一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

37年半ぶりの円安、切り札ない日本当局 弱い米指標待ちの構図

2024-06-27 14:17:37 | 経済

 26日のNY市場でドル/円が一時、160.88円と37年半ぶりのドル高・円安水準を付け、27日の東京市場では円安をけん制する日本当局との神経戦が続いた。28日に発表される5月の米個人消費支出(PCE)価格指数が大きな分岐点になるが、1日に2-3円という大変動が起きなければ日本当局によるドル売り・円買い介入の実施は難しいと筆者は考える。日本側に円安を止める切り札はなく、弱い米指標の発表による米長期金利の低下を待つ「他力本願」的な情勢となっているように見える。 

 

 <市場には介入警戒感>

 26日夜に神田真人財務官は「高い警戒感を持って市場の動向を注視している」「行き過ぎた動きに対しては必要な対応を取っていく」と述べるとともに、27日午前の会見で 林芳正官房長官が、為替の過度な変動は「望ましくない」「しっかりと注視し、適切な対応をとっていきたい」と発言し、いわゆる「口先介入」で円安の動きをけん制した。

 市場は当局の発言に敬意を表し、27日午後の取引ではNY市場終値よりもややドル安・円高の160.30-160.40円での推移となった。

 

 <イエレン発言に見える米側の本音>

 ただ、円安の根底には日米の政策金利差が500ベーシスポイント(bp)超もかい離しているという現実があり、9月の米連邦公開市場委員会(FOМC)での利下げの可能性が後退したと受け止められる発言が米連邦準備理事会(FRB)高官から出れば、円安が進展してしまう構図が出来上がっている。

 また、イエレン米財務長官が主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を前にした5月23日の会見で「介入はまれであるべきで、行う場合は事前にコミュニケーションをとり、主に為替市場のボラティリティーに対応したものであるべきだと考えている」と述べていた。これは、頻繁な介入に反対する姿勢をあえて同盟国・日本に示した異例の発言であると筆者は考える。 

 したがって少なくとも28日のPCE価格指数の発表までは、日本の介入実施はないと予想する。強い結果となりドル/円が1円超の円安になれば介入の可能性はゼロではないとみられるが、そうでなければ口先介入を繰り返すことになるのではないか。

 

 <日本企業の国内回帰、円安生かす政策対応が必要>

 日本の政策当局にとって、今は耐える時間帯になっていると思う。中長期的には円安を契機として輸出額を増やし、実需の円買いを増やすことが円安是正に向けた「正攻法」な政策対応だと思うが、政府の骨太の方針にはそのようなアプローチはみえない。

 円安メリットを生かせる経済構造にシフトさせる中長期的な政策目標を掲げ、日本の製造業の国内誘致を積極化させることが、回り道のようでいて中長期的に最も効果的な政策対応であると指摘したい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海外勢が再び日本株物色、日経平均4万円回復に現実味 背景に中国消費の低迷

2024-06-26 12:17:39 | 経済

 26日の東京市場で日経平均が前日比500円を超す上昇となっている。前日のNY市場でハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数が1.26%上昇し、東京市場でも半導体関連株に買いが集まっていることが影響したとの見方が多い。 

 銘柄別では上記のような見方になるが、朝方から買いを先行させていたのは海外勢だったようだ。複数の市場関係者によると、1)足元における中国の消費の弱さを懸念して、中国株から日本株に資金をシフトさせる動きがある、2)160円手前まで進んできている円安で半導体関連株を買いやすい──という思惑が海外勢の中に広がっているという。 

 中国では、家電購入に対する補助金政策が実施され、5月の小売売上高は前年比3.7%増と4月の2.3%増から伸び率が高まった。だが、5月末から実施されていた大型ネット通販セール「618」の売上高が前年比7%減と落ち込み、市場関係者の失望を誘っていた。消費マインドの冷え込みを反映して値引きされた商品も目立っていたと言われ、不動産価格の下落に端を発した中国の資産デフレが消費を冷え込ませている実態が改めて露呈したかたちだ。

