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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

5月東京都区部CPI、食料品主導で3.6%上昇 政府・日銀の政策に影響へ 

2025-05-30 15:01:55 | 経済

 総務省が発表した5月の東京都区部消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年比プラス3.6%と2カ月連続で3%台の上昇となった。生鮮食品を除く食料が同プラス6.9%と前月の6.4%から伸びが加速し、物価全体の押し上げにつながった。帝国データバンクの調査によると、6月の食料品値上げは前年の約3倍の1932品目に達し、6月以降も食品値上げがけん引する形で物価上昇幅が拡大する可能性が出てきた。

 小泉進次郎農相が主導する政府備蓄米の低価格での販売計画によって、コメの価格下落が予想されるものの、残りの備蓄米は30万トンまで減少しており、コメ価格をどの程度下落させる効果があるのか不透明なままだ。日銀の植田和男総裁は27日の国際コンファランスで、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要があると指摘しており、政府・日銀の政策を展望する上で、食料品価格と物価全体の上昇テンポが再び重要性を高めてきた、と指摘したい。

 

 <コメ類が93.7%上昇、チョコレートやコーヒー豆も値上がり>

 5月東京都区部CPIで筆者が注目したのは、1)生鮮食品を除く食料の上昇幅拡大、2)サービス価格の上昇の2点だ。

 食料では、コメ類が93.7%の上昇だったのを筆頭に、関連する外食のすしが8.3%、おにぎりが16.9%の上昇となった。また、国際商品価格の上昇でチョコレートが28.0%、コーヒー豆が21.1%の上昇となった。

 

 <6月以降も継続する食料品値上げ>

 日銀は食料品価格の上昇の影響が減衰していくとみているが、筆者は別の展開を予想する。食料品価格の値上げはフェードアウトするのではなく、上昇加速の様相を見せ始めているからだ。

 帝国データバンクの調査によると、主要食品メーカー195社が6月に値上げする予定の飲食料品は1932品目に上る。これは前年6月の約3倍の規模であり、2025年通年では24年の1万2520品目を大幅に上回る2万品目を超える可能性が高まっているという。

 

 <物流費や人件費上昇、食料品値上げの大きな要因に>

 また、値上げの要因として企業が挙げる項目として物流費や人件費の割合が上昇しており、中でも人件費は23年の9.1%から25年は53.6%に急上昇している。

 日銀が重視してきた賃金上昇から製品価格上昇への流れが、日銀の想定よりも早く現実化してきているのではないか、と指摘したい。

 

 <低価格の備蓄米の販売、コメ価格全体の押し下げ効果は不透明>

 一方、小泉農相の主導による政府備蓄米の低価格での放出で、急上昇しているコメ価格が下がり、CPIは低下基調になるとの見方がマーケットや識者の一部にあるようだ。

 ただ、5キロで2000円や1800円の備蓄米が販売されて、米価全体がどの程度の下落になるのか流通関係者の見方も分かれているようだ。

 また、これから夏場にかけてコメの端境期に入り、政府備蓄米の残量が30万トンになっている現状を踏まえ、大幅な下落はないとの予想もある。

 仮にコメ価格がある程度下がったとしても、外食のすしやおにぎりは人件費の高騰もあって、値下がりすることはないと筆者は想定する。

 したがって「コメ価格の下落でCPIの上昇幅が大幅に低下する」という一部の予想とは違った展開になると筆者はみている。

 

 <着実に上がり出したサービス、外食値上げの背景に人件費上昇>

 2つ目のサービスは、東京都が先行して24年度から実施してきた高校授業料無償化の影響が今年4月からはく落しているため、サービス価格上昇の実態をより正確に映し出している面がある。

 サービスは4月の前年比プラス2.0%から2.2%に上昇幅を高め、公共サービスを除いた一般サービスは2.4%の上昇となった。そのうち外食は5.9%となっており、ここでも人件費の上昇を価格に反映させる動きが顕在化してきたと言える。

