漫画の思い出
花輪和一(10)
〔3〕『新今昔物語 鵺(ぬえ)』(双葉社)1982年発行。
目次『鵺』『お力所』『光る佛』『信奇山』『外術』『蟻地獄』『胎内岩』『不幸蟲』『三二九一九六九六』『亀男』『家蟹』
『鵺』
鵺とは何か。
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①トラツグミの異称。
②源頼政が紫宸殿上で射取ったという伝説上の怪獣。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎に、声はトラツグミに似ていたという。
③転じて、正体不明の人物やあいまいな態度にいう。
(『広辞苑』「ぬえ【鵼・鵺】」より抜粋)
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低山帯の林にすみ、夜「ひいい、ひよお」と寂しい声で鳴く。
(『広辞苑』「トラツグミ」)
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「ひいい、ひよお」ではなく、私には〈ピイイ〉と聴こえる。尻上がり。「寂しい声」ではなく、悲しい声だ。諦めていながら諦めきれずに救いを求めているような声。
この『鵺』には、『月ノ光』に登場した異星人に似た「ヌエ」が登場する。「ヌエ」の一家は核家族で安定しているが、実際にはそうした安定が不可能であることを作者は暗示している。
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「もしかしたら これは ヌエの国かもしれない…… …そうだ きっとそうだ そうとも その通りじゃ 争いのない国じゃ」
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家族の中の「争い」と集団対集団の「争い」の間に直接の関係はない。作者は恐れと憧れを仕分けできないまま、ぎらぎら、くねくねと表出している。
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「サ・ヨ・ナ・ラ ……ヘイアンキョウ」
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この「ヘイアンキョウ」は〈平安〉ではない。
名作ではない。作者こそが鵺的だ。ただし、そのことは、決して悪いことではない。妄想でも漫画にできたら幸せだろう。
ちなみに、私も「鵺みたいだ」と言われたことがある。
いいんじゃない、鵺で。多様性を一身で体現するんだから。
(10の終)