goo blog サービス終了のお知らせ 

一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

高止まる食品価格上昇、消費者の節約が牛丼値下げに 新たな二極化進む気配

2025-08-29 14:50:43 | 経済

 食料品の値上げが続く中、消費者物価指数(CPI)における食料の価格が高止まり、一部の消費動向への影響が鮮明になってきた。牛丼チェーンのすき家が28日に11年ぶりとなる牛丼の値下げを発表、客離れに苦しむ外食産業の苦境を浮き彫りにした。

 一方で、最高値圏で推移する日経平均株価の動向などを背景に、株式を保有する富裕層には消費拡大の余力が生まれており、消費の二極化が一段とはっきりする状況となっている。相対的に所得の低い階層を直撃する食料品を中心とした物価高に対し、政府・日銀がどのような政策対応をしていくのか注目が集まりそうだ。

 

 <生鮮除く食料は7.4%上昇、エネルギーは5.3%下落>

 総務省が29日に発表した8月の東京都区部CPI(除く生鮮食品、コアCP)が前年同月比プラス2.5%となり、3カ月連続でプラス幅が縮小した。政府の電気・ガス料金負担軽減策でエネルギーが同マイナス5.3と大きく下がり、東京都の水道基本料金の無償化によって水道代が同マイナス34.6%と下落したことなどが影響した。

 だが、生鮮食品を除く食料は同プラス7.4%と前月から横ばいとなり、7月まで7カ月連続で上昇幅が拡大してきたトレンドが止まったものの、高止まりが目立つ展開となった。

 

 <すき家が牛丼値下げへ、株価は収益性低下を懸念して下落>

 購入頻度の高い食料品価格の上昇は、従来から消費者の節約志向を強め、個人消費全体の伸び悩みにつながっていると多くの民間エコノミストから指摘されてきたが、牛丼チェーンすき家の11年ぶりの値下げは各方面に大きな波紋を投げかけた。

 すき家の値下げは9月3日午前9時からで、牛丼並盛が450円、牛丼大盛が650円とそれぞれ30円の引き下げ。牛丼並盛は今年3月の値上げ以前の価格に戻ることになる。

 29日の東京市場では、すき家を傘下に持つゼンショウの株価が前週末比で1.9%下落した。収益性の低下が懸念されたという。

 

 <消費者の家計防衛、外食回数の削減に>

 安価で手軽に利用できる牛丼は、デフレ時代には値下げを競う局面が長く続いた。だが、このところの脱デフレ基調によって牛丼を提供する各社は値上げを実施。売り上げが落ちないことから原材料や人件費の上昇、円安などを理由に複数回の値上げが行われてきた。

 今回のすき家の値下げの背景には、今年3月の同社製品への異物混入の発覚という事態が影響を与えた点が大きいものの、足元で続く7-8%の食料品価格上昇を受けて、消費者が外食の回数を減らすということで「家計防衛」に走った可能性をうかがわせる。

 

 <足元で進む所得階層の分離、年間平均給与は正社員530万円・非正規201万円>

 特に相対的に所得の低い階層にとって、購入頻度の高い食料品価格の相次ぐ値上げは、消費行動の大きな変更を強いられた可能性が高いと思われる。

 国税庁の2023年の民間給与実態統計調査によると、正社員の平均給与は前年比プラス1.3%の530万3000円であるのに対し、正社員以外(非正規従業員)は同プラス0.7%の201万9000円にとどまっている。

 CPIの上昇率が前年比1%未満にとどまり、食料品価格の値上げが目立たなかった局面では、消費者の節約行動に関し、所得階層間での大きな対応の差はなかったものの、このところの大幅な食料品の値上げは所得の低い階層の人々に大きな打撃を与えた可能性がある。

 

 <今夏の海外旅行者数は20%増、賃上げ・株高の恩恵も>

 一方、大企業を中心に正社員に属する人々は、2025年も5%台の賃上げを獲得。さらに日経平均株価が一時、4万3000円台に急騰するなど株価上昇の恩恵を受けた人々は、日常生活での節約は行ったものの、旅行など「非日常」への出費は拡大させたようだ。

