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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

イスラエルの先制攻撃、米の出方次第で戦闘激化も 脆弱な日本経済と円の実態

2025-06-13 14:43:50 | 経済

 イスラエル軍が13日、イラン各地にある核関連施設など数十の軍事目標を攻撃したと発表した。これに対し、イランの最高指導者・ハメネイ師が報復を示唆する声明を出し、中東情勢は一気に緊張度合いが増した。マーケットは当初、「リスクオフ」とみなして株売り・債券買いやドル売りで対応したものの、米国の対応次第で世界的な戦争に発展しかねないリスクを意識し、株売りは継続しているものの米国債買いは止まり、ドル指数は戻り基調になっている。

 米国とイランの15日の核協議を前にしたイスラエルの先制攻撃は、トランプ米大統領の政治力に打撃を与えたとの見方もあり、今後の中東情勢次第ではドル売り・米国債売り・米株売りのドル建て資産のトリプル安になるリスクもありそうだ。原油輸入の90%超を中東に依存している日本にとって、中東での戦闘激化は原油輸入の途絶リスクと背中合わせであり、日本株と円は戦闘の大規模化(エスカレーション)に対して極めて脆弱なポジションに立たされている。

 

 <イラン総司令官が死亡、ハメネイ師は報復示唆>

 イスラエルのネタニヤフ首相は13日に「イランの核濃縮プログラムの核心を攻撃した」と明らかにした。ロイターによると、イスラエルは今回の攻撃作戦を「ライジング・ライオン(立ち上がるライオン)」と名付け、イラン司令官やミサイル工場も標的にしていると指摘。

 イランの軍事精鋭部隊の革命防衛隊は、トップのサラミ総司令官がイスラエルの攻撃で殺害されたと発表した。

 また、イスラエルによると、13日にイランから100機以上の無人機がイスラエル側に向けて発射されたという。

 ロイターによると、イランのハメネイ師が声明を出して「今回の攻撃でイスラエルはみずからの苦い運命を招き、必ず報いを受けるだろう」と表明し、報復を示唆したという。

 

 <イランの反撃、核施設の被害程度によって硬軟両様も>

 中東情勢が一気に緊張度を増し、イスラエルとイランの2カ国以外の中東の国々や米国など主要国の出方次第で世界規模の戦争に発展するリスクが高まったことは間違いない。

 ただ、イスラエルの今回の攻撃で、イランの核施設がどのような被害を受けたのか、今のところ詳しい状況は明らかになっていない。ネタニヤフ首相はイラン中部のイスファハン州にあるナタンズの主要なウラン濃縮施設と主要な核科学者を標的とし「イランの弾道ミサイルプログラムの核心を攻撃した」と表明したが、イスラエルから見た「戦果」、つまりイランの核施設がウラン濃縮を不可能にするほど被害を受けたのかという点がはっきりしない。

 もし、イランが早期の回復が難しいほどにウラン濃縮施設を破壊されていた場合、イスラエルへの報復の対象は同国の核施設などになり、イスラエルによるイランへの激しい再攻撃へと発展する可能性がある。

 その一方、イランの受けた被害が軽微であれば、対イスラエルの報復攻撃は上記で指摘したほどには激しくなく、今回のイスラエルの先制攻撃がイランとの二国間における限定的な戦闘に終始することもありえるだろう。

 

 <注目される米国の対応、予想される3つの選択肢 イスラエルと共同で軍事作戦参加なら戦闘激化へ>

 その意味で、米国の出方が今後の戦闘を拡大させるのかどうかの大きなカギを握っていると言っていいだろう。

 ルビオ米国務長官は13日、イスラエルによる対イラン攻撃について事前に連絡を受けていたと声明で表明しつつ「われわれはイランへの攻撃に関与しておらず、最優先事項はこの地域の米軍を守ることだ」と指摘した。だが、イスラエルが報復攻撃を受けた場合、米国が支援するかどうかには言及しなかった。

 今後、大きく分けて米国には3つの選択肢があるとみられる。1つ目はイランとの核協議を再開させる努力を取りつつ、イスラエルのイラン攻撃とは一線を画して軍事的な中立を守るというシナリオだ。2つ目は中東に展開する米軍に対するイランやその他勢力の攻撃があった場合、反撃するという選択肢。3つ目はイスラエルと共同で米軍が対イランの軍事作戦に参加し、イランの核施設やその他の軍事施設に攻撃を加えるという展開だ。

