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「勘竹庵」evnc_chckの音楽やそれ以外

音楽の話題が中心になるかもしれませんが日々の雑感など書いていけたらと思っています。

福井県立恐竜博物館の特別展(5)

2008-09-13 00:19:33 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

出口には巨大な肉食の鳥「ガストルニス」の全身骨格の化石標本と生態復元模型があります。一般には「恐鳥類」と呼ばれている飛べない肉食の鳥の一種です。

鳥綱(Aves)
ガストルニス目(Gastornithiformes)
ガストルニス科(Gastornithidae)
ガストルニス(Gastornis ) 1855


「ガストルニス」より「ディアトリマ」とか「ジアトリマ」と呼んだほうが馴染みがありますが、「ディアトリマ」が北米で発見された際にすでにヨーロッパで発見され命名されていた、「ガストルニス」と同じ生物であるということで、「ディアトリマ」は無効となっているようです。この手の話はよくあることで有名なところでは竜脚類の恐竜「ブロントサウルス」が無効になり「アパトサウルス」と呼ばれている例があります。

で、この「ガストルニス」なんですが6500万年前に恐竜が絶滅した後に、ぽっかりとあいてしまった陸生の大型肉食生物の生態系上の地位を占めることになった生き物です。大きさは2mくらいですので恐竜時代の10m超えの肉食獣(アロサウルスとかティラノサウルス)には及びません。大きさから言えば少し大きめのディノニクスやユタラプトルくらいでしょうか?それで自然界の食物連鎖の頂点に君臨したわけですから白亜紀の終焉の後、いくら哺乳類の時代が始まったとは言えまだまだ哺乳類は小型のものしかいなかったわけです。「恐鳥類」は6500万年前から500万年前くらいまでは衰退しながらも地球上にいたようです。それだけ哺乳類の肉食生物がこの肉食の鳥に対抗できるまでに時間を要したと言えます。

姿は一見すると現生の「ダチョウ」やすでに絶滅した「モア」などに似ています。羽は退化し胴体も樽のように大きく体型から見ても飛べなくなっていることが理解できます。代わりにその後ろ足は恐竜のようにゴツくいかにも走るのに適した長さと力強さが感じられます。そして何より目を引くのが大きめの椰子の実のような頭と、そこに付いている鋭い嘴です。目いっぱい嘴を広げると小さめのボーリング・ボールぐらいなら噛み砕けそうな大きさと形をしています。一見すると翼も小さく肉食の獣脚類恐竜の腕にも見えるため恐竜のような骨格ですが、恥骨などの腰部の骨格はやはり鳥のもので獣脚類恐竜から進化した鳥のうち、二次的に飛べなくなった鳥であることが明確にわかります。ご興味があればこので会場で一度前に戻られて恐竜のコーナーに展示されている「インゲニア」あたりと比較されても面白いと思います。

以前に科学系の雑誌で「恐鳥類」の狩の方法を考察した研究成果を読んだことがあります。
要約すると次のような方法であったろうと推測されるそうです。

草むらや岩陰にかくれて獲物を待ち伏せします。この体つきですから大型の犬くらいの生き物ぐらいしか狩ることはできないと思いますが、新生代初期は実際その程度の大きさの哺乳類しかいませんでした。
のんびり草でも食べている獲物を見つけると獲物までの距離を測ります。鳥ですから両目が左右についており物を立体視はできませんが、現生のニワトリなどと同様に首を素早くふって片目づつで対象を見て距離を計算します。獲物が十分に近づいたら一気にダッシュし獲物に並走するまで距離を詰めます。このあたりはライオンなどの肉食哺乳類と同じと考えていいでしょう。
獲物と並走になったらピッタリと獲物の横につき、その強靭な後ろ足で獲物の脇や首筋にケリを一撃入れます。ショックで獲物がバランスを崩し倒れたらすぐに強力な嘴でくわえこみ、動けなくしておいてから首の筋肉で持ち上げると獲物が失神もしくは死亡するまで地面に叩きつけます。こうしてあとはゆっくり食餌をしていくわけです。

ちなみに展示物の中に「ガストルニス」の他に現生の「」「ダチョウ」や絶滅した「モア」、また同じ「恐鳥類」の「フォルスラコス」の比較図のようなものがありますが、それぞれ別の分類の鳥ですからお間違いの無いように。「恐鳥類」は現代はすべて絶滅しているのに何か同じ仲間のような書きぶりで少し釈然としません。

