前回につづいて、経過を示します。ここに登場する症例は現実の症例からヒントを得ていますが架空の症例であり、内容はすべて医療者自身および医療の質の向上を目的としたものですので、ご理解ください。
PT-INRの軽度延長を認めたため、FFP4単位輸血終了後に型の如く経皮的気管切開を行った。気管支鏡ガイド下に穿刺、ガイドワイヤー挿入、ダイレーターによる拡張、チューブ挿入ともスムーズであった。術者は、若干出血が多い印象をもったが問題ない範囲と判定した。皮膚切開面を縫合し手技を終了した。この時点で人工呼吸器はPCV、PC圧15、吸気時間 1.0秒、換気回数 20回/分、PEEP 8cmH20、FiO20.5でSpO2 は97%であった。
術後15分ほど経過してSpO2 が92%前後に低下した。FiO2を1.0にして気管支鏡を施行したところ気管分岐部から左右(右に多い)の主気管支に凝血塊と血液の貯留を確認した。吸引で凝血塊の除去を試みるが粘稠なゲル状の血塊となっており、除去が困難であった。その後、断続的に気管支鏡により除去を試みた。換気不良を考えてPC圧22cmH2O、換気回数を 30回/分 に変更した。SpO2は96%前後で、非気管支鏡時の一回換気量が350cc程度であった。
気管切開口の出血状況の確認をするため、気切チューブを抜去し経口で再挿管した。耳鼻科医師に術野の確認・止血を依頼した。SpO2は94%前後であった。
経口挿管チューブより気管内の血液・凝血塊の除去を継続した。脈拍数130程度の洞性頻脈で著変なかったが、徐々に血圧の低下を認め、フェニレフリンの単回静脈内投与およびノルアドレナリンの持続投与を開始した。非気管支鏡時の一回換気量が80~140cc、分時換気量が3~5L/分、SpO2は86~90%であった。CPA(PEA)となった。ただちにCPR(胸骨圧迫・エピネフリン投与・吸引による気道確保・輸血)を施行し、4分後自己心拍が再開した。
気管切開部の出血は、耳鼻科医師にて可及的に電気メスを用いて止血処置を行った。その後も気管支鏡で鉗子を使用し、破砕しながら、約5時間かけて確認できる範囲のものは除去した。
術後は意識障害、呼吸不全が遷延した。5週間後再度の肺炎を契機に無尿になり、家族の同意のもとDNRで、昇圧剤も使用しない方針であることを確認した。入院50日に死亡した。