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新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 須磨 惜しからぬ命 須磨へ出発


 
道すがら面影につと添ひて、胸もふたがりながら御舟に乗り給ひぬ。日長き頃なれば、追ひ風さへ添ひて、まだ申の時許りに、彼の浦に着き給ひぬ。仮初めの道にても、かかる旅をならひ給はぬ心地に、心細きも、おかしさも珍かなり。



なし給へず。
 紫
  おしからぬ命にかへてめのまへの
               源詞
別をしばしとゞめてしがな。げに
さぞおぼさるらんといとみすて
がたけれど、あけはてなばはした
なかるべきにより、いそぎ出給ひぬ。
     源心       紫
道すがらおもかげにつとそひて
             淀舟
むねもふたがりながら御舟にのり
給ぬ。日ながき比なれば、をひ風
さへそひてまださるの時ばかりに、
かの浦につき給ぬ。かりそめの
道にても、かゝる旅をならひ給はぬ
心ちに、心ぼそきもおかしさも
めづらかなり。おほえ殿といひける所は
いたくあれて、松斗ぞしるし成ける
 源
  から圀に名をのこしける人よりも
ゆくゑしられぬ家ゐをやせん。
なぎさによる波のかつかへるを見
給て、√浦山しくもとうちずんじ給へる
さま、さる世のふることなれ共゙、めづら
しくきゝなされ、かなしとのみ御とも
の人々゙思へり。うちかへりみ給へるに、
こしかたの山は霞はるかにて、ま
ことに三千里の外の心ちするに、
√かひのしづくもみへがたし。
 源
  ふるさとをみねの霞はへだつれど
ながむる空はおなじ雲ヰか。つら
            源
からぬものなくなん。おはすべき所は、
ゆきひらの中納言の√もしほたれ
つゝわびける家居ちかきわたり成
けり。海づらは、やゝいりて、哀に心す
ごげなる山中なり。
垣のさまよりはじめてめづらかに見
給ふ。かやどもあしふけるらうめく
屋など、おかしうしつらひなしたり。
所につけたる御すまゐやうかはり
て、かゝるおりならずばおかしうも有
なましと、昔の御心のすさびおぼ
しいづ。ちかき所/"\のみさうの
つかさめして、さるべきこと共゙などよし
きよの朝臣などしたしきけいし
にて、おほせをこなふも哀なり。時の
まにいとみ所゙ありてしなさせ給ふ。
水ふかうやりなし、うへ木共゙などし
て、今はとしづまり給心ちうつゝな
らず。くにのかみもしたしきとの
人゙なれば、忍びて心よせつかうま
   源心
つる。かゝるたび所゙ともなく人さはがし



なし給へず。
 紫
  惜しからぬ命に替へて目の前の別れをしばし留めてしがな
「げにさぞおぼさるらん」といと見捨て難けれど、明け果てな
ば、はしたなかるべきにより、急ぎ出で給ひぬ。
道すがら面影につと添ひて、胸もふたがりながら御舟に乗り給ひぬ。
日長き頃なれば、追ひ風さへ添ひて、まだ申の時許りに、彼の浦に
着き給ひぬ。仮初めの道にても、かかる旅をならひ給はぬ心地に、
心細きも、おかしさも珍かなり。大江殿と言ひける所はいたく荒れ
て、松ばかりぞ標なりける。
 源
  唐国に名を残しける人よりも行方知られぬ家居をやせん
渚に寄る波のかつ返るを見給ひて、「√うらやましくも」と打誦じ給
へる樣、さる世の古言葉なれども、珍しく聞きなされ、悲しとのみ
御供の人々思へり。打返り見給へるに、来し方の山は霞遥かにて、
真に三千里の外の心地するに、√櫂の滴も堪へ難し。
 源
  故郷を峰の霞は隔つれど眺むる空は同じ雲井か
辛からぬものなくなん。
御座すべき所は、行平の中納言の√藻塩垂れつつわびける家居近き
わたりなりけり。海面は、やや入りて、哀れに心すごげなる山中な
り。垣の樣より始めて珍かに見給ふ。茅屋ども芦葺ける廊めく屋な
ど、おかしう設ひなしたり。所に付けたる御住まゐやう変はりて、
かかる折りならずば、おかしうも有りなましと、昔の御心のすさび
おぼし出づ。近き所々の御庄(みさう)の司召して、然るべき事ど
もなど良清の朝臣など親しき家司(けいし)にて、仰せ行ふも哀れ
なり。時の間にいと見所有りてしなさせ給ふ。水深う遣りなし、植
木どもなどして、今はと静まり給ふ心地、現ならず。国の守も親し
き殿人なれば、忍びて心寄せ仕うまつる。かかる旅所とも無く人騒
がし
 

※申の時許り 午後4時頃

※大江殿 斎宮が御祓を行った場所で、大阪市の渡辺橋と大江橋の間にあった模様。

※√うらやましくも
伊勢物語 七段
むかし、をとこ有けり。京に有わびて、あづまにいきけるに、
いせおはりのあはひの、うみづらを行になみのいとしろくた
つを見て
後撰
いとゞしく過行かたの恋しきにうら山しくもかへるなみかな
となんよめりける
※三千里の外
白氏文集巻十三
 冬至宿楊梅館
十一月中長至夜  十一月中の長至の夜
三千里外遠行人  三千里の外、遠行の人
若為獨宿楊梅館  若し独り楊梅館に宿ることを為すとも
冷枕単妝一病身  冷枕単牀一病身ならむ

√かひのしづくも
伊勢物語五十九段
昔男京をいかゞ思ひけん、ひんがし山に住むと思ひ入て
 住わびぬ今はかぎりと山里に身をかくすべき宿をもとめてん
かくて物いたくやみてしにいりたりければ、面に水そゝぎなどして、いき出て
 わがうへに露ぞおくなる天の川と渡る舟のかゐのしづくか
となんいひていき出たりける
※行平の中納言の√藻塩垂れつつわびける
古今和歌集雜歌下
 田村の御時に、事にあたりて津の
 国の須磨といふ所に籠り侍りける
 に、宮のうちに侍りける人につか
 はしける
              在原行平
わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に藻塩たれつつわぶと答へよ
 
 
和歌
紫上
惜しからぬ命に替へて目の前の別れをしばし留めてしがな
 
よみ:をしからぬいのちにかへてめのまへのわかれをしばしとどめてしがな
 
意味:惜しくない私の命に替えましても、目の前にある貴方との別れを、少しでも留めたいです。
 
備考:
 
 
源氏
唐国に名を残しける人よりも行方知られぬ家居をやせん
 
よみ:からくにになをのこしけるひとよりもゆくゑしられぬいえゐをやせん
 
意味:中国で流謫の身となった屈原よりも、行方も知られない侘び住まいをするのだろうか
 
備考:名を残しける人は、春秋時代の楚の屈原
 
 
源氏
故郷を峰の霞は隔つれど眺むる空は同じ雲井か
 
よみ:ふるさとをみねのかすみはへだつれどながむるそらはおなじくもゐか
 
意味:故郷の京の都を峰の霞は隔てているけれど、眺めている空は同じ空であろうか。
 
備考:
 
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