一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

衆院選開票速報の見どころ:与党過半数の行方占う注目選挙区はどこか

2024-10-25 14:13:12 | 政治

 内外の注目を集めている衆院選の投開票日が27日に迫ってきた。今回は複数の国内メディアが事前の予測報道で、自民党と公明党の連立与党で過半数の233議席を維持するのは微妙と伝えている。27日午後8時から出口調査の結果に基づいた推計獲得議席数を各テレビ局が一斉に速報するが、実際の開票作業はその時点から始まる。

 午後9時から10時にかけて、東北、北海道、北陸、中国、四国、九州など人口の少ない地域から当選確実者が明らかになっていく。その後、都市部での開票が進み、28日午前零時過ぎには与党で過半数を維持できるかどうかの見通しが立ってくると予想される。

 今回は、開票作業の進展にしたがってどの選挙区に注目するべきか、そこでの当落によって今回の衆院選での基調がどうなっていると判断できるのか、という点を説明し、少しでも早い時点で開票結果の「基調」が分かるように読者の皆様をご案内したいと考えている。

 今回の衆院選は、自民党から見ると「西高東低」となっており、東日本での激戦区での勝敗によって、単独過半数の233議席は確保できるのか、220議席程度の議席に減少するのか、それとも200議席まで減少するのかを推定できるように解説していきたい。

 

 <開票序盤の見どころ>

 

 1.東北

  青森1区(青森市など) 前回は自民候補が圧勝したが、今回は自民前職の津島淳氏と立憲元職の升田世喜男氏が接戦と伝えられている。もし、立憲が勝利すれば、自民党の過半数割れの可能性が高いと予想できる。

  青森3区(弘前市など) 前回は自民候補が立憲候補の2倍近い得票で圧勝したが、今回は立憲新人の岡田華子氏が自民前職の木村次郎氏をリードしていると報道されていた。立憲が勝てば自民党は220議席程度まで議席を減らす流れになっているとみるべきだろう。

  秋田1区(秋田市) 過去2回は自民候補が勝利している。今回は立憲前職の寺田学氏と自民前職の冨樫博之氏が互角の戦いとなっている。立憲が勝利すれば「躍進」の流れとみることができる。自民が勝てば終盤戦での盛り返しを象徴する選挙区となり、大敗を回避できるとの判断が浮上するかもしれない。

  宮城3区(白石市など) 前回は3万票超の差で自民候補が勝利した。今回は立憲新人の柳沢剛氏が自民前職の西村明宏氏に先行していると報道された。自民が敗れるようなら220議席の確保も危ぶまれる事態になりかねない。

  福島4区(いわき市など) 自民新顔の坂本竜太郎氏がやや優勢で立憲新人の斎藤裕喜氏が追う展開とされている。自民が勝利すれば立憲が優勢な福島県で踏みとどまったことになるが、もし、敗北するなら東北での自民劣勢を象徴する選挙区になるかもしれない。

 

 2.北陸・信越

 新潟5区(十日町市など) 立憲前職の梅谷守氏と自民前職の高鳥修一氏が接戦と伝えらえている。もし、自民が敗北すれば、新潟県内の1-5区で自民全敗・立憲全勝の可能性が高まり、自民は220議席の確保も危ぶまれることになりかねない。

 富山1区(富山市の一部) 自民が議席を死守してきた選挙区。今回は立憲新顔の山登志浩氏と自民前職の田畑裕明氏が互角の戦いとみられている。自民が議席を失えば、220議席程度への議席減が視野に入ってくる。

 長野5区(飯田市など) 過去2回とも自民が議席を獲得してきたが、自民前職の宮下一郎氏と立憲新顔の福田淳太氏が伯仲した戦いとされている。もし、立憲が勝利すれば躍進を象徴する選挙区となる一方、自民退潮が鮮明になるとも言える。

 

 <開票中盤のポイント>

 