 海外勢は5月に日本株を1兆3743億円買い越した後、6月2日から15日までの期間に2662億円売り越していた。ここにきて再び日本株投資を積極化させている背景には、中国経済の不透明感の強さがありそうだ。

 海外勢の売買動向は、いったん「買い」方向に傾くと数週間は継続するケースが多い。足元での円安の流れも継続しそうな中で、海外勢の物色が継続すると慎重だった国内勢も追随せざるを得なくなるかもしれない。

 いったんは遠退いたとみられていた日経平均の4万円回復は、海外勢の買いを支えに現実味を帯びてきたようだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自民党総裁選、現職敗退はあるか 市場が懸念する岸田再選と政権交代リスク

2024-06-25 13:49:19 | 政治

 自民党の総裁選挙が今年9月に行われる。具体的な総裁選の日程はまだ固まっていないが、岸田文雄首相は6月21日の会見で、総裁選への出馬は表明しなかったものの電気・ガス料金の支援策復活を表明するなど政権維持への強い意志を示した。だが、総裁選では党員票が議員票と同数割り当てられ、岸田首相が党員票で大幅な劣勢になれば、1978年に当時の福田赳夫首相が大平正芳氏に敗北して以来の現職敗退の可能性もある。

 マーケットの一部では、岸田首相が総裁再選を勝ち取って、直後に臨時国会を召集して衆院を解散し、自民党大敗と政権交代が現実になるシナリオを最悪の展開として位置付けている。もし、自民党総裁選で岸田首相が敗北しそうな情勢になれば、最悪事態の回避と受け止めて日経平均が上昇する展開も予想されている。果たして岸田首相の自民党総裁再選はあるのか──。東京市場の参加者にとって、米経済や米金融政策の動向以上に注目材料となる可能性が高まってきた。

 

 <市場心理、岸田首相の再選は「凶」>

 21日の会見で岸田首相は、5月末で打ち切りとなった電気・ガス料金の支援策を8月から10月までの3カ月間に限定して復活させる方針を表明した。直前まで関係省庁の幹部に連絡せずに「鶴の一声」で決定したとみられている。ここで妙なうわさが浮上している。電気代のかさむ真冬を前に10月で支援策を打ち切るのは「10月に衆院を解散するからではないか」との見方がひそひそと語られているという。

 そのケースでは、岸田首相の思惑とは全く正反対に自民党と公明党の連立与党が過半数を割り込み、ないと思われてきた政権交代が実現する可能性が高まるかもしれない。自公連立政権の継続を希望している大多数の市場関係者にとって、このシナリオ実現が「最悪の展開」と言っていいだろう。

 岸田首相にとっては極めて不都合な現実だが、内閣支持率の低下に歯止めがかからない岸田首相の総裁再選は「凶」であり、岸田首相とは別の新総裁で衆院選を勝ち抜くことができれば「吉」というセンチメントが形成されつつある。

 

 <党員票の獲得、岸田首相に高いハードル>

 そこで、今年9月実施の自民党総裁選の行方を展望してみると、岸田首相にとってのハードルはかなり高いことがわかる。

 議員票は自民党衆参両院の議員数になるが、6月25日現在の衆参における自民党会派の数が所属国会議員の数と一致しているという前提に立てば、衆院258人・参院111人の計369人となる。前回は382人だった。議員票と同数が党員票として割り当てられ、議員票が369票と確定すれば、党員票も369票となる。

 前回は岸田首相が議員票146票・党員票110票で256票、河野太郎氏が議員票86票・党員票169票で255票となり、両氏ともに過半数に達していなかったため、決選投票で岸田首相が勝利した。

