ヒルネボウ

笑ってもいいかなあ? 笑うしかないとも。
本ブログは、一部の人にとって、愉快な表現が含まれています。

笑うしかない友 ~無言電話

2020-11-18 16:13:08 | 小説

   笑うしかない友

     ~無言電話

 

またか。

またかよ。どうした。痛むのか。手か、足か、腹か。胸? 頭? まさか心などと、グリコのおまけみたいな話をするつもりではあるまいね。はははは。

笑えもしないか。何か言いなさい。嘘でもいいから、いくらでも、好きなだけ。ただし、誰にでもわかる言葉でね。へん。

また君か。旅に出なさい。君のことを誰も知らない国へ行きなさい。そこで暮らすさ。死ぬのも自由。ふん。

いつだって同じことばかり、考えてしまうのだろう。なぜ、考える。考えないと、いやなことを思い出すからだろう。だったら、いやなことが起きる未来を想像したまえ。ウイルスで人類が滅ぶとか、異常気象で飢饉になるとか、新月の夜、帰り道で私に襲われるとか。あっはっはっ。

いつから痛むんだい。うん? 言わないな。何も言わない気だ。ふざけやがって。

また君か。いい加減にしないか。

また君か。もっとカルシウムを摂るんだね。

君のこと、ちょっと調べさせてもらったよ。君の両親のこととか。彼らもまともな人間じゃなかったようだね。当然か。

叫び声が聞こえるんだろう、君だけに。大きな木の下に立って梢を探すけど、見つからないんだろう、鳥の巣が、鳴き声は聴こえるのに。

隙間風が冷たいのに、隙間が見つからないんだろう。探し回るうち、くたびれて坐りこみ、壁を背にして眠るんだろう、拗ねた猫みたいにさ。担架で運ばれていたときの自分がありありと目に浮かぶんだろう。

また君か。まだ痛むのか。キリンの今にも折れそうな細長い首を、いつ折れるかと見ているうちに、風邪でも引いたんだろう。お茶でも飲みなさい。

お茶は飲んだか。

その痛みは君のものではなく、他の誰かのものだとは考えられないかね。君に痛みを私有する権利があるのかね。少しは考えることもしなさい。

またか。その手は食わんぞ! いくら貧しくったって幸せなら、どこからもクレームは来ないはずだろう。違うか? えっ? 違うか? まだ黙ってやがる。苦しみを表現するときに苦しみたくないのなら、君に生きる資格はないぞ。簡単な話だ。

誰もが罠に陥る。誰もが赦しを乞う。誰もが指輪に合う指を探す。そのうち、指輪を失くすのさ。

祈りなさい。痛いの、痛いの、飛んでけ。

何度も言ったよ。祈りなさい。飛んでけ。

また君か。ただの噂だって。フェイクさ。君はいないんだよ。まだわからないか。

本当のことを言いなさい、誰にもわからない言葉で、私にはわからない言葉で。

まだいるのか。もういないな。いない。

(終)


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