 このように5月東京都区部CPIのデータは、物価上昇率の一段の加速リスクを感じさせる内容が多く、消費者の実感として食料品価格の値上げを中心とした物価高で「節約」を強いられるという心理をより刺激する可能性が高まってきたようだ。

 

 <植田日銀総裁、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要と指摘>

 27日のコンファランスで、日銀の植田総裁は総合で見たCPIと日銀が重視する基調的な物価上昇率のかい離について「最近の乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していることは、日本において特に問題となっている」と指摘した。

 また、植田総裁は「食料品価格の上昇というかたちで、もう1つのサプライショックに直面している。私どもの中心的な見通しでは、食料品価格上昇の影響は減衰していくとみている。しかしながら、基調的な物価上昇率が以前よりも 2%に近いことを踏まえると、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要がある」と説明した。

 この発言のトーンは、5月1日の金融政策決定会合の直後の会見で、トランプ関税の影響を踏まえて利上げ検討の一時停止を事実上、宣言した時と比べると、大きな変化があると筆者の眼には映る。

 

 <日米関税交渉が進展なら、日銀の判断に影響>

 30日に開催される閣僚による日米関税交渉で日米の大きな歩み寄りが実現し、6月の日米首脳会談で大枠合意する可能性が出てきた場合、植田総裁と日銀金融政策決定会合に参加するメンバーが懸念してきた日本経済を下押しするトランプ関税の景気下押し効果が大幅に減殺することも予想される。

 もし、そのケースの現実味が増すなら、日銀にとって実質金利でみて大幅なマイナスにとどまる政策金利の調整(利上げ)によるCPIの上昇抑制という政策課題の優先順位が、上がることになるのではないか。

 内外の金融・経済をめぐる情勢判断が変わる可能性のあるデータを今回の東京都区部CPIは提供したと考える。

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お知らせ:23日-29日にコラム休信、30日から再開します

2025-05-22 20:17:01 | 経済

 お知らせ

 5月23日から29日までコラムの送信を休止します。東京を離れて初夏の英気を満喫し、30日から送信を再開します。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

 

 5月22日

 田巻一彦

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米トリプル安危機、米下院で税制・歳出法案否決なら日本も円高・株安直撃へ 

2025-05-22 16:23:03 | 経済

 21日のNY市場で発生したドル建て資産の「ミニトリプル安」が、本格的なトリプル安に発展するのかマーケットの緊張感が高まってきた。世界の市場参加者が注目するのが、大規模な減税などを盛り込んだ「税制・歳出法案」の行方だ。米下院の共和党指導部は22日までに同法案を下院本会議で採決し、可決に持ち込むことを目指しているが、予断を許さない情勢となっている。

 もし、否決される展開になれば、トランプ米大統領の指導力に大きな傷が付き、「虚勢を張るトランプ」のイメージが強まって、本格的なトリプル安に突入しかねない正念場を迎えている。本格的なトリプル安に突入した場合、ドル/円は140円を割り込んでドル安・円高は進み、日経平均株価は大幅に下値を切り下げるリスクが増大すると予想する。

 

 <21日のNY市場、ミニトリプル安に>

 21日のNY市場では、20年米国債入札が低調な結果に終わり、20年米国債利回りが一時、5.125%と2023年11月初め以来の水準まで上昇。10年米国債利回り(長期金利)は11.2bp上昇の4.593%で取引を終了した。

 この金利上昇が米株下落の要因となり、主要3指数は下げ幅を拡大。特にダウは前日比1.91%安と指数の中で最も下げ幅が大きくなった。

 ドルも主要通貨に対して幅広く下落し、ドル指数は一時、99.36まで下げ幅を拡大する局面があった。複数の市場筋は「ミニトリプル安」現象だったと指摘する。

 

 <共和党の修正案、多方面から反対の声>

 この先で本格的なトリプル安になるのかどうかは、大規模な減税などを盛り込んだ「税制・歳出法案」が共和党指導部の設定した5月26日というデッドラインを突破しても可決できないときに現実味が大幅に高まると予想する。