 今回はどうなるのか。岸田首相も含めて立候補を表明した議員は今のところゼロだが、岸田首相が立候補し、石破茂氏と高市早苗氏の出馬可能性も高いとみられている。茂木敏充幹事長や河野氏、加藤勝信氏も立候補に意欲を持っているとみられており、前回以上の乱戦模様になる余地もかなりある。

 ここで支持率低下に悩む岸田首相が、総裁選の直前に立候補断念を表明した場合、株価は大幅上昇する可能性を秘めていると筆者は予想する。

 また、立候補した後の情勢調査で党員票での劣勢が判明し、決選投票に残る2位までに入ることが難しいと報道された場合も、株価は上昇することが予想される。

 

 <衆院選控え、強まる党員票の重み>

 仮に1回目の投票で2位に入ったとしても、地方で人気のある石破氏が党員票で大差をつけて1位になった場合、次の選挙の顔を意識した議員票が岸田首相に集まることになるのかどうか。2025年10月に任期を迎える衆院議員の心理を深読みすれば、党員票の獲得の意味は、前回の総裁選を大幅に上回ることになるだろう。

 一方で、岸田首相は党内での批判をものともせず、政権維持にまい進していると言われている。菅義偉前首相のようにあっさりとは退陣表明しないとの見方も根強い。

 今後、マーケットは岸田首相の強気の姿勢を見て落胆し、総裁選での岸田首相の劣勢報道や退陣の可能性を指摘する報道で上昇期待を高めるという振れの大きな展開になるかもしれない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日銀6月会合の主な意見、絶妙のバランス 利上げは9月以降か

2024-06-24 13:47:01 | 経済

日銀が24日に公表した6月金融政策決定会合の「主な意見」では、次の利上げに積極的な見解が展開される一方、消費者物価が明確に反転上昇するのを経済指標で確認してからでもよいとの意見が併記されるなど、バランスの取れた構成になっていた。市場から過度に「ハト派」とみられないよう「利上げ」というタームが何カ所も出てきているところをみると、利上げは7月会合ではなく、9月会合以降という日銀ボードの本音が透けて見える内容と筆者には映った。

 

 <複数個所に「金利を引き上げる」という表現>

 今回の主な意見では、「金利を引き上げる」という単刀直入な表現が複数個所で見られたことが特徴の1つといえるのではないだろうか。

 中でも「次回会合に向けてもデータを注視し、目標実現の確度の高まりに応じて、遅きに失することなく、適時に金利を引き上げることが必要である」との意見は、データ次第で7月会合での利上げもありうると受け止めることが可能な積極的な見解をだった。

 一方で、「個人消費が盛り上がりを欠く中、一部自動車メーカーの出荷停止という想定外の事態が続き、これらの影響も確認する必要がある」との指摘は、7月会合時点での利上げ決断は時期尚早との見方を強くにじませたと解釈できる発言だろう。

 全体として日銀展望リポートでの見通し通りに経済が進展していけば、金利引き上げによる緩和度合いの調整が必要になるとの見解が多数を占めていた可能性が濃厚で、さらに最近の円安による物価押し上げの効果を指摘する声も加わって、次の利上げに肯定的な見解が多かったと市場が受け止め、結果として外為市場で円安が進展することを防止する構成になっていたと筆者は感じた。

 

 <消費動向を確認し、9月以降に利上げ議論か>

 ただ、足元での消費がⅤ字回復とは程遠い停滞感を伴い、一部自動車メーカーの認証不正による出荷停止のインパクトが不透明な状況で、7月会合で利上げを決断できるのか、という問題は残っていることも率直に示したともいえる。

 筆者は、上記で指摘したような背景に加え、日銀が7月会合で国債買い入れ額の減額計画を公表し、その減額幅が「相応の規模」になるとの植田和男総裁の発言を踏まえれば、市場の想定外の乱高下を回避するために7月会合での利上げは見送り、夏場の消費などの回復を確認して9月会合ないし10月会合で利上げを決断するのではないかと予想する。