 JTBの推計によると、今年の夏休み期間(7月15日ー8月31日)における旅行者数は、国内が前年比プラス0.3%と微増だったのに対し、海外旅行は同20.8%と大幅に伸び、平均旅行額の伸びも国内の同4.5%の4万6000円に対し、海外は同5.5%の28万9000円だった。

 

 <新たな消費の二極化、食料品などの物価高が拍車かける構図>

 このように直近の物価高は、所得階層間で消費の明暗が分かれる「二極化」現象を顕著にさせている可能性がある。この現象を放置していると、株価は最高値を更新しているのに物価高を背景に国内消費が伸び悩むという「令和の新現象」を継続させ、日本経済のひずみを大きくすることにつながる。

 政府・与党が参院選前に打ち出した所得制限なしの一人当たり2万円の給付金の実施は、所得制限を付けて低所得者層への一人当たりの給付額を増やし、食料品値上げの打撃を緩和する政策に転換する必要があるのではないか。

 

 足元で起きている継続的な食料品値上げによる多様な現象に対し、政府・日銀はそれを見守っているだけでなく、何が必要な対応なのか、国民に情報を発信するべきであると考える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日銀の中川審議委員が短観の重要性に言及、10月会合での利上げに思惑広がる

2025-08-28 16:30:33 | 経済

 28日に行われた日銀の中川順子審議委員の会見で、追加の利上げ判断に向けて「直近の短観の結果を十分に織り込んだうえで、決定会合で都度、判断していきたい」と述べたことに対し、一部の市場参加者の注目が集まったようだ。次回の9月短観は10月初旬に公表される予定で、10月29日、30日に開催される金融政策決定会合での利上げの可能性に関して注目度が上昇する可能性が出てきた。

 

 <「短観も発表が間に合えば織り込んでいく」と中川委員が言及>

 ロイターによると、28日に山口県下関市で行われた会見で、中川審議委員は「短観は極めて大事な調査と認識している」「センチメントや設備投資の計画を確認することができる」と指摘。その上で次の利上げ判断に関して「常に、毎回の決定会合においてその時までに出た、把握できる最大限の情報やハードデータをもとにして判断していく」と述べるとともに「短観も発表が間に合えば、それも当然織り込んで織り込んでいく」と語った。

 

 <午前の講演では不確実性の高さを指摘、市場に多かった「慎重なスタンス」との指摘>

 複数の市場関係者は、中川審議委員が同日午前の講演で「各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性が高い状況が続いていることを踏まえ、今後明らかとなるデータや情報を引き続き丁寧に確認し、適切に政策を判断していく」と述べたことに注目し、9月や10月の金融政策決定会合での利上げに対しては「慎重なスタンス」を示したと解釈したという。

 ところが、午後の会見で上記で示したように短観の重要性を指摘するとともに、金融政策決定会合の直前の短観の結果を織り込んでいくと述べたことで、9月短観の結果次第では、10月の日銀会合での利上げ決断の可能性が浮上してきたという受け止め方が急速に浮上してきたという。

 

 <7月は4月に比べて不確実性が少し改善の傾向とも指摘>

 また、ブルームバーグによると、この日の会見で中川審議委員は、関税政策の影響に関する不確実性について、7月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)の表現は4月と比べれば、少しは下がったと指摘。その上で、「利上げできる環境という意味では、4月よりは少し改善の傾向」との認識を示したという。

 こうした発言も、一部の市場参加者が10月会合への注目度を上げる要因になったようだ。

 

 <9月2日の氷見野副総裁の講演と会見、一段と注目される展開に>

 9月2日には氷見野良三副総裁による「道東地域金融経済懇談会」での講演と会見が予定されている。中川審議委員が今回の講演と会見であまり踏み込まなかった足元の物価動向と先行きの展開に関し、どのような見解を示すのか、その内容によっては10月利上げの思惑が一段と強まる可能性もある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプ関税の打撃緩和へ補正予算案が焦点に、大規模化の可能性 株価に影響も

