やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

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神隠しの跡-31話

2010-05-29 22:08:54 | 小説
なぜ?
母上のかんざしが・・・。
昔はどんなに真似ても、まったく同じものはできなかった。
母上の水晶玉には、小さな気泡があった。それが7つ。
まるで北斗七星のような並びだ。
だから大好きでよく見ていた。
間違えるわけがない。
何か母上が伝えたいことがあるのでは。。。
そう思わざるおえなかった。

徳之助はしばらくかんざしを見つめていた。
じっとうつむいた姿勢で。
その頭が動いた時に、徳之助は腹に巻いたタオルも足元のタオルとまとめた。
小太刀も鞘に戻す。
汗にボロボロになったティッシュもひとつにまとめ、さっき抜けだした窓に向かった。
窓の下に着いた時に、玄関から慌てたように榊が飛び出してきた。
青白い顔で驚いたようにこっちを見ている。
「どこに行ってた?!」
少し怒ったような榊の言葉に、徳之助は答えた。
「石のところで、母上のかんざしを見つけた」
「かんざし?」
徳之助はかんざしを見せた。
太陽の光できらきらしてるそのかんざしを、食いいるように榊は眺める。
「それは徳之助の母親のか?」
「そうだ。間違いない」
「あの岩のところで?」
「あぁ昨日はなかったものが、岩の下の草の中にあった」
「それ・・・」
ずっと見ていた榊が思わぬことをつぶやく。
「俺はそれ見たことがあるぞ」
「!?・・・どこで?!」
「どこだったか・・・かんざしはいろいろとあるから、見間違えかもしれないが」
「どこなんだ?!」
「もしかしてあの古びた博物館かな?」
「それはどこだ?」
「本土のほうだ」
「今から行ってくる!!」
「今から?無理だ。もう閉館している」
「閉館?」
「入れない」
「そんなもの門をたたけば門番ぐらいおるだろ!」
「いやいや。守衛はいても規則がある。入れてはくれない」
「そんなもの行かねばわからん!」
「だめだ。この時間だ。もうじき日が暮れる。明日行こう。それでいいな?」
「・・・」
「明日は逃げたりしない。なっ?!」
「・・・わかった。。。明日だな」
「あぁ明日だ。どんあことがあっても明日行こう」
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神隠しの跡-30話

2010-05-29 16:26:41 | 小説
草履は用意していなかった。
裸足で歩き岩の前に立つ。
ここで自分の最後を迎える。
そう決めた場所だ。
今こうしてみれば、立派な大きな石だ。
全体を苔で覆われ、上面は平らな形をしている。
少しえぐれた場所には、小さな水溜りがあった。
石の上に座り、タオルを数枚取り出す。
それを腹に巻き、血しぶきが飛び散らないようにする。
このタオルの上から腹を指す。
そうすれば血はタオルにしみこむ。
それでも足りないのは足元のタオルに啜らせる。
これで死にざまは汚らしくなく、潔いものになる。

風が少し吹いている。
枝葉が少しだけざわついている。
怖い。
そんな感情はある。
しかし、潔くというのが武士としての教えだった。
私は逃げたりしない。
一呼吸をおく。
桶の水で小太刀を清める。
右手にティッシュを巻いた小太刀を握った。
「榊殿。世話になった」
大きく腹の正面に刃を向けて、手を伸ばす。
一気に腕を曲げる・・・。
そう思った時だ。
刃に何かが映った。
キラッと輝いたものを目で追っていた。

それは石の上ではなかった。
石の下の方。
地面に生えた草の中にあった。
切腹を中断して、石の上から下りる。
それは半分以上土に埋まったかんざしだった。
その柄の鉄の部分が輝いていた。
錆ついていないそのかんざしは、つい今しがた届いたもののように見えた。
覚えがある。
これもやはり、母上のものだった。
郷里で採れた水晶をあしらったものだ。
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