 ブルームバーグによると、米下院共和党指導部は21日夜、「税制・歳出法案」の修正案を公表。州・地方税(SALT)控除の上限引き上げなどを盛り込んだ。

 これは、共和党の保守強硬派が主張する減税などの財源を確保するという主張とは正反対の政策であり、同派の要求していたメディケイド(低所得者向け医療保険)の削減加速も盛り込まれ、「呉越同舟」的な法案に多方面から反対の声がわき起こる可能性がある。

 

 <下院で否決ならトランプ氏の威信に打撃、外交面でも行き詰まり>

 もし、22日までに採決があり、否決されても再修正で26日までに下院可決を勝ち取るという日程をジョンソン下院議長らは描いているとみられるが、「綱渡り」の法案成立への道から転落するリスクも相応にあると指摘したい。

 その場合は、政権の金看板であるトランプ減税の恒久化と上乗せが困難になり、トランプ大統領の威信が大幅に低下することになるだろう。

 トランプ大統領は経済政策だけでなく、外交面でもプーチン・ロシア大統領との電話会談で和平交渉の設定に事実上失敗。ガザ問題でもイスラエル攻撃を止めさせることができず、イスラエルが日欧の外交団に警告射撃をする事態にまで発展している。

 イランの核開発をめぐる米ーイラン交渉もここにきて停滞感が強まり、トランプ外交は各方面で行き詰まりをみせている。

 

 <米印関税交渉にも暗雲、虚勢を張るトランプのイメージ浸透>

 さらに米国を復活させると豪語してきたトランプ関税をめぐる主要国との交渉でも、重要な相手国であり早期妥結が期待されていたインドが、鉄鋼・アルミニウム製品に対する米国の関税に対抗するため、米国で生産される一部の製品に輸入関税を課す方針を明らかにし、米印交渉が長期化する気配を示している。

 トランプ大統領は「うまく行っている」とSNSに投稿するものの、その後の状況をチェックすると、実際は停滞しているというケースが続出しており、米国内では「虚勢を張るトランプ」との指摘も出ているようだ。

 筆者は、足元における「ミニトリプル安」現象の背景には、この「虚勢を張るトランプ」というイメージの浸透現象があると指摘したい。

 つまり、トランプ大統領は強く主張している政策のかなりの部分を実行できないのではないか、という市場の危惧が大きくなっているということだ。

 

 <トリプル安再燃なら円高進展、日本の当局に打つ手なし>

 5月26日のデッドラインを突破しても、「税制・歳出法案」を下院で可決できなければ、相当の混乱が生じて米株安・ドル安・米国債安の現象に歯止めがかかりにくくなるのではないか。

 そのケースでは、ドル/円でもドルの下落が止まらず、140円を割り込む円高になると予想する。急速な円高は日本株の下落を招く。米国主導のこの円高・株安を日本の政策当局のパワーで止めることは難しい。

 

 <可決シナリオでも強まる財政赤字膨張の懸念、残るトリプル安の芽>

 今回のトリプル安への懸念が本当に危ないのは、「税制・歳出法案」が下院で可決されたとしても、マーケットには米財政赤字の膨張を懸念する声がわき上がり、トリプル安の芽が残ってしまう公算が大きいからだ。

 米議会が開催した公聴会で超党派のアナリストは、共和党の法案により連邦政府の36兆2000億ドルの債務が3兆─5兆ドル増加する可能性があると指摘している。

 この財政赤字の膨張に対するトランプ政権の明確な方針は示されておらず、複数の市場関係者は「税制・歳出法案」が下院で可決されても否決されても、結局はトリプル安に陥る可能性があるとの見方を示している。 

 多くの東京市場関係者が想定しているよりも、米経済とトランプ政権が直面しようとしている危機は深刻度が大きいと予想する。

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ドルに「漠然とした不安」、米金利上昇で下落 日米財務相会談次第で円高進展も

