4月30日ー5月1日の日程で開催中の日銀金融政策決定会合をめぐっては、市場の利上げ予想がゼロ%となっており、関心は次の利上げ時期に関して植田和男総裁が5月1日の会見で、どのようなヒントを出すのかに集中している。トランプ関税の日本経済に対する下押し圧力への懸念を強めに見ている東京市場の関係者の中には、2025年中の利上げも難しいと予想している向きも少なくなく、植田総裁が「しばらくは様子見」というスタンスを明確化すれば、過去最大に膨れ上がっている円買いポジションが巻き戻され、急速にドル高・円安方向にシフトする可能性がある。
急速な円安方向への巻き戻しは、足元で高まりつつある物価上昇圧力を一段と強め、景気が不透明な中での利上げという事態に直面するリスクを高めることになるだろう。したがって大幅な円安反転を生じかねない政策スタンスの明示は回避し、トランプ関税による不透明感の弱まりなどを確認しつつ、適切な時期に利上げを判断していくという方針を明確にするのではないかと予想する。植田総裁の会見内容とドル/円の動向が大きなポイントになりそうだ。
<5月利上げ予想はゼロ%、円買いポジションは過去最高>
今回の金融政策決定会合を前に、内外メディアのほとんどが「政策維持の方向」という事前報道で足並みをそろえている。その結果もあって、市場における利上げ見通しは、5月がゼロ%、6月が16%、7月が36%、9月が52%、10月が64%、12月が72%となっている。言い換えれば、28%の参加者は年内の利上げなしと見込んでいることになる。
一方、シカゴ・マーカンタイル取引所(CМE)の「IММ通貨先物」のポジションは、円買いポジションがネットで17万7814枚と過去最高の水準に積み上がっており、この大規模な円買いポジションにも市場の関心が集まっている。
<利上げは当面なしの情報発信、円安反転のきっかけになる可能性>
5月1日の会見で、植田総裁がこれまでの見解を踏襲してトランプ関税による日本経済へのインパクトに関し「不透明感が強い」と発言した場合、関連で「次の利上げ時期はかなり先になるのか」、と質問される可能性がある。
仮に、その質問に対して植田総裁がトランプ関税の不透明感が晴れるには、90日間の相互関税の上乗せ部分の停止後の状況などもみて判断することになる、と答えれば、少なくとも7月までは政策が維持されると、多くの市場関係者は受け止めることになると予想する。
このケースでは、円買いの先物ポジションを積み上げてきた投機筋が反応し、会見中に円売りを仕掛けてくる可能性が高いのではないか。ドル/円は足元において144円が天井となる相場を形成してきたが、144円台はあっさりと突破され145円台からさらにドル買いが勢いづくという展開もありえる。
<円安への急展開、日米関税交渉で米側の不満募る可能性>
日銀の政策決定と植田総裁の会見を経て、ドル高・円安基調が明確になったとしたら、2つのポイントで懸念材料が発生する。
1つは5月1日にワシントンで再開される赤沢亮正・経済再生相とベッセント米財務長官らによる2回目の閣僚級による日米関税交渉において、米側が円安の進行に対して不満を募らせ、交渉の「原則合意」に向けたハードルを上げ、日本が熱望する自動車関税や相互関税の引き下げに強い難色を示す可能性がある、ということだ。
自動車、鉄鋼・アルミ関税が25%で維持され、相互関税が24%で固定された場合、日本経済の受ける打撃は相対的に大きくなり、日銀の思い描いてきた企業の好業績を背景とした賃上げー消費拡大ー企業業績の拡大ー設備投資拡大というプラスの循環が回復不能なほどに破壊されるという事態に直面しかねない。
<円安進展なら輸入物価押し上げへ、物価上昇率が一段加速も>
2つ目は、円安が進展することによって輸入物価が大幅に上がり出し、4月東京都区部の消費者物価指数(CPI)の上昇率加速にみられるインフレ圧力の高まりを一段と促し、従来の想定よりも大幅かつ迅速な利上げを迫られる可能性が高まるという展開だ。
すでに各種の世論調査によれば、夏の参院選を前に政府に対して求める政策のトップには「物価高対策」が常に上げられ、国民各層の物価上昇に対する不満は強まる傾向を示している。
物価上昇率を高めかねない大幅な円安反転は、日銀にとっても「好ましいシナリオ」ではない、と筆者は考える。
<トランプ関税の景気下押しと利上げスタンス、植田総裁の発言はどうなるのか>
上記の点を勘案すると、トランプ関税の日本経済に対するマイナス効果への目配りに言及しつつ、そのマイナス効果が大幅でないなら、経済・物価の目標に向けた動きが着実に進展していることを確認しつつ、政策金利の実質マイナスという水準を適切な時期に修正していくという「利上げスタンス」の維持も表明するだろうと予想する。
大きな焦点は、トランプ関税のマイナス効果と利上げスタンスという2つの問題をどのように折り合わせていくのか、ということだ。その意味で植田総裁の発言内容やトーンがこれまで以上に注視され、市場動向に大きな影響を与えるだろう。
