イスラエル軍が13日、イラン各地にある核関連施設など数十の軍事目標を攻撃したと発表した。これに対し、イランの最高指導者・ハメネイ師が報復を示唆する声明を出し、中東情勢は一気に緊張度合いが増した。マーケットは当初、「リスクオフ」とみなして株売り・債券買いやドル売りで対応したものの、米国の対応次第で世界的な戦争に発展しかねないリスクを意識し、株売りは継続しているものの米国債買いは止まり、ドル指数は戻り基調になっている。
米国とイランの15日の核協議を前にしたイスラエルの先制攻撃は、トランプ米大統領の政治力に打撃を与えたとの見方もあり、今後の中東情勢次第ではドル売り・米国債売り・米株売りのドル建て資産のトリプル安になるリスクもありそうだ。原油輸入の90%超を中東に依存している日本にとって、中東での戦闘激化は原油輸入の途絶リスクと背中合わせであり、日本株と円は戦闘の大規模化(エスカレーション)に対して極めて脆弱なポジションに立たされている。
<イラン総司令官が死亡、ハメネイ師は報復示唆>
イスラエルのネタニヤフ首相は13日に「イランの核濃縮プログラムの核心を攻撃した」と明らかにした。ロイターによると、イスラエルは今回の攻撃作戦を「ライジング・ライオン(立ち上がるライオン)」と名付け、イラン司令官やミサイル工場も標的にしていると指摘。
イランの軍事精鋭部隊の革命防衛隊は、トップのサラミ総司令官がイスラエルの攻撃で殺害されたと発表した。
また、イスラエルによると、13日にイランから100機以上の無人機がイスラエル側に向けて発射されたという。
ロイターによると、イランのハメネイ師が声明を出して「今回の攻撃でイスラエルはみずからの苦い運命を招き、必ず報いを受けるだろう」と表明し、報復を示唆したという。
<イランの反撃、核施設の被害程度によって硬軟両様も>
中東情勢が一気に緊張度を増し、イスラエルとイランの2カ国以外の中東の国々や米国など主要国の出方次第で世界規模の戦争に発展するリスクが高まったことは間違いない。
ただ、イスラエルの今回の攻撃で、イランの核施設がどのような被害を受けたのか、今のところ詳しい状況は明らかになっていない。ネタニヤフ首相はイラン中部のイスファハン州にあるナタンズの主要なウラン濃縮施設と主要な核科学者を標的とし「イランの弾道ミサイルプログラムの核心を攻撃した」と表明したが、イスラエルから見た「戦果」、つまりイランの核施設がウラン濃縮を不可能にするほど被害を受けたのかという点がはっきりしない。
もし、イランが早期の回復が難しいほどにウラン濃縮施設を破壊されていた場合、イスラエルへの報復の対象は同国の核施設などになり、イスラエルによるイランへの激しい再攻撃へと発展する可能性がある。
その一方、イランの受けた被害が軽微であれば、対イスラエルの報復攻撃は上記で指摘したほどには激しくなく、今回のイスラエルの先制攻撃がイランとの二国間における限定的な戦闘に終始することもありえるだろう。
<注目される米国の対応、予想される3つの選択肢 イスラエルと共同で軍事作戦参加なら戦闘激化へ>
その意味で、米国の出方が今後の戦闘を拡大させるのかどうかの大きなカギを握っていると言っていいだろう。
ルビオ米国務長官は13日、イスラエルによる対イラン攻撃について事前に連絡を受けていたと声明で表明しつつ「われわれはイランへの攻撃に関与しておらず、最優先事項はこの地域の米軍を守ることだ」と指摘した。だが、イスラエルが報復攻撃を受けた場合、米国が支援するかどうかには言及しなかった。
今後、大きく分けて米国には3つの選択肢があるとみられる。1つ目はイランとの核協議を再開させる努力を取りつつ、イスラエルのイラン攻撃とは一線を画して軍事的な中立を守るというシナリオだ。2つ目は中東に展開する米軍に対するイランやその他勢力の攻撃があった場合、反撃するという選択肢。3つ目はイスラエルと共同で米軍が対イランの軍事作戦に参加し、イランの核施設やその他の軍事施設に攻撃を加えるという展開だ。
