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アスベストの話 ― 人命救助から死の脅威へ

2021年02月27日 | 日記


アスベストの話 ― 人命救助から死の脅威へ

最近,米国アリゾナ州で,あるハウストレーラー用駐車場の住民全員が家や財産を政府に売り,そこを立ち退く必要が生じました。
駐車場にあったものは,ハウストレーラーから家具や子供のおもちゃに至るまで,すべて一定の方法にしたがって処分されました。
つまり,押しつぶしてから,ろ過紙と砂利と表土の層の下に埋めるのです。なぜでしょうか。放射能ですか。有毒な化学物質ですか。
水が汚かったのでしょうか。そうではありません。そのハウストレーラー駐車場は古い製粉工場の跡地で,アスベスト(石綿)によって汚染されていたのです。

今世紀はアスベストにとって波乱万丈の世紀でした。アスベストは人気の絶頂から中傷の渦巻くどん底へと,あっという間に突き落とされました。
かつては産業界からもてはやされ,無数の人命を火事から救ったとしてあがめられたアスベストも,今では文字通り何十万という人々の殺人共犯者として批判の矢面に立たされています。
アスベストは,建設業界に一度ならず二度までも革命をもたらしたという疑わしい栄誉にあずかりました。最初は,それを建物の中に組み込むことが世界中で流行したときに,
そして二度目は,その素材を再び建物から除去することが大あわてで,しかも場合によっては大パニックを引き起こすようにして行なわれたときにです。

学校や事務所やマンションが閉鎖され,納税者や土地所有者や住人に途方もない損害が出ました。訴訟の大波が司法制度を覆い尽くしています。恐れが人々の生活を変えています。みんなアスベストが原因です。

それにしても,アスベストとは何でしょうか。どこから来たのでしょうか。本当にそれほど危険なのでしょうか。

波乱に富んだ過去

アスベストは一部の人の考えとは裏腹に,現代の科学技術の単なる失敗作でもなければ,研究室で考案された手に負えない発明品でもありません。むしろアスベストは,地中から採られた鉱物なのです。もっと正確に言うと,アスベストとは幾つかの鉱物の総称です。アスベストは6種類に分かれており,それぞれ全く異なっています。しかし,どれも繊維状の構造をしていて非常に耐熱性があります。

人々は何千年もアスベストを使ってきました。キリスト紀元より何世紀も前に,フィンランドの農民は陶器の中でアスベストをかきまぜ,それを使って丸太小屋の透き間を埋めていました。
古代ギリシャ人はランプの灯心を作るのにそれを使いました。古代ローマ人はアスベストの繊維で生地を織り,タオルや網,さらには女性のかぶりものまで作りました。これらの生地は簡単に洗えました。燃え盛る火の中に投げ込んでから引き出すだけで,生地は真っ白に輝いたのです。

中世には,皇帝シャルルマーニュがアスベストのテーブルクロスを火の中に投げ入れ,取り出すと署名が消えているのを見せて,自分に超自然的な力があることを異民族の訪問者に信じさせたといいます。商魂たくましい中世の商人の中には,アスベストの十字架が火をつけても燃えないのを証拠に,それは「本物の十字架」の木でできていると言って売った人さえいました。

しかし19世紀後半まで,アスベストは単なる骨とう品に過ぎませんでした。それが変わったのは,工業の時代に入ったためです。1800年代に,産業界はアスベストに耐火性以外の特性があることを知りました。腐食に強く,絶縁体にもなるのです。アスベストはすぐに,屋根ふき材料のフェルトに,天井タイルに,床タイルに,絶縁体に,コンクリートの混合物に,セメントパイプに,アスファルトに,劇場の垂れ幕に,ブレーキライニングに,さらにはフィルターにまで使われるようになりました。最終的には3,000ほどの用途が見つかりました。

程なくしてアスベストは世界中で産業の繁栄を支えるようになりました。ソ連のウラル山脈やイタリア北部のアルプス,米国のバーモント州,南アフリカなどで大量のアスベストが埋蔵されているのが発見されました。

1970年代半ばまでに,世界のアスベスト生産量は年間600万㌧近くに達しました。


恐るべき代償 へ続く>>>

 


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