
14日の東京市場には「ベッセントショック」が走った。ベッセント米財務長官が13日にブルームバーグのテレビ番組の中で、米政策金利は150-175ベーシスポイント(bp)低い水準にあるべきであると述べるとともに、日銀は金融政策で後手に回っており利上げすべきだと指摘。ドル/円は一時、146円前半までドル安・円高が進行し、日経平均株価は前日比625円41銭(1.45%)安の4万2649円26銭で取引を終え、7営業日ぶりに反落した。
12日に公表された日本経済新聞のベッセント氏へのインタビュー記事は無視したかたちになったマーケットも、13日の発言には反応せざるを得なかった。事実上、日銀に対する利上げ要請とも受け取れる米財務長官による異例の発言に加え、13日に公表された日本政府の経済財政諮問会議の議事要旨では、民間議員の一部から早期の利上げを求める意見が出ていたことも明らかになった。日銀の利上げに対する内外からの見解に対し、日銀から今後、どのようなメッセージが出てくるのかが大きなポイントとして浮上してきた。
<146円前半まで円高進む、日経平均株価は7日ぶり反落>
14日のドル/円は一時、146.35円付近までドル安・円高が進行した。ベッセント米財務長官の発言で日米金利差が縮小するとの思惑からドル売り・円買いの動きが優勢になった。
円高の進行は、6日続伸してきた日経平均株価の上値を直撃。6日間で3000円近い上昇を演じ、一部で過熱感がささやかれていた局面でのベッセント財務長官の発言を受け、利益確定売りが出やすい地合いになったという。
<ベッセント発言受け、市場は26年末までに135bpの米利下げを織り込み>
日米金利の両方の動向に言及したベッセント氏の発言の威力は、相当の規模に及んだが、米政策金利の利下げの織り込みと日銀の利上げに対する織り込みの程度は「非対称」だった。つまり、米利下げに関して市場の織り込みは相当に進んだが、日銀利上げに対する市場の懐疑的な見方は依然として根強いということだ。
ブルームバーグによると、ベッセント財務長官は米利下げに関し「9月の0.5ポイント利下げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろうと考えている」と述べるとともに、米政策金利は「おそらく150、175ベーシスポイント低い水準にあるべきだろう」と語った。
この発言を受け、市場は2026年12月末の段階で135bpの利下げを織り込む動きを示した。
<「日銀は利上げするだろう」、海外中銀に異例の発言>
一方、ベッセント氏は米国債利回りが日本やドイツといった外国の金利動向の影響を受けていると指摘。「日本はインフレ問題を抱えており、確実に日本からの波及がある」と述べるとともに、日銀の植田和男総裁と話したと明らかにした。
その上で「これは総裁の見解ではなく、私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」と述べた。
米財務長官が日銀総裁と話した、と公表するのは異例のことだが、さらに海外の中銀の金融政策のあり方に具体的に触れて「後手に回っている」「利上げするだろう」と発言するのは前例がないと言っていいだろう。
筆者の眼には、ベッセント財務長官が日銀に対して強く利上げを求めてきたと映る。
<市場の利上げ織り込みは緩やか、米利下げ織り込みと対照的>
しかし、日本の市場参加者の多くは、このベッセント氏による異例の発言が日銀に大きな影響を与えることはない、と判断しているのではないか。
市場の日銀利上げの織り込みは、9月は10%、10月が42%、12月が64%と発言を受けても大きな変動を見せていない。2026年1月で88%となり、多くの参加者は来年1月には25bpの利上げがありそうだ、とみている。
来年12月の段階で2回目の利上げを92%織り込んでおり、おおざっぱに言えば、市場は来年1月までに1回目の利上げ、その後は来年12月までにもう1回実施するという緩やかな利上げのイメージを崩していない、ということだ。
<一段の米利下げ加速の材料出なければ、130円台への円高は現実味乏しい>
マーケットは来年12月までに米利下げを135bp織り込んでいるのに対し、日本の利上げは同じ時期に46bpしか織り込んでいないという特徴が示されている。
つまり14日の東京市場でドル/円が一時、146円前半で円高方向に振れた背景には、上記で示した米利下げの市場織り込みが前提となっており、さらに利下げペースが加速されるという新しいニュースが登場しなければ、米金融政策を材料にして130円台や120円台への円高進行が現実味を帯びるという可能性は低いということだ。
他方、織り込みの進んでいない日銀利上げに関し、そのペースが速まったり、結果としてターミナルレート(利上げの最終到達点)が市場の想定を上回る可能性が高まれば、円高方向にシフトする材料として注目されるということになる。
<米利下げの行方、市場の注目集まる来週のジャクソンホール会議>
米利下げの今後のペースを占う上で最も重要視されるのは、カンザスシティ連銀が米ワイオミング州ジャクソンホールで開催する経済シンポジウムであるジャクソンホール会議におけるパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の発言になる。
今年は8月21-23日に開催される予定。そこでパウエル議長が9月利下げの可能性を示唆するのか、利下げのペースについてどのようなヒントを提示するのかにマーケットの関心が集中するだろう。
<日銀の早期利上げ求めた諮問会議の民間議員>
日銀の利上げに関しては、ベッセント財務長官の発言という海外からの波紋だけでなく、国内からも早期の利上げを求める声が経済財政諮問会議の民間議員から出て、日本のマクロ政策をウオッチしている専門家の注意を集めている。
13日に公表された経済財政諮問会議(8月7日開催)の議事要旨によると、新浪剛史・サントリーホールディングス会長が物価高について発言。その中で日本の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)が「インフレ目標である2%を39カ月連続で上回っており、G7(主要7カ国)諸国の中でも高い物価上昇率を示している」と指摘。「インフレが長きにわたり国民の生活に明らかに影響を与えている」「一時的な供給制約によるインフレとは言い難く、金融政策が後手に回っているのではないか、いわゆるビハインド・ザ・カーブになっているのではないかと大変危惧をしている」と述べた。後手に回っているとの指摘はベッセント氏と奇しくも同じ表現となった。
その上で「金融というところにもしっかりと政策を早期に打っていく必要がある」と指摘し、早期の利上げを求めた。
また、柳川範之・東大大学院経済学研究科教授も「高いインフレ率が続いてしまうと実質賃金が下がってしまう、あるいはインフレ率、物価高による国民への影響が出てくるというところでいくと、かつては2%を何とか実現するというところが目標だったわけだが、今は2%を安定的に実現するという、落ち着かせるための政策運営が求められる」と述べていた。
経済財政諮問会議の民間議員の一部から、早期の利上げを求める意見がはっきりと打ち出されたことは、国内における物価高問題と金融政策の絡みという点で、これまでとは違った外部環境が形成されつつあることを示しているのではないだろうか。
内外からのこうした利上げを求める見解に対し、日経平均株価の最高値更新の経済的な意味をどのように解釈するかということも含め、日銀がどのようなメッセージを発信してくるのか──。その内容によっては、市場の日銀利上げの織り込み度合いが大幅に変わることもあるのではないか。
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