 3つ目の選択は、中東全域で戦闘が活発化する危険性を誘発し、ロシアなど他の大国の新たな介入を招くリスクも高め、世界規模で戦闘が展開されるという深刻な懸念が付きまとう。

 

 <戦闘激化シナリオなら世界的株安に、ドル建て資産トリプル安の展開も>

 3つ目のシナリオが現実化した場合、マーケットは大きく動揺し、世界規模で株価は大幅に下落することになるだろう。しかし、単純に債券が買われることもないのではないか。戦闘の激化は戦費の増大を招き、米国は赤字国債の増発を余儀なくされ、米長期金利は上昇基調に入る可能性もある。

 そのケースではドルも売られ、ドル建て資産のトリプル安に直面する危険性が高まると予想する。

 

 <展開を読みかねるマーケット>

 13日のアジアタイムでの取引で、株価の下落ははっきりしたものの、米国債利回りやドルの方向性が株価下落に象徴されるほどにはっきりしなかったのは、単純なリスクオフ相場とは根本的に異なる市場変動への懸念を多くの市場参加者が察知したからではないか。

 その意味で、トランプ大統領が中東で軍事介入に踏み切るのかどうか、そこがマーケットの方向性を決めると言っていいだろう。

 

 <原油の中東依存が90%台の日本、戦闘激化なら日本経済と円に大きな打撃>

 日本にとって中東の軍事的な緊張の高まりと戦火の拡大は、非常に厄介な問題を提起する。それは日本の原油輸入における中東依存度が90%を超えるという非常に危険な状況になっているからだ。

 第1次石油危機のあった1973年度における日本の原油の中東依存度は77.5%だった。85年度には68.8%に低下したもののその後は上昇基調をたどり、2020年度は92.0%と90%台を突破。23年度は94.7%となっている。

 もし、中東における戦闘範囲が拡大した場合、原油の安全な積み出しやタンカーの航行に支障を来す事態に直面する。官民の備蓄が239日分あるとはいえ、先行きに深刻な懸念を生じかねないことになる。

 また、そうした状況の下では、原油価格が大幅に上昇して日本企業のコストを押し上げ、収益の悪化を招くことにもなる。

 市場の一部で、リスクオフだから円高という見方に異論が出ているのも、この先の原油調達のリスクや価格上昇の懸念を勘案すれば、当然の判断と言えるだろう。

 

 <原油上昇、米利下げシナリオに冷水 米株に下押し圧力>

 米国が仮に中東での軍事介入を思いとどまったとしても、リスク資産にマネーを配分した参加者には頭の痛い問題がある。それは原油価格の上昇によって沈静化してきた米国の物価に再び上昇圧力が加わり、米連邦準備理事会(FRB)の利下げに大きなハードルとなって立ちふさがる可能性があるということだ。

 足元では、消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)の上昇率鈍化によって市場の利下げ観測が高まり、年内に2回の利下げを織り込むようになっていた。

 しかし、原油価格の上昇による米国内でのガソリン価格の値上げラッシュに結びつけば、そうした利下げ期待は雲散霧消し、それが株価下落要因として作用することになる。

 

 <イスラエルの攻撃で傷ついた米国の威信、ドル離れ加速の兆しになる可能性>

 イスラエルの対イラン先制攻撃は、リスク資産を多く持っている市場参加者にとっては「迷惑」な行為と映ったに違いない。

 だが、ことはそれにとどまらず、ネタニヤフ首相がトランプ大統領の意向を無視するかのように振舞い続けた場合、中東における米国の威信に傷が付き、それが中長期的なドル離れの加速に発展する可能性があることも十分に視野に入れておくべきである、と指摘したい。

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5月輸出価格下落、始まった米自動車関税への対応 巨額の内部留保で持久戦も可能

2025-06-11 10:15:52 | 経済

 日銀が11日に発表した5月の企業物価指数で、日本企業がトランプ関税への対応として自社の輸出価格を下げている実態が明らかになった。円ベースの輸出価格指数は前年同月比マイナス6.3%と4月の同マイナス4.3%から下落幅が拡大した。