以上で簡単ではありますが福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」についてのレポートを終わります。

一応お子さんにも楽しめるように恐竜の全身骨格なども展示されていますが、全体的には地味な印象はぬぐえません。この特別展に行かれるご予定があれば是非このレポートをお読みいただき、更にはネットや書籍等である程度の予備知識を持っていかれると楽しめると思います。お子さんにいろいろ説明してあげれば喜んでもらえて親の株も上がると言うものです。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(4)

2008-09-11 00:42:18 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

白亜紀後期の恐竜たちを抜けるとようやく主役の哺乳類たちに出会えます。
現在の我々を含む哺乳類である「有胎盤類」の祖先で現時点で発見されている最古の化石から展示は始まります。まだ発見され学名がついて1年くらいの最新の化石情報ですよ。

哺乳綱(Mammalia)
獣亜綱(Theria)
真獣下綱(Eutheria)
エオマイア・スカンソリア(Eomaia scansoria )

この真獣類「エオマイア」は我々の祖先とは言っても、胎盤を持って子供がかなり成熟するまで胎盤内で育てる「有胎盤類」では無いようです。確かに腰の骨は貧弱な感じで現在の我々の腰にある「骨盤」といった類の物には見えません。出産した子供は有袋類の子供のようにかなり未熟児の状態で生まれたのかもしれませんね。
ただこの真獣類が進化して現在の「有胎盤類」となったと考えられています。

哺乳類のコーナーでいくつか興味を持つことがあったのですが、特に興味深かったのは「奇蹄類(ウマ、サイ、バク)」と「偶蹄類(ウシやイノシシ、カバなど)」についてです。
我々にとって奇蹄類に属する「ウマ」は馴染みのある哺乳類です。何と言ってもその「走行」する姿が印象的で「西部劇」や「時代劇」の大切な脇役です。毎週のようにこの生き物が走る競争に大金を投じて一喜一憂する方々も多いです。
しかし「奇蹄類」は現在は極めて種類の少ない生き物の分類で、哺乳類の中では衰退した勢力です。対して「偶蹄類」は現在最も繁栄した大型草食獣です。彼らが繁栄したのはその「反芻」という能力にあると言う説明があり、「なるほど。一理あるなあ」と感じました。
どんな生物でも食餌中はきわめて無防備で命が危険にさらされる行為です。家族で暮らすという理由もありますが、あのライオンですら餌は安全な住処に持ち帰って見張りを置いて順番に食べます。
そんな自然界でとりあえず一気に胃の中にエサを詰め込み、複数の胃で何度も消化する方法は合理的な考えです。我々のように胃が1つしか無い場合は反芻したらもう二度と食べることはありませんが。

ところでこの展示では大型草食哺乳類は紹介されていますが、肉食の哺乳類が殆ど展示されていません。恐竜が絶滅した後の陸は大型肉食生物、草食生物の生態系のポジションがともに空洞になりました。草食生物こそ哺乳類がその地位を占めていったものの、肉食の大型生物に哺乳類が見られないのであれば、一体誰が肉食生物の頂点に君臨したのでしょうか?
そのあたりは次の最終回でレポートします。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(3)

2008-09-08 21:12:23 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

恐竜の全身骨格は白亜紀末ころの恐竜をセレクトしていくつか展示されています。
しかしやはり哺乳類の進化に重点を置いている関係なのか、それほどスペースを割いて展示に力を入れているわけではありません。この中で目を引くのは大型肉食恐竜である「ゴルゴサウルス」の全身骨格と「カルカロドントサウルス」「タルボサウルス」の頭骨の化石(レプリカ)でしょう。やっぱり肉食恐竜がみなさん好きですよね。

竜盤目(Saurischia)
獣脚亜目(Theropoda)
コエルロサウルス下目(Coelurosauria)
ティラノサウルス科(Tyrannosauridae)
ゴルゴサウルス属(Gorgosaurus)
ゴルゴサウルス(Gorgosaurus libratus)

白亜紀末の肉食恐竜と言えば定番は「ティラノサウルス」ですが、ここの博物館には過去に発見されたティラノの全身骨格では最も状態が良い「スタン」のレプリカがいます。「スー」?ダメダメ。でかいだけ!

