
トランプ米大統領が22日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長を解任する意図はないと述べ、ベッセント米財務長官も同じ日に米中間における貿易協議の合意は可能と語ったと報道され、マーケットでの「米国売り」は巻き戻しの動きに転じた。トランプ氏とベッセント氏による連係プレーで、マーケットの大混乱につながる「火事」を小規模な段階で鎮火させたということだろう。
トランプ政権内でベッセント財務長官の発言力が増したことは間違いなく、日米財務相会談や今後の日米関税交渉でベッセント氏がどのような対日要求をしてくるのかが大きなポイントになる。同時にベッセント氏の理解を得られれば、日本に対する相互関税や自動車関税などの大幅な税率引き下げも実現可能になったともいえ、内外の市場関係者の注目は、トップバッターである日本の税率引き下げの行方に集まりそうだ。
<トランプ大統領がFRB議長辞任めぐり方針転換>
22日の当欄で指摘したように、トランプ大統領によるパウエル議長の解任が決まれば、世界の金融・資本市場はドル建て資産のトリプル安が止まらなくなり、米利下げが逆効果になるとの見方が広がることによって、金融危機に発展するリスクも高まりつつあった。
筆者は、ベッセント財務長官がその「リスクの高さ」をトランプ大統領に直言し、2度目の方針転換につながったと分析する。
トランプ大統領は22日、大統領執務室で記者団に対し、パウエル議長について「私には彼を解任する意図は全くない。利下げ検討の面で彼にはもう少し活発になってほしい」と述べるとともに、解任しようとしたことは「決してない」とした。
<ベッセント氏が米中の緊張緩和可能と発言>
また、ブルームバーグによると、ベッセント財務長官は同じ日に行われた非公開の投資家との会合で、互いに100%を超える報復関税をかけ合う現状は「本質的には禁輸措置だ」と指摘。米中双方にとって持続可能ではないとの見解を示した。
さらに対中交渉はまだ、始まっていないものの合意は可能との見解を示し、米中間の緊張緩和は可能という見通しを示した。ただ、包括的な合意までには2-3年はかかるとも述べたという。
<市場混乱阻止へ鎮火剤投下、ベッセント氏の狙い通りに>
筆者は、同じ日に発信されたトランプ氏とベッセント氏の発言は、トリプル安に代表される米国売りとリスクオフ心理の高まりを沈静化させるためにあえて公表された「消火剤」だったと考える。実際、米株と米国債価格、ドルは上昇に転じ、ベッセント氏の狙い通りに市場心理の崩落を阻止できたと言える。
このことによって、トランプ政権内でのベッセント財務長官の存在感と発言力は一段と高まったのではないか。一度ならず二度も市場の大混乱の危険性を察知し、初期段階で「鎮圧」したからだ。
<高い関税率は交渉材料、引き下げの余地高まる>
上記で指摘した点から、2つの事が予見できるのではないか。
1つは、ナバロ米大統領上級顧問が志向している対中の高関税を長期間維持して、対中封じ込めを実現させるという「プランA」よりも、高関税を引き下げることで中国から譲歩を引き出し、新しい米国有利な貿易協定を締結するという「プランB」の道を米国が歩み出した可能性があるということだ。
22日のベッセント財務長官の投資家との会合での発言は、このプランBへの道筋をわかりやすく表現したと言えるのではないか。このことは中国以外の貿易相手国との相互関税の上乗せ部分の引き下げや、鉄鋼・アルミ、自動車の分野別にかかる25%の関税の引き下げに道が開けることを意味すると予想する。
<日米交渉で一段と高まるベッセント氏の重要性>
2つ目は、日米交渉における米側の閣僚筆頭であるベッセント財務長官の影響力がより強化され、ベッセント氏が重視する分野の対日要求のハードルが高くなる可能性があるということだ。
特に通貨安の是正に関し、ベッセント氏が日本に対して具体的な是正措置を求めてきた場合に、それを拒んで交渉が長期化するなら、トランプ大統領の逆鱗に触れて関税率の引き下げが封じられるという厳しい展開も予想されると指摘したい。
したがって24日とも予想される日米財務相会談におけるベッセント財務長官の要望内容は、日本にとって極めて重い意味を持つことになると予想される。
<ベッセント氏が関税率引き下げに同意なら、トランプ大統領も承認の可能性>
他方、ベッセント財務長官の理解が得られれば、日本側が求める相互関税の上乗せ部分と自動車関税など個別分野の25%の関税率引き下げに現実味が出てくると予測する。ラトニック商務長官らは安易な税率引き下げに反対しているとみられているが、ベッセント財務長官が引き下げに同意すれば、トランプ大統領の承認を取り付けて税率引き下げが実現するという道筋が開ける。
