一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

植田日銀総裁が示した次の利上げイメージ、素直に反応した外為市場

2024-07-31 17:26:10 | 経済

 日銀は31日、金融政策決定会合で政策金利(無担保コール翌日物金利)の誘導水準を0.25%に引き上げることを決めた。植田和男総裁は同日の会見で、経済・物価の動きが展望リポート(経済・物価情勢の展望)で示した見通しに沿って推移していることを、今回の利上げの理由として挙げた。今後も展望リポートで示された見通し通りに推移すれば、次の利上げを検討することも明言し、これまでも述べてきた中立金利の近辺まで利上げを継続していく姿勢も改めて示した。

 利上げの最終到達点(ターミナルレート)とそこに至る利上げのペースについて、植田総裁は慎重に言葉を選んで明示することを避けたが、そこから浮かび上がるイメージは、1%より下の可能性があり、経済データの下振れがなければ、3カ月ごとに利上げするというアプローチではないか、と筆者は考える。

 

 <賃金データに自信深めた日銀>

 この日の会見では、利上げを7月会合で決めた理由についての質問が続いた。植田総裁の発言を概括的にまとめると、1)個人消費には物価上昇の影響もみられるが、底堅く推移している、2)賃金のデータが伸び率を高め、さらに上がることが見込まれて個人消費を支えていく、3)賃上げからサービス価格上昇などへの波及など賃金と物価の緩やかな上昇が見込まれる──を利上げを判断した要因として指摘。そのことで経済・物価の動きに関し、展望リポートの見通しに沿っておおむね推移すると判断でき、利上げを決めたということを丁寧に説明した。

 また、円安については物価上振れリスクにつながる点に言及し「注意する必要がある」と述べ、円安による物価上昇圧力の加速懸念にも対応して、利上げを判断したことも認めた。

 

 <利上げペース、植田総裁の発言にヒント>

 次の利上げについては、明言を避けつつ、経済・物価の動きが展望リポートの見通しに沿って動けば、0.25%の新たな政策金利水準でも、物価を考慮した実質の金利水準が大幅にマイナスであることを踏まえ、緩和度合いを調整していくことを目指して利上げしていく方針を示した。

 マイナス金利解除から4カ月で利上げしたことを踏まえ、次の利上げは4カ月後なのかという質問に対し、植田総裁は「前もって決めて(利上げの)パスを決めていない」と述べた。ただ、会見の終盤では7月会合で利上げを決めた背景の1つとして、4月以降に出た経済データをある程度、まとまって評価できる時点であるとも答えた。これは、次の利上げに関しても、3カ月程度が経過すれば、一定のまとまったデータの傾向を解釈し、評価できるとも受け取ることが可能であると筆者は考える。

 今から機械的に予想することはリスクが伴うが、経済と物価のデータに大きな落ち込みがなければ、3カ月後の10月には一定の評価を下すデータの厚みが備わっていると言えるのではないか。

 

 <日本のターミナルレートはどこか>

 ターミナルレートと密接に関連する中立金利の水準について、植田総裁は会見で具体的には言及しなかった。ただ、想定される幅のあるレンジの下限のかなり下の方にあるとは述べた。 

 日本の中立金利は、自然利子率の試算から導き出されるレンジとして1%から2.5%とかなり幅の広い水準が想定されている。植田総裁は数字を明示していないものの、かなり下の方というのは0.75%程度を指している可能性があると筆者はみている。

 このように捉えると、内外の政治情勢などを捨象して予測すれば、経済データがこのまま展望リポートに沿ってオントラックで進めば、どこかの時点で政策金利が0.75%までは上がっている可能性があるとみることができる。

 そのペースは経済データ次第だが、3カ月に1回というラフなイメージも想定できるのではないか。

 

 <初期反応は円高・株安、市場は新たな均衡点探る>

 外為市場は、日銀の決定内容と植田総裁の会見内容を受けて、31日午後6時台の段階で150円後半までドル安・円高が進んでいる。行き過ぎた円安を懸念してきた政府は、この値動きを歓迎しているのではないか。

 その一方、植田総裁の会見前に取引を終了した日経平均は575円87銭高の3万9101円82銭で引けたものの、その後の円高を受けて日経平均先物は3万8600円台に下落して推移している。

 この後に控える米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果とパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見次第で、さらに大幅な価格変動も予想される。

 日銀の利上げ継続方針がマーケットでの新たな均衡点模索の中で、どのように織り込まれていくのか──。市場関係者だけでなく、政府・日銀も固唾を飲んで見守っているのではないか。

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7月日銀利上げなら円高・株安再燃の声も、市場の分岐点に

2024-07-29 15:31:35 | 経済

 30-31日の日銀金融政策決定会合に対する市場の注目度が高まっている。仮に国債購入の減額計画公表とともに利上げを決めた場合、市場の織り込み度合いが低いため、ドル/円が150円近辺までドル安・円高方向に振れ、それを受けて日経平均が下落に転じるのではないかとの観測が出ている。利上げ見送りの場合は、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見での発言にマーケットの関心が集中し、年内の米利下げのペースをめぐる思惑次第で市場価格が変動しそうだ。

 

 <国債購入の減額幅、月額3兆円は市場に織り込み>

 29日の東京株式市場で日経平均株価は9日ぶりに大幅反発し、2.13%高の3万8468円63銭で取引を終了した。9月の米利下げを織り込みに行った米株式市場の上昇を受けて、買い戻しが優勢になった。

 市場関係者の話しを総合すると、このまま日本株の買い戻しが継続するかどうかは、やはり31日に公表される日銀の金融政策の結果が大きなポイントになりそうだ。

 日銀は6月の決定会合で、国債購入の減額計画を7月会合で決めると公表。その後の市場参加者が参加した会合での発言内容などから、月額6兆円の購入額が1年半から2年の減額計画の終了時に3兆円程度に減額されているなら、市場に織り込まれているので大きな変動はない、との認識がマーケットで形成されつつあるようだ。

 したがって減額幅が3兆円前後であれば、それを材料に円債市場や外為市場が大変動するリスクは低下しているとの見方が多くなっている。

 

 <同時利上げ、低い市場の織り込み度合い 150円方向の円高か>

 ただ、減額計画と同時に利上げが決まった場合、市場の織り込み度合いが低いため、市場変動が相対的に大きくなるとの声が市場の一部に出ている。まず、反応しそうなのはドル/円で、足元の153円前半から150円近辺まで急落し、一時的には150円を割り込む展開もあると想定している市場関係者もいる。

 円高が日本株を押し下げる展開になるのは、すでに前週に経験しており、日経平均の下値が切り下がり、3万7000円台での取引になる可能性を指摘する市場参加者もいる。

 

 <利上げ見送りなら、植田総裁の発言が最大の注目点に>

 一方、国債購入の減額計画公表との同時利上げを見送った場合は、植田和男総裁の会見での発言に内外の注目が集まることになる。

 その場合のポイントは、1)9月利上げの可能性をどの程度にじませるのか、2)9月利上げの可能性を高める経済指標は何か、3)今後の利上げのペースをどのように考えているのか──という点になる。

 また、足元の国内景気が一進一退になっていることを示すかもしれない2024年4-6月期(国内総生産)の1次速報が8月15日に発表されるが、日銀の政策判断における位置づけはどうなるのか、といった点についても植田総裁がコメントすれば、関心を集めるだろう。 

 複数の市場関係者は、利上げ見送りの場合の市場反応は、植田総裁の会見での発言内容次第でかなり展開が異なるのではないか、との見方を示している。9月利上げの可能性をかなり強く印象付け、さらに今後の利上げペースも市場の一部でささやかれている半年に1回ではなく、もっと速いペースになる可能性が示唆されれば、相応の値幅の円高・株安という反応があり得るとの声もある。

 

 <米利下げペース、パウエル議長はヒント与えるのか>

 しかし、今後の「経済データ次第」というようなあいまいな表現になるなら、大きな価格変動がないまま、同じ日の米連邦公開市場委員会(FOМC)の結果とパウエル議長の会見にマーケットの注目が移行する公算が大きいと話す。

 米市場では、9月、11月、12月の年内3回のFOМCに関し、すでに2.7回分の利下げを織り込んでおり、一部では織り込みが過剰との指摘も出ている。パウエル議長が9月の利下げの可能性だけでなく、その後の利下げペースについてどのような見解を示すのか。発言次第でドル/円が上下に振れることも十分にありえる。

 日米中銀イベント後の市場の風景がどのようになっているのか、2024年後半を占う上で大きなポイントに差し掛かってきた。

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円高・株安はどこで止まるのか、注目される米ハイテク株の動向

2024-07-25 14:04:05 | 経済

 24日の当欄で懸念していた事態が、早くも24日のNY市場と25日の東京市場で現実化した。膨らんでいた円ショートポジションが、いくつかの材料で巻き戻され、日経平均は高値から4500円超の下落となって3万8000円を割り込んだ。すでに指摘したとおりにボラティリティの上昇が円高を誘発したが、米ハイテク株に買い戻しの動きが出たところで、短期的な株安と円高もいったん止まると予想する。そうなるのかどうかは、米連邦準備理事会(FRB)による9月利下げの可能性と米大統領選の情勢が大きな要素になると指摘したい。

 

 <日本株安誘発した円高>

 25日の東京市場では、久しぶりに円高を起点にした日本株の大幅下落が大きなうねりを見せた。日経平均は3万7869.51円まで下げて引けた。直近高値の4万2426.77円から4557.26円の下落となった。チャート的にも主要な移動平均線を下抜けし、どこで止まるのかという「恐怖心」も一部で見受けられる。

 今回の株下落は円高の進展が誘発した構図になっており、日経平均の下値の確認は円高がとまるかどうかにかかっている。

 

 <10%台に上昇したボラ>

 24日の当欄でも指摘したが、161円台まで進んだ今回の円安の原動力は円キャリートレードだった。低いボラティリティ(価格変動率)の持続が円キャリートレードを後押ししてきたが、25日の1カ月物のドル/円ボラティリティは10.4%まで上昇。キャリートレードは影を潜めている。

 したがって足元で円売りのパワーは大幅に低下しており、ドル高・円安方向への反転が直ちに見込める地合いにはなっていない。

 

 <米ハイテク株、買い戻しの時期を探る>

 他方、米ハイテク株の調整売りが一服し、切り返す展開になれば、米株式市場を覆っている不透明感が薄れ、タイムラグを伴ってドル/円のボラティリティ低下に波及することも予想される。

 米ハイテク株には「上がりすぎ」の懸念が付きまとっていたが、そこに「確トラ」の思惑によるトランプ・トレードの表面化で、ハイテク株売り・エネルギー関連株買いの大きな流れが押し寄せ、ハイテク株の調整を本格化させた面がある。

 もし、米大統領選でハリス米副大統領が事前の想定を超えてトランプ前大統領に対して優位に立っているとの世論調査が出てくれば、トランプ・トレードの巻き戻しを誘発し、ハイテク株が買い戻される展開もありえる。

 その場合、ドル安・円高の動きが止まるだけでなく、米ハイテク株の影響を受けやすい日本の半導体関連株などのハイテク銘柄にも買い注文が戻り、今回の下げ相場の底値を確認する局面に入る可能性もある。

 さらに今後の米経済指標の発表につれ、9月米利下げの観測がさらに高まれば、上記で指摘した米ハイテク株の買い戻しを後押しし、日本のハイテク株にもプラスの影響が波及することになるだろう。

 

 <152円台の円高、2回の米利下げと1回の日銀利上げを織り込んだ可能性>

 米短期市場では、すでに年内2.6回分の米利下げが織り込まれており、152円台までの円高は、すでに米利下げを相応に織り込んでいるのではないか。一部で7月の日銀利上げを示唆する報道があり、これも25日までの円高の材料の1つとして意識されていた。

 言い換えれば、152円台のドル/円は、2回分の米利下げと1回分の日銀の利上げを織り込んでいるとみなすこともできる。

 当面の日経平均の下値めどと円高の天井値は、そう遠くない時期に確認できるのではないか、と筆者は考える。

 

 <日銀、株安をどう判断するのか>

 にわかに注目されてきた7月の金融政策決定会合における日銀利上げの可能性だが、4000円を超える日経平均の下げは、個人や企業の心理にマイナスの影響を与える可能性があり、それを見極める必要性も浮上してきたのではないか。

 7月に利上げを決めるメリットよりも、慎重に見極めることで得られるプラス効果のほうが大きいようにみえる。

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ハリス氏リードの世論調査、9月米利下げ観測強める 円高・日本株安も

2024-07-24 12:29:23 | 経済

 ハリス米副大統領がトランプ前米大統領をリードしているとの世論調査結果が、米連邦準備理事会(FRB)による9月利下げの市場織り込みを増大させ、ドル売り・円買いを仕掛ける海外勢の追い風になっているようだ。円高は日経平均の下落につながり、24日午後の東京市場で日経平均は一時、前日比400円を超える下落を演じ、3万9000円割れが視野に入ったとの声も出始めている。

 

 <44%対42%でハリス氏リードの世論調査>

 7月22-23日に実施されたロイター/イプソスの世論調査によると、ハリス氏は44%対42%でトランプ氏をリードした。7月1-2日の同調査では、トランプ氏がハリス氏を1%ポイントリード。15─16日の調査で44%と並ばれたトランプ氏は、今回の調査で逆転された。

 また、無所属で出馬した弁護士のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を加えた場合の支持率調査では、ハリス氏がトランプ氏を42%対38%でリードした。

 「確トラ」とまで表現されたトランプ氏優位の選挙情勢は、足元で大きく変動しようとしている。この波紋は、早速マーケットに波及した。

 

 <欧州勢が円買い・日本株売り>

 24日の東京市場は、午前から日経平均が売りに押されていたものの、その要因は前日の米株安と155円台というやや円高方向の外為市場の取引だった。

 ところが、午後に入って欧州勢が参加してくると、様相が異なってきた。ドル売り・円買い注文が優勢になり、ドル/円は154円台に下落。つれて日経平均も3万9100円台まで水準を切り下げた。

 一部の欧州勢が注目したのは、ハリス氏優勢の世論調査だった。トランプ氏は11月の米大統領選前の米利下げに反対する意向を示していたが、ハリス氏優勢なら9月利下げの可能性が高まるとの読みが、ドル売りを仕掛ける側にあったようだ。

 

 <注目される膨らんだ円売りポジション>

 ハリス氏が11月に当選すれば、米利下げの流れがさらに強まり、これは「ドル安・円高の材料になる」との見方が他の参加者のドル売り・円買いを誘発するのではないかという声も出ている。

 円高が進めば、日経平均も売りが優勢にならざるを得ず、すでにチャート的にも5日線と25日線を割り込んでいる中では「円高は日本株売り」の声が影響力を持ちやすくなる地合いとなっている。

 ハリス氏優勢の世論調査がさらに出てくるならば、24日のNY市場でドル安・円高がさらに進むことも予想される。円売りの先物ポジションが膨らんでいる中、ドル/円をめぐる値動きは、にわかに緊張感を強めてきた。

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中国、資産デフレに有効打なし 経済低迷長期化も

2024-07-23 11:58:09 | 経済

 資産デフレの様相を強くしている中国経済に対し、画期的な政策対応が示されると期待されていた中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)での決定内容が21日に明らかになり、中国の株式市場は「失望」で反応している。上海総合指数は22日に続き、23日も続落して重苦しいムードに包まれている。 

 中国人民銀行が22日に追加利下げに踏み切ったものの、0.1%の小幅にとどまり効果が限定的と見切られたことも市場心理を圧迫している。日本などの経験を踏まえれば、そもそも利下げは資産デフレへの「特効薬」にはなりえず、不良債権処理のための巨額な公的資金の注入が不可欠だが、三中全会で示された対応策に「切り札」はなく、資産デフレを起点にした中国経済の停滞が長期化する可能性が浮上してきたのではないか。日本から見れば、対中輸出の伸び悩みが続き、中国依存度の高い企業の今年度下期の業績に暗い影を投げかける展開になると予想する。

 

 <三中全会、公的資金の追加投入打ち出さず>

 三中全会で決まった政策対応の中で、焦点になっていた不動産不況への対策では、1)住宅関連の規制実施の権限を中央から地方に移し、規制緩和を柔軟に実施する 2)税の配分見直しで地方の財源を増やす──などが盛り込まれた。

 だが、問題の核心は不動産関連事業などで積み上がった未着工物件など不良債権の処理を進め、最終的には住宅価格の下落を止めることだが、それには追加の財政資金投入が不可欠。しかし、そこには全く言及がなかった。

 中国政府はすでに償還期限50年の超長期特別国債の1兆元(1380億ドル)発行を打ち出し、今後も数年間は毎年、特別国債を発行する計画を示しいている。だが、これで調達したマネーは、半導体や電気自動車(EV)、人工知能(AI)など先端産業の振興、食糧安全保障の強化策に充てられ、資産デフレの解消に向けた公的資金の注入などは対象外となっている。

 地方政府の財源を増やすとしているが、中央と地方を合わせた不良債権解消のための財源そのものが拡大するかどうかには言及がない。もし、財源のパイが増えないままで地方への税源移譲を実行に移しても、資産デフレの解決には寄与しないだろう。

 実際、地方政府のインフラ投資にかかわっている融資平台(LGFV)の債務残高は、国際通貨基金(IМF)の試算によると、2023年末に中国の国内総生産(GDP)の48%を占めるまでに膨張している。

 資産デフレの解決には長い時間がかかってしまうが、不良債権の処理を進めつつ、不動産価格の底値を確認し、そこから不動産取引が再拡大して、資産価格の下落→消費低迷という悪循環を止めるというアプローチが正攻法だと考える。

 

 <CPIとPPIが示すデフレの予兆>

 今のところ、中国当局はそこには目をつぶって生産増による刺激で経済を活性化させようとしている。ところが、資産の目減りを懸念する消費者は、財布のひもを固くするばかりで、増産された消費財は売れずに在庫が積み上がり、値下げに走るという悪循環を生み出そうとしている。

 この現象は、経済統計を見れば明らかだ。6月の主要70都市の新築住宅価格動向をみると、64都市で前月比マイナスとなり、70都市の平均は前月比マイナス0.7%だった。6月の消費者物価指数(CPI)は前年比プラス0.2%にとどまり、6月の生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス0.8%だった。

 

 <悪手だった小幅利下げ>

 筆者の目から見ると、患者の治療方法を誤っており、このままでは資産デフレはじわじわと進行し、中国のCPIとPPIは今年後半に向けてデフレの色彩を強めるだろうと予想する。

 また、中国人民銀行が22日に発表した小幅の利下げは、かえって当局の手詰まり感を露呈してしまったと言える。期間1年と5年の最優遇貸出金利(LPR)を0.1%引き下げたが、小幅にとどめたのは人民元の対ドル急落を避けたいとの考えが透けて見えてしまった。つまり、効果のない政策の「逐次投入」という「悪手」を指してしまったのではないか。

 資産デフレから抜けられなくなり、経済全体にデフレ圧力がかかると、金融政策がうまく機能しないためにマクロ経済政策が効果を出さなくなるというのは、日本が1990年代以降に経験しており、中国当局が最も研究を深めてきた分野でもあるはずだ。ところが、その研究の成果が生かされていないのはなぜなのだろうか。

 

 <対中ビジネスの比重高い日本企業に逆風か>

 中国経済の失速にも似た経済低迷が今年後半からマーケットの注目を集め始めた場合、起きる現象は何か。日本から見れば、対中輸出の伸び悩みが鮮明になるだろう。特に輸出数量の落ち込みが目立つことになるというのが悪いシナリオの顕現化と言える。

 対中ビジネスの比重が高い企業の社内では、すでに水面下で「警戒警報」が鳴っている可能性もある。もし、筆者の予想通りの展開になれば、2025年は「チャイナリスク」が意識されることになりかねない。

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