ですからそれより少し前のティラノサウルスに近い恐竜として「ゴルゴサウルス」が選ばれたのでしょう。これ以外であれば「アルバートサウルス」か「ダスプレトサウルス」あたりになりますね。

「ゴルゴサウルス」と言えば私が子供のころは大型肉食恐竜としてそれなりの存在でしたが、その後「アルバートサウルス」と同じ恐竜とされていたように記憶しています。それが最近はまた違う恐竜と認識されています。よくあることですが例えば逆に雌雄や成長段階の差異程度を別種と認識してしまったりすることもあります。

全然、恐竜の生態とは関係ありませんが手塚治虫の漫画「ブラックジャック」の一エピソードに「ゴルゴサウルス」が登場したことがあります。
中学生か高校生ぐらいの少年が主人公なんですが、へそが異常に飛び出ていて知的障害もあるためいつもいじめられていた少年が、ある日何気なく化石を拾います。それを見た理科の教師は彼にいろいろな化石を見せてやります。それまで勉強もできず(障害があるのですから)運動もダメ。何事にも消極的であった少年はその日を境に物凄い集中力で化石を次々発見します。それは教師の知識を超えるようになり遂に古生物学者の研究所に少年を連れて行きます。
ますます化石に興味を持った少年はある日世紀の大発見「ゴルゴサウルス」の全身骨格化石を発掘するのでした。
でその後彼の異常に飛び出たヘソは病気で手術が必要となり、そのために化石発掘を中断することになるのですが・・・。とラストはご自身でお読みください。結構泣けるエピソードですよ。

昔これを読んだときは日本には恐竜の化石なんてまず出ない。と言われていました。まぁ太平洋側は関東ローム層を始めとしてせいぜい数100万年とか数万年の地層が多いので仕方無いのですが、今や福井の勝山など日本海側は国際的にも注目を集める恐竜化石の産地があるわけですから時代を感じます。
しかも北米産と考えられていたアメリカン・ダイナソーの象徴である「ティラノサウルス」はアジア大陸を起源としていて、それが大陸を渡って北米で進化したものである。モンゴルで発見されるティラノのそっくりさん「タルボサウルス」は収斂進化の結果である。と言う説があります。そうなると日本や中国などで収斂進化の結果として「アルバートサウルス」や「ゴルゴサウルス」のそっくりさんが発見されてもおかしくないですよね?
ご本人がどれほどの恐竜の知識がありどこまで意識してこのストーリーを考えられたか不明ですが、手塚治虫と言う天才漫画家の空想力には改めて感嘆します。

「ゴルゴサウルス」の全身骨格化石を見つめながらそんなことを考えたものでした。あんま古生物は関係無い話ですいません・・・。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(2)

2008-09-06 00:24:11 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

入り口を入ると最初に白亜紀の海がどのような状況であったかが説明されています。比較的知られた話ですがその時代はインド大陸での大噴火をはじめとして、火山活動が活発であったことから海面温度は33度であったそうです。一風呂浴びられる程度ですね。そんな中で海棲生物も非常に巨大なものが存在したわけです。

入り口の「リオプレウロドン」の頭骨隣にはおそらく北海道中川町の「エコミュージアムセンター自然誌博物館」が所有する物でしょうが、「モレノサウルス」の一種の全身骨格が展示されています。

双弓亜綱(Diapsida)
鰭竜類(Sauropterygia)
首長竜目(Plesiosauria)
エラスモサウルス科(Elasmosauridae)
モレノサウルス(Morenosaurus)→実際はその一種と考えられる化石

「モレノサウルス」は有名なプレシオサウルスなどと同じ首長竜と呼ばれる海棲の爬虫類です。今回の特別展では隣に展示されている「リオプレウロドン」も首長竜なんですが、こちらは首が短い種類です。
首の長い種類の首長竜は姿が竜脚類恐竜に似ていますが恐竜ではありません。生きていた時代も恐竜と同じ中生代の三畳紀の終わりから白亜紀末(約2億年前~6500万年前)なので、図鑑などでも同じように解説され間違いやすいのですが、恐竜とは系統がちがう海にすむ爬虫類です。
具体的に説明いたしますと

・爬虫類→主竜類→恐竜、ワニ、翼竜など

・爬虫類→鱗竜類→首長竜、魚竜、ヘビなど

という系統に分類されています。
また骨格での違いで顕著なのは頭骨に開いている穴で見分けがつきます。爬虫類の分類の基準に目の後ろの穴があります。側頭窓と呼びますが恐竜は目の後ろに「上側頭窓」と「下側頭窓」の2つの穴が開いています。対して首長竜は「上側頭窓」が1つ開いているだけです。

