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漫画の思い出 花輪和一(10) 〔3〕『新今昔物語 鵺(ぬえ)』

2023-11-11 00:05:42 | 評論

   漫画の思い出

    花輪和一(10)

〔3〕『新今昔物語 鵺(ぬえ)』(双葉社)1982年発行。

目次『鵺』『お力所』『光る佛』『信奇山』『外術』『蟻地獄』『胎内岩』『不幸蟲』『三二九一九六九六』『亀男』『家蟹』

『鵺』

鵺とは何か。

①トラツグミの異称。

②源頼政が紫宸殿上で射取ったという伝説上の怪獣。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎に、声はトラツグミに似ていたという。

③転じて、正体不明の人物やあいまいな態度にいう。

(『広辞苑』「ぬえ【鵼・鵺】」より抜粋)

低山帯の林にすみ、夜「ひいい、ひよお」と寂しい声で鳴く。

(『広辞苑』「トラツグミ」)

「ひいい、ひよお」ではなく、私には〈ピイイ〉と聴こえる。尻上がり。「寂しい声」ではなく、悲しい声だ。諦めていながら諦めきれずに救いを求めているような声。

この『鵺』には、『月ノ光』に登場した異星人に似た「ヌエ」が登場する。「ヌエ」の一家は核家族で安定しているが、実際にはそうした安定が不可能であることを作者は暗示している。

「もしかしたら これは ヌエの国かもしれない……  …そうだ きっとそうだ そうとも その通りじゃ 争いのない国じゃ」

家族の中の「争い」と集団対集団の「争い」の間に直接の関係はない。作者は恐れと憧れを仕分けできないまま、ぎらぎら、くねくねと表出している。

「サ・ヨ・ナ・ラ ……ヘイアンキョウ」

この「ヘイアンキョウ」は〈平安〉ではない。

名作ではない。作者こそが鵺的だ。ただし、そのことは、決して悪いことではない。妄想でも漫画にできたら幸せだろう。

ちなみに、私も「鵺みたいだ」と言われたことがある。

いいんじゃない、鵺で。多様性を一身で体現するんだから。

(10の終)

 


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