2025-05-21 15:30:14 | 経済

 21日の東京市場を含めたマーケット全般を展望すると、米株の主要3指数先物は小幅の下げにとどまっているものの、米長期金利がジワリと上がる中でドル指数が下落し、ドル建て資産のトリプル安の前兆現象かもしれないとの声が市場の一部で浮上している。トランプ米大統領が重視している減税を実施するための法案が下院の段階で通過が不透明になっており、ドルの信認をめぐり「漠然とした不安感」がマーケットに広がっているためだ。

 東京市場が注目するドル/円の水準も、加藤勝信財務相とベッセント米財務長官との日米財務相会談で円高方向への水準調整で何らかの合意があるのではないかとの思惑が浮上しているだけでなく、ドルの「下値不安」がくすぶっていることもドル安・円高方向への動きを促している面がある。もし、週内に米減税法案が下院本会議を通過しない場合は、日米財務相会談での議論の詳細が公表されなくても、ドル安・円高方向の圧力を受けると予想する。

 

 <イスラエルがイランの核施設空爆を計画、CNN報道で円高も>

 21日の東京市場で、ドル/円は一時143円半ば付近までドル安・円高が進んだ。日米財務相会談で円高方向への水準誘導があるのかどうかという懸念に加え、イスラエルがイランの核施設空爆を計画している情報があるというCNNなどの報道で、ドル売りが一時加速した場面もあった。

 ただ、多くの市場関係者によると、米株の主要3指数先物は小幅の下落にとどまっており、中東情勢の緊迫が市場変動を大きくする状況にはなっていない。

 

 <米長期金利上昇、市場はドル指数下落で反応>

 しかし、21日のアジア市場の取引時間帯では、10年米国債利回り(長期金利)が20日終値の4.48%台から4.50%台に上昇。30年米国債利回りはNY市場の4.96%台から一時、4.99%台まで上がった。 

 市場のセンチメントがドルの健全性に対して前向きなときは、米長期金利の上昇とともにドルが買われることが多い。だが、ドル指数は20日NY市場終盤の100付近から21日午後に99.47台まで下落する局面があった。

 複数の市場関係者は「マーケットにドルに対する漠然とした不安が広がっている」と指摘する。

 

 <米減税法案の下院可決、トランプ大統領の訪問でもメド立たず>

 ドルへの不安の背景には複数の要因があるが、その筆頭に挙げられるのが、米減税法案可決・成立への見通しが立たないことだ。

 19日の当欄で指摘したように、共和党のジョンソン下院議長は週内の減税法案の可決を目指しているが、共和党内の財政健全派は、メディケイド(低所得者向け医療保険)やフードスタンプ(低所得者向け食料支援)などのプログラムを一段と削減するよう要求。他方で州・地方税(SALT)控除引き上げの規模でも共和党内の意見が対立し、下院本会議で可決するメドが立っていない。

 トランプ大統領は20日、米連邦議会を訪れて共和党の団結を呼びかけたが、可決への手応えはつかめなかったようだ。

 もし、否決された場合は、昨年の大統領選で公約してきたトランプ減税の恒久化が実現できないことになり、トランプ大統領のリーダーシップに傷が付き、マーケットは米株安とドル安に直面すると予想する。そうした展開になる可能性をマーケットの一部の関係者は、感じ取っているのではないか。

 

 <MDYの米国債格下げ、香港勢の投資に影響も>

 別の要素もある。格下げ問題の影響だ。ブルームバーグによると、香港の年金制度、強制積立基金制度(MPF)の下で運営される合計1兆3000億香ドル(約24兆円)相当のファンドは、承認された格付け機関から米国債についてAAAまたは同等の格付けを受けている場合にのみ、資産の10%超を米国債に投資することを認められている、という。

 ムーディーズの格下げ後、AAA級格付けを付与しているのは日本の格付け投資情報センター(R&I)のみとなったが、香港法の定める非常に厳格な投資規制に、米国債が抵触するリスクが浮き彫りになった、とブルームバーグは指摘している。

