気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘77) 5月21日 (土) #1 月ヶ浜・お腹が痛いの

2023年07月03日 | 日記・エッセイ・コラム
朝食後のひととき、先ずはムーンビーチ(月ヶ浜)に行ってみる事にした。一度バスの通る道に出て坂を下り、小さな石の橋を渡ってすぐに右の林の中へ続く道を歩いていると、天然記念物の山鳩(?)を見た。この西表という島はさすが山が多く、「ジャングル」という言葉に代表される様な、言わば「男の島」と呼ばれるだけに、海岸線から逆に林を抜けると、それは山に来たという感じのする島である。
もう見なれてきたこの熱帯雨林の林の向こうでは、二人が訪れるのを待ち構えていたかの様に、その素晴らしい光景を二人の目に映してくれた。林から海を見て右側には近くに岩場が有るが、左側を見ると誰一人居ない渚が、この湾になっているその反対側迄ずっと続いている。生暖かい海水を膝まで浸かりながら歩いた。そして渚を歩いていると、ふっと何かが光った様に見えた波打ち際を見ると、そこには何も無く、でも次の瞬間、私はその正体を見つけた。海水がキメ細かな渚の砂を濡らし波が引いた後も海水が幕の様に残っていて、そこに太陽の光りが反射していたのだった。このムーンビーチでは何処でも同じ事が起こっている。本当にキメ細かな渚の砂なのだ。蒼い空がそのまま蒼く映るばかりではなく、覗き込む自分の顔さえもが、恰も鏡を目の前にした様に映るのだ。これにはやはり明美も驚嘆していた。
波打ち際から少し離れて歩くと、今度は財布を拾った。もうだいぶ時間が経っているらしく、強いカビの臭いが二人の鼻を襲った。まさかお金が入っているとも思えないその財布を覗き込む様子を見せながら、
「ねぇ、幾らぐらい入っていると思う?」
と言うと、
「ええ?!まさか…空じゃないの?」
と答える明美にも見える様に財布を開いた。ああ、何と、入っているではないか、千円札が!早速抜き出して数えてみると四枚、四千円も入っていた。思わぬ拾い物に二人共笑ってしまった。

この宇奈利崎の浜から続く月ヶ浜は浦内湾の湾奥部に当たり、浦内川の流れて来る河口迄珊瑚などの無い、気持ちの良い、歩き易い砂浜になっている。川の流れと押し寄せる波が交錯する辺りに、海賊の秘宝が伝説として残されている「宝島」と云う小さな島が在る。その島を目の前にする辺りで散歩をやめ、そろそろ泳ぐ事にした。ここには誰も居なかった。川平で逢って以来のあのカップルも今日は顔を見せていない。
どれ程時間が経った頃だっただろうか。海から上がった明美が急に帰り始めた。
「どうしたの?」
と尋いても、ただ黙って歩いている。訳のわからないまま私も寄り添いながら歩いた。
「ホントに、どうしちゃったの?」
「お腹が痛いの」
小さな声で、ポツリと言った。
「そっ、そう。じゃ、早く帰ろう。大丈夫?民宿迄辛抱してね」
私はただ慌てるばかり、いくら心配してもどうにかしたくても、なにもしてあげられない。幸いにも、そんな明美の腹痛は長くは続かず、民宿へ戻る頃には、幾分なりとも治まってきていた。


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