 日本政府は対米関税交渉で有利な結果を見い出すまでは妥結しないという「持久戦」を覚悟しているもようだが、個別の企業は内部留保の活用で日米交渉が長期化しても耐える戦術を採用する構えとみられる。日本企業は全体で名目国内総生産(GDP)を超える636兆円の利益剰余金を抱えており、しばらくは塹壕に入っても対応可能と筆者は予想する。

 

 <輸出物価の下落、自動車メーカーの対応が影響>

 5月の企業物価指数によると、契約通貨ベースの輸出物価指数も前年同月比マイナス1.4%と4月の同マイナス0.4%から下落幅が拡大した。

 日本経済新聞によると、日銀は一部の企業が北米の子会社と自動車などの輸送用機器の販売価格を調整したと説明したという。

 

 <4月の対米自動車輸出、数量はプラス11.8%・額はマイナス4.8%の意味>

 日本の自動車メーカーがトランプ関税の影響を回避するため、輸出価格を引き下げている実態は4月の貿易統計からも推計できる。4月の対米自動車輸出台数は12万5816台と前年同月比プラス11.8%だった。

 だが、輸出額は同マイナス4.8%の5130億円にとどまっていた。ここから推計できるのは4月の段階で日本の自動車メーカーは1台当たりの輸出価格を円ベースで切り下げ、量の確保に傾注していたのではないか、という動きだ。

 

 <メキシコ経由の対米自動車輸出、メーカー間で明暗 5月はトヨタがプラス29.6%>

 また、メキシコで生産された日本や欧州、米国のメーカーの足元における対米輸出データにも興味深い結果が出ている。

 メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)が9日に発表した5月のメキシコからの自動車輸出台数は前年同月比マイナス2.9%の30万1112台だったが、メーカーごとに明暗が分かれた。トヨタが同プラス29.6%、ホンダが同プラス28.7%、日産が同プラス14.1%、フォードが同プラス7.1%だったのに対し、マツダが同マイナス63.1%、フォルクスワーゲンが同マイナス32.4%、GМが同マイナス18.4%と落ち込んだ。

 米国はメキシコ生産車にも25%の自動車関税を賦課しているが、米国製部品の使用率を差し引いた割合に関税をかける方式を採用。米国製部品を使用する割合が多いメーカーの自動車ほど、適用される関税率が低くなる仕組みになっている。

 日経の報道によると、メキシコ政府は米国製部品の使用率を勘案すると、メキシコで生産されている自動車への税率は平均15%程度と推定しているという。

 日系メーカーにおける5月の輸出台数の明暗は、米国製部品の使用率によって生じた可能性が高いとみられている。また、筆者はトヨタやホンダなど財務体質の強固なメーカーは自動車関税の一部を自社で負担する形で販売価格を抑え、数量を確保した可能性が高いのではないかとみている。

 

 <対米関税交渉、日本は持久戦覚悟 636兆円の利益剰余金が支えに>

 日米関税交渉の行方は不透明だが、6月10日の当欄で指摘したように、米国は日本が納得するような妥協案を提示しておらず、日本は持久戦覚悟で今後の日米交渉に臨む方針を固めているとみられている。

 25%の自動車関税は日本企業にとっては大幅な収益の下押し要因となるが、10日にも指摘したように636兆円という巨額の利益剰余金を日本企業は積み上げており、交渉が7月9日の相互関税の凍結期限を超えて長期化したとしても、塹壕戦を長期間耐えうる財務上の余力はある、と日本政府は認識していると考える。

 一方、強気で交渉すれば「必ず折れる」と見ていた米側は、巨額の利益剰余金の存在を軽視していた可能性がある。

 この先のどこかの時点で、トランプ大統領が対日関税交渉の早期合意が米国にとって「得策」と判断すれば、日米交渉がゴールを迎えることになると予想する。

 5月の輸出価格の低下は、日本企業が「持久戦」に入ったことを示すデータではないかと指摘したい。

 

 <日米交渉の長期化、日本株は底堅さ維持・円安圧力も>

 ただ、マーケットは日米交渉が長期間継続する展開をまだ、織り込んでいないだろう。日本企業の分厚い内部留保によって、大幅な業績下ぶれの可能性はそれほど大きくないと市場が判断すれば、株価は底堅く推移可能性があると予想する。