 複数の市場関係者によると、この報道も市場心理悪化の要因になっているという。

 

 <イスラエルの攻撃計画、ドル売り要因に>

 さらに冒頭で言及したイスラエルによるイラン核施設への攻撃計画に関するCNNの報道も、トランプ大統領の中東外遊直後に出てきただけに、トランプ外交が円滑に進展しておらず、米国の意図に反したイラン核施設への攻撃は米国の外交ポジションを悪化させ、ドル売りにつながるとの声も出ていた。

 ただ、イランの各施設へのイスラエルの先制攻撃は、国際社会の強い非難を招く可能性が高く、事前に情報が漏洩したことで、攻撃計画の実現可能性は大幅に低下したとの見方が多いようだ。

 

 <ドル建て資産への信認、試される展開へ>

 このようにドル建て資産の信認を脅かす要因が複数出てきたことで、マーケットには予期せぬ出来事への警戒感がジワリと高まってきた。

 中でも米減税法案の下院本会議の採決で、反対が多数となった場合の市場へのインパクトは、多くの東京市場の関係者が想定しているよりも大きくなると指摘したい。

 加藤ーベッセント会談の結果次第では、急速にドル安・円高が進展することも視野に入れるべきだ。

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20年債入札不調、急上昇の超長期金利 ギリシャより悪いとの石破首相発言が海外勢刺激

2025-05-20 14:34:23 | 経済

 財務省が20日に実施した20年利付国債入札の結果が不調となり、超長期国債の利回りが急上昇し、10年最長期国債利回り(長期金利)も1.525%まで上がった。「買い手」不在が鮮明になったとの見方が多い中で、石破茂首相が19日の参院予算委において「日本の財政状況はギリシャよりよろしくない」と発言したことが海外勢の注目を集め、20年債入札で海外勢が消極的となって大崩れの結果になったとの声も浮上した。

 今年夏の参院選で消費税率の引き下げ問題が争点になりそうな情勢の下で、20日の市場における超長期ゾーンの利回り上昇は、財政健全化よりも消費税減税を優先し参院選を勝ち抜きたいという思惑を持つ与野党勢力に冷水を浴びせた格好だ。同時に日本の行政トップである石破首相が安易にギリシャより財政状況が悪いと発言した「情勢判断の甘さ」にも批判が集まりそうだ。

 

 <20年債入札後、40年利回りは3.58%と過去最高に>

 この日の20年債入札は、最低落札価格が98円15銭となり、平均落札価格99円22銭との差であるテールが1円14銭と1987年以来の大きさとなり、市場に大きな失望感を広げる結果となった。また、需要の強弱を反映する応札倍率は2.5倍と、2012年8月以来の低水準にとどまった。 

 この入札結果を受けて、20年債利回りは2.55%まで上昇し、30年債利回りが3.09%まで上がった。40年債利回りは3.58%と過去最高を更新した。長期金利も一時、1.525%と前日から0.045%の上昇となった。

 

 <「ギリシャよりよろしくない」との石破首相発言、海外勢が注目>

 市場では、超長期ゾーンの買い手が「不在」という実態が浮き彫りになったとの声が広がった。超低金利時代には20年ゾーンを買っていたメガバンクなどが買い手の座から姿を消し、年金や生保も足元における超長期ゾーンの利回り上昇を見て、様子見姿勢を強めていたという。

 その中で、今年に入って注目を集めていたのは海外勢だった。20年、30年、40年の超長期ゾーンについて、2月に1兆2406億円の買い越しとなり、3月に2兆1828億円、4月に2兆2886億円と連続して大幅な買い越しを記録していた。

 ところが、19日の参院予算委で石破首相が減税の有無を問われ「金利がある世界の恐ろしさを認識する必要がある。減税して財源を国債で賄うことはしない」と答弁。その後で「日本の財政状況は間違いなく極めてよろしくない。ギリシャよりよろしくない状況だ」と述べた点が一部の海外勢に注目された。