 リスク要因は、円安の急進展だろう。ドル/円が160円を突破し、日銀が7月会合の結果を発表する30日に接近する時期に165円に届こうとする動きが出てくれば、主な意見で指摘されていた「円安は物価見通しの上振れの可能性を高める要因」という現象が表面化するリスクが高まる。これから1カ月間の市場動向からも目が離せない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

実質賃金プラス化に黄信号、5月CPIから読み解く消費の先行き

2024-06-21 13:29:28 | 経済

 総務省が21日に発表した5月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比2.5%上昇となった。国内メディアの多くは、再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き上げなどの影響による電気代の上昇で、前月の2.2%から上昇幅が大きくなったことに注目したが、実は多くの国民にとってもっと切実な問題がある。それは実質賃金を算出する際に使用する「持ち家の帰属家賃を除く総合」が、4月の2.9%から3.3%に上がったことだ。

 

 <5%台の賃上げ、毎月勤労統計に反映されないのはなぜか>

 実質賃金は今年4月まで25カ月連続でマイナスを続け、それが消費の低迷につながっている。5月に実質賃金がプラスになるには、毎月勤労統計ベースでの現金給与総額の伸び率が3.3%を上回る必要がある。しかし、4月は前年比2.1%だった。5月から急に上がることになるのか──。カギを握るのは、今年の春闘で5%台となった賃上げの実績が、本当に小規模事業者にまで浸透しいているのかという点だろう。

 連合によると、2024年春闘での賃上げ率は5.08%と1991年の5.66%以来、33年ぶりに5%台に乗せた。そのうち中小企業の賃上げ率は4.45%と事前のエコノミスト予想を上回った。そこで4月からの毎勤ベースでの現金給与総額の動向に注目が集まったが、5.08%とは大きく乖離する2.1%にとどまった。

 このギャップの要因として考えられるのは、1)毎勤統計では事業所規模5人以上が調査対象で、組合が組織されていない小規模企業が多く含まれ、そこの賃上げ率が低く全体の水準を押し下げた、2)企業によっては賃上げがフルに実行される時期が5月から7月までとばらつきがあり、4月では賃上げの実態が反映されていない──という点だ。

 ただ、5月、6月とデータが更新されても現金給与総額の伸び率が3%台に達しない場合は、政府・日銀の想定を超えて組合の組織されていない企業での賃上げ率が低く、今年の春闘は5%台の大企業と組合のない小規模企業との格差が、かつてないほど広がった可能性があることを考慮するべきだろう。

 

 <猛暑の電気代が押し上げるCPI>

 そこに実質賃金を算出する際に使用するCPIの「持ち家の帰属家賃を除く総合」が3.3%に上昇しているという事実が加わる。このハードルは、6月、7月とさらに上がる可能性がある。

 というのも、政府が実施してきた電気・ガス価格激変緩和対策が5月使用分で終了したからだ。総合指数を0.48%押し下げてきたが、6月のCPIでは効果が半分になり、7月にゼロになると総務省はみており、7月のCPIは押し上げ効果が出てくることになる。

 そのうえ、今年の夏は猛暑が予想されており、電気料金の支払額は相当に上がりそうだ。CPI総合と「持ち家の帰属家賃を除く総合」が7、8月にかけて上昇率が加速する公算が大きく、実質賃金がプラスに転化しないまま秋を迎えてしまう展開の可能性もかなり出てきたと指摘したい。

 夏場のレジャーシーズンを機に、大幅な賃上げと4万円の定額減税の効果で所得環境が好転し、消費が本格的な増加基調に入ることを期待していた政府・日銀にとって、これから予想される消費低迷のシナリオはどうしても回避したい事態だろう。 

 今や岸田文雄首相の「一枚看板」となってしまった感のある大幅賃上げによる景気拡大という展開は、富山湾の蜃気楼のようになってしまう危険性もはらむ。5月以降の現金給与総額の伸び率、実質賃金の動向は、各方面に大きな影響を与えそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする