必須な上、こういう時はクセのある個性的な映画が出てくるので要注意だ。

それで出てきたのが、ロシア製SF「ワールドエンド」。親愛なるロシアのプロバガンダサイト「ロシアnow」で紹介された時から気になっていたが、まさかロードショーで観られるとは思っていなかった。

近未来、突然宇宙からの放射線かなにかで世界中の電力がダウンし、モスクワを中心としたロシア一帯を除いてブラックアウト状態となってしまう。(海外版タイトル「BlackOut」はここから来ている。)

それから1ヶ月、ロシア軍はブラックアウト地帯に向けて軍を送り出し、事態を確認しようとする。そこに参加するのが富豪の息子のスペツナズとタクシー運転手のスペツナズ、女性TVレポーター、従軍看護婦、ロシア軍指揮官に加え、2人のテレパス少年と盛りだくさん。
しかも、一人一人のキャラクターを細かく紹介していくから時間がかかって仕方がない。「戦争と平和」といい「ヨーロッパの解放」といい、なぜロシアはそうなる。ようやく映画が本題に入るまでに1時間。

その軍に向かって死んだはずの住民が重武装して襲撃してくる。さらに超能力を操る謎のコート姿の男が現われ・・・。

と、これまで観たことがあるSF映画のような展開がどんどん続き、なんとなく先も読めてしまう。まあ、全く新しい切り口のロシアSFなんて難解すぎて、劇場公開されないだろうな(笑)

やがて人類創造の謎にまで迫り、「インデペンデンス・デイ」や「バイオハザード」並みの派手な人的損害の後、人類は大オチを迎える。テンコ盛りすぎ(笑)

SFとはいえ画面がロシアっぽく、ハリウッドのように想像力あふれる(言い方を変えれば派手で嘘くさい)画面ではなく、リアリティあるCGで地味に描くあたり、好感が持てる。ロシア軍オスプレイなんて実機で存在するかと思うくらい。

にしても、この映画、背景で現用ロシア軍の装甲車両やBTR兵員輸送車、T-72が大量にうろちょろするから気になってしかたがない。話に身が入らないじゃないか(笑)
ロシア版ハンヴィー、GAZ-2330がメイン車両かと予想したが、登場するのはロシアがイタリアから買い付けた装甲車IVECO LMV リンチェ。これが「ブラックホーク・ダウン」のハンヴィー並みに大活躍。おいおい、こんなもの見たら、プラモデルが欲しくなるじゃないか。(とつらつら思っていたら、立ち寄ったブックオフにて格安で発見、即購入!(笑))







題名:ワールドエンド
原題:THE BLACKOUT/Аванпост
監督:イゴール・バラノフ
出演:ピョートル・フョードロフ、アレクセイ・チャドフ、スヴェトラーナ・イワノーワ、コンスタンティン・ラヴロネンコ、ルケリヤ・イリヤシェンコ


レ・ミゼラブル

2020年07月05日 | ★★★☆☆
映画館:サロンシネマ

「レ・ミゼラブル」といっても、ヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイが歌うあれではなく、ガチガリのフランス警察映画。

パリ郊外の犯罪多発地帯モンフェルメイユ地区に配属された警官ステファン。治安維持の犯罪防止班BACに配属された彼が先輩警官2人と街中のパトロールに出る2日間が描かれる。

街中では「市長」とあだ名される黒人ボス、ムスリムに影響力をもつ実力者、警察と裏でつながっている一味たちがそれぞれの権益を守りながら、ヒリヒリした関係を保っていた。そこでロマの巡回サーカス団にトラブルが発生し、街中が一触即発状態になり、さらに街の悪ガキの悪ふざけが事態を悪化させていく。

パブでスパイク・リーの名前が引き合いに出されるように「ドゥ・ザ・ライトシング」をはじめとし、「トレーニングディ」「ニュー・ジャック・シティ」「クロッカーズ」「スズメバチ」など映画の雰囲気は数々の街の揉め事映画に近く、さらにムスリムとの関係がキリキリしているのが今風。

過去のそういった映画以上に感じるのは、今、そこにある緊張感。
街の対立は基本怒鳴り合いだけで、ほとんど銃は出ないし、暴力すらほぼ起きない。麻薬ともほぼ無縁。それだけに、日々の鬱憤が暴発したときの反動の大きさを予感させて、嫌な空気感をどんどん醸し出していく。

さらに見た目派手な揉め事より、関わる人物たちの生き様と街の様子を細かく描くことでいつ事態が暴発するか分からない不穏感を高めていく。
低所得者層向けアパート群での生活風景が生々しい。

主人公のステファンは、最初、街の雰囲気と暴走スレスレのBACの行動に戸惑うあたり頼りないのだが、徐々に自分なりの正義を打ち出していく。

トラブルも収束の兆しを見せそうになるが、それだけで事件が終わると今度は映画館の観客側が暴動を起こすので、映画的にはそれなりに大事件が待ち構えている。

劇中、根っからの悪人は登場せず、それぞれが良かれと思ったり、何気なく起こした行動が悲劇を誘発するあたり、まさにタイトルどおりだし、そこに現実社会が透けて見える。

今、世界中でさまざまな「格差」が問題となっているが、それを産み出す背景も強く感じさせる映画。







題名:レ・ミゼラブル
原題:LES MISERABLES
監督:ラジ・リ
出演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