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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

日本株の大幅下落、政府の関税対策で持ち直すのか 自動車依存の構造改編も急務

2025-03-31 16:36:14 | 経済

 31日の東京市場で日経平均株価が、前週末比1502円77銭(4.05%)安の3万5617円56銭と約7カ月半ぶりの安値水準で取引を終了した。トランプ米大統領が4月3日から発動する輸入自動車への25%の追加関税に対する日本企業への打撃について、東京市場がようやく本格的に織り込んできた動きと言える。また、トランプ大統領の経済政策が「一強」だった米経済の繫栄をぶち壊すのではないかとの見方がNY市場で台頭してきたことも対米経済依存度の高い日本経済の弱点として海外勢の眼に映った可能性がある。

 28日の当欄で指摘したように石破茂首相は、自動車関税をはじめとする「トランプ関税」による日本国内の産業への打撃を緩和させるための対応策検討を近く指示するとみられる。これによって株価が下げ止まる展開も予想されるが、問題の本質は年間で5.4兆円の貿易赤字を出している日本が米国との自動車と自動車部品を合計した輸出入のネットで7兆円超の黒字を出しているという歪んだ構造になっていることだ。政府は自動車の「一本足打法」から脱却するための新たな産業政策を打ち出す必要があり、その中核になるのは人工知能(AI)技術になるのは間違いなく、一刻も早く先行する米国と中国を追随するためのプランの提示するべきだ。

 

 <トランプ経済対策への不信感浮上、スタグフレーションへの警戒も株安要因に>

 米国による自動車関税をめぐっては、東京市場で様々な憶測が交錯しつつ、日本からの対米輸出を止めるかもしれない25%の追加関税賦課の可能性は低いとの声が少なくなかった。したがって日本株への織り込みはあまり進んでいなかったが、4月3日の発動が正式に発表されてようやく事態の深刻さをマーケットが認識してきた、と筆者は考える。

 また、減税を志向するトランプ大統領の経済政策は、米経済と株価にプラスというイメージがマーケットに強く浸透し、今年1月の政権発足直後までは市場によるトランプ経済政策への信認は高かった。だが、足元における関税政策の「二転三転」ぶりはトランプ政策の不透明感を助長し、物価高と景気後退という米経済の「スタグフレーション」入りへの警戒感を高めてしまった。

 直近で特に問題視されたのが、米自動車業界への「恫喝」まがいの値上げ自粛要請だった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、トランプ大統領は米自動車企業の幹部との電話会談で、関税を理由とした値上げをしないよう要請したという。これに反すれば、トランプ政権から懲罰的な対応を受けるかもしれない、という懸念も出ていたとされている。

 この報道は、関税実施の結果、メーカーが被るコスト上昇分への価格の引き上げを米政府が認めず、強制的に収益を圧迫させる言わば「増税」の押し付けとマーケット参加者の多くに映り、市場のトランプ政権に対する信認が動揺したという。

 複数の市場関係者によると、トランプ政権の経済政策への不透明感や不信感は4月2日の「相互関税」のスキーム発表で一段と強まる可能性があり、それによって米株と日本株のさらなる下落の可能性が高まるという。

 

 <海外勢が日本株売りと円買いを活発化>

 また、足元ではこれまで日本株を買ってきた海外勢の売りが目立っており、31日はその売りに押された面も強いとの声が出ていた。特に一部の海外勢は、日本株のロングポジションを拡大させる際に日本株の現物買いと先物売り、円売りをセットで取引してリスクをヘッジしていた。ところが、31日はその取引をまき戻し、日本株の現物売りと先物買い、円買いが活発化し、日経平均株価の下落とドル安・円高の同時進行という現象が目立ったという。

 国内勢からみれば、海外勢の株売りと円高の「二重」の圧力で日本株が売られているように見え、下げ幅の拡大につながったという要因もあったようだ。

 

 <関税対策の検討指示で株価は反発するのか>

 上記で示したように、4月2日の相互関税のスキーム発表までは市場の不透明感が残存してしまうが、石破首相が「関税対策」の策定を関係閣僚に指示することになれば、対策の効果を期待する見方から日本株が下落から上昇に転じる可能性もある。

 その時に日本国内の自動車生産減少に伴う関連する企業や下請け・孫請け企業への支援がまず注目されるだろうが、それだけでは「一時しのぎ」とマーケットに見透かされてしまうだろう。