 一方、ドル/円は日米交渉の長期化によって日銀の利上げ時期が先送りされるとの観測が高まり、円安のバイアスが強まるのではないか。

 しかし、米国の債務上限引き上げやトランプ減税の恒久化を目指した法案をめぐり、米上院での審議が難航し、7月上旬までの可決見通しが怪しくなると、ドル安圧力が強まる展開も予想される。

 マーケットにおける不透明感は、外為市場でより濃くなる可能性が出てきたと言えるだろう。

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米中優先のトランプ政権、日本は対米持久戦に転換か 636兆円の利益剰余金が支え

2025-06-10 12:58:56 | 経済

 9日にロンドンで始まった米中通商協議は、10日午前10時(日本時間午後6時)から再開される。マーケットは米中合意を期待して10日の日経平均株価は続伸しているものの、継続協議になる可能性も相応にあると筆者は予想する。米側の交渉スタンスをみると、自動車や半導体の製造に欠かせないレアアース(希土類)に対する中国の輸出規制の緩和が最優先事項になっているとみられる。その結果、対日交渉の優先順位は下方に後退し、主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせた日米首脳会談での基本合意は危ぶまれている。

 石破茂首相と日本政府は、この状況を踏まえて「交渉の長期化もやむなし」という塹壕戦に交渉戦術を切り替えた可能性があると予想する。仮に7月9日の米相互関税の実施延期期限を突破したとしても、日本が容認できる水準まで自動車関税や相互関税の水準を米国が引き下げなければ、塹壕に入ったまま「耐える」方針を採用したと予想する。その背景には、名目国内総生産(GDP)を上回る636兆円に上る企業の利益剰余金の存在があり、日本企業には持久戦に耐えられる体力があると日本政府は判断しているのではないか。

 

 <レアアースの輸出規制緩和、見合いに米は対中規制を緩める方針>

 米中通商協議の1日目が終了した後、トランプ米大統領は「中国とは順調にやっている。簡単な相手ではない」と記者団に語った。

 また、ハセット国家経済会議(NEC)委員長は、CNBCの番組で「ロンドンの協議では握手の後に、米国の輸出規制が緩和され、中国は多くのレアアースを供給する見通しだ」と語った。さらに「極めて高性能なエヌビディアの製品についてはこの限りではない」と述べ、同社製の最先端半導体は規制緩和の対象外とのスタンスを示した。

 こうした発言を勘案すると、中国によるレアアースの輸出規制で生産に影響が出ている自動車や半導体などへの影響を重視し、米国は半導体の輸出規制などを緩和することを中国に提案している可能性が高い。

 ブルームバーグによると、トランプ政権は半導体設計ソフトウエア、ジェットエンジン部品、化学物質などを対象とした一連の規制措置を撤回する用意があるという。

 また、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、トランプ大統領がハイテク製品などの対中輸出規制について、解除に向けた交渉権限をベッセント財務長官ら交渉団に付与したと報道している。

 

 <TACOを見越した中国、米の大幅譲歩を要求か>

 6月3日の当欄で指摘したように、トランプ大統領はレアアースで決定的な弱みを握った中国に対して大幅な譲歩姿勢を示し、マーケットはそれを見越して半導体関連株などを買い戻し、10日の日経平均株価も大幅な上昇となっている。つまり、足元におけるリスクオン的な取引は、典型的なTACO「Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビッてやめる)」トレードと言うわけだ。

 だが、巧みな交渉戦術を駆使する中国は、一度握った弱みは決して離さない。エヌビディア製の人工知能(AI)関連製品に不可欠な最先端半導体の輸出規制の解除を求め、交渉が難航していると予想される。

 もし、ここで米国が譲歩すれば、この先のAIを中心とした最先端の経済ヘゲモニー(覇権)をかけた米中の争いは中国優位に傾き、トランプ2.0のチーム内で最優先の課題だった対中優位確立のための政策体系はもろくも瓦解する可能性が高まる。

 したがって10日の米中通商協議で最終合意に達することはなく、米中協議は長期化すると筆者は予想する。

 