特に会見中のドル/円の動向は、その後の様々な分野の行方に大きなインパクトを与えそうで、これまで以上に植田総裁の発言の真意を読み取る能力が市場参加者にも求められる局面となった。
急速な円安方向への巻き戻しは、足元で高まりつつある物価上昇圧力を一段と強め、景気が不透明な中での利上げという事態に直面するリスクを高めることになるだろう。したがって大幅な円安反転を生じかねない政策スタンスの明示は回避し、トランプ関税による不透明感の弱まりなどを確認しつつ、適切な時期に利上げを判断していくという方針を明確にするのではないかと予想する。植田総裁の会見内容とドル/円の動向が大きなポイントになりそうだ。
<5月利上げ予想はゼロ%、円買いポジションは過去最高>
今回の金融政策決定会合を前に、内外メディアのほとんどが「政策維持の方向」という事前報道で足並みをそろえている。その結果もあって、市場における利上げ見通しは、5月がゼロ%、6月が16%、7月が36%、9月が52%、10月が64%、12月が72%となっている。言い換えれば、28%の参加者は年内の利上げなしと見込んでいることになる。
一方、シカゴ・マーカンタイル取引所(CМE)の「IММ通貨先物」のポジションは、円買いポジションがネットで17万7814枚と過去最高の水準に積み上がっており、この大規模な円買いポジションにも市場の関心が集まっている。
<利上げは当面なしの情報発信、円安反転のきっかけになる可能性>
5月1日の会見で、植田総裁がこれまでの見解を踏襲してトランプ関税による日本経済へのインパクトに関し「不透明感が強い」と発言した場合、関連で「次の利上げ時期はかなり先になるのか」、と質問される可能性がある。
仮に、その質問に対して植田総裁がトランプ関税の不透明感が晴れるには、90日間の相互関税の上乗せ部分の停止後の状況などもみて判断することになる、と答えれば、少なくとも7月までは政策が維持されると、多くの市場関係者は受け止めることになると予想する。
このケースでは、円買いの先物ポジションを積み上げてきた投機筋が反応し、会見中に円売りを仕掛けてくる可能性が高いのではないか。ドル/円は足元において144円が天井となる相場を形成してきたが、144円台はあっさりと突破され145円台からさらにドル買いが勢いづくという展開もありえる。
<円安への急展開、日米関税交渉で米側の不満募る可能性>
日銀の政策決定と植田総裁の会見を経て、ドル高・円安基調が明確になったとしたら、2つのポイントで懸念材料が発生する。
1つは5月1日にワシントンで再開される赤沢亮正・経済再生相とベッセント米財務長官らによる2回目の閣僚級による日米関税交渉において、米側が円安の進行に対して不満を募らせ、交渉の「原則合意」に向けたハードルを上げ、日本が熱望する自動車関税や相互関税の引き下げに強い難色を示す可能性がある、ということだ。
自動車、鉄鋼・アルミ関税が25%で維持され、相互関税が24%で固定された場合、日本経済の受ける打撃は相対的に大きくなり、日銀の思い描いてきた企業の好業績を背景とした賃上げー消費拡大ー企業業績の拡大ー設備投資拡大というプラスの循環が回復不能なほどに破壊されるという事態に直面しかねない。
<円安進展なら輸入物価押し上げへ、物価上昇率が一段加速も>
2つ目は、円安が進展することによって輸入物価が大幅に上がり出し、4月東京都区部の消費者物価指数(CPI)の上昇率加速にみられるインフレ圧力の高まりを一段と促し、従来の想定よりも大幅かつ迅速な利上げを迫られる可能性が高まるという展開だ。
すでに各種の世論調査によれば、夏の参院選を前に政府に対して求める政策のトップには「物価高対策」が常に上げられ、国民各層の物価上昇に対する不満は強まる傾向を示している。
物価上昇率を高めかねない大幅な円安反転は、日銀にとっても「好ましいシナリオ」ではない、と筆者は考える。
<トランプ関税の景気下押しと利上げスタンス、植田総裁の発言はどうなるのか>
上記の点を勘案すると、トランプ関税の日本経済に対するマイナス効果への目配りに言及しつつ、そのマイナス効果が大幅でないなら、経済・物価の目標に向けた動きが着実に進展していることを確認しつつ、政策金利の実質マイナスという水準を適切な時期に修正していくという「利上げスタンス」の維持も表明するだろうと予想する。
大きな焦点は、トランプ関税のマイナス効果と利上げスタンスという2つの問題をどのように折り合わせていくのか、ということだ。その意味で植田総裁の発言内容やトーンがこれまで以上に注視され、市場動向に大きな影響を与えるだろう。
特に会見中のドル/円の動向は、その後の様々な分野の行方に大きなインパクトを与えそうで、これまで以上に植田総裁の発言の真意を読み取る能力が市場参加者にも求められる局面となった。