源氏物語 若紫
清げなる大人二人ばかり、さては童女ぞ出で入り遊ぶ。中に十ばかりやあらむと見えて、白き衣、山吹などの萎えたる着て、走り來たる女子、数多見えつる子共に似るべうも非ず、いみじく生ひさき見えて、美しげなる容貌なり。髪は扇を広げたるやうにゆら/\として、顔はいと赤くすりなして立てり。
「何ごとぞや。童女と腹立ち給へるか」とて、尼君の見上げたるに、少し覚えたる所有れば、子なめりと見給ふ。
「雀の子を犬君が逃しつる。伏籠のうちに籠めたりつる物を」とて、いと口惜しと思へり。
まひろ ナレーション
小鳥を追って行った先で、出会ったあの人。あの幼い日から、恋しいあの人の側で、ずっとずっと一緒に生きていられたら、いったいどんな人生だっただろう。
(雀 チュンチュン 飛び去る)
雀の子を犬君(いぬき)が逃がしてしまったの。籠を伏せて閉じ込めて置いたのに。とたいそう悔しそうにしています。