 日本政府の政策が最も貧弱に見えるのは、トランプ大統領が最も力を入れている自国内への製造業の誘致だ。TSMCの熊本県への進出がいつまでたっても「成功例」として紹介されているようでは、世界の製造業の「誘致競争」に大幅に劣後することになる。2025年度予算案の成立後、会見する石破首相は「誘致競争」に勝利するためのプランを打ち上げるべきだ。

 

 <脱自動車依存への動き、放置してきた歴代政権>

 安倍晋三政権以降、これまでの自民党と公明党の連立政権は、超低金利政策で生まれた経済的な余裕をイノベーティブな分野における産業の育成に振り向けるという点で、ほとんど目立った実績を残すことができなかった。

 その結果、2024年の貿易収支は5兆4712億円の赤字となったが、対米の自動車と同部品の輸出額が7兆2574億円の黒字であるのに対して、米国からの自動車と同部品の輸入は2077億円にとどまり、差し引きで7兆0497億円の黒字を稼ぎ出した。

 この状況はトランプ大統領に指摘されるまでもなく、非常にいびつな構造だと言える。もし、自動車と同部品の黒字がなくなれば、日本の貿易赤字は現状の2倍超の12兆円規模に膨れ上がることになる。

 

 <AIXで人手不足と低生産性を跳ね返す>

 米国による自動車関税の賦課をきっかけに、日本政府は日本の産業構造を大きく変えていく「基本計画」の策定に動き出すべきだ。

 その際の中心に存在するべきは、生成AIに代表されるAI技術の各産業への「実装化」であり、人手不足と低生産性を跳ね返す起点と捉えるべきだ。

 例えば、深刻な人手不足に直面しているスーパーや食品の量販店、コンビニでの商品管理に開発されたプリファードネットワークス社の「Misebo」は、自律移動するロボットが欠品や価格表示の間違い、品ぞろえなどを自動検知する。

 こうした取り組みを政府が支援するだけでなく、必要な技術と産業のマッチングを容易にするシステムの開発に政府がコミットするということで、ファイナンスの面でも余剰資金の有効活用にもつながると考える。

 自動車産業だけに依存した現在の産業構造の大改編を政府が打ち出し、方向性を示すだけでも閉塞感の打破につながると主張したい。

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米自動車関税と物価高の「二正面」作戦強いられる石破政権、日銀の対応はどうなるのか

2025-03-28 11:59:53 | 経済

 4月3日から発動される米国の輸入自動車に対する25%の追加関税賦課をめぐり、市場の危機感が表面化してきた。28日の日経平均株価は一時、節目の3万7000円を割り込み、すそ野の広い日本の自動車産業が受けるマイナスのインパクトの大きさを探り始めた。石破茂首相は「あらゆる面で万全の対応を取る」と述べ、政府が財政支援していく方針をにじませた。

 一方、東京都区部の消費者物価指数(CPI)は、約30年ぶりに3年連続で2%を上回り、石破政権にとって物価高対策が喫緊の課題であることも浮き彫りにした。28日に公表された日銀の3月金融政策決定会合における主な意見では、米関税政策などによる不確実性を根拠により慎重な利上げ検討を求める声が出た一方、利上げに向けて果断に対応する場面もあり得るとの声も併記された。政府・日銀が米自動車関税と物価上振れリスクとの間でどのような政策判断を下していくのか、大きな節目を迎えようとしている。

 

 <トヨタは営業利益が3割減少の試算も>

  28日の日経平均株価は一時、前日比900円を超す下落となって3万6800円台を3万6800円台まで下落する場面もあった。結局、前日比679円64銭(1.80%)安の3万7120円33銭で取引を終えた。3月期決算企業の配当落ち分(約307円)を差し引いても、市場の動揺が本格化してきたことをうかがわせる展開だった。

 日本経済新聞によると、25%の米自動車関税が2026年3月期の営業利益にどのような影響を及ぼすのか野村証券が試算した結果では、トヨタが5兆0360億円の予想から3兆6400億円へと3割減少するほか、マツダは1360億円の黒字から2800億円の赤字に転落する見込みという。

 また、25%の関税がかかり米国で10%の値上げをした場合、トヨタは23万台(10%)の販売減少に直面するという結果も出している。

 