日本側が大幅に譲歩して、それでも自動車関税が25%のままなら、日本国内からの不満が一気に噴出しかねず、今回の日米交渉は税率引き下げを勝ち取って、日米首脳による「原則合意」に到達できるかどうかが、日本側にとっての成功・失敗の大きな分かれ道になる。
<小幅譲歩で高関税か、大幅譲歩で関税率の大幅引き下げ獲得か 選択迫られる石破首相>
22日に公表された国際通貨基金(IМF)の世界経済見通しでは、トランプ関税による影響で2025年の成長見通しが前回1月時点予測から0.5ポイント押し下げられて2.8%となり、米国の成長率は0.9ポイント下方修正されて1.8%にとどまる。
25年の日本の成長率は0.5%引き下げらて0.6%となった。これは自動車などの分野別関税が25%、相互関税が24%という前提で試算されており、日米関税交渉の結果によって税率が引き下げられれば、0.6%から上方に修正される余地がある。
石破茂首相は、対米譲歩を小幅にして自動車関税25%をそのまま飲むのか、大幅に米国に譲歩しても自動車関税の25%と相互関税の24%の大幅な引き下げを勝ち取るのか、という大きな選択を迫られると指摘したい。
筆者は、日本が取る道は後者であると考える。総合的に考えると、前者を選択した場合よりも後者を選択した方が財政支出の規模をより抑制できるとともに、日本全体の産業競争力を高める上でも得策となるからだ。
<米経済が景気後退とインフレ高進に直面なら、ベッセント氏がトランプ氏の不満の矢面に>
一方、今回の世界経済見通しで象徴的なのは、トランプ関税による米経済の受ける打撃が大きいことだ。25年は1月予測比で0.9ポイントマイナスの1.8%、26年になっても0.4ポイントマイナスの1.7%と経済の停滞が続く。
物価上昇の波が同時に米経済に押し寄せれば、トランプ政権の支持率が低下していき、トランプ大統領のうっ積したフラストレーションが爆発し、その怒りがだれに向かうのか、ということが政権の政策の行方を決めるのではないか。
今は市場安定に貢献して重用されているベッセント氏にその怒りの矛先が向かった場合、トランプ政権がさらに迷走して市場から「警報」が出るというのが、1つのシナリオとして浮上すると予想する。
だが、このシナリオはマーケットにとっては「大混乱」への道ということになるだろう。
トランプ政権内でベッセント財務長官の発言力が増したことは間違いなく、日米財務相会談や今後の日米関税交渉でベッセント氏がどのような対日要求をしてくるのかが大きなポイントになる。同時にベッセント氏の理解を得られれば、日本に対する相互関税や自動車関税などの大幅な税率引き下げも実現可能になったともいえ、内外の市場関係者の注目は、トップバッターである日本の税率引き下げの行方に集まりそうだ。
<トランプ大統領がFRB議長辞任めぐり方針転換>
22日の当欄で指摘したように、トランプ大統領によるパウエル議長の解任が決まれば、世界の金融・資本市場はドル建て資産のトリプル安が止まらなくなり、米利下げが逆効果になるとの見方が広がることによって、金融危機に発展するリスクも高まりつつあった。
筆者は、ベッセント財務長官がその「リスクの高さ」をトランプ大統領に直言し、2度目の方針転換につながったと分析する。
トランプ大統領は22日、大統領執務室で記者団に対し、パウエル議長について「私には彼を解任する意図は全くない。利下げ検討の面で彼にはもう少し活発になってほしい」と述べるとともに、解任しようとしたことは「決してない」とした。
<ベッセント氏が米中の緊張緩和可能と発言>
また、ブルームバーグによると、ベッセント財務長官は同じ日に行われた非公開の投資家との会合で、互いに100%を超える報復関税をかけ合う現状は「本質的には禁輸措置だ」と指摘。米中双方にとって持続可能ではないとの見解を示した。
さらに対中交渉はまだ、始まっていないものの合意は可能との見解を示し、米中間の緊張緩和は可能という見通しを示した。ただ、包括的な合意までには2-3年はかかるとも述べたという。
<市場混乱阻止へ鎮火剤投下、ベッセント氏の狙い通りに>
筆者は、同じ日に発信されたトランプ氏とベッセント氏の発言は、トリプル安に代表される米国売りとリスクオフ心理の高まりを沈静化させるためにあえて公表された「消火剤」だったと考える。実際、米株と米国債価格、ドルは上昇に転じ、ベッセント氏の狙い通りに市場心理の崩落を阻止できたと言える。
