いのりむし日記

いのりむしの備忘録です。

Nakajima Hisae

ドライサー 亡き妻フィービー (1912年)

2017-04-03 | 本と雑誌
アメリカのベストセラー作家ドライサーが1912年に執筆した短編で、解説によると、結末が悲劇的と解されて発表の機会を得たのが1916年とのこと。亡き妻の幻を追い続けた7年の果てが悲劇的なのか、幸せなものであったのかは誰にもわからないが、百年前も今も共通する思いはある。
亡き妻を求めて、家々を訪ね、奇妙なことを訊いてまわる老いた夫ヘンリー。周囲の人びとは、驚きと同情と憐れみの中で、当時貧しかった地方の劣悪な環境の精神病院に、親しい老ヘンリーを閉じ込めることをせずに、自由にしておくことを決める。そして、毎日妻を探し続けるヘンリーに、「今日は見なかったよ」と答えるのだ。
「認知症」などいう認識も無かった時代、ヘンリーの精神状態が医学的にはどういう事態であったかはともかく、現代の高齢社会のあり方を考えさせられた。
(ポプラ社百年文庫66「崖」より)

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