国内報道各社の世論調査で、石破茂首相の支持率が大幅に低下している現象をみて、東京市場の参加者の一部で石破首相の早期退陣と、高市早苗前経済安全保障担当相などの積極財政派の首相就任の可能性を予想する声が出ているようだ。だが、自民党と公明党が少数与党に転落している現状では、自民党総裁を交代させて自動的に首相に就任させるという「多数派」時代の慣性の法則は通用しない。
また、臨時の総裁選実施のためには、所属国会議員と都道府県連の代表を合わせた数の過半数の要求が必要になるが、今の時点でそこまでの票は固まっていないもようだ。筆者は今年7月とみられる参院選の結果、自民、公明の連立与党で非改選も含めて過半数を割り込む結果にならなければ、石破首相が退陣することはないと予想する。それでは、参院選はどうなるのか。比例では自民党が大幅に議席を減らしそうだが、選挙区では1人区での野党の候補者調整が進まずに自民党が「不人気」ながら辛勝する選挙区が多くなれば、過半数割れを回避できるかもしれない。参院選の帰すうは、野党の選挙調整にかかっていると言えそうだ。
<商品券で支持率低下、一部に早期退陣の思惑>
17日付読売新聞朝刊は、石破内閣の支持率が前回調査(2月実施)から8ポイント下がり、昨年10月の内閣発足以来、最低の31%に低下したと伝えた。自民党の当選1回の衆院議員15人にそれぞれ10万円の商品券を配布した問題が厳しい評価を受けたと分析していた。
朝日新聞の調査でも14ポイント低下の26%まで下がり、毎日新聞の調査では7ポイント低下の23%に下落した。
このため、一部の国内メディアは1)2025年度予算案の成立後の4月上旬、2)6月15-17日にカナダで開催される主要国首脳会議(G7サミット)後、3)通常国会会期末の6月22日の直前──などが石破首相の退陣の時期の候補になりうるという記事を掲載した。
<早期の自民党総裁選に高いハードル>
このような見方が浮上する背景には、不人気の石破首相のまま、7月の参院選に突入すれば、大敗して参院でも連立与党が過半数割れに陥るという危機感が、自民党内に広がりつつあるからだ。
だが、参院選前の石破首相の退陣と新首相の選出には、いくつかのクリアすべきポイントが存在する。
まず、円滑な首相交代には、石破首相の辞任表明が必要になるが、筆者の見るところ、石破首相に辞任の意思は全くないのではないか。ようやく手にした自民党総裁と首相の座をやすやすと手放さない、という決意は商品券問題で陳謝しつつも、法的に問題はないと突っぱねているところに鮮明に出ている、と指摘したい。
石破氏が首相辞任の意思を持たない場合、自民党総裁選を臨時に行うには「党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があった時は、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う」(自民党党則6条4項)との要件を満たす必要がある。
衆参両院と都道府県連の議員の総数の過半数が早期の総裁選実施を求めるまで、足元の自民党内で「石破辞任」の声が盛り上がっているとは言えない。
実際、朝日新聞の世論調査によると、商品券の配布問題で石破首相は「辞めるべきだ」が32%だったのに対し、「その必要はない」が60%だった。世論は商品券問題に厳しい反応を示しているものの、この問題が「首相辞任」に直結するわけではない、とみているようだ。
<内閣不信任案の提出に慎重な野田氏、衆院解散への警戒も>
このような情勢の下で、参院選前の石破首相の辞任のカギを握っているのが、野党から提出される可能性のある内閣不信任案の動向だ。これは衆院にだけ許されている権能で、可決されれば首相は衆院解散か総辞職を10日以内に決断しなくてはならない。
ただ、野党第1党・立憲民主党の野田佳彦代表は16日、商品券の配布問題で「徹底して説明を求める。内閣不信任決議案提出や退陣を求める声があるが、私は簡単に求めない」と述べた。背景には、石破首相の下で与党が参院選を戦った方が、野党としては「与しやすい」との思惑があるとの解説が永田町では出ていたようだ。
確かにその点も重要だが、もし、石破首相が衆院を解散した場合、衆院選における小選挙区での野党間の候補者調整が全く行われていない現状で、衆院選を戦うのは「不利」との情勢判断が働いたのではないか、と筆者は推理する。
したがって予算案成立直後やサミット終了後のタイミングでの内閣不信任案の提出の可能性は低く、そこまでは石破政権が継続している可能性があると予想する。
<会期末に支持率低下なら不信任案の可決も、石破首相は解散と総辞職のどちらを選択するのか>
問題は通常国会の会期末における情勢だ。衆院選の候補者調整が進んでいなくても、石破内閣の支持率がかつての森喜朗内閣のように10%を切るまでに下落しているようなら、内閣不信任案を提出し、野党の賛成多数で可決し、衆院解散か総辞職か、という場面があるかもしれない。
その場合は、自民党内の石破降ろしが本格化し、石破首相が参院選を前に総辞職を決断。総裁選で新総裁を選ぶことになるが、ここで衆院での与党過半数割れが大きく作用する。野党の一部の賛成か、野党の分裂を待たないと、新内閣は発足できないことになり、政局は大混乱する可能性が高まる。
一方、石破内閣の支持率がサミット出席などで回復し、内閣不信任案の提出があっても、野党の一部が反対ないし棄権に回って否決され、そのまま7月の参院選になだれ込むというケースも想定される。
<自公の人気低迷、参院選で過半数維持は可能なのか>
7月の参院選を前に、自民、公明の与党は非改選で74議席を有しており、改選124議席と東京選挙区の1議席(任期3年)を含めた125議席のうち、51議席を確保すれば、参院全体の過半数125議席を有することができる。与党の改選議席は66議席なので15議席負けても過半数を確保できる計算となる。
ところが、直近の国内メディアの世論調査では、自民党の人気が低下しており、比例区での議席減が心配されている。先の読売の調査によると、参院選・比例区での投票先は自民が25%、国民民主が17%、立憲民主が11%、日本維新の会が6%、れいわ新選組が5%、公明が4%、共産が3%などとなった。
国民民主とれいわの伸長が目立ち、自民、公明の連立与党は比例で19議席、7議席の現有勢力を維持するのが難しい情勢に直面している。
選挙区での野党間の候補者調整が進ちょくしていないものの、比例で与党が大幅に議席を減らすようなら、過半数維持の目標達成が危うくなりそうだ。
もし、トータルで与党が125議席を割り込めば、衆参ともに少数会派となり、政権の枠組み自体が大幅に変更される展開もありうる。
他方、125議席以上を確保できれば、石破首相は続投する公算が大きく、石破政権として与党の枠組みが変更される可能性も出てくる。
いずれにしても、参院選前とは一変して、参院選後は大政局が待ち構えていると覚悟した方がよいと指摘したい。