
精液検査は不妊検査の中で最も大切なもののひとつです。精液検査とはその名の通り、精液中の精子の性状を調べる検査です。精子は基本的に体外に射精されますので、女性と比べるとその検査は至って簡単で、肉体的な苦痛はまずありません。一般的な精液検査では「精液量」「精子濃度」「精子運動率」「精子奇形率」「白血球数」を調べます。これらの正常値については表を参考にしてください。
精液検査の正常値 (2010WHO)
精液量 1.5ml以上
精子濃度 1ml中に1500万個以上
精子運動率 40%以上
正常形態精子 4%以上
総精子数 3900万個以上
白血球 1ml中に100万個未満
検査の時期によりかなりの変動がありますが、精液量がほぼ0mlあるいは1ml以下の場合は、逆行性射精(膀胱内に射精してしまう)、射精管の閉塞、もしくは精液の産生障害が考えられます。逆行性射精を疑う場合は、射精後の尿検査をして、尿中に精子が認められるかどうかを検査します。
精子濃度が2000万/mlより低い場合を「乏精子症」と呼びます。中でも500万/ml以下の場合は「高度乏精子症」、射出精液内に全く精子がいない場合は「無精子症」と呼びます。
精子運動率が50%以下の場合を「無力精子症」、運動精子が全くいない場合を「精子死滅症」と呼びます。ただし精子に関して、「動いていない=死んでいる」ではありません。動いていない精子でも受精の確率は機能的に無いわけではありません。また数は少ないですが、精子尾部の構造異常を呈する症例もあります。
奇形精子が70%を超えると「奇形精子症」となります。ここでいう奇形とはあくまで精子の形態異常を指し、「奇形児の出生」を示唆するものではありません。たとえば精子の頭部が二つある場合、また円形の巨大精子頭部を有するものなどがある場合、受精率は極めて低くなります。
一応正常値は4%以上正常形態精子があれば正常となっていますが、これは便宜的なものです。
白血球が100万/ml以上の症例を「膿精液症」と呼びます。ほとんどが副性器(精嚢や前立腺)の炎症によるものですが、知らないうちに精路感染を起こしていることもあります。白血球が増えることにより、精子の運動性が低下し、無力精子症を呈することも多くあります。実際の臨床においては、この膿精液症を呈する患者が非常に多くおられます。特に性病の既往のある方は要注意です。
今回の精液検査の改定にはオーストラリアでの職場のボスで、私のよき理解者であったDr. McLachlanが絡んでいます。改定の面白い時期にご一緒させていただきました。WHOの数字の決め方など興味深いものでした。
膿精液症で避妊していなかった場合、女性にガンジタやクラミジア等の性病の症状は表れますか。
また、膿精液症とは精巣上体炎が原因で起こったりするのでしょうか。
よろしくお願い致します。
性病で症状が出現しないことも多くあります。
一度検査されるのがいいと思います。
膿精液症の場合、精巣上体炎が原因とはなりえますが、ほとんどの場合前立腺や精嚢の炎症が原因と考えられています。