 1.北海道

 北海道5区(札幌市の一部など) 前回は自民候補が当選し、立憲候補は比例復活できなかった。今回は立憲元職の池田真紀氏がやや優勢で、自民前職の和田義明氏が追う展開とされている。自民が巻き返せば、選挙戦終盤の追い上げの成果が出た選挙区となる。立憲が勝利すれば、全国的な支持拡大の流れの1つとみられるだろう。

 北海道10区(岩見沢市など) 公明党が道内唯一の小選挙区勝利を維持してきたが、今回は立憲前職の神谷裕氏が公明前職の稲津久氏を一歩リードしていると伝えられている。与党が議席を持ちこたえることができるのか注目されている。

 

 2.北関東

茨城6区(土浦市など) 過去2回は自民が議席を獲得している保守王国の選挙区。立憲前職の青山大人氏と自民前職の国光文乃氏が互角の激戦と報道されている。もし、自民が敗北するなら220議席の確保も危うくなるとみられるだろう。

栃木4区(小山市など) ここも自民が議席を堅持してきた。立憲前職の藤岡隆雄氏が元総務会長の自民前職佐藤勉氏に対してやや優勢と伝えられている。仮に立憲が勝利すれば、自民党にとっては手痛い敗北となってしまう。

群馬3区(太田市など) 前回は自民候補が立憲候補に2万票近い差をつけて当選した。今回は、自民前職の笹川博義氏が立憲元職の長谷川嘉一氏と接戦になっていると報道された。自民が大敗回避へ持ちこたえるのか注目されている。

 

 <開票終盤、与党過半数を見極める首都圏の選挙区>

 

 東京3区(品川区など) 自民前職の石原宏高氏と立憲新人の阿部裕美子氏が激しく競り合うとされている。自民が勝てば何とか220議席は維持できる可能性も出てくるが、立憲勝利のケースでは都区部での自民敗北の連鎖の可能性も生じかねず、200議席程度までの減少を覚悟する必要性が浮上するだろう。

 東京7区(港区、渋谷区) 3区と同様に自民の浮沈を占う選挙区になる。立憲元職の松尾明弘氏と自民新人の丸川珠代氏が互角の戦いと報道されている。自民が勝利すれば何とか220議席を確保できるかもしれないが、立憲が勝利するなら自民、公明での過半数獲得が困難という解説がテレビで行われている可能性がある。

 東京11区(板橋区南部) 無所属前職の下村博文氏と立憲元職の阿久津幸彦氏が接戦とされている。政治とカネの問題で注目されている選挙区の1つで、立憲が勝てば選挙報道の中でスポットが当たると予想される。敗北すれば、野党乱立の象徴選挙区として取り上げられそうだ。

 東京18区(武蔵野市など) 立憲新顔の松下玲子氏と自民新人の福田かおる氏が互角の激戦と報道された。多摩地区のトレンドを占う上で重要な選挙区で、自民が勝利すれば東京での大敗北を回避できる可能性が出てくるが、敗北するなら多摩地区でのドミノ倒し的な敗北の可能性も出てくる。

 東京24区(八王子市の一部) 無所属前職の萩生田光一氏と立憲新顔の有田芳生氏の伯仲した戦いが展開されていると報道されている。今回の衆院選で最も注目されている選挙区ともいえ、午前零時を過ぎても当落が判明していない可能性もある。

 神奈川20区(相模原市南区など) 立憲新人の大塚小百合氏と自民前職の甘利明氏が接戦と伝えられている。甘利氏は比例に重複立候補しておらず、背水の陣。都市部における自民党の勢いを図る選挙区とも言える。

 埼玉14区(草加市など) 党代表の公明前職、石井啓一氏と国民前職の鈴木義弘氏が接戦と報道されている。公明として負けられない選挙区となっているだけに注目されている。仮に国民前職が勝利するケースでは、自公で過半数割れという事態になっている可能性もある。

 千葉3区(市原市など) 官房長官を務めた自民前職の松野博一氏と立憲元職の岡島一正氏が激戦となっていると伝えられている。政治とカネの問題で有権者がどのような判断を下すのか、という点で注目されている。