首長竜と言うだけあって一番の特徴はそのヘビのような首です。白亜紀の首長竜の「エラスモサウルス」などは頚椎が79個もあったそうです。ちなみに陸生哺乳類で首の長いことで知られるキリンは7個ですから、そのケタ違いの多さがわかると言うものです。これだけ頚椎が細かくなっていればまさに自由自在に首を曲げることができたと考えられます。
また体の前後にボートのオールのような薄い鰭がついており、これは4枚バラバラに前後に動かせたようです。ですから直進して泳ぐだけで無くきわめて複雑に水中をくねるように泳げたことでしょう。

水中をくねるように泳ぎまわりながら首も前後左右自由にくねらせ、ちょこまかと逃げ回る魚やアンモナイトなどを捕獲していたことと思われます。歯の形状も隣に展示されている「リオプレウロドン」同様に熊手のように前に傾斜し上下はしっかりと噛み合うようになっていて、水中のすべりやすい獲物を確実にキャッチできるようになっています。
 
今回のこの首長竜は1991年に北海道の中川町で発見されたもので、頭骨などは無いようですが他の骨格の特徴から「エラスモサウルス科のモレノサウルス属(Morenosaurus)」と考えられ、ロサンゼルス郡立自然史博物館に展示されているモレノサウルス・ストッキイ(Morenosaurus stocki)をもとに、全身骨格が製作されたようです。
全長11メートルの首長竜の全身骨格は日本最大のものですが、首長竜と言えばずいぶん昔(1968年)に福島で発掘された「フタバスズキリュウ」がいますね。ずっと愛称のままでしたが2006年にようやく「フタバサウルス・スズキイ」という学名がついたようです。こんなに長くかかることもあるんですねぇ。

この後、特別展の会場はアンモナイトが「これでもか!」とばかりに展示されています。日本の北の海はジュラ紀から白亜紀には非常に多くの海洋生物が生活していたことがよくわかる展示です。

ここを過ぎると突如、恐竜時代の最後の恐竜たちが展示されています。恐竜も少し出さないと・・・と言った感じですが。
続きは後日にさせていただきます。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(1)

2008-09-04 00:17:50 | 古生物
福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」
を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

入り口を入ると最初に白亜紀の海がどのような状況であったかが説明されています。比較的知られた話ですがその時代はインド大陸での大噴火をはじめとして、火山活動が活発であったことから海面温度は33度であったそうです。一風呂浴びられる程度ですね。そんな中で海棲生物も非常に巨大なものが存在したわけです。
で入り口でいきなり一番に目を引くのが恐らく本邦初公開の「リオプレウロドン」の頭骨です。

首長竜目(Plesiosauria)
プリオサウルス上科(Pliosauroidea)
プリオサウルス科(Pliosauridae)
リオプレウロドン(Liopleurodon)

頭骨の長さは見たところ1.5mくらいでしょうか。「海のティラノサウルス」とか呼ばれてでかいとは聞いていましたが確かに大きくて特にその口の大きさは驚異的です。そこに水中生物を捕食する肉食生物独特の、熊手のように前に突き出た凶暴そうな歯が噛み合うように隙間をあけて並びます。陸生の肉食生物のように捕らえた獲物を動けないように咥えるより、ツルツルとすべりやすくまた動きの制限される水中で、確実に獲物をキャッチすることに主眼を置いた歯の並び方です。また頭骨の長さいっぱいまで口ということで相当大きな同時代の首長竜なども捕食したのでしょう。歯は獲物をキャッチするためにゆるやかに内側にカーブしていますが、肉を切り取る必要が無いために鋸歯と呼ばれるステーキ・ナイフ状のギザギザがありません。捕らえた獲物はそのまま丸呑みするか、ちぎり取って飲み込んだのでしょう。ただ頭骨いっぱいに口がある分顎の付け根はエラく貧弱そうです。「海のティラノサウルス」は少し重荷かもしれませんね。ティラノのような分厚い顎骨でいかにも強力な筋肉の付いていたであろうでかい穴もありません。この辺はどちらかと言うとヘビやガビアルの顎に似ています。「海のスピノサウルス」くらいが妥当なところでしょう。

しかし「白亜紀の海」とか言っておいて「ジュラ紀」に生息していたリオプレウロドンの展示はちょっとどうかと思いましたが、数年前に放映されてDVDも大ヒットした恐竜ドキュメンタリー「Walking with Dinosaurs」における、インパクトある登場シーンで今や古代海棲爬虫類のスターですから、客寄せで展示されているのかもしれませんね。

