「勘竹庵」evnc_chckの音楽やそれ以外

音楽の話題が中心になるかもしれませんが日々の雑感など書いていけたらと思っています。

バークリー理論?

2008-09-28 00:19:35 | 音楽(ジャズ)

作曲を趣味にしておきながらきちんと勉強をしたことがありません。

実は高校生になるまでジャズやロックでピアニストやギタリストが演奏するソロが、アドリブと呼ばれる即興であることを知りませんでした(恥。あんな複雑な曲をよくポンポンと弾けるよな~。とかのんきなことを考えていたとです。
なんにしてもそれからはいろいろなレコードを聴き、音楽関係の雑誌や理論書、平凡社の百科事典まで読んでそれなりに、ただしあくまで独学で勉強しました。
やはりよく読んだ物と言いますか実質それしか無かったのですが、「バークリー式」のコードの上にスケールを紐付けるように乗っけて、その範囲でフレーズを展開していく方法を解説した物を最も参考にしました。
大学生になってサークルに入ってみると周りでこの考え方を理解している人間は殆ど皆無で、結果的に私はビッグバンドを始め多くのバンドでプレイする経験ができました。
反面、後輩にはエラそうに「このスケールを全キーで弾ける(吹ける)ようにして!」と指導し、その段階で挫折する後輩は「これを理解して自由にハンドリングできなければジャズはあきらめだよ」なんてイヤな先輩でした。もちろん根拠の無い言い分では無いわけですが、言われた方はたいていガックリするかムカついたかどちらかでした。

初歩的な楽典は一応は勉強しましたが、音楽活動の基本にしていたのはこの「バークリー式」の理論でした。作曲や編曲もアドリブの延長みたいに始めた感じです。

で本題ですが、バークリー式の理論って本当に理論なんでしょうか?
何でこんなことを言うかと申しますと、前述のとおり学生時代に後輩にスケールとコードの関係を説明したり、あるいは自分が勉強をしたりする際に、トップ・レベルのプレイヤー(自分だとバップならバド・パウエル、モードならチック・コリアやハービー・ハンコック)なんかのアドリブを耳コピして分析をしたんですが、どう解釈してもありえない音がいっぱいで、正直「ちゃんと考えて弾いてる?」と本人に確認したい気分になります。一応わかったような顔で後輩に講釈をしますが、例えばG7のコードを使っている小節でそれがドミナントだとして、代理コードのD♭7で解釈してそこに乗っけるスケールとして、シンプルにD♭ミクソリディアンを対応させている。とします。採譜するとそうなっているようなのですがそこにC音が出てきて、D♭のイオアニアンかリディアンのようにも解釈できるわけです。後輩は素直なんで疑問を指摘してきますが、逆にこっちが聞きたいくらいになっているので、「経過的に使うことで新主流派らしさが出ている部分」とか適当にごまかしたもんです。
これが更にラムゼイ・ルイスとか初期のハービーのようにファンクの世界になると、メジャー7thコードの上でばんばんミクソリディアンや全然関係無いペンタとかが満載で、もうホントなんも考えて無いんじゃないか?と疑りたくなります。もはや理論では無く黒人特有のブルージーさ、ファンキーさが自然に表現されている。とか適当にしか分析のしようが無い世界で、時々は自分のアドリブにこの音使いを試すのですがこれがどうにもカッコ悪くて、「やっぱセンスの問題か・・・」で片付けるしか無いものです。

そういった諸々の経験から私が行き着いた結論は、「バークリー式は理論では無くて、先人のアドリブに対するアプローチと言うかアイディアに理屈をつけたものだ」と言うことです。
これはそれがいいとか悪いとかの問題では無く、結局ジャズはアドリブを聴かせる音楽ですから、そのためのアイディアのストックが物を言うわけで、それを殊勝な方がまとめたものは極めて実践的で有用な武器です。そしてこれが何故か理論と呼ばれているわけです。
それなりに理屈をつけて集約したもののどこが理論じゃ無いんだ?と言うご意見があれば、他の音楽の理論、例えば「対位法」のようなモノフォニーからポリフォニーへの変革の要求に応えるために、あるべき音列の体系化から始まって徐々に自由度を増していったようなものこそが理論であって、「こういう考え方もあります。こうもできます。でも時には理屈付けは不可能な使われ方もあります」と言うのは、ベースにはできても理論と呼ぶのは少し抵抗があるように思います。
もちろんアドリブを取ったりジャズらしいアレンジをするためには、もはや避けて通るのは遠回りになる。という認識は私にもありますので、学ぶあるいは覚える意義が無いわけでは無いことは強調しておきます。