 

 上記の首都圏での激戦区における当落が判明する28日午前1時ごろには、比例代表での獲得議席の大勢も判明し、自公で過半数を維持できるのか、それとも割り込むのかがはっきりしているだろう。

 その間に石破茂首相(自民党総裁)らに対するテレビ各社のインタビューも相次いで報道され、発言が速報メディアによって流され、28日の東京市場の行方を大きく左右することになる。

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衆院解散、総選挙は与野党「減点競争」に 党首討論で石破首相の論戦力目立つ

2024-10-09 14:36:22 | 政治

 衆院が9日に解散された。その直前に石破茂首相と野田佳彦・立憲民主党代表ら野党トップとの党首討論が行われたが、双方に優劣を決するような有効打がなく、不透明感を強めながら15日公示・27日投開票の衆院選に突入する。

 今回の総選挙では、石破首相の発言のブレによる「失望感」と、選挙協力ができないまま候補者が乱立する野党の「無力感」というマイナス要素のぶつかり合いとなっており、減点競争の様相を強めているのが特徴だ。国民の間では食料品などの長引く物価高への対応を求める声が強いものの、野党側は経済政策で決め手を欠き、衆院選公示前の序盤情勢は自民・公明の両党がかろうじて過半数を制している状況ではないか、と筆者は予想する。これからの選挙戦で、減点競争から脱して国民の共感をより強く得た政党が衆院選の勝者になるだろう。

 

 <石破首相対野田代表の論戦、優劣はっきりせず>

 9日の党首討論は、従来の45分から80分間に延長され、議論の展開によっては衆院選の流れを決める材料が出てくる可能性もあった。

 立民の野田代表は多くの時間を割いて、政治とカネをテーマに石破首相に論戦を挑んだ。「論客」として高名な野田代表の舌鋒は鋭かったものの、石破首相が論点を微妙に外す「弁論術」を駆使したこともあり、言葉に詰まったり、事前の発言と食い違ったことを述べるいわゆる「失言」もなく、優劣がはっきりしないまま終了した。他の野党党首との討論で石破首相は、次第に慣れを発揮してつけ入るスキを見せることはなかった。

 この日の討論で新しい情報があったとすれば、野田代表とのやり取りの中で、公認しなかった候補者が当選した場合の追加公認の可能性について「(当選という結果を)国民が判断した場合、(追加で)公認することはありうる」と石破首相が発言したところぐらいだろう。

 野党側は、党首討論という晴れ舞台のチャンスを得たものの、それを有効に活用できなかったといえるのではないか。また、野田氏以外の野党トップは、石破首相との論戦力でやや劣勢との印象を与えたのは、今後の選挙戦ではマイナスだったかもしれないと筆者は感じた。

 

 <野党は物価問題対策で追及なし、国民のニーズとかい離か>

 野党側はこの日の論戦で、多くの時間を「政治とカネ」の問題に費やしたが、国民の多くが物価高に直面してその解決策を求めているという実態とかい離していたのではないか。

 多くの大企業で賃上げ率5%台・ベースアップ3%台の賃金引き上げを実現したものの、中小・零細企業を合わせた全体では、8月の実質賃金が前年比マイナス0.6%と3カ月ぶりに水面下に没したことなどを踏まええると、各種世論調査で見られるように物価高対策で自民党を上回る具体的で効果的な政策手段の提示が野党に求められると考える。

 「政治とカネ」の一本勝負で衆院選を戦い続ければ、多くの国民から政権担当能力に関する疑問符を付けられ、裏金問題で膨らんだ与党への不満を現実の投票行動に結びつけることが難しくなると予想する。

 

 <石破首相のブレと野党の選挙協力不発、どちらのマイナスが大きいか>

 今回の衆院選全体を展望すると、自民党総裁に就任して内閣を組織した石破首相の発言のブレや石破色の封印とも指摘される「守り重視の政策展開」で、石破首相と自民党は手にするはずだったご祝儀相場を得ることができず、当初の想定よりも低い支持率で衆院選に臨むことになった。

