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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

トランプ氏がFRB議長解任なら、米トリプル安止まらない懸念 利下げが逆効果に

2025-04-22 15:15:16 | 経済
 22日の東京市場でドル/円が139.89円付近まで下落した。10年米国債利回りや30年米国債利回りもアジア市場の取引時間帯に上昇し、「米国売り」の様相を強めている。トランプ米大統領がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長に対し、21日のSNSへの投稿で「負け犬」「遅すぎる男」と強い言葉で非難し、力づくでパウエル議長を辞任に追い込もうとしたことが影響した。
 市場心理はトランプ大統領の強権行使で、米経済がぜい弱化するとの見方に傾いており、仮にFRBが利下げを実施した場合、インフレ進行への懸念を理由にドル建て資産のトリプル安がさらに進行。火に油を注ぐ形でドル安・米株安・米国債安が止まらずに「フリーフォール」状態になる危険性も出てきた。もし、そのような事態に直面した場合は、トランプ関税の長期停止を宣言する以外に打開の道が開けないのではないかと予想する。トランプ大統領は「パンドラの箱」を開けてしまった可能性がある。


 <ドル/円が一時139円台、日米財務相会談を前に高まる円高誘導の思惑>
 
 東京市場の参加者にとって、ドル/円が約7カ月ぶりに139円台で取引されたことは、24日とみられる日米財務相会談を前に予想された展開だったかもしれない。
 というのも、トランプ米大統領が20日、自身のSNSに非関税障壁として8項目を列挙した際、この1番目に「為替操作」を挙げていたからだ。
 「トランプ1.0」の際にドル指数は95-100の間で推移し、足元も97-98付近となっており、ドル全般の水準はあまり変わっていない。ところが、ドル/円は110円前後での取引から足元では円高が進んだとはいえ、140円台での推移が長く、「トランプ2.0」との比較で円安が進行していたことは歴然だ。
 24日と見られている加藤勝信財務相とベッセント米財務長官との日米財務相会談で、米側が強く「円高誘導」を求めてくる可能性が高いと予想するのは、ある意味で自然な流れとも言える。そうした思惑が139円台へのドル安・円高の背景にあったことは間違いないだろう。

 <FRB議長の解任、理事罷免という手段も>
 
 ただ、22日の東京市場では、トランプ大統領が極めて刺激的な言葉でパウエル議長を貶めたことへの「重苦しい」ムードも広がっていた。
 そもそも、米大統領はFRB議長を解任できるのか──。米連邦準備法にはFRB議長の解任に関する具体的な条項は存在しない。複数の米国メディアには、憲法学者の多数意見として「解任は困難」との見解が引用されている。
 ただ、FRB議長の解任ではなく、トランプ大統領がFRB理事としての地位をパウエル氏から奪い、金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)の議長の座から引きずり下ろすという手段は、形式的な法解釈上は可能という見方もあるようだ。
 FRB理事を解任する際には、「正当な理由」が必要とされている。ここでは1935年に出たハンフリー米連邦取引委員会委員の解任をめぐる最高裁判決で示された「非能率、職務怠慢、職務上の不正行為」のどれかに該当することが要件と米法曹界では認識されている。
 トランプ大統領が正当な理由を拡大解釈し、パウエル氏を理事から罷免した場合、パウエル氏が法廷闘争に持ち込めば、法的な結論が出るまでにかなりの時間が経過することも予想される。

 <力づくのFRB議長解任、禍根残す展開に>

 こうした法的手続きを踏まず、トランプ大統領が「辞めろ」コールを継続し、パウエル氏がFRB議長の辞任を決断するという展開の可能性がありそうだ、と筆者は予想する。しかし、力づくでパウエル氏をFRB議長から引きずり下ろしたと世界の市場関係者の多くが認識することになると予測する。
 その先には、トランプ大統領が予想もできず、ベッセント財務長官が最も恐れるシナリオが待ち受けているだろう。

 <中銀の独立性無視、米インフレ高進の危険性高まる 利下げが逆効果になる展開へ>

 その展開とは、最後の手段であるFRBによる「利下げ」が効かなくなり、かえって米長期金利の上昇と米株下落、ドル急落を招くという最悪の事態だ。
 中銀の独立性に関し、ベッセント財務長官は「宝箱」と表現したが、政府の強い権力行使を独立性のある中銀がけん制し、インフレの高進を止めることでドルの信認を維持するという機能が期待されてきた、ということだ。
 だが、トランプ大統領がその中銀の機能を停止させ、自由に利下げを強要することが可能と世界中の市場参加者に分かれば、今はインフレ進展の「リスク」と見られている状況から、物価の高騰が現実化し、消費の減退と貿易の縮小が重なって米経済が後退すると予想する市場参加者が増える。
 したがって、米利下げは米経済の「特効薬」から「毒薬」へと姿を変え、米国におけるトリプル安を止める手段がなくなる、という事態に直面する可能性が出てきた、と言えるだろう。

 <米資産のフリーフォールも、止めるにはトランプ関税の停止宣言が必要>

 仮にそのようになったら、トリプル安は短期的に止まらず、フリーフォール状態になることも予想される。この事態を止められないと多くの市場参加者が認識すれば、米金融システムの動揺に発展し、世界金融危機並みのショックを与えかねないマグニチュードを持つ「危機」になることを自覚するべきだ。
 この状況を止めるには、トランプ大統領による全ての関税政策の停止宣言しかないだろう、と筆者は予想する。
 上記で説明してきたような世界経済の大動乱になだれ込む危険性が高まっており、ベッセント財務長官こそが最もそのことを懸念しているのではないか、と筆者は指摘したい。
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