 <対中交渉優先のトランプチーム、対日融和の姿勢見せず>

 一方、対中協議を優先したトランプ大統領の決断によって、基本合意が遠のいてしまったのが日米交渉だ。

 赤沢亮正・経済再生相が今週中に6回目の閣僚級交渉を行うため、訪米する予定と報道されているが、トランプ大統領が「何かのひらめき」によって、急転直下、日米交渉の妥結を決断しない限り、G7サミットの合間に開催される日米首脳会談で日米関税交渉が基本合意に達する可能性は大幅に低下したと予想する。

 石破首相が9日の参院決算委で、トランプ関税による悪影響が予想される自動車産業などを念頭に「何が何でもサプライチェーン(供給網)を守り抜く」と語ったのも、日本に不利な内容で基本合意する意思がないことを明確に示したと筆者は考える。

 日米間の交渉の実態は堅い情報コントロールによって全く外界に漏れてこないものの、日米通商交渉の実務に詳しい複数の関係者は、25%の自動車関税の適用を免れて、10-15%の低率関税を適用する対米輸出の自動車の台数をめぐって、最終的なつばぜり合いが展開されている可能性があると指摘する。

 例えば、2024年の対米自動車輸出の台数である約137万台に対し、米国が50万台に10%の関税を適用し、それ以外に25%を適用すると提案していたとすると、日本政府は「ノー」と言わざるを得ないだろう。

 

 <石破首相、不利な合意よりも塹壕戦を選択か>

 もし、G7サミット開催期間に行われる日米首脳会談で関税での合意ができなかった場合、次の交渉の節目は相互関税の凍結期限である7月9日が注目されることになる。

 ただ、数週間で日米の距離が急速に縮まると考えるのは、楽観的に過ぎるかもしれない。その場合は、日本に対する相互関税の凍結期限を数カ月単位で延長することに米側を誘導し、持久戦に持ち込む戦術が浮上するのではないか。

 米側は、対米自動車輸出に依存する日本経済の「ゆがみ」に着目し、強気に出れば日本は折れるとみて、対中交渉で見せているTACOとは対照的に、全く譲歩する姿勢を見せていない。

 

 <米側が見落としている636兆円の利益剰余金、持久戦に耐えられる規模>

 しかし、米側は見落としているものがある。それは、日本企業が欧米企業と比較して飛び抜けて巨額な利益剰余金を積み上げていることだ。 

 財務省が6月2日に発表した2025年1-3月期の法人企業統計によると、調査対象企業の利益剰余金は前年同期比プラス8.4%の636兆5314億円と過去最高を更新した。同じ期間の日本の名目GDPである625.3兆円を大幅に上回る規模となっている。

 永続的に25%の自動車関税がかかれば、日本の自動車産業が生き残る道は相当に限られるが、交渉妥結までの期間であれば、関税を企業が負担しても十分に対応が可能であることは明白だ。

 石破首相と日本政府の対米交渉チームは、その点を十分に認識して「塹壕戦」に臨み、米側との妥協点を探る道を取ったと筆者は考える。

 

 <内閣と自民の支持率上昇、日米交渉の長期化なら内閣不信任案の可決可能性も低下へ>

 NHKが6月3日から3日間にわたって実施した世論調査によると、石破内閣の支持率は6ポイント上昇して39%となり、不支持率は6ポイント低下して42%となった。政党支持率でも自民党が5.2ポイント上昇の31.6%になったのに対し、主要な野党の支持率は軒並み低下した。

 日米関税交渉の長期化は、7月に予定されている参院選に不利との観測もあったが、交渉中は内閣不信任案を提出する大義が生じないとの声が、野党第1党の立憲民主党内にあり、内閣不信任案の可決によって日米交渉を行う政治的基盤が毀損されるという最悪の展開も回避できそうな状況になってきた。

 石破首相は、日米関税交渉を塹壕戦で戦う環境が整ってきたと判断しているのではないか。

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5月CPI・PPIが映す中国のデフレ、米中通商協議は「消耗戦」に

2025-06-09 15:18:00 | 経済

 中国のデフレ現象が長期化の兆しをみせている。中国国家統計局が9日に発表した5月消費者物価指数(CPI))は前年同月比0.1%下落となり、4カ月連続でマイナスだった。5月生産者物価指数(PPI)も前年同月比3.3%下落で1年10カ月ぶりの大きな低下幅となった。長引く不動産価格下落の影響で深刻な消費不振に陥っており、典型的な「資産デフレ」に直面しているものの、中国政府は過剰な住宅供給の圧縮という「大ナタ」を振るわずに傷口を広げている。

