笑うしかない友
~無言電話
またか。
またかよ。どうした。痛むのか。手か、足か、腹か。胸? 頭? まさか心などと、グリコのおまけみたいな話をするつもりではあるまいね。はははは。
笑えもしないか。何か言いなさい。嘘でもいいから、いくらでも、好きなだけ。ただし、誰にでもわかる言葉でね。へん。
また君か。旅に出なさい。君のことを誰も知らない国へ行きなさい。そこで暮らすさ。死ぬのも自由。ふん。
いつだって同じことばかり、考えてしまうのだろう。なぜ、考える。考えないと、いやなことを思い出すからだろう。だったら、いやなことが起きる未来を想像したまえ。ウイルスで人類が滅ぶとか、異常気象で飢饉になるとか、新月の夜、帰り道で私に襲われるとか。あっはっはっ。
いつから痛むんだい。うん? 言わないな。何も言わない気だ。ふざけやがって。
また君か。いい加減にしないか。
また君か。もっとカルシウムを摂るんだね。
君のこと、ちょっと調べさせてもらったよ。君の両親のこととか。彼らもまともな人間じゃなかったようだね。当然か。
叫び声が聞こえるんだろう、君だけに。大きな木の下に立って梢を探すけど、見つからないんだろう、鳥の巣が、鳴き声は聴こえるのに。
隙間風が冷たいのに、隙間が見つからないんだろう。探し回るうち、くたびれて坐りこみ、壁を背にして眠るんだろう、拗ねた猫みたいにさ。担架で運ばれていたときの自分がありありと目に浮かぶんだろう。
また君か。まだ痛むのか。キリンの今にも折れそうな細長い首を、いつ折れるかと見ているうちに、風邪でも引いたんだろう。お茶でも飲みなさい。
お茶は飲んだか。
その痛みは君のものではなく、他の誰かのものだとは考えられないかね。君に痛みを私有する権利があるのかね。少しは考えることもしなさい。
またか。その手は食わんぞ! いくら貧しくったって幸せなら、どこからもクレームは来ないはずだろう。違うか? えっ? 違うか? まだ黙ってやがる。苦しみを表現するときに苦しみたくないのなら、君に生きる資格はないぞ。簡単な話だ。
誰もが罠に陥る。誰もが赦しを乞う。誰もが指輪に合う指を探す。そのうち、指輪を失くすのさ。
祈りなさい。痛いの、痛いの、飛んでけ。
何度も言ったよ。祈りなさい。飛んでけ。
また君か。ただの噂だって。フェイクさ。君はいないんだよ。まだわからないか。
本当のことを言いなさい、誰にもわからない言葉で、私にはわからない言葉で。
まだいるのか。もういないな。いない。
(終)