このことによって、トランプ政権内でのベッセント財務長官の存在感と発言力は一段と高まったのではないか。一度ならず二度も市場の大混乱の危険性を察知し、初期段階で「鎮圧」したからだ。
<高い関税率は交渉材料、引き下げの余地高まる>
上記で指摘した点から、2つの事が予見できるのではないか。
1つは、ナバロ米大統領上級顧問が志向している対中の高関税を長期間維持して、対中封じ込めを実現させるという「プランA」よりも、高関税を引き下げることで中国から譲歩を引き出し、新しい米国有利な貿易協定を締結するという「プランB」の道を米国が歩み出した可能性があるということだ。
22日のベッセント財務長官の投資家との会合での発言は、このプランBへの道筋をわかりやすく表現したと言えるのではないか。このことは中国以外の貿易相手国との相互関税の上乗せ部分の引き下げや、鉄鋼・アルミ、自動車の分野別にかかる25%の関税の引き下げに道が開けることを意味すると予想する。
<日米交渉で一段と高まるベッセント氏の重要性>
2つ目は、日米交渉における米側の閣僚筆頭であるベッセント財務長官の影響力がより強化され、ベッセント氏が重視する分野の対日要求のハードルが高くなる可能性があるということだ。
特に通貨安の是正に関し、ベッセント氏が日本に対して具体的な是正措置を求めてきた場合に、それを拒んで交渉が長期化するなら、トランプ大統領の逆鱗に触れて関税率の引き下げが封じられるという厳しい展開も予想されると指摘したい。
したがって24日とも予想される日米財務相会談におけるベッセント財務長官の要望内容は、日本にとって極めて重い意味を持つことになると予想される。
<ベッセント氏が関税率引き下げに同意なら、トランプ大統領も承認の可能性>
他方、ベッセント財務長官の理解が得られれば、日本側が求める相互関税の上乗せ部分と自動車関税など個別分野の25%の関税率引き下げに現実味が出てくると予測する。ラトニック商務長官らは安易な税率引き下げに反対しているとみられているが、ベッセント財務長官が引き下げに同意すれば、トランプ大統領の承認を取り付けて税率引き下げが実現するという道筋が開ける。
日本側が大幅に譲歩して、それでも自動車関税が25%のままなら、日本国内からの不満が一気に噴出しかねず、今回の日米交渉は税率引き下げを勝ち取って、日米首脳による「原則合意」に到達できるかどうかが、日本側にとっての成功・失敗の大きな分かれ道になる。
<小幅譲歩で高関税か、大幅譲歩で関税率の大幅引き下げ獲得か 選択迫られる石破首相>
22日に公表された国際通貨基金(IМF)の世界経済見通しでは、トランプ関税による影響で2025年の成長見通しが前回1月時点予測から0.5ポイント押し下げられて2.8%となり、米国の成長率は0.9ポイント下方修正されて1.8%にとどまる。
25年の日本の成長率は0.5%引き下げらて0.6%となった。これは自動車などの分野別関税が25%、相互関税が24%という前提で試算されており、日米関税交渉の結果によって税率が引き下げられれば、0.6%から上方に修正される余地がある。
石破茂首相は、対米譲歩を小幅にして自動車関税25%をそのまま飲むのか、大幅に米国に譲歩しても自動車関税の25%と相互関税の24%の大幅な引き下げを勝ち取るのか、という大きな選択を迫られると指摘したい。
筆者は、日本が取る道は後者であると考える。総合的に考えると、前者を選択した場合よりも後者を選択した方が財政支出の規模をより抑制できるとともに、日本全体の産業競争力を高める上でも得策となるからだ。
<米経済が景気後退とインフレ高進に直面なら、ベッセント氏がトランプ氏の不満の矢面に>
一方、今回の世界経済見通しで象徴的なのは、トランプ関税による米経済の受ける打撃が大きいことだ。25年は1月予測比で0.9ポイントマイナスの1.8%、26年になっても0.4ポイントマイナスの1.7%と経済の停滞が続く。
物価上昇の波が同時に米経済に押し寄せれば、トランプ政権の支持率が低下していき、トランプ大統領のうっ積したフラストレーションが爆発し、その怒りがだれに向かうのか、ということが政権の政策の行方を決めるのではないか。
今は市場安定に貢献して重用されているベッセント氏にその怒りの矛先が向かった場合、トランプ政権がさらに迷走して市場から「警報」が出るというのが、1つのシナリオとして浮上すると予想する。
だが、このシナリオはマーケットにとっては「大混乱」への道ということになるだろう。
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