庭生 にはにおふる 拍子九
にはにおふる、からなづなは、よきななり。ハレ。みやびとの、さぐる袋を、おのれかけたり
庭に生ふる、唐薺は、よき菜なり。はれ。宮人の、探る袋を、己懸けたり。
我門 拍子二十一
三段 一段七、二段六、三段八
わがかどに、わがかどに、うはものすそぬれ、したものすそぬれ、あさなつみ、ゆうなつみ、あさなつみ
あさなつみ、ゆうなつみ、わがなを、しらまくほしからば、みそのふの、みそのふの
みそのふの、みそのふの、あやめのこほりの、だいりやうの、まなむすめといへ、おとむすめといへ
我が門に、上裳の裾濡れ、下裳の裾濡れ、朝菜摘み、夕菜摘み、朝菜摘み
朝菜摘み、夕菜摘み、我が名を、知らまくほしからば、御園生の、御園生の
御園生の、御園生の、菖蒲の郡の、大領の、愛娘と言へ、弟娘といへ
大芹 拍子三十一
おほぜりは、くにのきたもの、小芹こそ、ゆでてもむまし、これやこの、せんばんさんたのき、ゆしのきのばん、むしかめのどう、さいかくのさい、をさいとさい、りようめんかすめうけたる、きりとほし、かなはめばんぎ、ごろくがへし、いちろくのさいや、しさうさいや
大芹は、国の禁物、小芹こそ、茹でてもむまし、これやこの、前盤三多の木、柞の木の盤、むしかめの筒、犀角の賽、をさいとさい、両面かすめ浮けたる、切りとほし、金はめ盤木、五六がへし、一六の賽や、四三賽や
※前盤三多 未詳。
※柞 双六の盤に使った。
※むしかめの筒 齲歯(虫食い)のサイコロの筒
※をさいとさい 未詳。
※金はめ盤木 金具をはめた盤木
浅水 拍子十九
あさむずのはしの、とどろとどろと、ふりしあめの、ふりにしわれを、たれぞこの、なかびとたてて、みもとのかたち、せうそこし、とぶらひにくるや、サキムダチヤ
浅水の橋の、とどろとどろと、降りし雨の、古りにし我を、たれぞこの、仲人立てて、御許のかたち、消息し、訪ひに來るや、さきむだちや
※浅水 福井県鯖江市、福井市を流れる朝水川。
※サキムダチヤ 囃子詞で、さ公達やと貴公子達よの意。
大路 拍子十四 二段各七
おほほぢに、そひてのぼれる、あをやぎがはなや、あをやぎがはなや
あをやぎが、しなひをみれば、いまさかりなりや、いまさかりなりや
大路に、沿ひて上れる、青柳が花や、青柳が花や、
青柳が、撓ひを見れば、今盛りなりや、今盛なりや
我門乎 大路同音 拍子十四 二段各七
わがかどを、とさんかうさん、ねるをのこ、よしこさるらしや、よしこさるらしや、
よしなしに、とさんかうさん、ねるをのこ、よしこさるらしや、よしこさるらしや
我が門を、とさんかうさん、ねる男、由こさるらしや、由こさるらしや
由なしに、とさんかうさん、ねる男、由こさるらしや、由こさるらしや
鶏鳴
とりはなきぬ。てふかさ、さくらまろが、しがものをおしはし、きたりゐてすれ、ながこなすまで
鶏は鳴きぬ。てふかさ、さくら麿が、其がものを押しはし、來りゐてすれ、汝が子生すまで
刺櫛
さしぐしは、たうまりななつ、ありしかど、たけくのぞうの、あしたにとり、よさりとり、とりしかば、さしぐしもなしや、サキムダチヤ
刺櫛は、十まり七つ、ありしかど、たけくの掾の、朝に取り、夜さり取り、取りしかば、刺櫛もなしや、さきむだちや
※たけく 福井県の武生
逢路
あふみぢの、しののをふぶき、はやひかず、こもち、まちやせぬらむ、しののをふぶきや、サキムダチヤ
近江路の、篠の小蕗、早引かず、子持、待ち痩せぬらむ、篠の小蕗、さきむだちや
更衣
ころもがへせむや、サキムダチヤ、わがきぬは、のはらしのはら、はぎのはなずりや、サキムダチヤ
更衣せむや、さきむだちや、我が衣は、野原篠原、萩の花摺や、さきむだちや
催馬楽 更衣 Saibara Koromogae
催馬楽(さいばら)とは、平安時代に隆盛した古代歌謡。元来存在した各地の民謡・風俗歌に外来楽器の伴奏を加えた形式の歌謡である。管絃の楽器と笏拍子で伴奏しながら歌われた「歌いもの」の一つであり、多くの場合遊宴や祝宴、娯楽の際に歌われた。語源については馬子唄や唐楽からきたとする説などもあるが定かではない。