2025-08-27 14:40:59 | 経済

 日米関税交渉で合意した自動車関税の15%への引き下げがいつ実施されるのか、近く訪米するとみられている赤沢亮正・経済再生相とラトニック米商務長官との会談内容に注目が集まっているが、その後は関税賦課で負担が重くなる自動車メーカーや系列企業、関連する地元企業に対する経済的な支援策の検討に焦点が移る。

 関税対策は2025年度補正予算案の大きな柱になるとみられ、自動車の対米輸出減少によるダメージを緩和するための国内需要喚起のためのエコカー購入促進策や自動車取得時の税負担廃止、影響を受ける中小企業への資金面でのサポートが大きな項目として意識されているもようだ。政府・与党が補正予算案の検討、提出作業に入れば、自民党内で検討されている総裁選前倒し実施の議論にも影響を与えることが予想されるだけでなく、国内の株式市場で材料視されそうだ。

 

 <赤沢再生相が訪米へ、15%への自動車関税引き下げ時期は確認できるのか>

 複数の国内メディアによると、赤沢経済再生相は近日中にワシントンを訪れ、ラトニック商務長官らと会談し、日米関税交渉で合意した日本による80兆円規模の対米投資に関する共同文書を作成し、公表するとみられている。

 その際に、日米関税交渉で合意した現行27.5%から15%への自動車関税引き下げに関し、米側が大統領令によっていつから実施すると発令するのか、確認できるかどうかがポイントの1つとなっている。

 

 <米自動車関税、日本メーカーの収益下押し 懸念される中小下請け企業への影響>

 自動車関税の引き下げ時期が決まれば、次はトランプ関税の賦課によって生じる国内産業の打撃を緩和するための対策の中味と、その実施を担保する2025年度補正予算案の編成と国会提出が大きな焦点になる。

 自動車関税が15%に削減されても、国内自動車メーカーの中には大きな打撃を受けるところが出ている。米国市場や海外市場への依存度が高いマツダは2333億円、スバルが2100億円と米自動車関税の影響を試算。2026年3月期の純利益見通しは、マツダが前年比マイナス82%の200億円、スバルは同マイナス53%の1600億円にとどまる。

 系列の中小メーカーやその他の地域の関連企業は、受注減少や納入価格引き下げなどの影響を受け、資金繰りなどをはじめとした経営上の苦境に直面することが確実視されている。

 

 <対策へ補正予算編成、自動車取得時の負担廃止か エコカー購入促進策も検討の公算>

 こうした状況を踏まえ、日米関税交渉による経済的な打撃を緩和するための「政策パッケージ」の立案と実施が政府・与党内における優先的な課題として浮上している。

 自民党総裁選の前倒し実施の可否をめぐる議論で忙殺されている自民党内では、関税対策の議論が進展している状況ではないが、水面下では様々なアイデアが取りざたされているという。

 その中で有力視されているのが、自動車の購入時にかかる税金の廃止だ。2019年に自動車取得税は廃止されて、燃費性能によって税率が変わる「環境性能割」が導入されたが、これを廃止する案が浮上。経済産業省は2026年度の税制改正要望で「廃止等取得時の負担の軽減を行う」と明記するという。

 また、米自動車関税の賦課によって日本から米国への自動車輸出台数の減少が見込まれるため、国内の自動車生産への打撃を緩和する目的で、電気自動車(EⅤ)やプラグインハイブリッド車(PHEⅤ)などのいわゆるエコカー購入を促進させるための新たな支援策の導入も検討対象に加わっているもようだ。

 さらに経営環境が悪化して資金繰りが悪化しそうな中小企業を対象にした「無利子・無担保融資」(ゼロゼロ融資)の導入、企業による従業員の大量解雇を回避するための雇用調整助成金の支給条件緩和なども支援策に盛り込まれる可能性がある。

 

