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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

次の利上げ時期で注目される植田総裁会見、発言次第で円安進展など市場波乱のリスク

2025-04-30 14:35:56 | 経済
 4月30日ー5月1日の日程で開催中の日銀金融政策決定会合をめぐっては、市場の利上げ予想がゼロ%となっており、関心は次の利上げ時期に関して植田和男総裁が5月1日の会見で、どのようなヒントを出すのかに集中している。トランプ関税の日本経済に対する下押し圧力への懸念を強めに見ている東京市場の関係者の中には、2025年中の利上げも難しいと予想している向きも少なくなく、植田総裁が「しばらくは様子見」というスタンスを明確化すれば、過去最大に膨れ上がっている円買いポジションが巻き戻され、急速にドル高・円安方向にシフトする可能性がある。
 急速な円安方向への巻き戻しは、足元で高まりつつある物価上昇圧力を一段と強め、景気が不透明な中での利上げという事態に直面するリスクを高めることになるだろう。したがって大幅な円安反転を生じかねない政策スタンスの明示は回避し、トランプ関税による不透明感の弱まりなどを確認しつつ、適切な時期に利上げを判断していくという方針を明確にするのではないかと予想する。植田総裁の会見内容とドル/円の動向が大きなポイントになりそうだ。

 <5月利上げ予想はゼロ%、円買いポジションは過去最高>
 
 今回の金融政策決定会合を前に、内外メディアのほとんどが「政策維持の方向」という事前報道で足並みをそろえている。その結果もあって、市場における利上げ見通しは、5月がゼロ%、6月が16%、7月が36%、9月が52%、10月が64%、12月が72%となっている。言い換えれば、28%の参加者は年内の利上げなしと見込んでいることになる。
 一方、シカゴ・マーカンタイル取引所(CМE)の「IММ通貨先物」のポジションは、円買いポジションがネットで17万7814枚と過去最高の水準に積み上がっており、この大規模な円買いポジションにも市場の関心が集まっている。

 <利上げは当面なしの情報発信、円安反転のきっかけになる可能性>

 5月1日の会見で、植田総裁がこれまでの見解を踏襲してトランプ関税による日本経済へのインパクトに関し「不透明感が強い」と発言した場合、関連で「次の利上げ時期はかなり先になるのか」、と質問される可能性がある。
 仮に、その質問に対して植田総裁がトランプ関税の不透明感が晴れるには、90日間の相互関税の上乗せ部分の停止後の状況などもみて判断することになる、と答えれば、少なくとも7月までは政策が維持されると、多くの市場関係者は受け止めることになると予想する。
 このケースでは、円買いの先物ポジションを積み上げてきた投機筋が反応し、会見中に円売りを仕掛けてくる可能性が高いのではないか。ドル/円は足元において144円が天井となる相場を形成してきたが、144円台はあっさりと突破され145円台からさらにドル買いが勢いづくという展開もありえる。

 <円安への急展開、日米関税交渉で米側の不満募る可能性>

 日銀の政策決定と植田総裁の会見を経て、ドル高・円安基調が明確になったとしたら、2つのポイントで懸念材料が発生する。
 1つは5月1日にワシントンで再開される赤沢亮正・経済再生相とベッセント米財務長官らによる2回目の閣僚級による日米関税交渉において、米側が円安の進行に対して不満を募らせ、交渉の「原則合意」に向けたハードルを上げ、日本が熱望する自動車関税や相互関税の引き下げに強い難色を示す可能性がある、ということだ。
 自動車、鉄鋼・アルミ関税が25%で維持され、相互関税が24%で固定された場合、日本経済の受ける打撃は相対的に大きくなり、日銀の思い描いてきた企業の好業績を背景とした賃上げー消費拡大ー企業業績の拡大ー設備投資拡大というプラスの循環が回復不能なほどに破壊されるという事態に直面しかねない。

 <円安進展なら輸入物価押し上げへ、物価上昇率が一段加速も>

 2つ目は、円安が進展することによって輸入物価が大幅に上がり出し、4月東京都区部の消費者物価指数(CPI)の上昇率加速にみられるインフレ圧力の高まりを一段と促し、従来の想定よりも大幅かつ迅速な利上げを迫られる可能性が高まるという展開だ。
 すでに各種の世論調査によれば、夏の参院選を前に政府に対して求める政策のトップには「物価高対策」が常に上げられ、国民各層の物価上昇に対する不満は強まる傾向を示している。
 物価上昇率を高めかねない大幅な円安反転は、日銀にとっても「好ましいシナリオ」ではない、と筆者は考える。

