新古今和歌集の部屋

歌論 無名抄 範兼家会優事

 

 

 

範兼家會優ナル事

俊恵云和哥會のありさまのげに/"\しくいふに

おほえし事はつぎのところにとりてはちかくは

範兼卿の家の會のやうなることはなし。亭主の

さる人にていみじうもてなしてことにふれつゝ

れうじならず。人にはぢ道を執してほむべき

をば感じそしるべきをば難じこと/"\にゑあ

りてみだれがはしきことゆめにもなかりしかば

さしいる人もみなそのおもむきにしたがひて

いかでよろしくよみいでんと思へりき。さればよき

哥もいできはかなくめづらしきひとふしをおも

ひよれるにつけてもかひ/"\しき心地していさ

ましくなんありし。兼日の會にはみな哥を

懐中して當日の儀いたづらにほどをふること

なし。もし當座に會あればおの/\ところ/"\に

さしのきつゝ沈思しあひたるさまなどまでも

ゑむにあらまほしく侍しかばさせることなき哥

もことがらにあさられて念にきこし侍き。

 

範兼家会優なる事
俊恵云、「和歌会の有様のげにげにしく優に覚えし事は、次の所に
とりては、近くは範兼卿の家の会のやうなる事はなし。亭主のさる
人にて、いみじうもてなして、事に触れつつ、れうじならず。人に
恥ぢ道を執して讃むべきをば感じ、謗るべきをば難じ、ことごとに
ゑ有りて、乱れがはしき事ゆめにもなかりしかば、さし入る人も皆
その趣に随ひて、いかでよろしくよみ出でんと思へりき。さればよ
き歌も出で来、はかなく珍しき一節を思ひ寄れるにつけても、かひ
がひしき心地して、いさましくなんありし。兼日の会にはみな歌を
懐中して、当日の儀徒らに程を経る事なし。もし当座に会あれば、
各々所々にさし退きつつ、沈思し合ひたる様などまでも、艶にあら
まほしく侍しかば、させる事なき歌もことがらに飾られて艶にきこ
し侍き。」

校異 あさられて→飾られて 念→艶

※げにげに
相応しく

※範兼
藤原範兼。嘉承二年(1107)ー永万元年(1165)従三位刑部卿。俊恵、頼政は範兼の家の歌会の常連であったらしい。

※さる人
立派な人

※れうじならず
聊爾。そこつでない。

※はかなく
たあいなく。

※兼日の会
予め歌題が出されている歌会

※させる事なき歌
取り立てて言うこともない歌も

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