 <自動車関連の中小に連鎖破綻リスク、石破首相は「万全の体制取る」と発言>

 27日の当欄で指摘したように、2024年の対米輸出のうち、自動車の6兆0264億円(輸出の28.3%)だけでなく、自動車部品も1兆2310億円(同5.8%)を占めており、サプライチェーン(供給網)の末端まで含めれば、関連する他の産業も含め、対米輸出の大幅な減少はドミノ的な減産につながり、放置すれば下請け、孫請けの中小、零細企業は経営破綻の連鎖に巻き込まれかねない。

 27日に政府による大規模な支援策が必要になると指摘したが、石破茂首相は28日の参院予算委で、米自動車関税への対応について「万全の体制をとる」と述べるとともに「資金繰り対策など含めて、国内の産業、雇用に影響が生じないようあらゆる方面から精査する」と語った。

 2025年度予算案の参院での採決が週明け31日に行われる状況の下で、「物価高対策」をめぐる発言で予算審議日程が混迷した「二の舞」にならないよう慎重に言葉を選んでいるが、仮に3月31日に参院で可決後、衆院でも再可決して予算案が成立した直後に大規模な支援策を念頭に置いた「米関税対応策」の具体的な検討を石破首相が指示することになると予想する。

 

 <都区部CPI、3年連続の2%台上昇は約30年ぶり>

 一方、石破首相が直面するのは、トランプ米大統領による自動車関税の実施だけでなく、食料品などを中心としたインフレ圧力増大と国民の不満の膨張という問題だ。

 総務省が28日に発表した2024年度平均の消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品を除く総合(コアCPI)で前年度比プラス2.1%だった。22年度の同2.9%、23年度の同2.7%に続いて、2%台の上昇は3年連続。これは1989─1992年度の4年連続以来、約30年ぶりの現象だ。

 

 <ガソリンの暫定税率廃止や夏場の電気・ガス代補助の復活も>

 足元の2025年3月の東京都区部CPIは、コアCPIが前年比プラス2.4%と市場予想の同2.2%を上回った。政府が今年1月に再開した電気・ガス代補助による押し下げ効果でエネルギー関連の上昇幅が2月の6.9%から6.1%へと縮小したものの、生鮮食品を除く食料が2月の5.0%から5.6%へと伸びを高めた。特にコメ類は89.6%と比較可能な1971年1月以降で最大の上昇幅となった。

 2025年度予算案の成立後、石破首相は物価高対策の具体的な指示も出すとみられるが、中心となるのは、1)ガソリン税の暫定税率の廃止、2)電気・ガス代補助の夏場からの復活、3)コメの備蓄の追加放出──になると予想する。

 石破首相は、米自動車関税の実施による国内産業への打撃緩和策と物価高による国民の不満を和らげる対応策という「二正面」の作戦展開を余儀なくされるだろう。追加の財政支出は相当規模に膨れ上がることは避けられない。

 

 <日銀の主な意見で示された米関税政策への強い懸念>

 政府が二正面作戦に忙殺されることが予測できる中で、日銀はどのような対応をするのだろうか。28日に公表された今月18-19日の金融政策決定会合における「主な意見」の中に、日銀が直面する難しい情勢が透けて見えたと指摘したい。

 金融政策運営をめぐって、「米国発の下方リスクは足元で急速に強まっており、関税問題の今後の展開次第では、わが国の実体経済にまで悪影響を与えていく可能性が十分ある。その場合には、利上げのタイミングをより慎重に見極めることが必要である」と、米自動車関税の実施を予見するような見解が表明されていた。

 また、「米国の関税政策やサプライチェーンの分断など不確実性が高く、価格競争力の高い中国製品との競争激化も懸念され、日本経済への下押しリスクが高まっている。中小企業の業績・投資、賃金・物価の動向や米国関税政策の影響を入念に確認しつつ金融政策を調整する必要があるため、当面は現状の金融政策を維持することが適当である」という意見も、自動車関税の4月3日からの発動を前提にすれば、説得力のある見解とみることもできる。

 

 <並存する物価上振れリスクへの強い懸念>

 その一方で「不確実性は高まっているが、だからといって常に政策対応を慎重にすればいいというわけではなく、今後の状況によっては、果断に対応すべき場面もありうる」との意見が表明され、「各国の通商政策等から物価に上下双方向の不確実性がある時に、不確実だから現状維持、金融緩和を継続する、ということにはならない」という主張もあった。