あの作品の中では鯨もびっくりの「体長25m」と紹介されていましたが現実には9m~15mくらいのようです。ただ少し前に雑誌で読んだのですが、幼体で15mくらいの古代海棲爬虫類(リオプレウロドンが含まれるプリオサウルス類だったかは失念してしまいました)が発見されたので成長すれば25mも夢では無いです。海洋温度がずっと低温の現代では海の最強捕食者はホホジロザメかシャチでしょうが最大でも9mくらいです。しかし海洋温度が高ければそれだけ生物が活動できる範囲が広くなったりエサが豊富になったり。と条件が変わるので、マッコウクジラぐらいある凶暴な肉食爬虫類が海にいてもおかしくないかもしれません。

その隣にはモレノサウルスの一種の全身骨格が展示されています。続きは次回で・・・。

恐竜コミックの傑作「臥竜 化石の記憶」

2008-08-24 00:31:31 | 古生物
「岸大武朗」の「恐竜大紀行」は恐竜をテーマにした早すぎた名作と言われていますが、私がもう一つ傑作と思う作品が「森秀樹」の「臥竜 化石の記憶」です。

森秀樹さんを私は良くは存じ上げないのですが「子連れ狼」などを描かれている、所謂「劇画」の世界の方らしく、なるほど確かに「臥竜 化石の記憶」は素人目にもきちっとした筆致でいてどことなく日本的な情念と柔らかさが感じられる絵です。
内容は「化石の記憶」の副題のとおり恐竜の化石の産状をモティーフに、そこに至ったかもしれないエピソードを作者の想像から描いたもので、有名な産状の化石がいくつか出てくるので知ってる人間には堪らないおもしろさです。
例えば

・ステゴサウルスの背中の板がバラバラで発掘されるのは何故か?
(そのせいでこの背中の板の復元は諸説があるんですが)
・モンゴルで発見されたオビラプトルが卵泥棒と呼ばれるのは?
(最近では自分の卵を守っていたというのが主流ですが・・・でもやはりオビラプトルは卵泥棒であって欲しいですね)
・モンゴルで発見されたプロトケラトプスとヴェロキラプトルの格闘化石(通称モンゴリアン・ファイトですね)の背景
(これは泣けます!化石のレプリカは福井県立恐竜博物館のHPでご確認を)

などなど。それが迫力と柔らかさを兼ね備えた画力で表現されて飽きさせません。もっと評価されてもいいと思うのですがネットで検索してもヒットすらなかなかしないという扱いです。

ただし江戸時代だかに日本人の坊やが中国に恐竜(物語の中では龍と呼ばれてますが)の骨を探しに行くエピソードは、ラストシーンで「だから何?」と思ってしまう少し評価に困る作品です。ほぼ完璧に関節したタルボサウルスの化石がむき出しになっている産状も、映画「ジュラシック・パーク」の冒頭の化石発掘現場を思わせる大笑いぶりです。余談ですが「マイアサウラ」の子育て説で有名なジャック・ホーナーがアドバイザーを努めた映画「ジュラシック・パーク」は、古生物学者を集めてプレミア試写会をしたそうですが、その冒頭でサム・ニール扮する古生物学者が作業中の発掘現場の場面で、レリーフのような化石の産状が画面に現れたとたんに会場から爆笑が起こったそうです(笑。

恐竜が好き!と言う方は是非、一度お読みいただくといいかも。古本でなら入手は比較的楽では無いかと思います。多分・・・。

恐竜コミックの傑作「恐竜大紀行」

2008-08-16 00:12:28 | 古生物

1990年代は恐竜ブームだったそうです。
実際は1964年にジョン・オストロムが自身が発見した「ディノニクス」を分析し、「恐竜温血動物説」を提唱したあたりから所謂「恐竜ルネサンス」が起こり、それ以前から恐竜好きであった人間の間では賛否両論、活発に行動することを前提にやじろべえのような姿に復元されたティラノや、羽毛のはえた姿で復元されたディノニクスは違和感がありながらもインパクトがあり、とにもかくにも恐竜が面白い時代は1990年代ブーム以前から沸き起こってはいました。1980年代には模型の世界で「ガレージ・キット」がブームとなり、今も第一人者である「荒木一成」氏によるリアルな恐竜のモデルが、模型専門誌などに掲載されたことも恐竜ブームへの布石になったと思います。

