一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

強い米雇用統計なら円安進展も、物価対策検討の石破首相は150円台を容認するのか

2024-10-04 14:15:40 | 経済

 株安・円高から株高・円安に大きく振れた今週の東京市場は、4日発表の9月米雇用統計で再び、大きな岐路に直面する。もし、市場予想よりも強めの結果が出れば、ドル/円が148円台からさらに円安に振れて150円が視野に入る可能性が高まると予想する。一方、弱めのデータとなればドル安・円高方向に戻るが、石破茂首相の日銀利上げけん制発言を意識している市場は、これまでよりも円買いにためらいを見せるのではないか。

 もし、来週のドル/円が150円台に乗せた場合、この先の経済対策で「物価高対策」を検討しようとしている石破首相が、どのような反応を見せるのか大きな注目点として浮上するだろう。

 

 <雇用者15万人増・失業率4.2%の予想、強ければ円安方向にジャンプ>

 日本時間の4日午後9時半に発表される9月米雇用統計の市場予測は、非農業部門の雇用者数が前月比15万人増(8月は14万2000人増)、失業率は8月から横ばいの4.2%となっている。

 仮に雇用者の増加数が20万人台になるなど強めに出て、失業率も4.1%や4.0%に低下した場合は、11月の米連邦公開市場委員会(FOМC)での50ベーシスポイント(bp)の利下げ予想が大幅に後退し、米金利は上昇するだろう。

 3日のNY市場で10年米国債利回りは5.3bp上昇の3.841%で取引を終えたが、大幅に上昇して4%目前の水準になっている可能性もありそうだ。

 ドル/円は足元の146円前半から148円台にドル高・円安方向へとジャンプし、週明けの取引では150円台が意識されるとの市場の声が多数派になっていると予想する。

 

 <ドル高・円安に行きやすい2つの理由>

 なぜかと言えば、大まかに2つの理由がある。1つ目は、3日に米供給管理協会(ISМ)が発表した9月の非製造業総合指数が54.9と、前月の51.5から上昇し、2023年2月以来、約1年半ぶりの高水準を付けていたため、市場に米経済の強さが予めインプットされていたことがある。

 その結果、11月FOМCでの50bp利下げの思惑が後退し、米金利上昇―ドル高・円安の市場地合いが形成されやすくなった。

 2つ目は、高市早苗・前経済安全保障相の自民党総裁選での敗退と金融正常化に前向きな石破首相の登場で、市場における円買いポジションの積み増しが目立っていたところに、石破首相が「現在、追加利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言し、そのポジションの急速な巻き戻しが進行しているということがある。

 円買いポジションの手仕舞いで損失を出した一部の短期筋は、ドル買い・円売りの材料が出てきた場合に円売りで反応しやすくなるという傾向があるという。現在の市場心理の「微妙なあや」が普段よりも円安を加速させやすくしている点は、軽視しないほうがいいだろう。

 

 <弱いデータ、円高方向に動くものの142円台が下限か>

 一方、弱い米雇用統計の結果になった場合は、米金利低下―ドル安・円高の動きが目立つことになると予想する。

 ただ、このケースでも石破首相の利上げけん制発言に対する市場の印象が強烈であったため、ある種の「残像現象」が効果を発揮し、大幅な円高は回避されてドル/円は142-143円台が当面の下限になるのではないか。

 予想通りの結果になったときは、大きな市場変動はないとみられている。

 

 <物価高対策の効果を減じる大幅な円安>

 3つのケースの中で、石破政権にとって悩ましい展開になりそうなのが、強い米雇用統計―大幅な円安という展開だろう。

 石破首相は4日の閣議で、総合経済対策の取りまとめを指示し、物価高対策やデフレ脱却に向けた経済成長力の強化、災害対応や防災対策の強化が柱になると伝えられている。

 物価高対策が大きな柱の1つとして位置付けられているが、円安が進んで輸入物価が再上昇し始め、消費者物価指数(CPI)が一段と上がりだすなら、実施が予想される低所得者向けの給付金の効果が大幅にカットされることになる。