3つ目の選択は、中東全域で戦闘が活発化する危険性を誘発し、ロシアなど他の大国の新たな介入を招くリスクも高め、世界規模で戦闘が展開されるという深刻な懸念が付きまとう。
<戦闘激化シナリオなら世界的株安に、ドル建て資産トリプル安の展開も>
3つ目のシナリオが現実化した場合、マーケットは大きく動揺し、世界規模で株価は大幅に下落することになるだろう。しかし、単純に債券が買われることもないのではないか。戦闘の激化は戦費の増大を招き、米国は赤字国債の増発を余儀なくされ、米長期金利は上昇基調に入る可能性もある。
そのケースではドルも売られ、ドル建て資産のトリプル安に直面する危険性が高まると予想する。
<展開を読みかねるマーケット>
13日のアジアタイムでの取引で、株価の下落ははっきりしたものの、米国債利回りやドルの方向性が株価下落に象徴されるほどにはっきりしなかったのは、単純なリスクオフ相場とは根本的に異なる市場変動への懸念を多くの市場参加者が察知したからではないか。
その意味で、トランプ大統領が中東で軍事介入に踏み切るのかどうか、そこがマーケットの方向性を決めると言っていいだろう。
<原油の中東依存が90%台の日本、戦闘激化なら日本経済と円に大きな打撃>
日本にとって中東の軍事的な緊張の高まりと戦火の拡大は、非常に厄介な問題を提起する。それは日本の原油輸入における中東依存度が90%を超えるという非常に危険な状況になっているからだ。
第1次石油危機のあった1973年度における日本の原油の中東依存度は77.5%だった。85年度には68.8%に低下したもののその後は上昇基調をたどり、2020年度は92.0%と90%台を突破。23年度は94.7%となっている。
もし、中東における戦闘範囲が拡大した場合、原油の安全な積み出しやタンカーの航行に支障を来す事態に直面する。官民の備蓄が239日分あるとはいえ、先行きに深刻な懸念を生じかねないことになる。
また、そうした状況の下では、原油価格が大幅に上昇して日本企業のコストを押し上げ、収益の悪化を招くことにもなる。
市場の一部で、リスクオフだから円高という見方に異論が出ているのも、この先の原油調達のリスクや価格上昇の懸念を勘案すれば、当然の判断と言えるだろう。
<原油上昇、米利下げシナリオに冷水 米株に下押し圧力>
米国が仮に中東での軍事介入を思いとどまったとしても、リスク資産にマネーを配分した参加者には頭の痛い問題がある。それは原油価格の上昇によって沈静化してきた米国の物価に再び上昇圧力が加わり、米連邦準備理事会(FRB)の利下げに大きなハードルとなって立ちふさがる可能性があるということだ。
足元では、消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)の上昇率鈍化によって市場の利下げ観測が高まり、年内に2回の利下げを織り込むようになっていた。
しかし、原油価格の上昇による米国内でのガソリン価格の値上げラッシュに結びつけば、そうした利下げ期待は雲散霧消し、それが株価下落要因として作用することになる。
<イスラエルの攻撃で傷ついた米国の威信、ドル離れ加速の兆しになる可能性>
イスラエルの対イラン先制攻撃は、リスク資産を多く持っている市場参加者にとっては「迷惑」な行為と映ったに違いない。
だが、ことはそれにとどまらず、ネタニヤフ首相がトランプ大統領の意向を無視するかのように振舞い続けた場合、中東における米国の威信に傷が付き、それが中長期的なドル離れの加速に発展する可能性があることも十分に視野に入れておくべきである、と指摘したい。