 他方、立民を中心とした野党側も15日の公示までに選挙区調整が劇的に進展する可能性が低く、小選挙区で野党候補が乱立したままでの戦いになる見通しだ。立民の小沢一郎・総合選挙対策本部長代行は8日、野党の候補者一本化について「魔法使いでもない限り、難しいんじゃないか」と述べており、バラバラのままで選挙戦に突入する可能性が高いことを示唆した。

 このように自民党と野党の双方に、マイナスの材料を抱えて減点の大きさを競う選挙になりそうな様相となっており、一部の週刊誌が報道しているような自民党・公明党を合わせて衆議院の過半数の233議席を割り込む大敗の可能性は、少なくとも公示前の段階では低いと筆者はみている。

 

 <選挙戦で注目される石破首相の発言、失言なら市場に大きな影響も>

 ただ、衆参の国政選挙では過去にも首相や党幹部の失言で、その政党が急失速したケースが何度もあり、すでに発言のブレを指摘されている石破首相にとって、軽はずみな発言が大きな打撃になるリスクがかなりあるとみられている。

 8日の当欄でも指摘したとおり、27日の投開票まで衆院選の情勢報道は日本株やドル/円の動向にも大きな影響を及ぼしかねない。自民党がこれから発表する衆院選の公約以上に、石破首相の日々の発言の動向にマーケットの関心が集まるのではないかと予想する。

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保守寄りの論客・野田新代表で自民党総裁選に影響も、織り込み進まぬマーケット 

2024-09-24 13:00:54 | 政治

 立憲民主党の新代表に野田佳彦・元首相が選出された。27日に投開票される自民党総裁選にも影響が出ると筆者は考える。早ければ10月27日にも実施が予想される次の衆院選を前に、保守寄りの中道路線を掲げる論客の野田氏と互角以上に渡り合える新総裁はだれか、との視点で投票権を行使する自民党国会議員が少なくないとみられているためだ。

 マーケットは混戦の自民党総裁選の結果を絞り切れていないが、衆院解散・総選挙から投開票日にかけて日本株が上昇した過去のケースを踏まえ、どの候補が当選すれば何が衆院選のテーマになって、どういう銘柄が買われるか証券業界ではシミレーションが進んでいるに違いない。ただ、今回は首相経験のある野田氏も新首相の候補の一角に入れておく必要が出てきたかもしれない。

 

 <自民には難敵、世襲議員とカネで追及も>

 23日の臨時党大会での代表選では、野田氏ら4人による1回目の投票で過半数を獲得した候補者がおらず、決選投票で野田氏が枝野幸男・元代表を破って新代表の座を射止めた。

 野田氏が勝利した背景には、近づく衆院選で勝てる「選挙」の顔としての野田氏の強みが意識されたことがあった。立憲民主党の弱点と言われる政権担当能力への疑問点を元首相の経験で打ち消し、外交・安全保障政策の現状維持を掲げ、これまで自民党を支持してきた「穏健保守層」を自民党から奪い取ることを野田氏は狙っており、政治とカネの問題で支持率を落としている自民党にとってはかなりの難敵と言えるだろう。

 また、世襲の制限では、政治団体の資金は最大5000万円まで親から子に名義変更しても非課税になるという現行法の構造に着目し、運用によっては相続税の抜け穴になりかねない点に野田氏が着目している点も見逃せない。世襲議員が多い自民党にとって、世襲の制限を真正面から掲げる野田氏は、非常に戦いにくい相手になる可能性がある。

 

 <衆院選間近、自民・立民とも選挙の顔意識>

 これまでの自民党総裁選で、野党党首選びの結果が自民党内の動きに影響を与えたというケースはなかったと言える。その点で、今回の自民党総裁選は衆院選直前で選挙を意識せざるを得ず、立民と同様に自民党も「選挙の顔」としての機能が優先事項になるだろう。

 さらに論戦力で定評のある野田氏と互角以上に戦える能力があることや、穏健保守層などより中道寄りの有権者にどの程度、支持の手を伸ばせるのかという点も意識されることになったと思われる。

 

 <日本テレビ調査、1位石破氏・2位高市氏・3位小泉氏>

 日本テレビが9月20日ー21日に実施した自民党員・党友を対象にした緊急電話調査(1007人が回答)によると、石破茂・元幹事長が31%の支持を得て1位となり、次いで高市早苗・経済安全保障相が28%で2位、小泉進次郎・元環境相が14%で3位となった。

 この結果を368票の党員・党友票に換算すると、石破氏が121票程度、高市氏が110票程度、小泉氏が54票程度になるという。日本テレビの取材では、国会議員票を加えると、石破氏が160票程度、高市氏が140票超、小泉氏が110票弱という情勢と伝えている。

 もし、この調査のすう勢が1回目の投票結果に出た場合、決選投票は石破氏対高市氏となるが、上記で指摘したように、野田氏が立憲民主党の新代表になった影響がどのように出てくるのかが1つのポイントになりうると考える。

 高市氏の政治的主張が「岩盤保守」に強く支持される一方、穏健保守層の取り合いで野田氏に押し込まれるのか、それとも互角の戦いに持ち込めるのか。この点を決選投票で自民党議員がどのように判断するのか、ということがクローズアップされるだろう。

 他方、石破氏が勝利した場合は、野田氏との主張の差が小さいため、かえって自民党の特徴を訴えることが難しくなるとの指摘も一部で出ている。

 

 <能登大雨被害と補正予算編成、野田氏の主張に自民党はどう対応するか>

 野田氏は24日午後の立憲民主党両院議員総会で、幹事長に小川淳也前政調会長(53)、政調会長に重徳和彦衆院議員(53)などを起用する新執行部の人事案を提示し、承認された。小川氏と重徳氏は同党の次代を担う中堅として期待されており、刷新感を狙った登用とみられている。

 このように野田氏は、かなり「したたかに」に衆院選を戦く態勢を整えようとしているだけでなく、石川県能登半島での大雨被害を受け、2024年度補正予算の成立を優先するよう早くも主張。早期の衆院解散に傾いている自民党をけん制している。

 これに対してマーケットは、新総裁がだれになるのか絞り込めておらず、衆院選前の「与党勝利と経済対策を期待した株買いは出てきていない」(国内証券関係者)という。

 織り込みが進んでいない分、逆に27日に新総裁が選出された後、マーケットが急激に変動する余地もありそうだ。

 終盤情勢をめぐる各種調査結果や野田新代表の登場など、党内を駆け巡る様々な思惑の中で自民党総裁選は27日に結果が判明する。

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石破・小泉・高市の3氏が先頭集団、浮かび上がってきた自民党総裁選の構図

2024-09-06 14:15:11 | 政治

 過去最多の立候補者数が予想される自民党総裁選(12日告示、27日投開票)は、どのような票の分散状況になるのか政界関係者も正確に把握できていないため、マーケット参加者の新総裁・新政権に対する織り込みも全く進んでいない。この「大混戦」の先行きがおぼろげにわかる調査結果が5日、日本テレビから公表された。自民党の党員・党友だけを対象にした調査では、石破茂氏の支持が28%で最も多く、小泉進次郎氏の18%、高市早苗氏の17%と続き、前回の総裁選で岸田文雄首相に敗れた河野太郎氏は3%にとどまっていた。

 この調査から予想できるのは、石破氏が上位2人の決選投票に残る可能性がかなりあり、決選投票では石破氏対小泉氏ないし石破氏対高市氏の対決になる可能性が相応にあるということだ。ただ、石破氏はテレビ番組で金融所得課税の実施に言及し、東京市場の参加者の多くは「石破政権なら株売りか」と身構えた。今後、他社の同種の調査結果も発表されるとみられ、同じような傾向が出るなら、石破氏、小泉氏、高市氏の経済政策を含めた具体的な目玉政策に市場の関心が集まるとみられる。