 また、その円安の動きの中に石破首相の強い利上げけん制発言の効果が含まれているとすれば、政府のマクロ政策の方向がどちらを向いているのかわからない、との批判を受けかねない。

 週明けの東京市場で大幅に円安が進展した場合、9日とも言われている「党首討論」での大きな論点になる可能性も秘めていると指摘したい。

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株高誘った石破首相発言、実は植田総裁の見解と大きな差異なし その狙いは何か 

2024-10-03 13:47:34 | 経済

 石破茂首相が2日に「追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言し、3日の東京市場では、株高・円安が進んだ。市場の一部では石破首相の発言がブレて、株安・円高のポジションを作っていた参加者がはしごを外されたとの声が出ていたが、実態は高市早苗・前経済安全保障相が自民党総裁に当選すると判断して株買いと円売りを仕掛けた参加者のポジションのあやが、石破首相の発言で整理されたということではないか。

 市場参加者の中には3日の石破首相の発言はこれまでの主張を転換したと受け止める声が多いが、3日の植田和男・日銀総裁と石破首相の発言に大きな差異はない、と筆者は指摘したい。したがって10月の金融政策決定会合で示される「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、賃金やサービス価格の上昇、堅調な消費動向に言及して「オントラック」の道筋を歩んでいることを指摘するなら、12月会合や来年1月会合での利上げ検討が射程距離に入っているとみるべきではないか。以下では、石破首相と植田総裁の発言に大きなかい離がないことを説明する。

 

 <「利上げする環境ではない」、株安・円高ポジションは巻き戻し>

 石破首相は2日の植田総裁との会談後、記者団に対して「個人的には、現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と述べた。さらに「これから先も緩和基調を維持しながら、経済が持続的に発展することを期待している」と語った。

 この発言を受けて、多くの市場関係者は日銀の独立性を重視して日銀の追加利上げを許容するとみられてきた石破首相が方針を転換し、ハト派姿勢を鮮明にしたと受け取った。

 3日の日経平均株価は大幅に反発し、前日比743円30銭(1.97%)高の3万8552円06銭で取引を終えた。ドル/円も一時、147円台までドル高・円安が進み、その後は146円後半での取引となっている。

 一部の参加者の中には、石破首相の発言で株売り・円買いのポジション巻き戻しを強いられて、発言のブレを批判する声も上がっているようだ。

 また、アベノミクスの主唱者の安倍晋三・元首相ですら、金融緩和の長期化を日銀に求めつつ、具体的な手法は「日銀に任せる」と発言してきたことを踏まえると、今回の石破首相の発言はこれまでの政府の慣例を大幅に踏み越えて「ブレーキを踏んだ」と受け取った参加者もいたようだ。

 

 <石破首相の発言に2つの条件設定の表現>

 だが、石破首相の発言を詳細にチェックすると、2つの「防護壁」が存在する。1つ目は「個人的には」という表現だ。「利上げする環境にあるとは考えていない」とは政府の公式見解ではなく、個人の見解であるという条件設定だ。

 2つ目は「現在」という時間的制約を示す表現が用いられていることだ。市場関係者の多くは、かなりの期間にわたって利上げするなというメッセージとして受け取ったようだが、長期間ではない、ということを断った表現であると指摘したい。

 さらに「これから先も緩和基調を続けながら」という部分は、実質政策金利が大幅なマイナスで、次に0.50%に利上げしても実質的に大幅な金融緩和が続く現状では、次の利上げを否定しているとは言えない、と指摘したい。

 

 <時間をかけて判断、2つの発言に共通する考え方>

 一方、植田総裁は、石破首相との会談後に記者団に対して「日銀の見通し通りに経済・物価が動いていけば、金融緩和の度合いを調整していくことになる」としつつ「本当にそうかを見極めるための時間は、十分にあると考えているので丁寧に見ていきたいと(石破首相に)申し上げた」と述べた。

 同じ日に行われた全国証券大会のあいさつの中で、植田総裁は「海外経済の先行きは引き続き不透明であり、金融資本市場も引き続き不安定な状況にある」と述べ、こうした点を慎重に見極めつつ金融政策判断を行っていく方針を示していた。

 二人の発言を比較すると、次回の10月会合での利上げの可能性が低いことを共に指摘しているとともに、その先の金融政策判断に関しては、何らの方向性も示していないと言える。

 つまり、二人の発言を比較すると、実質的には大幅なかい離はないと考えるのが妥当であると考える。

 

 <石破ショックの反応に強い警戒感>

 では、なぜ石破首相は「スタンスのブレ」という批判を覚悟で、上記の発言をしたのだろうか。それは自民党総裁に就任直後のマーケットで大幅な株安と円高が進み「石破ショック」とマーケットから攻撃されたことに対する強い警戒感があったからではないかと考える。

 10月27日の衆院選投開票を前に「マーケットに冷たい石破首相」「利上げに寛容な石破首相」という市場からのレッテルをはがしたい、という強い意向が働き、植田総裁との会談という場を設定し、マーケットの認識を逆転させるという行動に出たと筆者は指摘したい。

 一方、日銀も9月会合の「主な意見」では、市場の変動の行方を慎重に見極める必要があるとの声が多数並び、10月会合で直ちに利上げに動くべきという声が見当たらない、という印象を作っていた。

 したがって石破首相の発言を受けて、植田総裁が困惑したということはなく、冷静に受け止めつつ、今後の政府・日銀の緊密な意思疎通を確認したと予想する。

 

 <マーケットが見誤った赤沢再生相の重い存在感>

 ここで、1つ注目したいのは、1日の組閣後の会見で赤沢亮正・経済再生相が日銀に対し「金利の引き上げは慎重に判断していただきたい」と述べていたにもかかわらず、マーケットは3日の動きとは対照的にほとんど注目することなく、材料として織り込まなかった。

 そこで、石破首相やその周辺は、マーケットの無反応を見て「石破首相による発言」という切り札の行使を決断したのではないかと推理する。

 マーケットが見誤った点は、赤沢経済再生相が石破首相の「最側近」であり、その重要人物が石破政権のマクロ政策の方向性を左右する経済再生相に就任した事実を軽視したことだろう。

 今後は、市場参加者の注目が従来よりも赤沢氏に注がれることになるだろうと予想する。

 

 <注目される10月展望リポートでの判断と植田総裁会見>

 一方、日銀の利上げがいつになるのかは、10月会合で示される「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で賃金やサービス価格の上昇、消費や設備投資の堅調さをどのように評価するかによって、かなり推し量ることができると考える。

 もし、かなり積極的な評価が織り込まれ、会合後の会見で植田総裁がその点を認めるような発言をすれば、12月利上げも視野に入ってくるかもしれない。

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中東情勢、低い原油価格の危機織り込み ホルムズ封鎖に脆弱な日本の経済安保構造

2024-10-02 14:11:41 | 経済

 2日の東京市場では、イランのイスラエルに対するミサイル攻撃による地政学的リスクの高まりを嫌気し、日経平均株価が2%超の下落を記録した。だが、原油先物価格は小幅の上昇にとどまっており、中東における本格的な戦闘拡大までは織り込んでいない。もし、イスラエルがイランに対して大規模な反撃に出れば、原油先物が大幅に上昇する可能性があり、原油価格の動向が地政学的リスクをより正確に反映する「体温計」になっていると言える。

 仮に中東でイスラエルとイランの直接的な戦闘が本格化し、多数の国を巻き込む展開に発展するなら、中東からの原油輸入が全体の95%を占める日本にとっては、直ちに重大な危機に直面することになる。石油備蓄が240日分あるものの、ホルムズ海峡の封鎖などが現実になれば、東京市場はパニック的な株売りを招くリスクもあり、発足したばかりの石破茂内閣は「最悪のシナリオ」に対応した政策準備を始めるべきだろう。

 

 <イランのミサイル攻撃、日経平均は843円安>

 イランは1日、イスラエルに向けて弾道ミサイルを発射したと発表。イスラエルは180発を超えるミサイル攻撃を受けたものの、防空システムで迎撃したことを明らかにした。イランによると、今回のミサイル攻撃は、イスラエルによるレバノンの親イラン派武装組織ヒズボラに対する軍事行動への報復攻撃という。また、イラン革命防衛隊は、イスラエルが報復に出れば、イランはより壊滅的で破滅的になる対応を行うと表明した。

