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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

「トランプ恐慌」の兆し見せる世界同時株安、イスラエルの相互関税17%カットなら希望も

2025-04-07 15:39:13 | 経済

 7日の日経平均株価は7.8%安と大幅に続落し、トランプ米大統領による相互関税のマイナスインパクトの大きさをまざまざと見せつけた。だが、トランプ大統領は6日に「何かをなおすために、時には薬が必要だ」と述べ、関税政策が妥当であるとの見解を繰り返した。マーケットは「自由貿易なき世界経済」における新たな均衡点を探り出したが、どこが底値かわからずに恐怖心も強くなってきた。

 7日にホワイトハウスを訪問するイスラエルのネタニヤフ首相とトランプ大統領との会談で、イスラエルにかかる17%の相互関税が引き下げられることになれば、「交渉余地がある」ことの証明として株価の下支え材料になると指摘したい。しかし、何の成果もなくネタニヤフ氏が帰国することが判明すれば、7日の米株式市場は大幅に下げる可能性がある。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大局面で、米主要3指数は高値から約3分の1の下落を経験したが、イスラエルの関税引き下げがない場合は同じ道を歩むことになるだけでなく、「トランプ恐慌」と呼ばれる世界的な経済の収縮が起きる懸念も浮上しかねない。

 

 <世界同時株安の背中押したパウエル議長の発言>

 7日の日経平均株価は前週末比2644円(7.8%)安の3万1136円5858銭で取引を終えた。米相互関税に対して、中国が34%の報復関税実行を表明し、世界的な貿易戦争の激化を懸念したとの声が多かったが、筆者はパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の突き放した発言が市場の「背中を押した」と指摘したい。

 パウエル議長は4日、米バージニア州で講演し「不確実性は依然として高いが、関税の引き上げは予想よりも大幅に大きくなることが明らかになりつつある」、「経済への影響についても同様に大きくなるだろう。その影響にはインフレ率の上昇や経済成長の鈍化などが含まれる。大きさやどのくらいの期間に及ぶかは依然として不透明だ」と指摘。そのうえで「われわれは急ぐ必要はないと感じる。金融政策の適切な方向性について結論を出すのは時期尚早だ」と述べて、市場で盛り上がっていた早期利下げへの期待感に冷水をかけた。

 自由貿易を捨てて、関税を引き上げるという政策を推進するトランプ大統領を止める閣僚はなく、マクロ的にトランプ関税によるマイナス効果を緩和できるのはパウエル議長しかいなかったはずだが、突き放された市場は暴落し、下値の水準を確認できなくなった。

 

 <マージンコール受けた換金売り、金価格も下落>

 市場の狼狽は、金価格の下落に典型的に示されている。不安心理から金が人気を集めていたものの、ついに金までが下落圧力に屈しした。複数の市場関係者によると、株価の下落が大きくなったため、一部の投資家が金融機関からの追加の担保差し入れ要請(マージンコール)に対応するため、益の乗っている金を売却してキャッシュ確保に走ったという。4日のNY市場で金先物は一時、1オンス=3000ドルを割り込み、終値も2.8%安の3035.4ドルとなった。 

「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のVIX指数(ボラティリティー・インデックス)は4日に一時、15.54ポイント上昇して45.56と、昨年8月以来の高水準となった。
 
 
 <コロナ感染拡大時に米株は3分の1下落、同じ轍踏むかどうかはトランプ氏次第>
 
 市場は、トランプ関税の破壊力の大きさに恐怖心を刺激されているが、トランプ大統領の発言からは自らの政策を修正する気持ちが全くないことが伝わり、マーケットからの信頼が高かったベッセント財務長官も6日、NBCテレビの番組で、市場は短期的な反応をするものだとしたうえで「景気後退を招く可能性を織り込む理由は見当たらない」と述べ、失望感が広がっている。
 コロナの感染拡大時に米株の主要3指数は高値から約3分の1ほど下落した経緯がある。当時も未曽有の感染力と死者数の増加がマーケットの恐怖心をあおったが、今回はトランプ大統領が自身の信念に従って行動し、自らのパワーで米株の上昇トレンドを崩壊させたということで、コロナ感染拡大時と同様かそれ以上の恐怖心がマーケットで醸成されていると指摘したい。
 多くの市場参加者の口から、下値めどが見えないという言葉が漏れるのは、トランプ大統領を止める力が米国内だけでなく、グローバルに見ても存在しないことが明白になってきたからではないか。
 
 
 <ネタニヤフ氏に譲歩なければ、株価は大幅続落の可能性>
 
 短期的に一部の市場参加者が期待の眼を注いでいるのが、ネタニヤフ氏とトランプ大統領の会談だ。7日にワシントンを訪問して首脳会談に臨むとみられているが、イスラエルに課せられる17%の相互関税の撤廃ないし引き下げを狙っている。
 トランプ大統領と最も親しい世界の首脳の一人と言われているネタニヤフ氏が、もし、関税の引き下げに成功すれが、これが先行事例となって相互関税に引き下げの余地があることが判明し、世界的な株価反転のチャンスとなる可能性がある。
 だが、ネタニヤフ氏をもってしても17%の関税率引き下げが実現できなかった場合、相互関税の引き下げのハードルが相当に高いと多くの市場参加者の目に映り、会談終了後の世界の株価の大きな下押し材料になると予想される。
 
 
 <マッキンリー大統領の追随なら落とし穴に転落か>
 
 4日の当欄で指摘したように、トランプ関税の最大のマイナス効果は世界に張り巡らされらたサプライチェーン(供給網)をずたずたにすることだ。この打撃を回避するための新たな供給網の構築には、数年単位の期間と巨額のコストがかかる。仮にそうした新しいサプライチェーンの一部が数年後に出来上がったとしても、3選禁止のルールがある米国大統領の座にトランプ氏がとどまっているのかはだれもわからない。
 トランプ氏が理想の米大統領として仰ぎ見ているのは、第25大統領のマッキンリー氏だと言われている。米西戦争を勝利に導き、プエルトリコ、グアム、フィリピンなどを米国領に編入。高関税を目指すディングレー関税法に署名して、米国内の製造業の発展に貢献したと言われている。
 しかし、マッキンリー氏に追随するような「復古主義」が現在の世界経済の発展に寄与するとは到底思えない。そのトランプ氏を止める力がどこにもないということになれば、株価は想定を超えて下がり続ける危険性が増す。歴史に「トランプ恐慌」と刻み込まれることがないように願うばかりだ。
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