 <トランプ関税の景気下押しと利上げスタンス、植田総裁の発言はどうなるのか>

 上記の点を勘案すると、トランプ関税の日本経済に対するマイナス効果への目配りに言及しつつ、そのマイナス効果が大幅でないなら、経済・物価の目標に向けた動きが着実に進展していることを確認しつつ、政策金利の実質マイナスという水準を適切な時期に修正していくという「利上げスタンス」の維持も表明するだろうと予想する。
 
 大きな焦点は、トランプ関税のマイナス効果と利上げスタンスという2つの問題をどのように折り合わせていくのか、ということだ。その意味で植田総裁の発言内容やトーンがこれまで以上に注視され、市場動向に大きな影響を与えるだろう。
 特に会見中のドル/円の動向は、その後の様々な分野の行方に大きなインパクトを与えそうで、これまで以上に植田総裁の発言の真意を読み取る能力が市場参加者にも求められる局面となった。
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100日目のトランプ大統領、「得点」なく支持率低下 関税率引き下げへ日本には好機

2025-04-28 15:59:06 | 経済
 4月29日で政権発足から100日を迎えるトランプ米大統領は、不法移民対策や関税政策、ウクライナ戦争の停戦などの紛争解決で目立った「得点」がなく、支持率も低下傾向となっている。このまま主要政策で停滞感が強まればトランプ大統領のリーダーシップが弱まり、7月初旬がメドとされるトランプ減税の恒久化と深掘り、債務上限引き上げをパッケージとした法案の米議会通過が危ぶまれ、市場での米国売りが再燃する危険性が高まる。
 だが、日本から見れば、日米関税交渉を早期に妥結させる米国側のインセンティブが高まり、念願の自動車関税や相互関税の引き下げを実現させる可能性が高まるということにもなる。筆者は、日米交渉の早期妥結に向けて石破茂首相が大きな政治決断を下せば、税率引き下げを勝ち取ることが可能と予想する。

 <政権発足から100日、支持率39%は過去最低>

 ホワイトハウスは25日、トランプ大統領が29日夜(日本時間30日午前)にミシガン州で演説すると発表した。政権発足から100日目を迎えるにあたり、矢継ぎばやに打ち出した目玉政策が米国を復活させる大きな役割を果たすと強調する内容になると思われる。
 だが、現実はトランプ氏の鳴らす進軍ラッパとは、大きなかい離を見せている。ワシントン・ポストが27日に公表したABCニュースとの合同調査によると、トランプ大統領の支持率は39%と2月調査から6ポイント低下した。不支持率は支持率を16ポイント上回る55%に達した。
 100日目の支持率としては、バイデン前大統領が52%、トランプ氏の1期目が42%だったが、今回は歴代大統領の中で最低となった。
 目玉政策の関税政策で、支持が34%だったのに対して不支持は64%となった。移民政策は46%対53%で不支持が支持を上回った。

 <目玉政策で成果なし、インフレ期待も上昇>
 
 トランプ氏は昨年11月の米大統領選で、米経済の復活と移民問題の解決を主要な争点に挙げて圧勝したが、100日目を迎えようとしている中で、公約と現実との大きなギャップに有権者が失望している構図が浮き上がってきた。
 日本経済新聞の記事によると、シラキュース大学のデータ分析サイト「TRAC」のデータでは、移民・税関捜査局(ICE)が1月26日─3月8日に強制送還した不法移民は約2万8000人で、1日当たりの平均送還数が661人とバイデン前政権下の24年の1日あたり742人を下回ったという。
 米経済復活の決め手のはずだったトランプ関税は、グローバルな金融・資本市場にショックを与えて米ドル建て資産のトリプル安を生み出し、相互関税の上乗せ部分の90日間停止に追い込まれた。
 その一方で、多くの日用品やコーヒー豆に代表される輸入食料品はすでに値上がりが始まり、ミシガン大の調査による1年先のインフレ期待は6.5%に上昇するなど消費者のマインドが急速に冷え込む事態となっている。
 さらに就任初日で停戦となると豪語してきたウクライナ戦争は、ロシア側の足元を見る強気の姿勢で交渉の枠組みもできない有り様となり、ガザでの軍事衝突も収束できずに時間が経過。外交的な成果を全く示せずに来ている。