 その背景には、足元でインフレを加速させるかもしれない要因の増加で物価情勢に大きな変化があるとの認識がありそうだ。ある委員は「高水準の賃上げが実現し、国内要因のインフレ圧力などから、『物価安定の目標』の実現が目前に迫りつつある段階であり、来年度には、こうした前提で情報発信する新たな局面に入るといえる」との見方を示している。

 また、「農産物の価格高騰は、供給力低下や人件費上昇等、一過性でない要因の影響が大きい。さらに家計のインフレ予想を押し上げ、物価の基調に大きく影響する」との見解や「1月の消費者物価指数(総合)の上昇率の過半はエネルギー、生鮮食品、穀類によるものだが、エネルギーの上昇は一時的な性格が強い。生鮮食品、穀類の上昇は、主に供給ショックと位置づけられるが、持続性がありうるため、いずれも予想物価上昇率などへの波及を注視すべきである」との見解も示された。

 

 <利上げペースの加速を示唆する主張も>

 つまり、物価の上振れリスクは、今年の春闘における高い賃上げ率を背景に高まる可能性があり、その認識が次回会合までに高まれば、利上げの議論をするべきだとの見方が相応にあるということではないか、と筆者の眼には映る。

 また、今回の主な意見では、利上げスタンスに関して注目すべき見解も示された。ある委員は「次の利上げを行う局面では、基調的な物価上昇率が2%の目標にかなり近づいていることも想定されるため、金融政策のスタンスを従来の緩和から中立へ転換させる点も含めて検討していく必要性がある」と述べた。

 これは、多くの市場関係者が前提としている「半年に1回の利上げ」というゆっくりとした利上げペースから「3カ月に1回」という利上げペースの加速を意味している可能性があると筆者は指摘したい。

 

 <関税のマイナスは政府対応で、インフレリスク増大は日銀が対応というアプローチ>

 以上のように、米自動車関税の賦課による日本経済への下押し圧力の大きさを重視し、当面は0.5%の政策金利の下で様子を見るべきであるという見方と、物価上振れのリスクを放置した場合、その後の利上げ対応が遅れてインフレ状況が深刻化するリスクを重視する見方が日銀内で併存しているように感じられる。

 こうした状況への適切な対応は、かなりハードルが高いようにみえるが、最終的には自動車産業への打撃が大きくなれば、日本経済全体にも大きな影響を与えるため、金利の据え置きを長期化するか、それとも自動車産業の受けるマイナス効果は政府の財政対応に任せ、同時に進行する懸念のあるインフレ加速を利上げで止める、という政府と日銀の「分業」の考え方を採用するのか、ということへの決断だと考える。

 筆者は、自動車産業の受けるマイナスインパクトを直接的に緩和する手段が日銀にはなく、政策維持の期間が長期化するとみた投機筋がドル買い・円売りを進め、ドル/円が足元の150円付近から一段と円安方向にシフトし、トランプ大統領の日本に対する心証を悪化させた方が打撃が大きいと指摘したい。

 トランプ大統領は報復関税を実施した相手国(地域)には、一段の関税引き上げも辞さない態度をすでに何回かにわたってチラチラとみせている。日銀の金融政策が発端となって円安が進行し、日米関係がぎくしゃくするリスクは可能な限り回避するべきではないかと思う。

 

 いずれにしても、この局面では政府と日銀の密接な意思疎通が欠かせない。石破政権の「二正面作戦」に日銀がどのようにかかわりあうのか、4月は内外情勢の変化がその先の大きな市場変動につながりやすい「激動の日々」となりそうだ。

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米自動車関税、日本政府の選択は手厚い関連産業支援策 物価高とともに石破首相に試練

2025-03-27 14:12:02 | 経済

 トランプ米大統領が26日、米国に輸入される乗用車などに最大25%の関税をかける計画を発表した。石破首相はあらゆる対応策を検討すると発言したが、筆者は報復関税などの実施は決断できず、関係する産業への支援策を厚めに実行するしか選択肢はないだろうと予測する。

