水無瀬戀十五首哥合に 太上天皇御製
里はあれぬ尾上の宮のおのづから待こしよひも昔となりけり
万葉廿√高圓の野のうへの宮はあれにけり云々。又√高圓の
をのへの宮はあれぬとも云々。これらをとらせ給ひて、此御哥
にては、尾上の宮は用なけれど、里はあれぬとあるちなみに、
此名を出して、おなおづからと詞かさねさせ給へる物なり。
さて此おのづからは、たまさかにまれにといふ意也。上にもいへるが如し。
有家朝臣
物おもはでたゞ大かたの露にだにぬるればぬるゝ秋のたもとを
めでたし。下句詞めでたし。 下句、秋の袂は、ぬるれば
ぬるゝ物をといふ意にて、まして我袖は物思へば也。
雅經
草枕むすびさだめむかたしらずならはぬ野べの夢のかよひ路
上句は、本哥√よひ/\に枕さだめむかたもなしいかにねし
夜か夢に見えけむ、とある四の句は、いづ方にいかに枕をして
寐たりし夜かといへる意也。 こゝの意は、今までねな
らはず、方角もしらぬ野べなれば、枕を定むべき方もし
られずと也。 結句は、故郷の夢を見まほしく思ひての
哥なれば也。通路、野べによし有。 哥のおもては、たゞ旅宿
の意なれ共、本哥によりて戀にはなる也。三の句いうならず。
和哥所歌合に深山戀 家隆朝臣
さても猶とはれぬ秋のゆふは山雲ふく風もみねにみゆらむ
めでたし。二三の句詞めでたし。 二の句、秋といへるは、雲吹
風によし有。又人のあきの意也。 四の句は、雲を風のふけば、
なびく意なり。 峯にといへる、見ゆらむによし有。
一首の意は、ゆふは山の秋の夕暮に、風の雲を吹て、なびく
けしきもみゆらむ物を、つれなき人は、さても猶なびか
ずして、とひもこぬとなり。
※万葉廿√高圓の野のうへの宮はあれにけり
万葉集巻第二十 4506
二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首
依興各思高圓離宮處作歌五首
大伴家持
高圓の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば
多加麻刀能努乃宇倍能美也波安礼尓家里多々志々伎美能美与等保曽氣婆
※√高圓のをのへの宮はあれぬとも
万葉集巻第二十 4507
大伴家持
高圓の峰(を)の上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや
多加麻刀能乎能宇倍乃美也<波>安礼奴等母多々志々伎美能美奈和須礼米也
※√よひ/\に枕さだめむかたもなしいかにねし夜か夢に見えけむ
古今和歌集恋歌一
題しらず よみ人知らず
よひよひに枕さためむ方もなしいかにねし夜か夢に見えけむ