さてそんな頃に「週間少年ジャンプ」に連載されたコミック「岸大武朗」の「恐竜大紀行」というのがありました。1988年に連載されたのですがそんな最近だったっけ?という気がします。少しでも「ダメ」とされると有無を言わせず打ち切り、後から後から新連載が始まる「ジャンプ」の中で12回しか連載されなかったために何か随分昔の作品と思ってしまいます。
いずれにしてもそれぐらい伝説のコミックというイメージがです。
3年くらい前にも復刊されしかも新エピソード追加でしたのでファンは多いと思うのですが、なにしろもう2、3年後に連載されてりゃなぁ・・・。とよく言われる「早過ぎた名作」ですね。
ちなみにこの復刊に際しかの鳥山明が推薦文と言うか序文と言うかなんか書いておられるんですが、誉めてんのかどうなのかよくわからない文章です。ちゃんと読んでんのか?

この後にスピルバーグが「ジュラシック・パーク」を公開し恐竜ブームが確実に起こったわけですが、この「恐竜大紀行」はあくまで恐竜の視点で描かれた作品ですから、人間から見て「でかくて、凶暴で現代に生きていなくて良かったぁ」的生物として恐竜を描いている「ジュラシック・パーク」とは全然違います。むしろ「恐竜大紀行」はBBSが制作した「Walking with Dinosaurs」のコンセプトの元ネタでは無いかと想像しています。
恐竜が会話したりそもそも妙に理知的な思考をするなど、爬虫類の仲間にどこまでそんなことができたかと考えると少々笑えますが、「生きることの厳しさ」を恐竜視点で描くアイディアと、当時は最新の古生物の学説をうまく取り入れている技術などやはり個性的で良質な作品だと思います。

恐竜大紀行 完全版 (コミック)

実はもう一つ私が恐竜コミックの傑作と考える作品がありますが、長くなるのでまた次回にさせてください。


「恐竜キング」って何でしょう?

2008-08-02 01:41:24 | 古生物

「恐竜キング」と言うのがあるらしい。 現在「福井県立恐竜博物館」で開催されているイベントでも併設で「恐竜キング」のトレカが展示されているらしいですね。

http://www.dinosaur.pref.fukui.jp/special/kt/

実は恐竜は好きなんですがその「恐竜キング」と言うのは存じ上げないんですよ。子供たちがトレカを集めたりしているのを見たことがありますし、「ポケモン」や「遊戯王」のようにキャラクターとして恐竜が親しまれているのだろう。と想像しています。

 今日、何気なく「福井県立恐竜博物館」についての情報をネットで検索していますと、とある方のブログが目につきました。恐竜好きのお子さんを連れて博物館に初めて行かれたそうで子供さんが大喜びで恐竜知識を語る様子が書かれていました。

 で気になったのが下のような文言(そのままでは無く要約しております)。

(パキケファロサウルスの一種の骨格標本を見てお子さんが語られた知識)

・頭蓋骨の厚みが25cm程ある

・イグアノドン類の仲間

・鳥に近い仲間

・頭を武器にしていたかは?

 頭骨が分厚いのは化石から判断された事実ですし、映画「ジュラシックパーク2」で描かれたように頭突きをしていたかは実は議論されていることも事実です。

問題はまず「イグアノドン類の仲間」と言う部分ですね。

 「イグアノドン類」は「鳥盤目」に属する二足歩行の「鳥脚類(鳥脚亜目)」の下位分類ですが、パキケファロサウルスが属する「堅頭竜下目」は「鳥盤目」に属する二足歩行の「周飾頭亜目」の下位分類です。「鳥脚類(鳥脚亜目)」の下位には実際は「真鳥脚類」が入りその更に下位に「イグアノドン類」が来るわけです。

ややこしいので下にまとめます。

 「鳥盤目」→「鳥脚類(鳥脚亜目)」→「真鳥脚類」→「イグアノドン類」→「イグアノドン」

「鳥盤目」→「周飾頭亜目」→「堅頭竜下目」→「パキケファロサウルス」

素人目にもパキケファロサウルスを「イグアノドン類」の仲間と呼ぶのは抵抗感があります。この理屈だと「鳥盤目」に属する恐竜は全部「仲間だ」と言い切れてしまうので、トリケラトプスもステゴサウルスもイグアノドンもパキケファロサウルスもぜ~んぶ仲間です。

