総務省が発表した5月の東京都区部消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年比プラス3.6%と2カ月連続で3%台の上昇となった。生鮮食品を除く食料が同プラス6.9%と前月の6.4%から伸びが加速し、物価全体の押し上げにつながった。帝国データバンクの調査によると、6月の食料品値上げは前年の約3倍の1932品目に達し、6月以降も食品値上げがけん引する形で物価上昇幅が拡大する可能性が出てきた。
小泉進次郎農相が主導する政府備蓄米の低価格での販売計画によって、コメの価格下落が予想されるものの、残りの備蓄米は30万トンまで減少しており、コメ価格をどの程度下落させる効果があるのか不透明なままだ。日銀の植田和男総裁は27日の国際コンファランスで、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要があると指摘しており、政府・日銀の政策を展望する上で、食料品価格と物価全体の上昇テンポが再び重要性を高めてきた、と指摘したい。
<コメ類が93.7%上昇、チョコレートやコーヒー豆も値上がり>
5月東京都区部CPIで筆者が注目したのは、1)生鮮食品を除く食料の上昇幅拡大、2)サービス価格の上昇の2点だ。
食料では、コメ類が93.7%の上昇だったのを筆頭に、関連する外食のすしが8.3%、おにぎりが16.9%の上昇となった。また、国際商品価格の上昇でチョコレートが28.0%、コーヒー豆が21.1%の上昇となった。
<6月以降も継続する食料品値上げ>
日銀は食料品価格の上昇の影響が減衰していくとみているが、筆者は別の展開を予想する。食料品価格の値上げはフェードアウトするのではなく、上昇加速の様相を見せ始めているからだ。
帝国データバンクの調査によると、主要食品メーカー195社が6月に値上げする予定の飲食料品は1932品目に上る。これは前年6月の約3倍の規模であり、2025年通年では24年の1万2520品目を大幅に上回る2万品目を超える可能性が高まっているという。
<物流費や人件費上昇、食料品値上げの大きな要因に>
また、値上げの要因として企業が挙げる項目として物流費や人件費の割合が上昇しており、中でも人件費は23年の9.1%から25年は53.6%に急上昇している。
日銀が重視してきた賃金上昇から製品価格上昇への流れが、日銀の想定よりも早く現実化してきているのではないか、と指摘したい。
<低価格の備蓄米の販売、コメ価格全体の押し下げ効果は不透明>
一方、小泉農相の主導による政府備蓄米の低価格での放出で、急上昇しているコメ価格が下がり、CPIは低下基調になるとの見方がマーケットや識者の一部にあるようだ。
ただ、5キロで2000円や1800円の備蓄米が販売されて、米価全体がどの程度の下落になるのか流通関係者の見方も分かれているようだ。
また、これから夏場にかけてコメの端境期に入り、政府備蓄米の残量が30万トンになっている現状を踏まえ、大幅な下落はないとの予想もある。
仮にコメ価格がある程度下がったとしても、外食のすしやおにぎりは人件費の高騰もあって、値下がりすることはないと筆者は想定する。
したがって「コメ価格の下落でCPIの上昇幅が大幅に低下する」という一部の予想とは違った展開になると筆者はみている。
<着実に上がり出したサービス、外食値上げの背景に人件費上昇>
2つ目のサービスは、東京都が先行して24年度から実施してきた高校授業料無償化の影響が今年4月からはく落しているため、サービス価格上昇の実態をより正確に映し出している面がある。
サービスは4月の前年比プラス2.0%から2.2%に上昇幅を高め、公共サービスを除いた一般サービスは2.4%の上昇となった。そのうち外食は5.9%となっており、ここでも人件費の上昇を価格に反映させる動きが顕在化してきたと言える。
このように5月東京都区部CPIのデータは、物価上昇率の一段の加速リスクを感じさせる内容が多く、消費者の実感として食料品価格の値上げを中心とした物価高で「節約」を強いられるという心理をより刺激する可能性が高まってきたようだ。
<植田日銀総裁、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要と指摘>
27日のコンファランスで、日銀の植田総裁は総合で見たCPIと日銀が重視する基調的な物価上昇率のかい離について「最近の乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していることは、日本において特に問題となっている」と指摘した。
また、植田総裁は「食料品価格の上昇というかたちで、もう1つのサプライショックに直面している。私どもの中心的な見通しでは、食料品価格上昇の影響は減衰していくとみている。しかしながら、基調的な物価上昇率が以前よりも 2%に近いことを踏まえると、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要がある」と説明した。
この発言のトーンは、5月1日の金融政策決定会合の直後の会見で、トランプ関税の影響を踏まえて利上げ検討の一時停止を事実上、宣言した時と比べると、大きな変化があると筆者の眼には映る。
<日米関税交渉が進展なら、日銀の判断に影響>
30日に開催される閣僚による日米関税交渉で日米の大きな歩み寄りが実現し、6月の日米首脳会談で大枠合意する可能性が出てきた場合、植田総裁と日銀金融政策決定会合に参加するメンバーが懸念してきた日本経済を下押しするトランプ関税の景気下押し効果が大幅に減殺することも予想される。
もし、そのケースの現実味が増すなら、日銀にとって実質金利でみて大幅なマイナスにとどまる政策金利の調整(利上げ)によるCPIの上昇抑制という政策課題の優先順位が、上がることになるのではないか。
内外の金融・経済をめぐる情勢判断が変わる可能性のあるデータを今回の東京都区部CPIは提供したと考える。