 国際通貨基金(IМF)のデータによると、日本の債務残高は対国内総生産(GDP)比で234.9%でギリシャの142.2%を上回っている。

 複数の市場関係者によると、2009年に金融危機を発生させたギリシャよりも今の日本の財政事情が「悪い」と日本のトップが国会の場で明言したことの意味は大きく、20日の20年入札で海外勢の落札意欲が大きく削がれた大きな要因の1つになったと指摘した。

 

 <金利上昇に鈍感な日本の与野党政治家、市場の「警告」にインパクト>

 今回の20年債入札の結果を受けた長期金利や超長期ゾーンの金利上昇が、そのまま明日以降の日本国債市場の暴落継続につながるとみている市場参加者はほぼゼロだろう。

 だが、マーケットが日本の財政健全性について、大きな「警告」を発したことも事実だ。債務残高の積み上がりは対GDP比をみても「異常」と言え、その中で今年夏の参院で消費税率の引き下げが大きな争点になっているのは、与野党を通じた多くの政治家が「金利上昇」に対して感覚が鈍感ないし麻痺している証拠であると指摘したい。

 消費税率を明確な財源の手当てなしに実施する政治情勢となった場合、マーケットは金利上昇という反応で再び「警告」を発する可能性が高いと予想する。

 

 <3%台のCPIと0.5%の政策金利、スティープニングは合理的と一部の海外勢が認識>

 また、今回の海外勢の「反乱」の原因には、消費者物価指数(CPI)が3%で推移しているにもかかわらず、日銀の政策金利が0.5%と主要7カ国(G7)の中で最も低く抑えられており、イールドカーブのスティープニング(急峻化)のトレードを合理化できるとの見方があるようだ。

 つまり、一部の海外勢から見れば、日本の当局はイールドカーブがスティープニングすることを容認していると映っているということになる。

 

 <市場反乱に鈍感だった石破首相、渡辺銀行破綻と金融恐慌発生の故事を生かせず>

 一方、石破首相の国会での発言は、あまりにもマーケットへの配慮が欠けていると指摘せざるを得ない。日本の政界では、為替水準にコメントすることは市場への影響が大きいために「タブー」となっている、ということは認識されている。

 しかし、国債市場に大きな影響が及ぶと、予期できない金融危機の芽があちこちで出てきてしまうという「怖さ」を十分には認識していないことも明らかになったと言えるのではないか。

 1927年(昭和2年)3月14日、衆院予算総会(当時の呼称)で片岡直温蔵相が「本日、東京渡辺銀行が破綻した」と誤った情報を口にしたことをきっかけに、同銀は翌日に休業。取り付け騒ぎが拡大して、昭和の金融恐慌を発生させるきっかけとなった。

 この教訓は、長く日本の政界に「苦い記憶」として刻み込まれ、金融危機につながるような発言はしないことが慣例化していたはずだ。

 19日の石破首相の発言は、そうした先人の記憶が希薄化してきたことを暴露したと言ってもいい内容だった。

 

 <3兆ドルの対外純資産、日本に残された時間の活用には柔軟なアイデアが不可欠>

 日本が構造的な財政赤字とハイパーインフレに悩むアルゼンチンのような状況に一足飛びに転落することはない。経常収支は黒字を保ち、対外純資産残高は2024年3月にドイツに抜かれたとはいえ、3兆2209億ドルと世界2位の規模となっているからだ。

 IMFによると、2025年の日本の財政収支・対GDP比はマイナス2.85%と、米国のマイナス6.46%よりも低い水準となっている。

 だが、少子高齢化のスピードは世界トップレベルであり、生産年齢人口の減少に歯止めがかからない。自動車に代わる次世代のリーディング産業の確立に失敗し、新たな成長の芽を見出すアイデアも出てこない有り様だ。

 いずれ、世界のマーケットはこの日本の成長に向けたエネルギーの枯渇に対し、強い「警鐘」を発すると指摘したい。

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