この場合は「周飾頭亜目」の下位分類である「角竜下目」に属する恐竜。例えばプシタコサウルスなどを仲間と呼ぶのが適当だと思います。

ただ少し古い図鑑などを読むと姿かたちで判断したと思われますが、「堅頭竜」や「角竜」のプシタコサウルスなどを「鳥脚類(鳥脚亜目)」に分類していたので、その時代の知識なのかもしれません。

次の問題ですがこれは大変に大きな問題です。

パキケファロサウルスを「鳥に近い仲間」と語られたようなのですが、鳥の祖先はヴェロキラプトルなどの「獣脚類」であることはほぼ確実と言えます。パキケファロサウルスが属する「鳥盤目」とは恥骨の形状が現在の「鳥類」と同じである。と言う事実だけで決して「鳥」の仲間と言うわけでは無いのです。字づらだけ読むと「鳥の骨盤」で「鳥の脚」ですからこれが「鳥」の仲間だろう。と早合点してしまうのは理解できますがこれはよく見られる初歩的な誤解です。

なんでこんなにクドクド、ダラダラとコメントしているかと言いますとこの知識がお子さんの誤解なら単に微笑ましいのですが、件の「恐竜キング」のカードやゲームから得た知識だと問題だと思ったのです。ちょっと気になるので調べましょうかね・・・。


今年の「福井県立恐竜博物館」の特別展 その3

2008-07-20 10:56:33 | 古生物
・・・毎年開催される大掛かりな恐竜関連イベントに対抗するような福井県立恐竜博物館のある種の誇りのようなものを感じさせる玄人好みの特別展は以下のとおりでした。

・2003年は「オーロラを見た恐竜たち」。として、まだまだ発見が多いとは言えない、オーストラリアや南極の恐竜化石を大挙紹介。
「クリオロフォサウルス」はホント謎の頭骨ですね。あと気持の悪いカエルの大王「クーラスクス」が実は好き(笑。
見に行った日にオーストラリアから来日されたP・リッチ博士の講演会があり、本当は聞きたかったのだけど家族連れではね・・・。
ただあの方、発見した恐竜に自分のご子息の名前をつけたり、スポンサーの企業名を入れたりと、少ない資金と人手で大変なんだろうけどちょっとやりすぎのような気も・・・。

・2004年は「中国大陸の6億年」。このあたりは同年開催の「驚異の大恐竜博」に対抗した感じでこちらも「オメイサウルス」であちらの「チュアンジェサウルス」と勝負だ!という感じでした。

・2005年は愛知万博とともに(関係ねぇ)日本中を席捲していた「スー」を横目に、中国で発見された始祖鳥「ジンフェンゴプテリクス」とともに、滅多に実物が見られない(実際日本に実物が来るのはこれが2回目)ドイツの始祖鳥化石の中から「アイヒシュテット標本」の本物を展示。感動で手が震えましたよ(笑。一番馴染みのある「ベルリン標本」に比べると小さいし羽毛もうっすらとしか印象が無いのですが、やはり門外不出の標本が見られることの意義は高いです。

目玉のアジアの始祖鳥「ジンフェンゴプテリクス」はぱっと見るとドイツの始祖鳥「アーケオプテリクス」と違って、前肢(羽根なんですが)短くてスマートさが無いため、羽毛恐竜では無いかと思えてきます。ただ恐竜と違い前肢が前後逆に付いていてちょうどお盆を持った時の腕のようになっており、そういう意味では鳥類のように羽根が付いていたのだろうと思いました。しかしあの短い羽根ではばたいて飛んだかは少々疑問かもしれません。
ちなみに何故か常設では展示されていない「アクロカントサウルス」が特別展で見られました。とにかくでっけぇ!かっこいい!あれ常設したらいいのに。
発見当初は「ティラノサウルス」との進化上の関係が議論されたらしいのですが、やはり目前で確認すれば「巨大なアロサウルス」という位置づけが正しいなぁ。と思います。ティラノと違ってごつい頑丈そうな前肢や、ほっそりとした頭骨に薄くて鋭い歯などアロを彷彿とさせるものが確かにあります。

・2006年は究極にマニア向け。エディアカラ生物群を中心にした「エディアカラの不思議な生き物たち」。一応、先カンブリアのアイドル「アノマロカリス」も展示されてますが、全体には生き物の化石なのかただの模様のある石なのかさっぱり、の宗教的な静けさすら感じさせる展示会でした。
ネミアナ・シンプレクスのファンの私は足取りも軽く写真パチパチ。
画像はオーストラリアで発見された「マウソニテス」です。お花の模様の石じゃありません。