 9日にロンドンで開催される閣僚レベルでの米中通商協議は、国内消費の低迷とデフレからの脱却を目指すため、中国にとってトランプ関税の見直しによる対米輸出の回復は喫緊の課題とみられるが、対中輸出の拡大を強く求める米国との溝は大きく、レアアースの対米輸出規制の緩和問題も絡んで交渉の行方は不透明なままだ。デフレ問題を抱える中国にとって、米中の通商協議は厳しい「消耗戦」になりそうだ。

 

 <BYDの値下げが象徴する中国内需の弱さ>

 中国の5月CPIの下落幅は4月の同0.1%から横ばいだったが、国内消費の低迷を反映した耐久消費財の価格下落が続き、自動車・バイクは同3.4%下落となった。

 実際、中国EV最大手の比亜迪(BYD)がEV、プラグインハイブリッド車の価格を最大で34%値下げした。

 5月PPIの下落幅はCPIを大きく上回り、さらにマイナスは2年8カ月連続となり、物価の上流部門で消費低迷による価格の連続的下落が目立ってきている。

 

 <デフレの震源地は不動産市場の供給過剰、個人の財産は日々劣化>

 これらの現象の「震源地」が不動産市場における供給過剰による価格下落にあることは間違いない。所有している住宅価格の下落は、個人の財産価値が「日々劣化」していることを意味し、消費を抑制する。

 さらに借入で複数の不動産を所有していた富裕層は、不動産価値の急落で資産を売却しても債務が残るという「過剰債務」問題にも直面し、高額消費が抑制される大きな要因になっている。

 統計局のデータに基づいてロイターが算出した結果によると、4月の新築住宅価格は前年比で4.0%下落となり、下落トレンドは2023年5月から継続している。 

 1990年代に日本が経験したバブル崩壊後の「資産デフレ」の数倍の規模でデフレ効果が表面化しようとしているのが、今の中国経済の現実だ。

 

 <トランプ関税で行使できない中国の輸出ドライブ政策>

 内需の不振は外需の振興でこれまで何回も中国は切り抜けてきたが、今回はトランプ関税によって対米輸出の増加を阻まれ、頼みのEV輸出も米国だけでなく欧州でも規制が強化され、輸出ドライブによる景気底上げという「伝家の宝刀」が振るえない事態に直面している。

 日本のメディアの多くは、レアアースの対米輸出規制で米国内の自動車や半導体メーカーが苦境に立ち、米中通商協議は「中国優位」で進んでいるとの見立てが多いが、中国側の内情も上記で指摘した資産デフレの進行による内需不振で「満身創痍」と言っていいだろう。

 

 <ロンドンでの米中協議、レアアース問題解決しても多くの懸案残る>

 中国としては、レアアースの輸出規制緩和でトランプ関税の大幅な引き下げによる対米輸出の大幅増を期待しているはずだ。

 しかし、米国は米国製品の対中輸出拡大を強く求めており、その実行が担保されないのであれば、トランプ関税を当初の合意にしたがって30%まで引き下げることに難色を示すことになるだろうと予想する。

 9日の米中協議は、市場の合意期待が高いものの、合意に達するには多くの懸案を解決する必要があり、協議の継続で合意するという結果になる可能性もあると予想する。

 

 <資産デフレで中国の消費者は節約継続、補助金政策は弥縫策>

 資産デフレに悩む中国にとって、米中通商協議は典型的な「消耗戦」になるのではないか。毛沢東の持久戦論をバックボーンに持つ中国の交渉術は、米国を上回るとの指摘が専門家から出ているものの、国内のデフレ問題に有効打を打てない習近平主席と当局は、時間の経過とともに不動産価格の下落によって痛みを感じる消費者の「節約行動」によって、新たな経済対策の実施に追い込まれるのではないか。

 だが、これまでのような消費を刺激する補助金政策は「弥縫策」に過ぎず、金融緩和も「痛み止め」にはなるものの、不動産価格の下落に歯止めをかけることはできない。

 巨額の財政資金投入という中国の信認にかかわる問題が出てくるものの、過剰不動産を公的資金で整理していくという方針を打ち出さない限り、資産デフレは解決できず、21世紀版の中国の持久戦は苦戦が続くことになると予想する。