 <トランプ関税への対応策、野党も賛成の可能性>

 こうした日米関税交渉に関連した対策だけでなく、物価高対策も補正予算案に盛り込まれる方向だが、野党各党が反対している1人につき2万円の給付金の取り扱いが与野党間で大きな争点になる。参院選前に提示した全国民一律の給付は与党が敗北したことを受けて賛成取り付けができないため、所得制限を付けて1人当たりの給付額を大幅に引き上げるアイデアもあるという。

 物価高対策では与野党の対立が激しくなる可能性があるものの、日米関税交渉を踏まえた対策に対して真正面から反対する野党が多くなるとは見られず、一部の国内報道機関が示している石破茂内閣での補正予算成立は「不可能」という見通しとは異なって、成立の可能性はかなり高いと筆者は予想する。

 政府・与党内には10月3日に臨時国会を召集するという声もあるようだが、臨時国会の召集から短期間で補正予算案を国会に提出することが可能なように、水面下での調整は今後、かなり進むのではないかと予想する。

 24年度補正予算の規模は一般会計の総額で13.9兆円に膨れ上がったが、「トランプ関税賦課の影響を最小限に抑える」という大義名分を与野党を問わず主張する可能性が高い状況を勘案すれば、5兆円を超えて10兆円に迫ることも十分にあるのではないか。

 

 <大規模補正なら、日本株にプラス材料>

 かなり大規模な補正予算案の編成になることが明らかになれば、このところ最高値圏から下落して上値が重くなっている日経平均株価の動向にも大きな影響を与えることになると予想する。

 足元の市場では、日本株に影響を与えるのは、米利下げの動向やトランプ政権の各方面における政策対応などもっぱら「米国主導」の材料になるとの予想が多い。

 そこに大規模な補正予算案の編成のニュースが飛び込めば、マーケットの織り込みが進んでいなかった分も含めて注目度が上がるとみている。

 

 <自民党総裁選の前倒し議論に影響も>

 一方、「アンチ石破」の自民党議員が主張する自民党総裁選の前倒しの議論に関しても、この補正予算案の編成は影響を与えるのではないか。地方議員の投票参加も含めたフルスペックの総裁選は多くの労力と時間を投入することになり、トランプ関税の負担緩和を目的とした対策の策定や補正予算の編成と、同時にこなすことは難しいという声が政府・与党内で広がる可能性があると予想される。

 また、朝日新聞が総裁選の前倒し実施をめぐって実施した調査によると、党所属国会議員295人(衆参議長を除く)に賛否を書面で尋ね、274人から回答を得たが、約8割が態度を明らかにせず、前倒し賛成の回答は40人だった。

 9月に入ると、自民党総裁選の前倒し実施の可否と「経済対策」を盛り込んだ補正予算案の早期成立の必要をにらみ、国内政局は一段と複雑な動きになるのではないか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クックFRB理事の解任、米利下げの行き過ぎ懸念も インフレ再燃なら円高意識

2025-08-26 15:13:27 | 経済

 トランプ米大統領は25日、米連邦準備理事会(FRB)のクック理事宛ての解任通知書を公表した。26日のドル/円は一時、146.99円までドル安・円高が進行したが、クック理事が辞任しない意向を表明し、147円後半へとドル高・円安方向に戻した。法廷闘争に入る可能性も出てきたが、クック理事の解任を前提にトランプ大統領が新しい理事の選任を決めた場合、何が起きるのか。

 FRBの7人の理事のうち、4人が親トランプ派で構成され、次期FRB議長としてトランプ大統領から指名された人物もそこに入るなら、トランプ氏の意向を背景に利下げがどんどんと進み、3%の中立金利の水準になっても利下げが続行される可能性も出てくる。米国のインフレが進行する事態に直面した場合、米国の金利曲線(イールドカーブ)は短期ゾーンが低下する一方で長期ゾーンが大幅に上がるスティープ(急峻)化が進行する。インフレ下の利下げ強行はドル下落を招き、ドル安・円高の大きな要因として意識されるだろう。クック理事の解任は、グローバルなマネーフローにとって大きな分岐点になると指摘したい。

 