 このイランのミサイル攻撃のニュースを受けて、1日のNY市場では株売り・債券買いの「リスクオフ取引」が優勢となり、ダウは前日比0.41%安、ナスダックは同1.53%安まで売り込まれる一方、10年米国債利回りは6.3ベーシスポイント(bp)低下の3.739 %で取引を終えた。

 2日の日経平均株価も中東情勢の緊迫を材料に水準を切り下げ、前日比843円21銭(2.18%)安の3万7808円76銭で取引を終えた。

 

 <WTI先物は今年7月の水準下回る>

 一方、1日の米国産標準油種WTIの中心限月11月物は、前日清算値と比べ1.66ドル(2.44%)高の1バレル=69.83ドルに上昇。2日のアジア取引時間帯で71.11ドルまで上昇しているものの、今年7月に80ドル台だった水準を下回ったままだ。

 中国経済の低迷による原油需要への懸念やサウジアラビア増産の方針などを背景に、9月には60ドル台での取引になっていたことを考えると、原油市場の参加者は中東情勢の緊迫で短期的に原油生産が大幅に減少する事態になるというところまでは織り込んでいない、ということだろう。

 つまり、現状の原油市場参加者はイスラエルがテヘランなどイランの中核都市にミサイル攻撃を仕掛け、中東全域の巻きこんだ大戦争になるという危険性が迫っているとは見ていないと判断しているのではないか。

 

 <イスラエルとイラン、それぞれが抱える自制の理由>

 その意味で、イスラエルがイランに対してどのような反撃に出て、報復の応酬になるのかどうかが大きなポイントになる。米国は中東でのエスカレーションが世界情勢を大きな危機に陥れると判断しているとみられ、イスラエルを擁護する姿勢を示しつつも、大規模な反撃を思いとどまるよう水面下でイスラエルに働きかけている可能性があると筆者は予想する。

 また、イランにとっても西側の経済制裁で悪化した経済情勢が、足元での原油輸出の伸びで好転の兆しを見せており、大戦争に発展して原油輸出が落ち込めば、最終的にイランの国益を損なうと考えている可能性があるのではないか。

 世界銀行が7月に公表したイラン経済モニターによると、2023年4-12月の実質国内総生産(GDP)成長率は、石油部門が前年比プラス16.3%、非石油部門が同3.5%となり、失業率も過去最低の8.1%まで改善したという。

 こうした成長の果実を手にしたイランが、自ら手放すような大戦争を覚悟する可能性はかなり低いのではないか。

 

 <ホルムズ封鎖なら、中東依存度95%の日本に大打撃>

 ただ、地政学的な緊張が高まっている中では、偶発的な行為が大々的な紛争に発展するケースが少なくなく、大戦争に発展しないと断言することもできない。

 そこで、可能性は低いものの最悪のケースを想定する必要性も相応に存在する。日本にとって最も危険で経済的なインパクトが大きいのはホルムズ海峡の封鎖だ。

 同海峡は、タンカーが通過できる水深を基準に最も狭いところは3.2キロメートルしかなく、イランが機雷などその海域に設置すれば、タンカーの安全航行が不可能となって、事実上の封鎖が完成することになるという。

 日本の原油輸入のうち、中東からの輸入は2022年度で95.2%を占める。その大部分がホルムズ海峡を通過するので、そこを封鎖されると原油輸入が途絶することに近い状況が生まれる。

 

 <備蓄は240日分、石破内閣は最悪のケースに備える準備に入るべき>

 日本の原油備蓄は、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を含めて240日分(約4.8億バレル)の規模となっている。

 仮に中東で大戦争となってホルムズ海峡が封鎖された場合、8カ月たっても和平の道が見えないことになれば、日本の原油は底をつくことになる。

 これはかなり危うい構造ではないだろうか。石破内閣は最悪のケースを想定した対応プランを早急に立てる必要があると指摘したい。

 そして、不幸にも中東の戦火が拡大した場合には、石破首相が直ちに会見して日本の危機克服への対応策を国民に説明するべきだろう。

 もし、国民を不安に陥れるような事態になれば、マーケットの反応は9月27日以降の「石破ショック」とは比較にならない規模で反応する。

 中東情勢が明らかに悪化する前に、石破内閣は危機に備えた対応に入るべきだ。

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円安と日本株反発に2つの要因、短観が示す来年春闘の大幅賃上げの可能性