 トランプ大統領の本音は、自動車関税で得られる1000億ドル規模(15兆円)の関税収入をてこに課題の山積する内政問題を一気に解決することではないかと予想する。したがって日本に対して関税を引き下げる「ディール」を持ち出す可能性は極めて小さくのではないか。石破首相は自動車関税と国内の物価高という2つの大きな「難問」に直面した格好で、7月の参院選まで正念場が続く。日本株はその石破首相の政策をみながら「下値が決壊するのかどうか」という綱渡りの相場展開になると予想する。

 

 <報復関税、日本が実行できない2つの理由>

 石破首相は27日の参院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美代表代行が米自動車関税への対抗措置を取るよう求めたのに対し「あらゆる対応を検討している」と述べつつ「何が日本の国益に一番資するか考えなければならない」と語った。

 また、林芳正官房長官は27日の記者会見で、米自動車関税について「極めて遺憾であり、措置の対象から日本を除外するよう強く申し入れた」と述べるとともに、石破首相から関係閣僚と連携して政府を挙げて対応するよう指示があったとも語った。

 筆者は、日本が米国に対して報復関税を実施する可能性はゼロに近いと考える。経済と表裏一体の関係にある安全保障分野で、米国の核の傘の下で中国やロシアと対峙する現実があり、唯一の同盟国である米国と対立したり、トランプ大統領の心証を極度に悪化させるようなことは現実なアプローチとしてできないと考える。

 また、日米貿易の実態をみても、報復関税は難しい。というのも2024年に米国から輸入している品目のうち、鉱物性燃料が15.3%、食料品が14.4%を占めるが、これらに25%の対抗関税を賦課すると、足元で政権批判の火種になっている食料品とエネルギーの物価高を助長し、石破首相にとって政権運営の重荷になりかねない構図となっているからだ。

 

 <コメ開放時と同様の大規模支援策を検討か>

 したがって報復関税の実行ではなく、自動車関税の実施によって発生が予見できる国内の経済的打撃を政府の支援によっていかに緩和するのか、ということが主眼になると想定できる。

 かつて日本のコメ市場を開放した際に国内農家の保護の目的で財政資金が大規模に拠出されたが、似た対応が政府内で模索されると予想する。

 というのも、24年の対米輸出のうち、自動車の6兆0264億円(輸出の28.3%)だけでなく、自動車部品も1兆2310億円(同5.8%)を占めており、自動車本体のメーカーに付き従って米国内へと生産拠点を移す体力がないメーカーが多いためだ。下請け、孫請けまでを含めれば25%の関税賦課で事実上、輸出が止まった場合に一気に経営破綻へとなだれ込むケースが急増すると予想される。

 広範囲での連鎖倒産などによる失業率の悪化は、政府・与党にとって最も避けるべきケースになるとみられ、2025年度予算案の成立後、物価高対策とともに政府が検討する二大政策パッケージになると予想される。

 

 <財源問題で守勢のトランプ大統領、自動車関税は打ち出の小づち>

 日本政府にとって今回の自動車関税が厄介なのは、どうやら「ディール」としての関税賦課ではなく、財源確保が最優先の目的ではないか、とみられるからだ。日本政府がいくら対米直接投資の規模で「世界一」と訴えても、税率を日本に対して「オマケ」する余地がないと筆者は類推する。

 トランプ大統領は、個人所得減税の恒久化や法人税の引き下げ、残業代や飲食店従業員のチップへの非課税措置の実現を訴えているが、財源のメドが立っていない。

 それどころか、米財政の債務上限を引き上げなければ、米国の財源が枯渇するところまで追いつめられている。米議会超党派の機関、議会予算局(CBO)は26日、債務上限を米議会が早急に引き上げなければ、8月か9月にも財務省の資金繰り手段が尽き、財政資金が枯渇するとの見通しを示した。いわゆる米国のデフォルト(債務不履行)リスクの高まりが現実化しようとしている。

 こうした中で、トランプ大統領が打ち出した例外なき自動車関税の賦課は、2024年の自動車・同部品の輸入実績である4740億ドルを基準に単純計算すると、1185億ドル(17兆7750億円)の規模に達する。この巨額の関税収入は、トランプ大統領にとって「打ち出の小づち」と言ってもよい存在になっているのではないか。

 

 <米国内で自動車値上げ必至、注目される中古車価格>

 ただ、メキシコやカナダで生産しているゼネラルモーターズなどの米ビッグスリーは、今回の自動車関税の実施で値上げを実施するだろう。米国の消費者が、どのような消費行動に出るのか「偉大な実験」がこれから始まることになるが、新車の値上げによる米国車を含めた新車販売台数の減少につながるだろう。