 <トランプ氏、クック理事の住宅ローン組成を不正と指摘>

 トランプ氏は25日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿でクック理事を即時解任する意向を明らかにし「解任のための正当な理由が十分あると判断した」と指摘した。

 日本経済新聞によると、クック理事は2021年、離れた場所に2つの住宅を購入したが、その際にどちらも投資用ではなく、居住用と偽って優遇ローンを組んだことが不正にあたる、とトランプ氏に近い米連邦住宅金融庁(FHFA)のパルト局長から指摘を受けていた、という。

 トランプ氏は投稿に添付したクック氏宛ての書簡内容を公表し「米国民は政策決定と連邦準備制度の監督を委ねられたメンバーの誠実さを全面的に信頼できなければならない」と指摘。「あなたの金融に関わる不正直で、場合によっては犯罪的ともいえる行為を考慮すると、国民はもちろん、私自身もあなたの誠実さを信頼することはできない」とし、解任の適法性を説明した。

 トランプ大統領は解任の法的根拠として、合衆国憲法2条と連邦準備法を挙げたが、「正当な理由」がある場合に限られるというのが従来の法解釈となっている。正当な理由の具体的な例として、職務怠慢、職務放棄、職務上の不正行為の3つが該当するとされてきた。

 

 <クック氏は「辞任せず」、法廷闘争も>

 一方、クック理事は「辞任するつもりはない」とし、解任する権限はトランプ氏にはないとする声明を弁護士を通じて発表した。

 ブルームバーグによると、クック氏がこの解任に対して法的に異議を申し立てた場合、クック氏は訴訟が進行する間、自身の職務への復帰を求める仮処分を即座に申請する可能性があるという。

 

 <クック氏辞任ならFRBの勢力図変更に、親トランプが過半数> 

 クック氏が辞任の意向を否定したことで、ドル/円は147円後半までドル高・円安の水準に戻したが、複数の市場筋によると、マーケットの一部には今回のトランプ大統領の「強権発動」によって、FRBによる利下げの動きに弾みが付き、次第に利下げの動きが大きくなり、3%の中立水準を突破しても利下げが終了しないという「利下げの行き過ぎ」リスクへの警戒が浮上したという。

 というのも、クック理事の退任が覆ることがないと決まった場合、FRBの7人の理事の構成が大きく変わってしまうためだ。

 バイデン前大統領が選任したクーグラー理事が来年1月の退任期限を前に今月8日に退任。後任にはミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が指名された。トランプ氏が政権1期目に指名したウォラー理事とボウマン副議長(銀行監督担当)と合わせ、クック理事の後任が加われば、親トランプ派の理事は過半数の4人を占めることになる。

 

 <26年にかけてFOMC内で利下げ主張が過半数になる可能性>

 米連邦公開市場委員会(FOMC)は7人のFRB理事と12の地区連銀総裁のうち5人(うち1人は常に投票権を持つニューヨーク連銀総裁)が加わって金融政策を決める。

 今年のFOMCで投票権を持つ地区連銀総裁5人のうち、ウイリアムズNY連銀総裁を含めた3人はパウエル議長の意向に従うとみられ、直ちにFOMCがハト派の決定を連続的に行うとは考えにくい。しかし、クック理事の後任にトランプ大統領が次期FRB議長に指名した人物が選ばれた場合、FOMC内の意見のバランスが利下げ優先に傾く可能性は相当にあると予想する。

 また、2026年になって投票権を持つ地区連銀総裁が交代すると、FOMC内で利下げを大幅に進めるべきという意見が過半数を占め、結果としてトランプ氏の意向が反映されやすくなるということは十分にあり得ると指摘したい。

 

 <インフレ再燃リスクの下で、利下げ止まらない懸念>

 その際に問題になるのは、インフレ圧力が再加速しないのか、という問題だ。筆者は、1)関税分を負担している輸出企業が消費者の動向を見つつ価格に上乗せしてくる可能性が相応にある、2)トランプ政権の不法移民規制が強化された結果、非製造業などでの人手不足が顕在化する、3)トランプ政権の製造業誘致政策の影響で製造業でも人手不足が深刻化する──という要因を背景にインフレ傾向が26年以降に鮮明となる可能性がかなりあると予測する。