 

 <先頭の3氏から引き離された他候補>

 今回の日本テレビの調査は、自民党員・党友であると明らかにした全国の有権者1019人を対象を9月3、4日に実施された。

 石破氏、小泉氏、高市氏の上位3人に続くのは、7%の上川陽子氏、5%の小林鷹之氏、4%の林芳正氏、3%の河野太郎氏と青山繁晴氏、2%の茂木敏充氏と加藤勝信氏、1%の野田聖子氏だった。

 この調査は、対象を自民党員と党友に限定しているのが特徴で、一般的な世論調査に比べて自民党員や党友の支持傾向をより正確に表している可能性が高いとみられている。

 

 <地方票で石破氏が小泉氏を30-40票リードか>

 従来の世論調査では、自民党支持者を対象にすると小泉氏が石破氏をリードしている結果が複数あり、日本テレビは番組の中で「石破氏は強い」との自民党国会議員の声を紹介している。

 また、この調査結果を1回目の総裁選での投票に当てはめると、石破氏は小泉氏を党員票で30-40票リードすることになるが「国会議員票でひっくり返すのは難しい」という自民党議員の見方も紹介している。

 この1回だけの調査で自民党総裁選の動向を詳細に分析するのは難しいが、マラソンレースにたとえれば、先頭を石破氏が疾走し、その後ろに小泉氏、高市氏がつけ、それ以外の各氏は大きく引き離されているという構図が描ける。

 今回の総裁選では、1回目の投票で国会議員票と地方票が同数の367票となっている。国会議員票は候補者の乱立で相当、細かく分散される公算が大きく、地方票の優劣が1回目の投票結果を左右する可能性が高いと筆者は予測する。

 

 <石破対小泉の決選投票なら、世代間の抗争も影響>

 今回の日本テレビの調査結果が自民党員・党友の声を反映していると仮定すれば、決選投票には石破氏、小泉氏、高市氏の3人のうちの2人が残る可能性がかなりありそうだ。

 もし、石破氏対小泉氏の対決になれば、建前の政策論争とは別に自民党内にくすぶる「世代間の抗争」が大きなポイントになると予想する。小泉氏は43歳で衆院当選5回。自民党総裁選で当選すれば、米国のジョン・F・ケネディ氏の大統領就任時と同じ若さということも注目されている。

 だが、小泉氏よりも当選回数が多く、年齢のかさんだ自民党政治家にとっては「世代交代」が一気に進み、あっという間に「一丁上がり」の烙印を押されるのではないかという恐怖心も芽生えているのではないか。一気に若返りが進むことへの反発は表向きは表明されないものの、かえって水面下でのエネルギーを溜め、決選投票で小泉氏のハードルになる可能性があると指摘したい。

 

 <石破氏と高市氏の対決なら、アベノミクスの評価も論点に>

 一方、石破氏対高市氏の決選投票になれば、石破氏がアベノミクスによる負の影響の是正を主張していることからみて、アベノミクスへの評価が論点になりそうだ。ただ、日本の政治は過去を振り返っても、真正面から政策をめぐって対立したことはほとんどなく、多くは人脈をめぐる駆け引きだったとも言える。

 安倍晋三元首相が死去して旧安倍派の求心力は低下しており、高市氏の下に集まる安倍氏を慕う人々と、高市氏とは別の道を歩もうとするグループなど様々な動きが散見されている。旧安倍派の動向だけでなく、その他の自民党国会議員が決選投票に残った2人のどちらにつくかを決断した先に、新しい自民党内の勢力図が浮かび上がってくるのではないか。

 

 <小泉総裁なら衆院選の自民勝利を期待するマーケットの声も>

 マーケットはだれが新しい日本のリーダーになるのか、具体的なイメージが固まっていない。一部の市場関係者は、小泉氏が新総裁になって今年中の衆院解散・総選挙になれば自民党が勝利し、政権基盤が安定することで株価が上がることを期待している。