 <パウエル氏の解任発言、トリプル安誘発>
 
 さらに問題なのが、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長を解任すると発言し、トリプル安の再現を招き、前言を撤回する混乱ぶりをさらけ出し、マーケットにトランプ大統領への深い懸念が生まれたことだ。
 トランプ米大統領は27日にSNSに「関税が導入されると、多くの人の所得税が大幅に減税され、場合によっては完全に廃止される可能性がある」と投稿。できもしなことを思いついたままに発信するという一部の市場参加者の見方を一段と拡散させるような行動に出た。

 <ベッセント財務長官が狙う減税と債務上限引き上げのパッケージ法案、メドは7月上旬>

 この事態を最も懸念しているのは、トリプル安現象をみて政策の軌道修正をトランプ氏に進言したとされるベッセント米財務長官だろうと指摘したい。
 米債務上限の引き上げがない現状では、米国の元利払いが今年7月から10月の間に止まるとみられている。ベッセント財務長官は、こうした事態を回避し、トランプ氏の公約の「心臓部」であるトランプ減税の恒久化と深掘り(トランプ減税2.0の実施)を実現するため、債務上限の引き上げと減税実施のための法案をパッケージにし、7月上旬までに米上下両院での賛成を得て成立させる必要性を訴えている。

 <パッケージ法案が暗礁に乗り上げなら、トランプ政権は危機に>

 しかし、トランプ大統領の発言がクルクルと変わり、主要な政策で成果が出ないことが明らかになってくると、米共和党内でもトランプ氏への反発が強まり、パッケージ法案の成立が危ぶまれる事態に直面するリスクが高まる。
 もし、トランプ大統領への支持が低下し続け、議会でパッケージ法案の賛成が得られなければ、米国債のデフォルトという事態も市場関係者の頭をよぎり、トリプル安懸念が浮上する展開も十分に予想される。
 ちょうど、7月上旬は相互関税の上乗せ部分の90日間停止の期限が来る時期と重なり、その時に多くの国と関税交渉が妥結できていなければ、トランプ政権の市場からの信認が動揺していることもありえる。まさに7月上旬は、トランプ政権にとって「正念場」になっていると予想する。

 <日米交渉の引き延ばしは愚策、関税率引き下げへ最大のチャンス>
 
 こうした状況下で日本政府や与党関係者の一部には、日米関税交渉を引き延ばすことが可能ではないか、との思惑があるようだ。だが、筆者はトランプ大統領が苦境に立たされている時こそ、日本にとって大きな経済的障害となっている自動車関税の引き下げを米側に認めさせる絶好のチャンスであると考える。
 日米間で「原則合意」に達し、関税協定や貿易協定に関する大枠が決まれば、政策的に「四面楚歌」とも言えるトランプ大統領にとって最も手にしたかった「成果」となる。言い換えれば、自動車や鉄鋼・アルミ、相互関税の引き下げをトランプ大統領が認める「誘因」が、そこにあるということだ。
 夏の参院選を前に、農業分野での譲歩は「自殺行為」という声もあるようだが、すそ野の広い自動車産業への打撃が大きくなり、大量の失業者が全国規模で発生する最悪の事態の方が、石破政権に与える打撃ははるかに大きくなる。
 5月1日に開催予定とされる赤沢亮正・経済再生相とベッセント財務長官らとの2回目の協議では、早期の原則合意に米側が積極的なら、自動車関税などの税率引き下げにも明るい光が差し込むと予想する。
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強い4月都区部CPI、高まるサービス上昇の足音 注目される植田日銀総裁の判断

2025-04-25 11:55:40 | 経済
 総務省が25日に発表した4月の東京都区部消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品を除く総合(コアCPI)が前年比プラス3.4%と市場予想の同3.2%を上回る強い結果となった。3%台の上昇は2023年7月以来21カ月ぶり。筆者が注目するのはサービスが前年比プラス2.0%と前月の同0.8%から上昇幅が加速した点だ。日銀が注目してきた賃金上昇から価格への転嫁がここにきて鮮明になってきた「証拠」の1つと言えるだろう。
 植田和男・日銀総裁は24日のワシントンでの会見で、「予断を持たずに適切に丁寧にデータを見ていきたい」、「それに応じて適切に政策を判断していく」と述べていたが、日銀が4月30日と5月1日の金融政策決定会合でどのような政策判断を示し、その後の会見で植田総裁が物価上昇の足音に高まりに対してどのような見解を表明するのか、市場の注目度が一段と高まりそうだ。

 <高校授業料の無償化という特殊要因から解き放たれた4月東京都区部CPI>

 4月東京都区部CPIは、コアCPIだけでなく、総合が前年比プラス3.5%と前月の同2.9%から跳ね上がり、生鮮食品とエネルギーを除く総合(コアコアCPI)も同3.1%と前月の同2.2%から急上昇した。
 一部のエコノミストは東京都が昨年4月から実施してきた高校授業料の無償化による価格抑制効果が1年経過してなくなり、その分が上昇幅を大きくさせており、物価上昇テンポの加速を過大評価するのは正しくないとの見解を示している。
 だが、筆者の眼から見ると、今年3月までの東京都区部CPIが「特殊要因」で物価上昇の力を実態よりも低く見せていたのであり、4月以降はより実態に近い物価上昇の姿が示されていると指摘したい。

 <サービス価格は2%上昇、家賃の伸び加速>

 例えば、物価上昇の力はコアCPIの示すデータよりも弱いと主張してきた一部のエコノミストや市場参加者が注視してきた「食料(酒類を除く)とエネルギーを除く総合」は、3月の前年比プラス1.1%から4月に同2.0%へと伸び率が2倍近くにジャンプアップした。
 筆者は、サービス価格の上昇幅が大きくなっていることに注目する。2025年3月まではそれまでの賃上げ幅が大きくなった割合に比して、サービス価格の上昇幅が小幅だったが、4月はサービス価格の改定が多く実施される月とされており、その動向に注目していた。
 結果は、3月の前年比プラス0.8%から同2.0%という大きな伸びだった。中でも目立ったのは、モノの価格上昇と比べて値上げの足取りが鈍かった家賃の動向だ。4月は前月の同1.1%から1.8%に加速。そのうち非木造の家賃は3月の1.3%から2.2%と価格上昇のパワーが高まった。

 <外食の値上げ、コメ高騰プラス人件費上昇が影響>
 
 サービスの中では外食の価格上昇が最も大きく、3月の5.3%から5.7%に伸びが高まった。コメ類が93.8%と過去最大の上昇になったことが大きく影響したが、深刻な人手不足が解消されない中でのバイト代など人件費の上昇も外食価格の引き上げにつながったとみられる。
 つまり賃金上昇の大きな流れがサービス価格に波及してきた、という現象がようやく統計上でもはっきり確認できる状況になったということだろう。

 <G7で最も高いCPI伸び率となった日本>

 4月東京都区部CPIの強い結果は、4月全国CPIを予想する上で大きな参考データになるだろう。生鮮食品を除く食料が3月の5.6%から6.4%に加速していることやサービス価格の上昇テンポが高まっていることなどは、同じ傾向が示されると予想する。
 日本は、3月の段階で主要7カ国(G7)中で最も高いCPI伸び率となっている。基調的な物価上昇率が2%に達していないというのが日銀の従来からの公式見解だが、足元における物価上昇が賃金上昇の波及によるサービス価格上昇というルートの影響と結びついているのは明らかだ。

 <トランプ関税の下押し効果、物価上昇の判断で注目される植田総裁の会見>

 トランプ関税による景気後退と物価下押しの圧力増大というリスクが、どこまで現実化するのか。今後の日米交渉で関税率が引き下げられれば、それに応じて物価下押し圧力も弱まるだろう。こうした不透明な要因も含め、日銀が次の決定会合でどのような政策判断を下すのか、5月1日の会見における植田総裁の発言次第で、株価・ドル/円・金利の値幅が大きく変動することも想定するべきだ。
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日経平均3万6000円と1ドル145円が「トランプシーリング」、閉塞打破に経済対策が不可避

