福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。
出口には巨大な肉食の鳥「ガストルニス」の全身骨格の化石標本と生態復元模型があります。一般には「恐鳥類」と呼ばれている飛べない肉食の鳥の一種です。
鳥綱(Aves)
ガストルニス目(Gastornithiformes)
ガストルニス科(Gastornithidae)
ガストルニス(Gastornis ) 1855
「ガストルニス」より「ディアトリマ」とか「ジアトリマ」と呼んだほうが馴染みがありますが、「ディアトリマ」が北米で発見された際にすでにヨーロッパで発見され命名されていた、「ガストルニス」と同じ生物であるということで、「ディアトリマ」は無効となっているようです。この手の話はよくあることで有名なところでは竜脚類の恐竜「ブロントサウルス」が無効になり「アパトサウルス」と呼ばれている例があります。
で、この「ガストルニス」なんですが6500万年前に恐竜が絶滅した後に、ぽっかりとあいてしまった陸生の大型肉食生物の生態系上の地位を占めることになった生き物です。大きさは2mくらいですので恐竜時代の10m超えの肉食獣(アロサウルスとかティラノサウルス)には及びません。大きさから言えば少し大きめのディノニクスやユタラプトルくらいでしょうか?それで自然界の食物連鎖の頂点に君臨したわけですから白亜紀の終焉の後、いくら哺乳類の時代が始まったとは言えまだまだ哺乳類は小型のものしかいなかったわけです。「恐鳥類」は6500万年前から500万年前くらいまでは衰退しながらも地球上にいたようです。それだけ哺乳類の肉食生物がこの肉食の鳥に対抗できるまでに時間を要したと言えます。
姿は一見すると現生の「ダチョウ」やすでに絶滅した「モア」などに似ています。羽は退化し胴体も樽のように大きく体型から見ても飛べなくなっていることが理解できます。代わりにその後ろ足は恐竜のようにゴツくいかにも走るのに適した長さと力強さが感じられます。そして何より目を引くのが大きめの椰子の実のような頭と、そこに付いている鋭い嘴です。目いっぱい嘴を広げると小さめのボーリング・ボールぐらいなら噛み砕けそうな大きさと形をしています。一見すると翼も小さく肉食の獣脚類恐竜の腕にも見えるため恐竜のような骨格ですが、恥骨などの腰部の骨格はやはり鳥のもので獣脚類恐竜から進化した鳥のうち、二次的に飛べなくなった鳥であることが明確にわかります。ご興味があればこので会場で一度前に戻られて恐竜のコーナーに展示されている「インゲニア」あたりと比較されても面白いと思います。
以前に科学系の雑誌で「恐鳥類」の狩の方法を考察した研究成果を読んだことがあります。
要約すると次のような方法であったろうと推測されるそうです。
草むらや岩陰にかくれて獲物を待ち伏せします。この体つきですから大型の犬くらいの生き物ぐらいしか狩ることはできないと思いますが、新生代初期は実際その程度の大きさの哺乳類しかいませんでした。
のんびり草でも食べている獲物を見つけると獲物までの距離を測ります。鳥ですから両目が左右についており物を立体視はできませんが、現生のニワトリなどと同様に首を素早くふって片目づつで対象を見て距離を計算します。獲物が十分に近づいたら一気にダッシュし獲物に並走するまで距離を詰めます。このあたりはライオンなどの肉食哺乳類と同じと考えていいでしょう。
獲物と並走になったらピッタリと獲物の横につき、その強靭な後ろ足で獲物の脇や首筋にケリを一撃入れます。ショックで獲物がバランスを崩し倒れたらすぐに強力な嘴でくわえこみ、動けなくしておいてから首の筋肉で持ち上げると獲物が失神もしくは死亡するまで地面に叩きつけます。こうしてあとはゆっくり食餌をしていくわけです。
ちなみに展示物の中に「ガストルニス」の他に現生の「」「ダチョウ」や絶滅した「モア」、また同じ「恐鳥類」の「フォルスラコス」の比較図のようなものがありますが、それぞれ別の分類の鳥ですからお間違いの無いように。「恐鳥類」は現代はすべて絶滅しているのに何か同じ仲間のような書きぶりで少し釈然としません。
以上で簡単ではありますが福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」についてのレポートを終わります。
一応お子さんにも楽しめるように恐竜の全身骨格なども展示されていますが、全体的には地味な印象はぬぐえません。この特別展に行かれるご予定があれば是非このレポートをお読みいただき、更にはネットや書籍等である程度の予備知識を持っていかれると楽しめると思います。お子さんにいろいろ説明してあげれば喜んでもらえて親の株も上がると言うものです。