 FRBがトランプ氏の意向を忖度し、インフレ再燃の兆しが見えても利下げを続け、現在は4.25%-4.50%の政策金利が3%に接近しても利下げを継続するという展開はかなりの確率で「あり得る状況」と予想する。

 

 <インフレ高進招いたバーンズFRB議長の轍を踏むリスク>

 その時に発生しているのは、米国におけるインフレ抑圧失敗の事例として挙げられるバーンズFRB議長(1970年2月─1978年1月)の時代に発生した高い物価上昇率と経済成長の低迷ではないか。

 バーンズ氏は、第1次石油危機後にコアPCE価格が前年比がプラス10%を超す水準のインフレとなっている中、政金利目標を1974年5月の13.0%から76年3月に4.75%まで引き下げ、実質の政策金利水準が大幅なマイナスとなり、一段のインフレ増進を招いた。

 

 <スティープニングを見込む参加者が急増する予兆>

 このような予兆を感じ取った段階で、マーケットはイールドカーブのスティープニングのポジションを取りに行くだろう。短期金利は利下げを見込んで低下するが、長期ゾーンや超長期ゾーンは将来のインフレ加速を見越して上昇ペースが加速するのではないか。

 ドル/円は当初、米長期金利の上昇を好感してドル買いが先行するだろうが、インフレ加速を無視したかのような利下げの深掘りに対し、どこかの時点でドル売りが優勢になると予想する。

 米株は、短期金利の低下をはやしてハイテク株などが急騰するだろうが、インフレの懸念が深刻化するにつれて、株価の上昇は鈍り、スタグフレーション懸念が広がる事態にまで米経済が悪化するという思惑が広がった段階で、下落に転じるかもしれない。

 

 <米インフレ下のドル安、円高進行で日本株安も>

 米インフレの加速と「止まらない米利下げ」の組み合わせにマーケットが危機感を募らせる事態になれば、主要通貨に対してドルは全面安となり、対円でも円高が進むことになる。

 それがいつの時点で鮮明になるのかははっきりしないが、急速な円高進行は日本株にとって下落要因となるだろう。

 26日のアジア市場で、束の間見えたドル安・円高は、米金利曲線のスティープ化が止まらなくなった先に何が起きるのかを予兆させる現象だった、と言えるのではないか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「賃金に上昇圧力」と植田日銀総裁、市場はいつからその本音を織り込むのか

2025-08-25 16:04:45 | 経済

 市場が注目していた「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演は、市場が9月利下げに扉が開かれたとみて、米株に資金が流入した。25日の東京市場で日経平均株価は続伸したものの、一段高のエネルギー注入はなかった。9月上旬の8月米雇用統計の発表までマーケットはこう着感が強まりそうだ。

 こうした中で、マーケットが織り込んでいない材料が唯一残されている。それがジャクソンホール会議での植田和男日銀総裁の発言だ。人手不足を背景に「賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と述べたが、25日のマーケット反応は乏しかった。筆者はこの発言の重要性を見落としていると指摘したい。賃金に上昇圧力がかかったままで政策金利の大幅な実質マイナスを継続すれば、物価上昇圧力の増大を見逃すことになる。今後の日銀からの情報発信に対する市場の注目度は大幅に上昇すると予想する。

 

 <ジャクソンホールでのパウエル議長講演、市場は9月利下げの公算大と受け止め>

 パウエル議長の講演での発言を「おさらい」すると、7月米雇用統計の結果などから「雇用に関する下振れリスクが高まっていることが示唆されていて、急激な解雇の増加と失業率の上昇という形で急速に表面化する可能性がある」と指摘。「労働市場が減速するリスクが高まる場合には「政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」と述べて、9月の利下げの可能性が色濃いことを強くにじませた。

 インフレ警戒に軸足を置くのではないか、という市場の懸念が根強く存在していたこともあり、22日にダウは前日比プラス846.24ドルの4万5631.74ドルと最高値を更新して取引を終えた。