2025-04-24 15:25:23 | 経済
 24日の東京市場で日経平均株価は前日比0.49%高となったものの上値の重さが意識された。トランプ米大統領による関税(トランプ関税)の実施で、今後の日米交渉によって関税率が引き下げられても10%の税率は維持されるとみられ、その負担によって日本株の上値が抑制される状況が続く。筆者は相互関税の内容が公表された4月2日(日本時間4月3日未明)の直前の日経平均株価終値の3万5725円87銭を上抜けるのは当面難しく、3万6000円が「トランプシーリング」になると予想する。
 ドル/円もトランプ大統領のドル安志向で145円を上抜けする可能性が低下し、145円が天井として意識される展開が続くのではないか。この閉塞状況を打破する数少ない材料は、日本政府による大胆な経済対策になると予測する。ただ、先進各国の中で最も財政状況が悪化している日本にとって、財源をどのように確保するのかという難問が存在する。日米関税交渉の決着と経済対策をめぐり、石破茂首相は政権発足から最大の政治的決断を迫られることになる。

 <トランプ、ベッセントコンビの発言で株高>

 この日の日経平均株価は、前日比170円52銭(0.49%)高の3万5039円15銭で取引を終えた。日経平均株価が3万5000円台を回復するのは、トランプ大統領が相互関税を公表した直前の4月2日の取引以来、約3週間ぶり。
 株価が戻ったのは、米側で発信された二人のキーマンの発言があったからだ。1つは23日に記者団に対して述べたトランプ大統領の対中政策に関する発言だ。今後2-3週間の間に145%に達している対中追加関税の水準を引き下げる可能性があるとの見解を示した。米中間の緊張緩和と市場は反応し、23日の米株が上昇。24日の東京市場でも日本株買いにつながった。
 2つ目は、ベッセント米財務長官が23日、対日交渉で特定の通貨目標はないと述べたことでドル高・円安方向にドル/円がシフトしたことだ。24日の東京市場でも日本株買いの材料として注目された。


 <トランプ関税、米減税財源などに充てるため10%が最低ラインに>

 だが、日経平均株価の買い戻しとドル高・円安の進行には、一定の歯止めがかかると筆者は予想する。そこには、トランプ大統領による関税賦課と、根強いドル安志向が存在するからだ。したがってこの制約を「トランプシーリング」と呼びたいと思う。
 まず、日経平均株価の上昇を阻むトランプシーリングについて説明したい。シーリングは3万6000円付近に存在すると考える。
 トランプ大統領は直近におけるドル建て資産のトリプル安を受けて、相互関税の上乗せ部分の90日間停止を決めたが、全世界共通に実施する10%の関税は撤回していない。今後の日米交渉で、上乗せ部分を含めた24%の相互関税や自動車、鉄鋼・アルミにかかる個別分野の25%の関税率が引き下げられても、10%より下の水準には引き下げないと予想する。
 なぜなら、約3.3兆ドルの輸入額にかかる10%の関税で年間3000億ドルの新財源が確保でき、トランプ減税の継続などに充てる計画と見られているためだ。

 <対米輸出29兆円にかかる10%の関税、日本企業の収益の足かせに>

 一方、日本から見ると、29兆2947億円の対米輸出額(2024年分)に10%の関税がかかったままとなり、日本企業の売上高や利益水準の大きな下押し要因となる。
 4月2日の相互関税発表前の市場の織り込みは「10%程度だろう」という水準だったので、その直前の日経平均株価の3万5000円台というのは、今後の日米交渉で関税率が10%まで下がった場合の株価の水準として大いに参考になると考える。
 つまり、日本株にとって10%のトランプ関税賦課は相応の「足かせ」になり、今年初めの4万円台の株価とのギャップはそのマイナス分に匹敵すると市場が見ていることになると考える。
 したがって日経平均株価の3万6000円という水準は、トランプシーリングとして日本株の上昇を阻む天井として機能すると予測する。

 <消えないトランプ大統領のドル安志向>

 ドル高・円安方向の進展にも、トランプ大統領の手が伸びて制約がかかるとみている。
 トランプ大統領は23日、記者団に対してドルの価値が現在の水準なのは「日本がいつも円安を求め、中国も通貨を低く維持しようとしてきたからだ」と発言。さらに第1次政権時代に当時の安倍晋三首相に対して「円をそんなに安くしないでくれ。米国製のトラクターが売れなくなるし、観光客もアメリカに来にくくなる」と述べていたことにも言及した。
 ベッセント財務長官が「強いドル」が米国の政策であると強調しても、トランプ大統領の強い「ドル安志向」が存在する限り、日本に対する円高誘導の要請は、表面上の表現の仕方はともかく、継続すると予想する。
 仮に米国が10%の関税を日本にかけ続け、ドル/円が円安方向に10%シフトすれば、日本企業の経営上の打撃は回避できて輸出が維持できる計算になることを考えれば、対日貿易赤字の削減を目指すトランプ大統領にとって円高誘導は避けて通れない「政策ツール」と映っているのではないか。
 筆者は、1ドル=145円がドル/円のトランプシーリングになると予想する。