 一部の需要は中古車に流れるので、中古車価格の大幅な上昇も予想される。中古車価格の上昇が米消費者物価指数(CPI)を大幅に押し上げたことは、新型コロナウイルスの感染拡大とその後の市場で経験済みだ。

 CPIの上昇が今年夏場から秋にかけて目立ってくるなら、「インフレはバイデン政権の失敗」というトランプ大統領の訴えに共感した有権者の反感を買うことになるまで、それほど時間はかからないのではないか。

 今回の自動車関税が修正される展開がありうるなら、それは米世論が「自動車関税の撤廃」を訴えるときだろう。

 

 <日本株、持ちこたえるのかどうか4月3日が分かれ道>

 それまで日本を含めた自動車生産国は耐えるしかないが、果たしてマーケットがそれを温かく見守ってくれるのだろうか。足元の日経平均株価は配当の権利取りを意識した買いなども意識され、前日比227円32銭(0.60%)安の3万7799円97銭と3万7000円台を維持して取引を終えた。

 だが、上記で指摘したように、日本の自動車産業は部品メーカーまで含めればすそ野が広く、関連する産業も多岐にわたっており、政府が何もしないまま傍観していたら、日経平均株価はここから一段と大きく下げると予想する。

 持ちこたえるのか、大幅に続落するのか、その分かれ目は新年度に入ってすぐに訪れる自動車関税スタートの日である4月3日に到来すると予想する。

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政府の物価高対策、日銀は利上げで呼応するのか 注目されるインフレの広がり

2025-03-26 14:18:35 | 経済

 石破茂首相が25日に公明党の斉藤鉄夫代表と会談した際、強力な「物価高対策」を打ち出す意向を示したと報道された。筆者は、2025年度予算案が成立した直後に石破首相が「物価高対策」の策定を指示すると予想する。その際、日銀がどのような対応をするのか市場の関心を集めるだろう。これまでの経済対策と異なり、物価高対策は物価上昇の抑制が目的となるため、日銀が利上げを検討して政府の物価高対策に「呼応」するのは合理性がある。

 日銀の植田和男総裁は26日の衆院財務金融委で、食品価格の上昇が外食に広がるなどインフレが経済に広がる可能性がある場合には「利上げで対応することも考えなければならない」と指摘しており、物価上振れの色彩が強まれば、政府の物価高対策と合わせて日銀が利上げするという可能性も相応に出てきたと指摘したい。

 

 <予算案成立前の物価高対策の浮上、野党は猛反発>

 時事通信など国内メディアの報道によると、石破首相は25日の自公党首の会談で強力な「物価高対策」を25年度予算案の成立後に打ち出す意向を示したという。会談後に斉藤代表は石破首相とガソリン税の暫定税率廃止を議論したことを明らかにし、コメ価格の高止まりに対して「何らか手を打たなければならない」と述べた。

 ただ、この自公両党首の対応は、国会対策上は極めて「稚拙」だったとの批判を与野党から浴びた。参院では25年度予算案の年度内成立を巡り、与野党がギリギリの調整をしている中で、予算案の「再再修正」に結びつきかねない発言として、野党側が猛反発するのは目に見えていたからだ。

 立憲民主党の水岡俊一参院議員会長は26日の参院議員総会で「(参院で)予算案を審議しているところだ。国会、参院を冒涜(ぼうとく)するような断じて許せない発言だ」と石破首相の発言を強く批判した。

 

 <高額医療費の上限引き上げ問題絡み、野党も予算案の成立へ歩み寄りか>

 25年度予算案は高校授業料の無償化を主張する日本維新の会の主張を自民、公明両党が取り入れて政府案を修正。衆院を通過させた。その後、参院審議の段階で政府が高額療養費の自己負担額の上限を8月に引き上げる計画を断念。参院で政府案を再修正し、衆院本会議で可決して成立するという手順が想定されていた。

 そこに石破首相の商品券問題が浮上。予算案の年度内成立に向けて29日と30日の土日にも審議を行うという異例の事態さえ、水面下では検討されていた。

 こうした中での「物価高対策」の浮上は、予算案審議を一段と紛糾させかねない状況を作り出した。林芳正官房長官が25日の会見で、物価高対策は「新たな予算措置ではなく、物価高の克服に取り組む決意を申し上げたもの」と「弁明」したのも、何とか25年度予算案の年度内成立を果たしたいという思惑から出た、とみることができる。