 ただ、小泉氏は6日の会見で、一般ドライバーが有料で客を運ぶライドシェアの全面解禁を掲げたが、それ以外の経済分野におけるめぼしい政策の提案はなかった。このため刺激を受ける経済分野や注目される業種などのイメージはまだ形成されておらず「イメージ先行による衆院選での自民党勝利」が、今のところの買い材料になっているようだ。

 一方、金融所得課税の強化に言及した石破氏に対し、マーケットは「株価の重しになる」と懸念する声が多い。その後、石破氏は金融所得課税の強化は超富裕層が対象と述べたが、市場の持つイメージの修正には至っていないようだ。

 

 <人口減少と低成長、日本の課題は投資の国内回帰>

 筆者は、日本と日本経済が直面する課題には、少子高齢化に伴う生産年齢人口の右肩下がりの減少傾向と0.5%に満たない貧弱な潜在成長率の下で、どのように富を稼ぎ出す力を回復させるのかという問題があると指摘したい。

 この解決には、国内における企業の投資を復活させ、生産拠点を海外から日本国内に還流させるための優遇先を政府が自ら打ち出すことが必要であると考える。

 これからの自民党総裁選でだれが、投資の国内回帰策に言及するのか、国民は注視するべきだ。具体策を伴わずに「成長戦略の強化」だけを主張するようでは、低成長と弥縫策の経済策の実施を繰り返すことになる。

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令和のコメ不足から米価上昇へ、農政失敗に総裁選立候補者はどう対応するのか

2024-09-02 13:43:36 | 政治

 スーパーマーケットで「一人一袋」の販売制限が続く「令和のコメ不足」は、新米が入荷するにつれ「令和の米価上昇」へと事態が変化しようとしている。背景には、昨年の猛暑による供給不足や訪日外国人の増加による需要増だけでなく、事実上の減反政策による構造的な供給抑制策がある。

 足元の需給引き締まりで確かに生産者の受け取る新米の手取り額は大幅に増えそうだが、その結果としてコメの販売価格は2024年産(今年の新米)がかなり上昇しそうで、消費者の行動にも影響が出ることは確実だ。ここで露呈しているのは、生産コストが販売額を上回る零細な生産者が多い中で、減反政策に依存した需給調整を継続してきた結果、生産者の経営体質が強化されないまま、需給の変化に迅速対応できないわが国の「コメ政策」の硬直さだ。さらにこの間、自民党はじめ与党の政治家は現状を黙認してきたと言える。

 コメの小売価格は上昇継続が予想されるが、自民党総裁選に立候補する有力者から「コメ政策」に関して何らの情報発信もない。食料自給率が低下する一方の現実とコメの生産体制、消費者に渡る際の小売価格がどうあるべきなのか、今月12日告示の自民党総裁選を前に立候補者は、コメ政策をどうするのか語る義務がある。

 

 <コメ販売、一袋限定の異常事態>

 当欄の多くの読者も、スーパーマーケットのコメ売り場に行けば、スカスカの商品棚を見ることになる。また、多くの店でコメの販売を「一人一袋」や「一家族一袋」と制限していることに気付くだろう。

 このような「令和のコメ不足」の原因として、多くのメディアは1)2023年の猛暑と大雨で消費者に回る品質のコメ生産が減少した、2)足元での訪日外国人の増加による需要増、3)南海トラフ地震臨時情報の発令による一部の消費者の買いだめ──などを挙げている。

 

 <コメの作付抑制、事実上の減反政策が背景か>

 しかし、コメ不足に大きな影響を及ぼしているのは、供給サイドにおける生産調整であると指摘したい。確かに1970年からスタートした「減反政策」は2018年に廃止された。だが、政府はコメからその他の農産物への作付け転換に補助金を支給する仕組みと全国生産量の目安を残し、コメの供給を絞って価格を維持する政策を採ってきた。