 <経済対策と財源問題、石破首相は最大の試練に直面へ>
 
 石破首相は、こうした前提に立ってトランプ関税による国内経済の痛みを緩和するための経済対策を検討することになるだろう。財政資金の投入規模を示す経済対策の「真水」は、かなりの規模に膨れ上がることになるだろう。
 だが、債務残高の対国内総生産(GDP)比率が257.2%と主要7カ国(G7)の中で突出して高く、財政出動の余力が乏しくなっている日本にとって、国内経済の痛みの緩和と財政悪化のバランスを取ることが非常に難しくなっている。
 特に今年7月とみられる参院選で敗北し、自民党と公明党の与党が参院での過半数を失う事態になった場合は、石破首相の退陣という展開も予想される。
 こうした厳しい政治情勢の中で、トランプ関税による日本経済への打撃を「国難」と呼んだ石破首相が、どのような政治決断を下すのか。政権発足以来、最大の難所に差し掛かろうとしている。
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高まるベッセント財務長官の発言力、交渉次第で日本の関税率引き下げに現実味

2025-04-23 15:15:16 | 経済
 トランプ米大統領が22日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長を解任する意図はないと述べ、ベッセント米財務長官も同じ日に米中間における貿易協議の合意は可能と語ったと報道され、マーケットでの「米国売り」は巻き戻しの動きに転じた。トランプ氏とベッセント氏による連係プレーで、マーケットの大混乱につながる「火事」を小規模な段階で鎮火させたということだろう。
 トランプ政権内でベッセント財務長官の発言力が増したことは間違いなく、日米財務相会談や今後の日米関税交渉でベッセント氏がどのような対日要求をしてくるのかが大きなポイントになる。同時にベッセント氏の理解を得られれば、日本に対する相互関税や自動車関税などの大幅な税率引き下げも実現可能になったともいえ、内外の市場関係者の注目は、トップバッターである日本の税率引き下げの行方に集まりそうだ。

 <トランプ大統領がFRB議長辞任めぐり方針転換>

 22日の当欄で指摘したように、トランプ大統領によるパウエル議長の解任が決まれば、世界の金融・資本市場はドル建て資産のトリプル安が止まらなくなり、米利下げが逆効果になるとの見方が広がることによって、金融危機に発展するリスクも高まりつつあった。
 筆者は、ベッセント財務長官がその「リスクの高さ」をトランプ大統領に直言し、2度目の方針転換につながったと分析する。
 トランプ大統領は22日、大統領執務室で記者団に対し、パウエル議長について「私には彼を解任する意図は全くない。利下げ検討の面で彼にはもう少し活発になってほしい」と述べるとともに、解任しようとしたことは「決してない」とした。

 <ベッセント氏が米中の緊張緩和可能と発言>

 また、ブルームバーグによると、ベッセント財務長官は同じ日に行われた非公開の投資家との会合で、互いに100%を超える報復関税をかけ合う現状は「本質的には禁輸措置だ」と指摘。米中双方にとって持続可能ではないとの見解を示した。
 さらに対中交渉はまだ、始まっていないものの合意は可能との見解を示し、米中間の緊張緩和は可能という見通しを示した。ただ、包括的な合意までには2-3年はかかるとも述べたという。

 <市場混乱阻止へ鎮火剤投下、ベッセント氏の狙い通りに>

 筆者は、同じ日に発信されたトランプ氏とベッセント氏の発言は、トリプル安に代表される米国売りとリスクオフ心理の高まりを沈静化させるためにあえて公表された「消火剤」だったと考える。実際、米株と米国債価格、ドルは上昇に転じ、ベッセント氏の狙い通りに市場心理の崩落を阻止できたと言える。
 このことによって、トランプ政権内でのベッセント財務長官の存在感と発言力は一段と高まったのではないか。一度ならず二度も市場の大混乱の危険性を察知し、初期段階で「鎮圧」したからだ。