2024-10-01 14:18:27 | 経済

 「石破ショック」とも言われた株安・円高の動きは1日の東京市場で修正され、日経平均株価が買い戻されるとともにドル高・円安が進んだ。背景には、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演後に進んだ米金利上昇や米経済のソフトランディング期待の広がり、日銀が1日に公表した9月金融政策決定会合における「主な意見」を受けた早期利上げ観測の後退などある。

 また、1日に発表された9月日銀短観では8月上旬の大幅な株安と円高進展という市場動向を経ても、大企業・製造業の業況判断DIが堅調だったことが、今後の日本株買いの材料として意識されると予想する。同時に好調な企業業績と米経済のソフトランディング期待の高まりは、来年の春闘における賃上げ率が今年並みに大幅になる可能性を高めていると言える。大幅な緩和度合いを段階的に調整していく方針を維持している日銀にとって、見通し通りに経済・物価情勢が進展するという「オントラック」との認識を強めることになると筆者は考える。

 

 <1つ目の材料、パウエル議長の講演で米金利上昇>

 1日の東京市場では、日経平均株価が買い戻され、前日比732円42銭(1.93%)高の3万8651円97銭で取引を終えた。ドル/円も144円前半までドル高・円安が進んだ。

 石破ショックや高市トレードの巻き戻しという呼び方まで登場した株安・円高が、どうして1日の市場で反対方向へ大きく動いたのか──。

 1つ目の大きな材料は、9月30日に行われたパウエル議長の講演内容だった。「利下げプロセスは時間をかけて行われるため、急ぐ必要はない」と述べるとともに「米経済は堅調で、われわれの政策ツールを使いこの状況を維持していく」と指摘。11月の米連邦公開市場委員会(FOМC)で前回に続いて50ベーシスポイント(bp)の利下げを実施することに距離を置くとともに、米経済のソフトランディングに自信を示した。

 この結果、発言前は五分五分だった25bpと50bpの利下げ予想は、発言後に25bp利下げが62%に上昇する一方、50bp利下げは約38%に低下した。

 30日のNY市場で、10年米国債利回りは3.9bp上昇して3.790%となり、2年米国債利回りは8.2bp上昇の3.645%で取引を終えた。ドル/円は米金利の上昇を受けて143.85円までドル高・円安が進展した。

 

 <2つ目の材料、日銀の主な意見で金融市場の不安定さに言及>

 東京市場でさらに円安が進んだ材料として注目されたのは、日銀が公表した9月金融政策決定会合における主な意見だった。金融市場の不安定さに言及し、短期的には慎重な判断が必要という見解が数多く示され、石破茂・新首相なら日銀の判断を容認して「早期利上げもありうる」とみていた市場参加者の見通しを大幅に修正させたと筆者は考える。

 大幅な円安は日経平均株価の買い戻しをさらに強め、前日の市場で円高・日本株売りを仕掛けた一部の海外勢も巻き戻しの取引を強いられたという。

 

 <自民党が衆院選公約の作成へ、高まる選挙前の株高アノマリー>

 石破新首相は1日に内閣を発足させ、数日中には衆院選に向けた「公約」を発表する手順を考えているという。こうなると、9月30日の当欄でも指摘したような衆院選までは株価が上がるというアノマリーを信奉する国内勢が、重点投資先を整理して国内株の選好を強めることになると予想する。

 10月27日の投開票まで4週間足らずという短期決戦では、衆院小選挙区における候補者の調整が衆院選全体の死命を決することになるが、野党側は立憲民主党と日本維新の会の選挙区調整が全く進展の兆しを見せておらず、立民と国民民主党との選挙調整も時間的制約の中で着地点が見えない状況だ。

 こうした選挙情勢は、国内メディアの報道とともにマーケットにも順次、浸透していくことになるだろう。そして、複数回の選挙情勢報道で与党有利が伝えられれば、衆院選は株買いというアノマリーが様々な参加者に広がり、日本株上昇に拍車がかかる展開になると予想する。

 

 <8月の市場変動で悪化しなかった企業心理>

 一方、1日発表の9月日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが前回並みのプラス13と堅調だった。8月上旬の市場大変動で企業心理の悪化も懸念されていただけに、堅調なDIは先行きの国内経済にとって明るい展望をもたらした。

 また、設備投資計画も大企業・製造業で強さが目立っただけでなく、仕入れ価格判断の低下幅が販売価格判断の低下幅より大きく、企業の収益構造にはプラスに働く可能性が高まっていることも示した。

 日銀がリスク要因として指摘している米経済のソフトランディングの行方に関しても、米経済の様々な指標が急速な悪化を示していないだけでなく、パウエル議長の講演でも経済の底堅さに自信を示している状況では、心配するような米景気後退から日本経済のへ下押し圧力の強まりというシナリオは後退しているとみるべきだろう。

 実際、9月FOМCでの50bpの利下げは、ソフトランディングの可能性をかなり高めることになったと指摘したい。

 短観における企業の人出不足感が依然として強いことなども勘案すると、来年の春闘における賃上げは大企業に限定すれば、今年並みの大幅な引き上げが可能であるとのパスを描けるのではないか。

 

 <日銀は「オントラック」の認識維持の公算>

 このように考えると、日銀は現在の経済・物価情勢に関して「オントラック」との認識を維持していると筆者は考える。

 10月の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、オントラックと考える理由を列挙して、市場動向が大荒れから沈静化への道を進んでいると確認できれば、緩和度合いの調整を探ることが可能になるという考え方を示すのではないかと予想している。

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衆院選前の株高アノマリーと海外主導の株売り・円買い、どちらが優勢か不透明

2024-09-30 14:47:14 | 経済

 石破茂・自民党総裁は30日、衆院選を10月27日投開票で実施する方針を表明した。株式市場には、衆院解散・総選挙を前にした相場では株価が上昇するとのアノマリーが存在し、国内勢の一部には30日に3万7000円台まで下落した日経平均は今後、買い戻しが優勢になるとの予想が出ている。他方、30日の市場では、海外勢が主導となって円買い・株売りを仕掛ける動きも目立っており、衆院選を意識した株買いと自民党総裁選後の株売り・円買いの動きのどちらが優勢になるのか、先行きは極めて不透明になっている。

 

 <衆院選は10月27日投開票>

 会見に同席した自民党の森山裕幹事長は、10月15日に衆院選が公示されると述べた。主要な国内メディアは10月9日に衆院が解散される方向であると伝えている。

 当初、石破総裁は国会での論戦なども考慮して11月10日の投開票というケースも念頭にあったとみられるが、30日付読売新聞朝刊の報道によると、森山氏が早期の衆院選実施を進言し、石破総裁が受け入れたという。

 石破新総裁は10月1日に首相に指名され、同日中に組閣するが、支持率の高いうちに衆院選を実施した方が与党に有利との判断に傾いたとみられる。

 衆院選で与党勝利が見込まれる場合、株式市場は「株高」で反応するケースが圧倒的に多い。政権基盤の強化につながる結果になれば、金融・資本市場に追い風が吹くとの発想から株買い優勢の相場が展開されてきた。

 また、衆院解散前に与党は経済対策を打ち上げ、補正予算の編成を事前にアナウンスすることが多く、その経済効果を織り込むことで「株買い」を正当化するということも繰り返されてきた。

 

 <補正予算、市場は4-5兆円の真水織り込み済み>

 今回は能登半島の大雨被害への対応に関し、機動的執行を念頭に2024年度予算の中の予備費を使って対応することが石破総裁から表明されているが、衆院選の公示までには24年度補正予算案の編成を含めた総合経済対策の骨子が政府・与党から公表される可能性が高いとみられている。

 マーケットはすでに補正予算案の内容をめぐって複数の思惑が交錯しており、一部の市場関係者は財政資金の投入額(いわゆる真水の規模)が4-5兆円と見込んでおり「株価を押し上げるには、それ以上の規模が必要」(国内銀関係者)との声も出ている。

 

 <根強い海外勢の株売り・円買い>

 一方、複数の市場関係者によると、30日午後になって株売り・円買いの注文をまとまって出してきたのは一部の欧州勢など海外勢だという。

 要因の1つは、高市早苗・経済安全保障相が自民党総裁選で当選するとの思惑から株買い・円売りを仕掛けるいわゆる「高市トレード」に賭けた海外勢が石破氏の当選で巻き戻しの動きを活発化させ、30日午後も継続していたことだ。

 2つ目は、石破総裁が日銀の金融政策運営に対し、独立性を重視する発言をしていることに着目し、年内の利上げを日銀が押しするようとした場合に政府が止めないと判断し、円買いと日本株売りを連動させているという見方だ。

 後者には、石破氏は「マーケットに冷淡」とのイメージが存在していることも意識し、株売り・円買いを仕掛けやすいという思惑も加わっているという。

 

 <衆院選までは株高、今回も当てはまるか>

 衆院選の投開票日までは「株価上昇」というアノマリーと、日銀の利上げに寛容な石破氏の政権は「株売り」と決め打ちしている動きのどちらが優勢になるのか──。複数の市場関係者によると、今回は判断が難しいという。

 ただ、国内勢の中には日経平均株価は3万7000円台後半では買い戻しの動きが根強く、ドル/円も141円を割り込むには材料不足との声もあり、10月1日以降の東京市場では株買い・円売りが先行するとの見方が多い。

 

 <注目されるパウエル講演>

 一方、30日に予定されているパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演後の市場反応で、ドル売り・円買いが加速するような場合は、10月1日の東京市場で日経平均株価が続落する展開もよそうされるという。

 当欄で何回も指摘しているが、海外勢の株売り・円買い基調を転換させるには、石破氏があす発足させる内閣で日本経済の成長力を高めるための具体的な成長プランを提示することが早道だ。特に石破氏が言及した国内企業の国内還流を促進させるための優遇策の提起は、最も優先して具体化するべき項目だ。

 

 <予想外にしたたかな石破人事>

 ここで、国内メディアが報道している自民党役員人事とあす発足する新内閣の顔ぶれをみると、石破総裁は予想外に「したたか」であることを示した。

 一部の報道では、高市氏が総務会長就任の打診を固辞したことで、自民党内の亀裂が深まると解説されていたが、麻生太郎氏の最高顧問就任の受諾によって、その懸念は大幅に低下したと言える。事前報道では、麻生派の武藤容治衆院議員が経済産業相に就任するとされており、高市氏を強く支えた麻生氏と麻生派メンバーの反発は大幅に低下すると予想される。

 また、裏金受領を認めた国会議員が多かった旧清和会からの閣僚起用がゼロだったことも、石破氏が国民に訴えるポイントに1つになると考える。

 同時に林芳正官房長官を留任させ、厚労相経験者の加藤勝信氏を財務相に起用するなど、重要ポストで手堅い布陣を築くなど政権の安定に腐心していることもうかがわれる。

 さらに外相に岩屋毅氏、防衛相に中谷元氏と防衛相経験者を起用し、緊迫の度を高めている安全保障環境にも配慮し、石破色を出している。

 党役員人事で党内の情勢は握力が極めて高い森山氏を幹事長に充てたことも、党内基盤の弱い石破氏にとっては極めて重要な人事だったと言える。

 

 <岸田・菅連立内閣の色彩>

 菅義偉元首相を副総裁としたことで、決選投票で石破氏勝利に導いた岸田文雄首相と菅氏が石破氏の内閣を支える両巨頭であることが判明した。

 永田町には「岸破内閣」との揶揄が早くも出ているようだが、実態は「岸田・菅」連立内閣の色彩が濃いのではないか。

 もし、衆院選で自公両党が過半数を維持すれば、10月1日に発足する石破内閣は、予想を超えて継続する可能性が高まるだろう。

 その時に海外勢の見る目が、大きく変化しているかもしれない。

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