 農水省によると、2023年の主食用コメの作付面積は前年比9000ヘクタール減少の124万2000ヘクタールとなり、主食用のコメの収穫量は前年比9万1000トン減少の661万トンだった。これはピーク時の1400万トン規模の半分以下の水準だ。 

 このような供給サイドにおける生産減に対し、上記で指摘したような需要増が発生した結果、今年7月末の民間在庫は前年比40万トン減の82万トンまで急減した。農水省はスーパーマーケットや中食・外食業者向けに32万トンが流れたと分析。合わせて2011年7月などの在庫率10%と比べ、今年は12%と高くなっていると説明している。

 

 <JAあきたの決断、生産者の手取り大幅増へ>

 農水省は新米の流通が本格化する9月以降は品薄が解消すると予想しているが、今度は価格上昇が長期化する「令和の米価上昇」という現象が出現する可能性が高まっている。

 JA全農あきたは8月29日、2024年産米の「JA概算金」を発表し、「あきたこまち」(1等米60キロあたり)は前年比4700円増(38%増)の1万6800円になるとした。また、その他の銘柄の概算金も38-41%上昇した。

 

 <コスト高の零細農家、全国で38万軒超>

 こうした生産農家にわたる金額の増加は、生産者数の減少に歯止めをかけるきっかけになる可能性がある。農水省によると、個人でコメを生産している戸数(経営体)は2005年の140万2318から2020年に69万8543に半減している。

 その要因として、経営規模の小さい農家の生産コストが割高になっていることがある。2022年のデータによると、60キロ当たりの生産コストは平均で1万5261円となっているが、作付け面積が0.5ヘクタールより狭い農家の場合、2万5811円と割高になる。0.5-1ヘクタールの農家は2万0567円で2つのカテゴリーに含まれる農家数は、38万2000軒にのぼる。小規模農家は採算ぎりぎりか赤字経営という実態が浮かび上がる。

 

 <思い切った構造改革は可能か>

 24年産米で受け取る金額が大幅に増額されることで、ひとまずコメ生産を継続する農家が増えそうだが、根本的な構造変革を実施しなくては、供給サイドにおける安定的なコメ生産という姿には到達できないだろう。

 1つのシナリオとして、大規模経営を増やすために転作奨励のための補助金を止め、大規模化を促す補助金に変更するとともに、コメ生産の目安を撤廃して積極的に輸出を奨励するシステムに変更することが考えられる。

 その際は、現行法で厳しく規制されている企業のコメ生産への参入を検討していくことも大きな課題になると考える。

 

 <コメの小売価格上昇、CPIにも影響> 

 一方、コメの小売価格がどの水準で推移するのが妥当か、という点も政治的には大きな議論になるだろう。2024年産米は大幅な上昇が予想されるが、輸入価格の上昇を原因とした食品価格の上昇が家計を圧迫する中で、コメの小売価格が継続的に上昇することが許容されるのか、という問題がいずれ浮上するだろう。

 すでに今年7月の全国消費者物価指数(CPI)において、うるち米(コシヒカリを除く)が約20年ぶりとなる前年比18.0%の上昇を記録。このままの需給構造が続けば、8月以降も大幅な上昇となるのは確実だ。

 

 <38%の食料自給率とコメ生産、総裁選立候補者に改革の責任>

 ところが、自民党総裁選に立候補を表明、もしくは予定している有力な政治家からは今のところ、令和のコメ不足や米価高騰に全く関心がないのか、情報発信がない。

 食料自給率がカロリーベースで38%と世界の主要国では韓国の32%に次ぐ低水準である現状を考えると、食料安全保障の観点からも高水準の自給率を維持しているコメの政策が「現状追認」的な政策であっていいわけがない。

 国内の主要メディアもコメ政策を含めた農業政策に関し、すべての候補に質問をぶつけるべきだろう。スーパーマーケットのコメ売り場の棚が、スカスカになっているのは農業政策が空洞化していることへの警鐘と筆者の目には映る。

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