 <高い関税率は交渉材料、引き下げの余地高まる>

 上記で指摘した点から、2つの事が予見できるのではないか。
 1つは、ナバロ米大統領上級顧問が志向している対中の高関税を長期間維持して、対中封じ込めを実現させるという「プランA」よりも、高関税を引き下げることで中国から譲歩を引き出し、新しい米国有利な貿易協定を締結するという「プランB」の道を米国が歩み出した可能性があるということだ。
 22日のベッセント財務長官の投資家との会合での発言は、このプランBへの道筋をわかりやすく表現したと言えるのではないか。このことは中国以外の貿易相手国との相互関税の上乗せ部分の引き下げや、鉄鋼・アルミ、自動車の分野別にかかる25%の関税の引き下げに道が開けることを意味すると予想する。

 <日米交渉で一段と高まるベッセント氏の重要性>

 2つ目は、日米交渉における米側の閣僚筆頭であるベッセント財務長官の影響力がより強化され、ベッセント氏が重視する分野の対日要求のハードルが高くなる可能性があるということだ。
 特に通貨安の是正に関し、ベッセント氏が日本に対して具体的な是正措置を求めてきた場合に、それを拒んで交渉が長期化するなら、トランプ大統領の逆鱗に触れて関税率の引き下げが封じられるという厳しい展開も予想されると指摘したい。
 したがって24日とも予想される日米財務相会談におけるベッセント財務長官の要望内容は、日本にとって極めて重い意味を持つことになると予想される。

 <ベッセント氏が関税率引き下げに同意なら、トランプ大統領も承認の可能性>

 他方、ベッセント財務長官の理解が得られれば、日本側が求める相互関税の上乗せ部分と自動車関税など個別分野の25%の関税率引き下げに現実味が出てくると予測する。ラトニック商務長官らは安易な税率引き下げに反対しているとみられているが、ベッセント財務長官が引き下げに同意すれば、トランプ大統領の承認を取り付けて税率引き下げが実現するという道筋が開ける。
 日本側が大幅に譲歩して、それでも自動車関税が25%のままなら、日本国内からの不満が一気に噴出しかねず、今回の日米交渉は税率引き下げを勝ち取って、日米首脳による「原則合意」に到達できるかどうかが、日本側にとっての成功・失敗の大きな分かれ道になる。
 
 <小幅譲歩で高関税か、大幅譲歩で関税率の大幅引き下げ獲得か 選択迫られる石破首相>

 22日に公表された国際通貨基金(IМF)の世界経済見通しでは、トランプ関税による影響で2025年の成長見通しが前回1月時点予測から0.5ポイント押し下げられて2.8%となり、米国の成長率は0.9ポイント下方修正されて1.8%にとどまる。
 25年の日本の成長率は0.5%引き下げらて0.6%となった。これは自動車などの分野別関税が25%、相互関税が24%という前提で試算されており、日米関税交渉の結果によって税率が引き下げられれば、0.6%から上方に修正される余地がある。
 石破茂首相は、対米譲歩を小幅にして自動車関税25%をそのまま飲むのか、大幅に米国に譲歩しても自動車関税の25%と相互関税の24%の大幅な引き下げを勝ち取るのか、という大きな選択を迫られると指摘したい。
 筆者は、日本が取る道は後者であると考える。総合的に考えると、前者を選択した場合よりも後者を選択した方が財政支出の規模をより抑制できるとともに、日本全体の産業競争力を高める上でも得策となるからだ。

 <米経済が景気後退とインフレ高進に直面なら、ベッセント氏がトランプ氏の不満の矢面に>

 一方、今回の世界経済見通しで象徴的なのは、トランプ関税による米経済の受ける打撃が大きいことだ。25年は1月予測比で0.9ポイントマイナスの1.8%、26年になっても0.4ポイントマイナスの1.7%と経済の停滞が続く。
 物価上昇の波が同時に米経済に押し寄せれば、トランプ政権の支持率が低下していき、トランプ大統領のうっ積したフラストレーションが爆発し、その怒りがだれに向かうのか、ということが政権の政策の行方を決めるのではないか。
 今は市場安定に貢献して重用されているベッセント氏にその怒りの矛先が向かった場合、トランプ政権がさらに迷走して市場から「警報」が出るというのが、1つのシナリオとして浮上すると予想する。
 だが、このシナリオはマーケットにとっては「大混乱」への道ということになるだろう。
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