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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

高い米国の人件費、メキシコの6倍超 日本企業の米国シフトに大きな障害

2025-04-16 15:10:24 | 経済
 トランプ米大統領の自動車関税実施を受けて、日本の自動車メーカーは米国内への生産シフトを検討しているようだが、大きな障害が存在する。それは米国内における人件費の高さだ。メキシコから米国内に生産拠点をシフトさせると、人件費は6-7倍に膨張する。人件費の上昇分を価格引き上げで補えば、大幅な値上げとなって競争力を失うことになる。場合によっては25%の自動車関税を支払っても米国内で製造するより安くなるケースも出てくることが予想される。
 24%の相互関税のかかる日本にとって、米国へ生産拠点を移すのか、関税を甘受しても米国以外での生産を継続するかの決断を幅広い業種で迫られることになる。トランプ大統領から見れば、関税を引き上げも米国における人件費の高さがネックになって、製造業の米国へのシフトが進まないという展開も十分にあり得る。製造業の還流が進めば、一段と人件費が上昇し、米連邦準備理事会(FRB)による利下げを遠ざけるという事態に発展する可能性もあり、人件費問題でトランプ大統領がどのような対応を示すのか、大きなポイントに浮上しそうだ。

 <メキシコの人件費、米デトロイトの15.6% 難しい低価格車の生産シフト>

 16日付日本経済新聞朝刊は、ホンダが主力車種の生産をカナダとメキシコから米国に移管する検討に入った、と伝えた。米国販売の9割を現地生産で賄えるようにするという。
 だが、筆者はここに米国内における高い賃金水準という問題が存在し、人件費の大幅増加という問題をどのように吸収していくのか、という高いハードルが控えていると指摘したい。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2024年7-8月の調査で米国のデトロイトにおける製造業の一般工の月額賃金は4113ドル。これに対して米国との国境に近いメキシコのティファナでは、同じ条件で月額642ドル(調査期間は24年8-9月)とデトロイトの15.6%に過ぎない。
 6.4倍も高い人件費によるコスト増の圧力を各種の合理化で吸収するのは至難の技ではないか。コスト増をそのまま価格に上乗せすれば、他社との見合いで価格競争力が大幅に低下するか、もしくは各社とも大幅値上げになった場合は、販売量が米国内で減少することになると予想する。
 大幅な人件費の増加と比較するなら、25%の関税分を価格に上乗せしても米国内で生産するより安価で販売できる、というシミュレーション結果が出てもおかしくないだろう。
 ホンダの場合、メキシコで生産している多目的車(SUⅤ)の価格設定が他社よりも安くなっているということもあり、人件費の大幅上昇をどのように吸収するかという点は、経営上の大きな問題として浮上すると予想する。

 
 <日本の人件費はドル換算で米国の半分、関税分上乗せでも安く販売できる可能性>

 メキシコほど安くはないものの、他の米国以外の生産拠点で生産し、輸出している日本の自動車メーカーにとっても同様の問題が生じる。
 例えば、日本の自動車メーカーが名古屋圏からオハイオ州コロンバスに生産拠点をシフトさせる計画を立てたとすると、名古屋市の賃金はドル換算で月額1853ドル(調査は23年8-9月)なのに対し、コロンバスの賃金はデトロイトより低いものの月額3869ドル(調査は24年7ー8月)と名古屋市の2.14倍に跳ね上がる。
 25%の関税分を価格に上乗せして販売するのと、人件費と設備投資などの諸負担を負って生産・販売するのとどちらが経営的に「お得」なのか。様々な政治的なリスクや中長期的な自動車販売の業界地図の変動を加味すると、この決断は「北米進出が合理的」となかなか言えないと筆者は指摘したい。
 
 <米国内の人手不足、一段の人件費押し上げも>

 こうした米国内の賃金水準の高さが経営の足かせになるという構図は、自動車業界に限ったことではない。幅広い製造業に共通して言えることだ。ある製造業の幹部は人件費の高さを考えると、米国への生産シフトは難しいという感想も漏らしている。
 また、トランプ大統領は不法移民の強制送還という目玉政策を打ち出しており、米国内の労働需給は一段と引き締まる可能性があるという別の問題もある。

 <日米交渉で関税率引き下げなら、日本企業の米国シフトにブレーキ> 
 
 もし、17日に開催される日米関税交渉などを経て、日米首脳会談で日本の相互関税の上乗せ分24%と、自動車関税の25%がかなりカットされるなら、米国への生産シフトに対する日本企業の動きには、かなりのブレーキがかかると予想する。その意味でこれから始まる日米間の関税交渉の結果は、日本企業の今後の設備投資計画に大きな影響を与える「重大問題」と言えるだろう。

 <人件費上昇続くなら、遠退く米利下げ 関税政策失敗なら閣僚に責任論も>

 米国内の人件費の高さは、トランプ大統領の眼から見れば、せっかく関税を引き上げたのに米国の製造業の生産拠点の米国還流が想定を大幅に下回り、理想と現実のギャップの大きさに失望するという展開もありえる。
 特に筆者が注目したいのは、米国内における新たな還流組による人手確保の動きによる賃上げの促進という事態だ。賃金がさらに上がり出せば、トランプ大統領がFRBに切望している「利下げ」の実現が、逆に遠ざかるということも想定するべきだ。
 トランプ大統領にとって、製造業の還流なき物価上昇という事態になれば、看板政策の挫折を意味することになり、政治的な意味での打撃も大きくなる。
 米国内における人件費の高さが、トランプ大統領の視野に入っていなかったとすれば、それは単なる手抜かりではすまず、関税政策の失敗を理由とした政権内での有力閣僚の更迭という事態に発展する可能性が高まるだろう。
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