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弱い雇用統計なら意識される米利下げ前倒し、週明けに円高・日本株安の展開も

2025-06-06 15:39:46 | 経済

 6日の東京市場では米中首脳の電話会談を受けて米中間の緊張が緩和されるのではないか、との期待感から日経平均株価が底堅く推移した。だが、米国では雇用関連の指標が弱めに出ているケースが増え、6日発表の5月米雇用統計で弱いデータが出ることへの警戒感も広がっている。

 もし、非農業部門の雇用者数や失業率が市場予想を下回った場合は、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを予想する声が増え、外為市場でドル安・円高が進展する可能性が高まる。週明けの東京市場で円高が進んでいるのかどうかは、米雇用統計の結果が決めることになる。

 

 <5月米雇用統計、予想比で弱い結果なら市場反応大きく出る可能性>

 5月米雇用統計の市場予想は、非農業部門の雇用者数が前月比プラス12万6000人、失業率が4.2%となっている。

 複数の市場筋によると、結果が予想比で強めだったり横ばいだった場合の市場反応は小さいとみられているが、予想比で弱い場合は米連邦準備理事会(FRB)の利下げ時期が前倒しされるとの思惑が強まり、外為市場でドル売りが顕在化しやすくなるとの声が広がっている。

 

 <弱かったADP雇用報告と新規失業保険申請件数>

 背景にあるのは、弱い雇用関連の指標が目立ってきているためだ。

 米労働省が5日に発表した5月31日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は、前週比8000件増の24万7000件となり、昨年10月以来7カ月ぶりの高水準を記録した。

 また、米ADPリサーチ・インスティテュートが4日に発表した5月の全米雇用報告では、民間雇用者数が3万7000人増と市場予想の11万人を大きく下回った。増加幅は2023年3月以来の低水準となった。

 雇用関連のマクロ指標の悪化を裏付けるように、米企業の人員カットも表面化してきた。日用品大手の米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は5日、今後2年間で約7000人の人員を削減すると発表した。トランプ関税の実施で消費者心理が悪化することに備える動きとみられている。

 

 <失業率が予想の4.2%より悪化なら、7月米利下げ予想を押し上げへ>

 一部の市場参加者は、こうした雇用関連の悪いデータが散見される現状では、5月米雇用統計の結果が大幅に下振れする可能性が相応にあると予想している。

 例えば、非農業部門の雇用者数が予想のプラス12万6000人から、一けたの数万人増にとどまる可能性もあるという声も出ている。

 雇用者数よりもFRBが重視している失業率が、予想の4.2%から悪化して4.3%ないし4.4%になった場合は、FRBの利下げが前倒しされるとの思惑が急浮上することも予想される。

 現状で6月利下げは4%、7月利下げは32%の織り込みとなっているが、失業率が4.3-4.4%に悪化した場合は、7月利下げの織り込みが50%を超えることも予想されるという。

 

 <弱い米雇用統計、円高とリンクへ 日本株の売り要因に>

 そのケースで最も反応するのは外為市場だろう。ドルは対主要通貨で下落することが予想され、ドル/円も足元の143円後半から144円前半の水準から142円台へとドル安・円高が進行すると思われる。

 円高の進行は日経平均株価の上値を抑えることになり、弱い米雇用統計は結果的に日経平均株価の売り材料として捉えられることになるのではないか。

 

 <注目される6日の赤沢・ベッセント会談、首脳会談セットなら高まる基本合意への期待>

 他方、米雇用統計とともに注目されるのは、6日に予定されている赤沢亮正・経済再生相とベッセント米財務長官による日米関税交渉の行方だ。もし、ここで大幅な歩み寄りがみられ、週明けに日米双方から日米首脳会談が6月中旬に開催されると発表されたなら、それは日米間の関税協議が基本合意に達する公算大ということを意味し、日本株の大幅な買い材料となるだろう。そのケースでは、米利下げ観測の高まりによるドル安・円高の日本株抑圧要因よりも、日米関税交渉の決着を見越した日本株買い要因が上回るのではないか。

 週明けの東京市場は、2つの変動要因によってボラタイルな展開になるかもしれない。

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