AI日本株式オープン(絶対収益追求型)の「特長」を示す具体例として、しばしば、次のような話が出てきます:
三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏
AIは、人間では気づかないささいな変化を捉えることも得意です。
一例を挙げると、ブレグジット(英国のEU離脱)の際、AIの運用はあまりうまくいきませんでした。ただ、その経験を踏まえて、米国大統領選でトランプ大統領が勝った当日、日本の市場は下落しましたが、AIは前日に『すべてヘッジせよ』というシグナルを出していました。
おそらく、市場心理のデータのなかにフルヘッジすべき要因が潜んでいたのでしょう。人間だとなかなか見つけられない、ちょっとした変化をAIは読み取れていたのだと思います
おそらく、市場心理のデータのなかにフルヘッジすべき要因が潜んでいたのでしょう。人間だとなかなか見つけられない、ちょっとした変化をAIは読み取れていたのだと思います
ー Yahoo!マーケティングソリューション『資産運用はAIと人間の共存が不可欠~三菱UFJ信託銀行の挑戦[後編][2017.10.11]』
その他のメディアでの紹介:
- WBS『個人向け販売開始 AIが運用する投資信託[2017.02.01]』
- 試験運用では去年6月のイギリスのEU離脱決定の直後には損失を出したものの、11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が優勢となり、株価が急落した局面では損失を回避するなど、自ら学習するのも大きな特徴です。
- TBS『AI運用の投資信託販売、国内大手銀行で“初”[2017.02.01](リンク切れ)』
- 試験運用でAIは、去年6月のイギリスのEU離脱では損失を出したものの、そこから「学習」し、11月の「トランプショック」では損失を回避したということです。
<関連リンク先> NewsPicks | 個人ブログ - J-MONEY 2017年冬号『AIを投資判断や株価予想に活用 技術との関わりでは人の判断が重要に[2017.01.27]』
- 岡本氏は、「11月8日の米国大統領選挙を例に挙げれば、トランプ氏の当選確定直後、日経平均株価は一日で1000円近くの下げ幅を記録した。当選が確定する前日、AIはフルヘッジのシグナルを出していたことから、株価急落の衝撃は吸収できた。翌日以降、株価は国内投資家の予想に反して大きく上昇したが、AIは株価が上昇を始める直前に先物を買い戻すべきとのシグナルを出し、トランプ相場による株価上昇局面に追随できた」と語る。
- 日経新聞『「市場が気付かぬ有望株発掘」 AI投信の運用力は[2017.04.02]』
- 昨年3月からテスト運用を続ける中で、本領を発揮したのが米大統領選の波乱相場だ。
昨年11月8日に日経平均株価は1000円近く下落したが、その前日にAIは先物の売りを推奨するシグナルを出していた。投資家の心理(センチメント)を示す指標を読み取って警告を発したのだ。その翌日には「マクロ経済指標に対して株式は売られすぎだ」とのシグナルを株価が上昇を始める直前に発し、先物の買い戻しに動いて相場上昇にうまく乗れた。 - 週刊エコノミスト『特集:AIで増えるお金と仕事 2017年6月27日号』
- 英国の欧州連合(EU)離脱や米トランプ大統領の当選などのイベントの際もAIが過去のデータを基に学習し、売りか買いか判断し、それを基に株価指数先物を売買して利益をあげる。
AIには深層学習機能が備わり、自ら学習して今の運用手法が適切かどうかを考え、必要な場合は新たな運用手法を生み出すという。
このことに対して、ロイターに次のような批判が載っていました:
- 今回の米大統領選に向けては、AIモデルが前日にフルヘッジのシグナルを出し、「米大統領選当日の日本株の急落による損失は回避できた」と岡本訓幸チーフファンドマネージャーはいう。
もっとも同ファンドでは月の約半分でフルヘッジしているといい、米大統領選でのトランプ氏勝利を予見してヘッジ比率を高めたわけではない。
加えて「事後的には解釈できることもあるが、なぜAIモデルがフルヘッジの指示を出したのか正確に把握することは難しい」(岡本氏)と述べる。
もちろん、テスト運用の時のことだったとはいえ、「トランプ・ショック」を回避したことは、すごいことなんだから、
なんか意味があるのだろう、と思わなくもないのですが(結果が全ての世界です)、
でも、さすがに、「月の半分程度はフルヘッジしていた」と言われると、なんとも、無理な感じがしてしまいます。
この状況なら、ロイターの記事で否定的だったのもよくわかります。
トランプショックを回避できたのは、「たまたま」だったと考えるのが普通な気がします。
だって、というのか、それだと、こんな感じの話と、違いが分かりません:
私は、長年、いつも、コインを投げて、明日、フルヘッジするかどうかを決めています。
これだと、頻度で言うと、だいたい月の半分程度はフルヘッジするような感じなのだけれど
米大統領選の直前の日も、フルヘッジするようにシグナルが出ていて
いつものように、フルヘッジをしたら、なんと見事に、翌日の急落を回避しちゃいました。
私のこの運用スタイルによって、「トランプ・ショック」を回避できたんです。すごいでしょ!