・2007年はもはや古生物と呼んで良いのか?「クジラが陸を歩いていた頃」。以前からテチス海の跡で発見される海生生物の化石は見たい見たい。と思ってましたので自分はもうウキウキでしたが、これ恐竜を期待した子供たちには、いや大人でも辛いかも?と思いましたが、いやいや恐竜もはだしで逃げ出しそうな獰猛さが伝わる「バシロサウルス」はど迫力。名前に「サウルス」なんて付いてますが発見されたときあまりにでかくいので恐竜と間違えられたためで、れっきとした哺乳類です。確か国立博物館に展示されてるそうですが初めて見たので感動しました。

今年も福井は先に述べたとおり哺乳類の進化の謎に迫る展示です。毎年恒例の大掛かりな夏のイベントは聞かれないし、真に古生物マニアの方々に向けた特別展と言えますね。今からでかけるのが楽しみですよ。いつ行こう・・・?

今年の「福井県立恐竜博物館」の特別展 その2

2008-07-18 00:09:55 | 古生物
・・・2002年の「世界最大の恐竜博2002」で頂点を迎えた恐竜ブームでしたが、その後も毎年のように大掛かりな恐竜関連イベントが開催されます。

・2004年には中国の竜脚類「チュアンジェサウルス」と手のひらに乗りそうな羽毛恐竜「ミクロラプトル・グイ」がスターとして「驚異の大恐竜博」が。一応ティラノなんかも置いてありましたが素人向け的な置き方で笑いました。
実はこの展示会、ウラワザがあって入り口付近で係員の方に「チュアンジェサウルス」と写真を撮りたいんですが。と告げると高性能デジカメとプリンターでA4くらいの記念写真を撮ってくれるチケットがもらえたんです。しっかり撮ってきました。

・2005年は「恐竜博2005」として開催され、更に続々と発見される羽毛恐竜の標本が「これでもか」とばかりにやって来ました。しかしこの年の最大の目玉はその大きさや状態の良さ以上に、10億円近い値段でオークションで落札されたことが話題のティラノサウルス「スー」でしょう。
でも成長しすぎて少し歪んだ顔とか、骨折の跡などででこぼこした腕や脚など痛々しいんだよなぁ。
やっぱり福井や林原に展示されている「スタン」がプロポーションと言い、顔つきといい好みですね。林原にいたっては叉骨もつけてあるし。
あ、あと愛知県の豊橋市にある「ビッグ・マイク」もほっそりとしてますが精悍でいいです。
個人的にはこの展示会ではこっそりと公開されたマジュンガトルスとマシアカサウルス(画像)に大喜びの私でした。

・2006年は「世界の巨大恐竜博」で真打ぽく「スーパーサウルス」の登場だ!子供のころの恐竜図鑑には竜脚類、特にブラキオサウルスについては「あの体では水の中でしか体重が支えられない」とか解説され、水の中ですっくと立つブラキオサウルスの隣にもう一回り大きな姿で「スーパーサウルス」がブラキオサウルスそっくりに書かれていたものでした。

今じゃありえない学説ですが。

実際はその後の研究で「スーパーサウルス」はディプロドクスに近い復元に落ち着いたらしく、この展示会でもディプロドクスそっくりの出っ歯の顔で、ことさらに大きさを強調した展示のされかたでありました。実際でかかったですが。
実はこの年にひっそりと公開された標本に中国の熱河層で発見された大型哺乳類「レペノマムス」がありました。化石の腹部からプシタコサウルスの幼体の骨の化石が見つかり、哺乳類でありながら恐竜を食った。と言う事で潜在的に爬虫類に恐怖してしまう「哺乳類である人類」にとっての、ヒーロー第一号ぽいレポートのされかたがおかしかったです。

・2007年は理由は良くわかりませんが名古屋から始まって、年をまたいで2008年に東京で開催された「恐竜大陸」。獣脚類や竜脚類のスターが集まらなかったのか、ぐっと玄人好みに世界最大のイグアノドン!という触れ込みで「ランジョウサウルス」が初公開。個人的にはこういったタイプの恐竜が好きな私は写真撮りまくりでした。

それに対して福井はぐっと玄人好みにしているところが、ある種の誇りのようなものを感じさせます。

・・・長いので続きは後日で・・・