 とはいえ、野党が抵抗して予算案の成立を遅らせると、高額療養費の問題で負担がより大きい衆院で可決された予算案が4月2日に自然成立することになる(憲法の衆院優越の規定で)。ということで、最終的には参院で再修正された予算案が成立することになる、と筆者は予想する。

 

 <参院選前に物価高の逆風意識、ようやく動き出した政府>

 24日の当欄で指摘したように、物価高対応で無策のまま時間を無駄使いすれば、7月の参院選で自民、公明の連立与党が大きく議席を減らす可能性が高まる。

 それを回避するために、石破首相が「物価高対策」の取りまとめ指示を出すのは確実だと予想する。その際の柱になるのは、エネルギー価格対応だろう。ガソリン税の暫定税率廃止は国民民主党など野党が主張してきたが、今回は与党も飲まざるを得ないと予測する。1.5兆円の財源手当てが必要になるが、食料品の消費税率をゼロ%にする際に必要な約4兆円よりは小規模ですみ、参院選での目玉政策になるとみている可能性があると指摘したい。

 また、3月で廃止される電気・ガス料金の補助も、冷房需要が高まる夏場にかけて復活する可能性もありそうだ。コメ価格の上昇問題では、すでに自民、公明両党の幹事長、国対委員長レベルで必要に応じた追加の備蓄米放出で合意しており、これも物価高対策の大きな柱になるとみられる。

 

 <物価高対策と同じ方向性、日銀は利上げ議論に踏み出すのか>

 市場の一部には、このような対策を政府が打ち出す際に「景気を冷やす」効果を持つ日銀の利上げはできない、という見方があるようだ。

 だが、デフレ時代に実行されてきた需要を喚起する経済対策と、これから検討される物価高対策は目的が異なる。物価高対策は物価上昇の抑制が目的であり、もし、日銀が利上げを本格的に検討するなら、物価高対策と政策の方向性が同じであると言える。

 特に足元における経済・物価情勢をみると、円安の効果で輸入物価の円ベースの上昇率が契約通貨ベースの上昇を上回って推移しており、円安が物価押し上げの大きな要因となっている。

 日銀が物価上昇に上振れの懸念があるとして、利上げの議論を本格化させた場合、その政策の方向性は物価高対策と「軌を一にしている」と言えるだろう。

 

 <植田総裁、食品値上げなどインフレ広がるなら「利上げ対応することも考えないといけない」>

 25日の当欄で指摘したように、1月の金融政策決定会合の段階で一人の委員は「新年度に向けた賃上げといった国内要因による 価格転嫁の一段の進展や為替円安の進行で、物価が上振れる可能性がある」との見解を表明していた。

 植田総裁は26日の衆院財務金融委で、食品などの値上がりが一時的であれば金融政策で対応すべきではないとしつつ、インフレが経済に広がる場合は「利上げ対応することも考えないといけない」と指摘。日銀の見通しよりも物価が「上振れる場合は緩和調整の度合いを強める」とも語った。

 26日に発表された2月企業向けサービス価格指数は前年比プラス3.0%と、3カ月連続で3%台の上昇となった。これは消費税導入・増税の影響を除くと、1990年4月から91年3月にかけた12カ月連続の上昇以来、約34年ぶりの現象だ。

 また、調査品目のうち生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は3.3%の上昇となっており、賃上げがサービス価格の上昇を大きくしていることを示していた。

 

 政府が物価高対策の検討を本格化させる4月以降、物価上昇の足音が一段と高まっていくのかどうか、日銀の政策判断に市場の注目が一段と集まりそうだ。

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日銀議事要旨が指摘した物価上振れの可能性、円安再進行なら議論本格化も

2025-03-25 13:55:48 | 経済

 日銀は25日、政策金利を0.5%に引き上げることを決めた今年1月23-24日の金融政策決定会合に関する議事要旨を公表した。注目されたのは、利上げを決めた会合で物価上振れの可能性に関する議論が行われたことだ。一人の委員は賃上げを起点にした価格転嫁の進展や円安進行によって物価上振れにつながる可能性があると指摘したが、2カ月が経過した現在の経済情勢は、まさにその指摘のように進行している。