なぜ回避できたのかって?これは、「コイン」が決めたことだからねぇ、人間には分からない何かがあるんだろうね。
コインって「お金」でしょ?「お金」のことはやっぱり「お金」自身が一番よくわかってたりするんじゃないのかな。
私の「コイン投げ判断」を、あなたの運用にも取り入れませんか?
そしたら、普通なら、こう言うはずです。
あなたがコインを投げて、フルヘッジするかどうかを決めた。その決定に従って行動したら、ショックを回避できた。
これは事実でしょう。
その日の運用結果(リターン)は、これは確かに、申し分なかったと評価できます。
また、今回がそうであったように、確かに、あなたのアプローチであれば、ショックが起きた場合に、それを回避できる可能性はあります。
でも、それは、「たまたま」ですよ。
回避出来たこと自体には、なんの説得力もありません。
残念ながら、あなたの「コイン投げモデル」を採用するのは無理です。
だって、こんなことをする(期待リターンに余計なノイズが入る)なら、シンプルに、ポジションを半分にした方が、ずっとましですよ。
それに、結構なフィーまで取るんでしょ?無駄に毎日忙しそうだし。
まぁ、3日以内に必ず暴落が来ると分かってるなら、考えなくもないですが、それなら、そもそも投資してないしね。
実際、という言い方でいいかわかりませんが、このAIファンドのシミュレーションによれば、上昇局面での獲得リターンは、TOPIXの半分程度であったという話もあります。
「たとえば2012年から2015年にかけてのAIファンドの利回りは12.3%ですが、東証株価指数(TOPIX)も20%から30%ほど上昇しています。」(染谷氏)
※ 三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部 次長 染谷知氏
※ 三菱UFJ信託銀行株式会社 受託財産企画部 次長 染谷知氏
とにかく、この話の問題点は、「トランプ・ショック」の前に出たフルヘッジ・シグナルにだけ焦点を当てていて、
その他の日にいっぱい出ていたフルヘッジ・シグナルなんて、まるで、無かったかのように扱っているということではないでしょうか。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」なんてことはよく言われますが、
これでは、当てたと言っても、さすがに、ちょっと違和感が出てきます。
この手法というのか手口について、もう少し表現を変えると、
「予測力の評価で、予測を外した時については、何のペナルティも課していない(無かったことと同じになってる)」
という事だと思います。
これは、モデルの予測精度評価をするときの、典型的なダマシのテクニックの1つだと思います。
実は、このファンドでは、モデルの予測精度を評価するときに、このテクニックが使われているように思いました。
プラスのリターンが獲得できたことと、予測精度の良し悪しに、検証方法上、強い因果関係がないのに、
論理を飛躍させて予測精度が良かったと思わせようとしている。
論理を飛躍させて予測精度が良かったと思わせようとしている。
次回は、そのことについて、見てみたいと思います。
先日、対外的なメディアに掲載されていた図が、意図的に、都合の悪い期間を削っていたのではないか、と書きましたが(下図)
こんなことをしたのは、予測モデルの精度評価を分かりづらくするためでもあったと思っています。詳しくは、次回、触れたいと思います。