 

 <年内2回の米利下げ織り込む市場、一段の株高と円高進展には材料不足>

 25日の東京市場は、この米株高を受けて一時、前週末比で500円を超す上昇となったが、午後は伸び悩んだ。というのもパウエル議長の講演を受けて、マーケットは今年12月までに0.25%刻みで2回の利下げを織り込んだが、当面は8月米雇用統計の発表まで米労働市場の弱さをチェックするデータの確認ができないため、「一段高」を織り込めないというムードが広がったからだ。

 ドル/円も22日NY市場で147円を割り込んだが、25日の取引では147円前半での取引で終始した。株式市場と同様に、年内2回の米利下げはすでに織り込んでおり、さらに円高を進める新たな材料が足元では見込めないとの心理が広がった。

 ジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演を織り込んだ市場は「新たな均衡点」を形成しており、ここから先の展開は、フレッシュで強いインパクトを持つ材料の提示があるまで「こう着相場」が続く可能性が高まっていると言える。

 

 <賃金にかかり続ける上昇圧力、植田総裁の指摘をマーケットは無視>

 だが、多くのマーケット参加者がある種の固定観念で無視した発言がある。ジャクソンホール会議の最終日に当たる23日に行われたセッションにおける植田日銀総裁が述べた内容だ。

 「転換期の労働市場の政策的含意」がテーマとなったパネルセッションで、植田総裁は「人口減少下における日本の労働市場:ダイナミクスの変化とマクロ経済へのインプリケーション」と名付けられた分析結果を公表した。

 パウエル議長が22日の講演で労働市場の弱さが顕在化するリスクへの対応として利下げの選択の合理性を指摘したが、植田総裁は日本国内における構造的な人手不足の現状を説明しつつ「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状況が続き、賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と述べた。

 つまり、トランプ関税の賦課によって大きな需要ショックが発生しないのであれば、構造的な人手不足を背景に日本国内の賃金には上昇圧力がかかり続けると述べたことは、賃上げを起点にした物価上昇のメカニズムが働き続けるという蓋然性を指摘したことにほかならない。

 大きな負の需要ショックが生じる可能性については、日経平均株価がいったんは史上最高値を更新し、足元でも最高値付近での推移を続けている現状を見れば、少なくもマーケットはそうしたリスクが高まるとは見てないと言える。 

 

 <賃上げ圧力の継続と3%台のCPI上昇をどうみるべきか>

 今回の講演では、足元の物価情勢への言及はなかったが、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)が8カ月連続で3%台を記録し、生鮮食品を除く食料が前年比プラス8.3%と高止まり、これが日銀の想定よりもコアCPIが上振れて推移する大きな要因になっている。

 政策金利を実質でみれば、マイナス2%台という主要国で飛び抜けて低い水準となっており、それが円の実効為替レートを円安方向に促している。エネルギーと食料の輸入比率が高い日本にとって、円安は物価の押し上げ要因になりやすい。

 

 <日銀利上げへの市場織り込み、進むことになればマーケットへのインパクト増大も>

 こうした中で賃金上昇圧力の継続性に言及した植田総裁の発言は、適時に利上げを検討していくスタンスを示したとみていいのではないか。

 先に指摘したようにマーケットはジャクソンホール後の注目点を探している状況だが、植田総裁の発言は材料視されず、ほとんど織り込まれていない。25日の段階で日銀利上げの織り込みは9月が12%、10月が54%、12月が76%となっていて、ジャクソンホールでの植田総裁の発言の前後で大きな変化はない。

 しかし、これからの日銀金融政策決定会合のメンバーからの発言で、利上げに対する積極的な姿勢が見えれば、織り込みが進む可能性が出てくる。そのケースではドル安・円高の動きがこれまでよりも強まる展開も予想される。

 その意味で、28日の中川順子審議委員による「山口県金融経済懇談会」での講演と会見、9月2日の氷見野良三副総裁による「道東地域金融経済懇談会」での講演と会見は、注目度が一段と上がるのではないかと予想する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする