いのりむし日記

いのりむしの備忘録です。

Nakajima Hisae

読書ノート 『青い絵の具の匂い 松本竣介と私』

2018-03-21 | 本と雑誌
中野淳『青い絵の具の匂い 松本竣介と私』
松本竣介への関心から手にしたのだが、松本だけでなく、戦前戦後の昭和を生きた画家が何を考えて描いていたのか、時代背景も細やかで引き込まれた。戦争、戦後の文化活動や、聴こえない松本とのコミュニケーション法など、画家の日常と人生が垣間見え、中野が、松本の早すぎる死を「清澄な知性の灯がひっそりと消えていった」と悼んだのも、しみじみわかる。

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読書ノート 『死なないやつら』

2018-03-08 | 本と雑誌
読書ノート
『死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」』長沼毅

人権研修で障害者の権利や多様性の尊重がキーワードになることがあるが、そうした人間(生命)の理解の根底に、人間だけでない生命の多様性に対するびっくりや、そもそも「わけがわからない」ということを謙虚かつ興味津々に受け止める姿勢があったらと思う。必要があるとも思えない「ムダな能力」というのも、現在の人間の能力では解明できないだけかもしれないが、こういうムダさは、そそられる。
『死なないやつら』予想通り面白かったので、備忘のためメモ。

極限生物
クマムシの樽 ネムリユスリカの乾燥幼虫
メタノピュルス・カンドレリ(アーキア)
シュワネラ・ネオイデンシス
ボツリヌス菌
ハロバチルス
デイノコッカス・ラジオデュランス
バチルス(バクテリア)

生物の設計にはどんな「デザイナー」も存在せず、進化とは「偶然の積み重ね」:ドーキンス
協調性のある遺伝子の方が、より生き延びやすい

共生進化
ミトコンドリア
シアノバクテリア

ヒーラ細胞
チューブワーム+イオウ酸化細菌(バクテリア)

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壺井栄『大根の葉』(1938年)

2017-06-07 | 本と雑誌
目の見えない幼い娘の治療に奔走する母と、周囲の反応が描かれていて、しみじみ考えさせられる。貧しい暮らしの中でも、できることはしてやりたいと医者の勧める手術のために力を尽くす母。妹のために留守番で淋しい思いをしながらも少し成長していく兄。金のかかる医者より金のかからない信心に頼ろうとする祖母。それぞれの思いが交差する。

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ドライサー 亡き妻フィービー (1912年)

2017-04-03 | 本と雑誌
アメリカのベストセラー作家ドライサーが1912年に執筆した短編で、解説によると、結末が悲劇的と解されて発表の機会を得たのが1916年とのこと。亡き妻の幻を追い続けた7年の果てが悲劇的なのか、幸せなものであったのかは誰にもわからないが、百年前も今も共通する思いはある。
亡き妻を求めて、家々を訪ね、奇妙なことを訊いてまわる老いた夫ヘンリー。周囲の人びとは、驚きと同情と憐れみの中で、当時貧しかった地方の劣悪な環境の精神病院に、親しい老ヘンリーを閉じ込めることをせずに、自由にしておくことを決める。そして、毎日妻を探し続けるヘンリーに、「今日は見なかったよ」と答えるのだ。
「認知症」などいう認識も無かった時代、ヘンリーの精神状態が医学的にはどういう事態であったかはともかく、現代の高齢社会のあり方を考えさせられた。
(ポプラ社百年文庫66「崖」より)

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シュテイフター『みかげ石』

2016-04-18 | 本と雑誌
シュテイフター『みかげ石』1849年発表 1853年書き直し改題

章の区切りが全くなく、延々と流れていく文章に、最初は戸惑ったが、祖父が、自分の祖父から聞いた話として語った昔々村々を襲ったペストのこと。それが、導入部の油(ピッチ・車の差油)売りと、何か関係があるのかと思いつつ読んでいると、彼につながる一家の話が、また劇的で、それが静かに語られる。
年寄りの昔話、伝承としては、よくある話なのだが、おじいさんの人柄からくる語り、人びとが暮らす環境、自然の描写とともに、共感を持って描かれる人物描写も、しみじみと読ませる。おそらく、昔から世界中のあちこちで、こうした忘れられない話が、祖父母を通して伝えられてきたのだろう。
長い人生の中で培ってきた価値観や人生観、直接体験、間接体験、特に共同体が経験した災害や疫病、その中で生きてきた人への共感、そうしたものを若い世代にどう伝えるか。私の住む町で空襲があったのは、枇杷が実る頃のこと。枇杷の季節になると思い出すというある体験者のお話。
ありふれた季節や景観を具体的に思い描くことで、過去の他者の経験が、忘れられないことのひとつになるのかもしれない。

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