Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

米国人は下手? 上手?

2010-01-26 21:08:09 | 集中治療
メディカルサイエンスインターナショナルから翻訳本、「麻酔の達人-実践麻酔手技免許皆伝本」(Anesthesia Unplugged)が発行された。写真が大変きれいな本で、懐かしいマイアミ大学麻酔科の連中が著者として名を連ねている。

メインの編著者のDr. Gahllagerはとにかく博識の先生であった。広東語を含む5カ国語が話せ、日本語に挑戦中で、よく私をつかまえては日本語で話しかけてきた。とても“頭の良い”人で、センスが凄過ぎて外国人である私にはそのシャレ(sense of humor)についていけないことが多かった。非常に博識でローマの歴史の話からロックの話まで飛びまくる人で、そんな頭の良さとsense of humorがこの本にも現れている。中田善規先生、水野 樹先生を始めとする訳者の先生がたの苦労が偲ばれる。これ以外にもanesthesia board(麻酔専門医試験)やTEEのboard試験の面白い本も出版している。

二番目の編著者、Dr. Ricardo Martinez-Ruizはもともとベネズエラ出身で、私のロールモデルであった心臓麻酔医、兼集中治療医。若い頃、親の都合でオランダなど世界中で暮らしていたので、南米訛りをあまり感じさせない英語を話した。MGH(マサチューセッツ総合病院)のアテンディングドクターであったが、奥さんに実家(ベネズエラ)に近いところで人間らしい暮らしをしたい、と乞われてマイアミに移ってきた。自分がトレーニングを受けたボストンの話をするのが好きで、ボストンの競争の激しさ、給料の安さをよくこぼしていて、「ボストンでは、夕方4時に始まるCABGの急患にレジデントは志願して残って麻酔をするが、マイアミじゃーねー」とか、「ボストンじゃ翌日の症例に関してアテンディングとディスカッションして出される宿題をこなしていくだけで、専門医試験は難なく通る」とか、一部のお気楽レジデントを見回してこぼしていた。現在の私の回診スタイルは完全に彼のコピー。ちなみにMGHにいらっしゃる市瀬 史先生が大変優秀な先生であることをことあるごとに私に言っていた。

3番目の著者は我らがDr. Lubarsky。チェアマンである。私が卒業する前の年にDukeからやってきた。リサーチトラックの6ヶ月で私がやった小さい探索研究にポンとお金を出してくれたのにはいまでも感謝している(結局positive dataが出なかった)。2週間前にSCCM(Society of Critical Care Medicine)でマイアミに行った時には、直接お会いしなかったが、この5年でdepartment全体のアテンディングの数を2倍の100人に増やし、論文の数を10倍ぐらいに増やして、全米の学生からも人気がうなぎ上りの難関プログラムに仕立て上げ、関連派遣病院も次々開拓するという超やり手である。

米国人は下手、日本人の方がうまい、ということをおっしゃる方もしばしばいる。平均すると確かにそういう印象を持った。ただ本当の答えは、yes or no(Ricardoの口癖でもあった)のような気がする。平均は米国にやや分が悪いが、凄い人はいる、というのが私の印象で、たぶん経験数の多さのなせるワザであろう。採血ナースや新生児ナースプラクティショナー、産科硬膜外の専門看護麻酔師など、凄い技術を持っていた。

日本人による日本人のためのテクニック披露講座の本は巷にあふれているが、米国人のための米国人によるテクニックの本は多くない。写真も大変きれいである。是非一度手に取ってご覧になっていただきたい。