 4月30-5月1日の次回会合に向けて、物価上振れの見方がボードメンバーの中でどのように位置づけられていくのか、その展開次第で利上げの議論が本格化する可能性があると筆者は予測する。

 

 <議事要旨で目立った利上げ継続の意見>

 1月会合では0.25%幅の利上げを決めたが、17年ぶりの高水準への引き上げになることを踏まえ「先行きの金融政策運営」に関する議論の中で、利上げの効果や金融・資本市場に与える影響がどのようになるのか「しばらく慎重に見極める必要がある」という趣旨の発言がいくつかあるのではないか、と予想していた。

 だが、利上げ効果の慎重な見極めという趣旨の発言は見当たらず、今後も利上げを継続していく必要性を指摘する声が並んだ。ある委員は「利上げ後も、実質金利は大幅なマイナスとなっており、経済・物価がオントラックであれば、それに応じて、引き続き利上げをしていくことで、そのマイナス幅を縮小していく必要がある」と発言。

 別の委員は「今後、基調的な物価上昇率が上昇していけば、それに応じて段階的に政策金利を引き上げて いく必要がある」と述べ、さらに別の委員は「経済・物価がオントラックで推移する中、物価の上振れリスクが膨らんでおり、金融緩和の度合いを適時・段階的に調整していくことが適当である」と語った。

 

 <昨年上回る賃上げ率と円安の再進行、足元で広がる物価上振れの要因>

 筆者が注目したのは、以下に紹介する一人の委員の発言だ。そこでは「新年度に向けた賃上げといった国内要因による 価格転嫁の一段の進展や為替円安の進行で、物価が上振れる可能性があるほか、不動産も含めた資産価格上昇で投資家の期待も高まっている」と述べていた。

 新年度に向けた賃上げに言及しているが、2カ月が経過した現在では、今年の春闘における連合の2次集計で賃上げ率が前年比プラス0.15ポイントの5.40%になっていることが分かっている。

 また、外為市場ではドル/円が再び150円台に乗せ、さらに円安が進む可能性があると市場ではみられている。シカゴ・マーカンタイル取引所(CМE)「IММ通貨先物」の円買いポジションは、3月11日の13万3902枚から18日には1万0938枚減少の12万2964枚となっており、この減少がドル高・円安の圧力を増したと考えられている。過去最高の円買いポジションの取り崩しがさらに進行するなら、152円から153円程度へのドル高・円安になることも十分にあり得る。

 

 <4月に食料品値上げのヤマ、予想物価上昇率の押し上げに>

 上記の一人の委員が指摘した賃上げなど国内要因と円安の進行による物価上振れの可能性は、3月下旬の段階で現実味を帯びてきたと言えるのではないか。

 帝国データバンクの調査によると、2025年に入ってからの食料品値上げの要因として、原材料高とともに物流費などのサービス価格の上昇、賃金上昇の割合が急上昇しており、物価押し上げのルートが賃上げによるサービス価格の上昇にも波及していることを浮き彫りにしている。

 また、足元での値上げが消費者の予想物価上昇率を押し上げているとみられるが、その押し上げのインパクトが大きくなる予兆もある。

 例えば、筆者の居住するエリアの安売り酒販売チェーンでは、4月から値上がりするビールや酎ハイ、ノンアルコール商品を写真で列挙し「買い置きはお早めに」というチラシを大量に配布している。また、あるスーパーでも4月1日に値上げする商品を紹介し、早めの買いだめを奨励するような張り紙を店内の目立つところにたくさん掲示。値上げ前の駆け込み消費を誘引しようとしている。

 

 <円安進行なら、利上げ議論の可能性も>

 このような国内要因に起因した値上げ圧力の高まりに、円安の再進行が重なれば、物価の上昇圧力は時間の経過とともに大きくなるだろう。まさしく「物価の上振れ」リスクが高まる情勢に直面しつつあると筆者は予想する。

 次の金融政策決定会合までに1カ月超の期間があるが、ドル/円がドル高・円安方向に一段と傾斜しやすくなるなら、会合で物価上振れのリスクを議論する可能性が高まり、内外の経済や市場動向次第で「利上げを議論する」という展開になる可能性もあると推理する。

 その意味で、ドル/円の動向は大きなカギを握っていると言えそうだ。

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