Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

せん妄に関する質問へのお答え

2015-09-06 17:12:23 | 集中治療

本日杏林大学集中ケア認定看護師教育課程 フォローアップ研修に招かれ、「痛み・不穏・せん妄のモニタリングと管理」というレクチャーをしました。

そこで受けた質問とお答えをここにも記載しておきます。

いつもそうですが、質問を受けることは自分のあやふやな知識を整理するために非常に役に立ちます。ありがとうございました。

1. 深鎮静患者に対してせん妄評価を行う価値があるか?

RASS -4、-5の深鎮静の患者は鎮静レベルが上がってから再度せん妄評価を行えばよいでしょう(www.icudelirium.org/docs/CAM_ICU_training_Japanese.pdf)。

ICDSCも同様と考えてよいのではないでしょうか。

もしほとんどの時間(A)昏睡あるいは (B)昏迷状態である場合、ダッシュ(-)を入力し、それ以上評価を行わない。

と記載されていますね(http://igs-kankan.com/article/ICDSC-pocket.pdf)。

敗血症などの炎症(急性脳障害)にさらに医原性に鎮静薬の投与が加わって(両者の影響を独立して調べるのは難しいですね)昏睡、すなわちRASS -4、-5のような深い鎮静状態が作られるわけで、深鎮静は昏睡と実質的には同義です。昏睡は同じ急性脳障害の徴候の一つですが、せん妄とは異なります。


2. RASSは鎮静スケールなので、鎮静していなければやる必要はないか? RASSを行わないならCAM-ICUをやる必要がないか(つまるところ、鎮静をしていなければCAM-ICUをチェックする必要はないのか)?

鎮静の有無に関わらず、人工呼吸の有無に関わらず、CAM-ICUをやる必要があると思います。一見正常に見える陰性せん妄や混合性のせん妄患者を見逃さないためです。言い方を変えれば、鎮静剤を投与していなけれが必ずしもRASSを行う必要性はありませんが、鎮静せず落ち着いていればRASS 0と考えてよいわけで、そこからCAM-ICUに進むのだ、と考えてもよいでしょう。

逆に、たとえばプロポフォールなどの静脈内投与の鎮静薬は使っていなくても、たとえばフェンタニルを持続投与していればフェンタニルに鎮静作用がありますので、RASSやCAM-ICUを行う必要がありますよね。さらに広く考えれば、夜間にベンゾジアゼピン系の睡眠薬(睡眠薬はほとんどベンゾジアゼピン系です)を使えば、講義でお話ししたように睡眠構築に影響を与えますので、せん妄のリスクが高まる可能性があります。極論すれば、睡眠薬投与ですら、睡眠を促すために投与するにも関わらず人為的な鎮静に近いことをしている可能性があります(使うなとは言ってません。せん妄のリスクが高くなる可能性があるので積極的にスクリーニングすべきと言うことです)。

結論としては、鎮静を受けている患者でなくてもCAM-ICUをやる意義があります。


3. この裏返しの質問として、鎮静の中断時にせん妄評価をすべきか、というご質問もいただきました。

面白いデータがあります(Haenggi M, et al. Effect of sedation level on the prevalence of delirium when assessed with CAM-ICU and ICDSC. Intensive Care Med (2013) 39:2171–2179.)。鎮静自体がCAM-ICUやICDSCに影響を与える、という考えてみれば至極当然のことを示した(誰も検討しなかったので価値があります)データです。RASS -2 -3の人を除いてRASSが-1以上の人のみを対象とするとせん妄の陽性率が下がる、裏を返せば鎮静度が深いとせん妄と判定されてしまう患者が増えるということを示します。筆者らは、せん妄の評価は鎮静度を加味して鎮静度ごとに層別化して行うべき、としています。なるほどと思います。

さらに考えれば、鎮静の影響の最も少ないと考えられるRASS 0の状態でのせん妄評価が純粋なせん妄を意味するのかもしれないと言え、私たちは偽陽性のせん妄患者を拾ってしまって、見かけ上陽性率が上がってしまっているのではないか、とも考えられます。ですので、鎮静の中断時こそが本来のせん妄評価のタイミングなのかもしれません。

しかし、繰り返しますが、急性脳障害が進行中で患者が落ち着きがなく、呼吸や循環に悪影響が出ているから鎮静を使う、つまり必要な鎮静は必要だから使っているわけで、急性脳障害の影響なのか、その他の環境因子の影響なのか、投与する薬の影響なのかを完全に区別することは難しい。

したがって、RASSが-3以上であれば鎮静の中断の有無に関わらず、せん妄の評価を行うべきと思います。


4. 脳外科患者にせん妄評価スクリーニングツールを使うべきか

脳外科患者は、脳に直接の障害が及んでいるという点、神経学的な所見が脳の状態を知るための重要なモニターなのでできるだけ鎮静は避けたいという点で、たとえば敗血症などでICUで人工呼吸されて鎮静が必要な患者と背景が異なります。CAM-ICUを評価した研究では脳外患者は除外されているはずです(Ely EW, Inouye SK, Bernard GR, et al. Delirium in mechanically ventilated patients: validity and reliability of the confusion assessment method for the intensive care unit (CAM-ICU). Jama 2001;286:2703-10)。

しかし、実際にせん妄は脳梗塞の徴候の一つになりえます。せん妄の診断にはDSM-IVが使用されましたが、Hatta先生らのラメルテオンがせん妄を減らすことを示したRCTでも脳卒中患者が2 - 3割含まれています(Hatta K, Kishi Y, Wada K, et al. Preventive effects of ramelteon on delirium: a randomized placebo-controlled trial. JAMA psychiatry 2014;71:397-403.)。

ただ現段階では、急性期脳疾患患者のせん妄が何を意味するのか、たとえば人工呼吸器患者と同様に長期予後と関連するのか、積極的に予防・治療することによって患者の予後に影響するかのデータはほとんどないと思います(Teitelbaum JS, Ayoub O, Skrobik Y. A critical appraisal of sedation, analgesia and delirium in neurocritical care. The Canadian journal of neurological sciences Le journal canadien des sciences neurologiques 2011;38:815-25.)。

一つだけ研究らしい研究として、脳卒中患者(脳梗塞、脳出血)に対するCAM-ICUの妥当性を検証し、十分に使用に耐えうるとしたデータを見つけました(Mitasova A, Kostalova M, Bednarik J, et al. Poststroke delirium incidence and outcomes: validation of the Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit (CAM-ICU). Crit Care Med 2012;40:484-90.)。

結論としては、使うべきかと問われれば現段階では不明と言わざるを得ません。今後の研究に期待したいとこです。

以上です。

 


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