「祭りがはじまるよ」
この話が実話をベースにしていることを知ったのは浦沢直樹の人気コミック「MASTERキートン」(絶版がとっても残念!)でした。詳細は書きませんがあのコミックの中で数回取り上げられていたと記憶しています。
「ハーメルンの笛吹き男」のストーリーは有名ですが一応あらすじを書かせていただきます。
ネズミの大量発生で困っていたハーメルン市に色とりどりの衣装を着た道化師のような姿の男が現れ、報酬と引き換えにネズミを退治する約束をします。
男が笛を吹くと町中からネズミが集まり男に従ってぞろぞろ歩き出しました。そして町を出てヴァーザー川まで来るとネズミたちは次々と入水して全滅してしまいました。
しかし町の人々は「川に入ってしまっては本当に退治されたかわからない」とかなんくせをつけて結局報酬を払いませんでした。版によるのか「1匹あたり従量制」で報酬を決めていたため、男の申告に対して「川に入ってしまってはその申告数字が信用できない」といちゃもんをつけるものもありました。
なんにしても男は裏切られたわけですから当然のように町の人々に対して復讐をします。
数日後に現れた笛吹き男は今度は笛で4歳以上の子供たちを集め、子供たちは踊りながら男につき従い町を出てポッペンブルク山の崖で突然姿を消します。目の見えない子と声の出ない子の二人はついて行けなかったため笛吹き男が子供たちを連れて行ってしまったことを証言しました。
これも版によっては目が見えない子と声が出ない子の証言であることから、子供たちの失踪が実は不正確な情報であるかのような書き方のものもあります。
1284年6月26日にハーメルンの子供130人が大量失踪したことは、市の公式記録にも残っているそうで信憑性のある事実と考えられますが、その要因は謎に包まれています。またネズミ退治の話は16世紀になってから追加されたエピソードでそれ以前は無かったそうです。
現在、学者たちから出ている大量失踪の原因として考えられる説は
1.ポッペンブルク山で行われる祭りで事故にあって死んだ。
山の切りたった崖の真下が大きな底なし沼になっていたという事実があり、そのことから祭りで興奮した子供たちが崖の上で危険な行動をして一斉にこの沼に落ちたのでは?という推測です。
2.伝染病にかかり隔離された。
ペストの大流行の時代であり、また「子供たちは踊りながら」という記述がペストによるストレスでの集団性の舞踏性躁病の発生を起こしたのでは?という推測です。
また笛吹き男は隔離を実施した医師か単なる死神の象徴では?という考えです。
3.巡礼または少年十字軍に集団で参加し二度と両親の元へ戻らなかった。
笛吹き男は巡礼のリーダーか新兵の徴募官ではないかと推測されています。
4.東方植民地開拓運動に参加し二度と両親の元へ戻らなかった。
この時代は東方開拓が盛んであったことからの推測です。笛吹き男は植民活動のリーダーと推測されます。
このうち伝染病説は記録が日付まで明確であることから考えにくいと言われています。病気であれば同日に一度に隔離されるとは考えられないからです。
ですから現時点で可能性が高い説は「事故死説」、「巡礼または十字軍従軍説」「植民村開拓説」と考えられているようです。
個人的にはこの物語がかなり悲劇的なものとして伝わっている現実から考えると、「十字軍に従軍した」とか「植民地開拓に向かった」とかいう前向きなものでなく、「事故で大勢が犠牲になった」ことのほうが事実かもしれません。祭りの興奮状態の中、大人の目の届かないところで起きた事故であったため、その責任の所在が明確にできない大人たちがそれを忘れるために少しづつ実在しない「笛吹き男」を作り上げていったのでは無いでしょうか?
現代でも夏の祭りは開放的な気分から若者がはめをはずし、時には事件にまで発展することもあります。そのあたり今も昔も大差無いということですかねぇ・・・。と少し大人の啓蒙的意見を。