あまりあれもこれも使って勉強しても時間ばかり要します。私が使って「こりゃ使えるな」と感じた書籍です。かなり古い本ですが現在でも十分通用する「わかりやすい」テキストだと思います。

コンテンポラリー・ジャズ・ピアノ 1 インプロヴィゼーション&アナリゼ 


ピクルはトホホに好き

2008-09-25 00:16:14 | コミック

実は格闘技(を見るの)が好きなevnc_chckです。

「みんなは私のことを貧弱な坊やと呼んだ」な典型的もやしっ子の私ですが、子供のころはTVで「BI砲」が毎週のように「悪い外人レスラー」を倒すのをワクワクしながら観戦し(時々悪辣な反則で負けますが・・・お約束)、猪木が空手家や柔道家をKOするのに興奮し、馬場さんのフライング・ネック・ブリーカーが出ると飛び上がって狂喜し、ヴォルク・ハンの華麗なサブミッションに唸ったもんです。

まぁそう言うわけで日本を代表する格闘技コミック「バキ」シリーズは「グラップラー刃牙」からずっとかかさず、番外も含めて読んでいるわけです。

しかし今、「範馬刃牙」に出ている「ピクル」はちょっとなぁ・・・。親父の「勇次郎」が北極グマをぼこってクマちゃんがおいおい泣くのも大概でしたが、ティラノ(ですよね?一緒に発掘されたあのでっかい恐竜の骨格)と闘った姿で塩漬けになってた。というマイケル・クライトンですら書かないような細胞学的にも首をひねる背景は目をつぶっても(本当はここが一番無視できないんですが・・・)、ティラノと言うことは白亜紀の終盤、だいたい6,500万年前です。この時代の哺乳類については現在「福井県立恐竜博物館」で開催されている特別展のレポートで触れましたがが、何にしてもようやく爬虫類と肩を並べられるかどうか。の進化段階であった哺乳類の中で大型肉食恐竜を凌駕するHPの霊長類(ピクルが霊長類とはどこにも書かれていないようですが)の存在はやっぱ私的には無理っすわぁ。
ピクルが食餌のために油断しているシベリア・トラを一撃でへし折ってましたが、現生のマウンテン・ゴリラでも、2メートル近く成長したオスの大型のやつならそれくらいやっちゃうかもしれません。ですがさすがにティラノとタイマンは無理ですよね。ヴィジュアル重視も結構なんですがピクルの妙にウェストがくびれてるのも変。
刃牙もピクルを倒したらさっさと親父と決着つけないと、次は宇宙から来た「スーパーなんとか人」と雌雄を決することになりかねない。これだけの人気シリーズになると連載も手を変え品を変えて長期化し、「強いやつインフレ(by 竹熊健太郎&相原コージ)」になってしまいますね・・・。

ちなみに番外編の「疵面-スカーフェイス」でも子供なのに通風で悩む怪力少年が出てくるエピソードで、「ティラノサウルスは通風だったそうですなぁ。肉ばっかり食ってるんで云々」みたいなセリフを医者が話す場面がありました。
この話の元ネタは不明ですが推測するに「ブラックヒルズ地質学研究所」のピーター・ローソン氏による「ティラノサウルス・レックスの病理学」では無いか?と思います。このレポートは非常におもしろく自身の目で確認した事実に基づいた素晴らしいものです。

しかしいかにもそのレポートの上っ面だけ読んで確実とも言えないネタを冒頭に提示して、最後までこのネタをより所に話を展開させたのはちょっと浅はかだと思います。
確かに史上最強最凶の肉食生物という説もあるティラノサウルスが実は通風で苦しんでいた。と言うのはネタとしてはおもしろいです。人間は太古より爬虫類におびえながら生きていた過去の記憶が遺伝子に存在し、いまだに爬虫類に理屈の無い恐怖や畏敬、不快感がある。と言われていますから「あのティラノが通風ね。プッ。」といったところでしょうか。

なんにしても生命に関する過去のあらゆる学術的常識を一蹴したピクル!今後の活躍にトホホ感の混じった期待がかかるというものです。

ところで現在、週間少年ジャンプで連載されている「トリコ」の主人公と勇次郎がダブるのは私だけ?

範馬刃牙 第14巻


モード・ジャズと一口に言っても・・・(4)

2008-09-22 00:05:41 | 音楽(ジャズ)

1959年に録音されたマイルス・デイヴィスの2枚のリーダー・アルバム「Kind of Blue」と「Sketches Of Spain」。どちらもモードの手法を提示している名盤と評価されていますが、その雰囲気はまったく異なるもので特に「Sketches Of Spain」はモード云々以前にクラシックとジャズの融合であることが重要な作品です。そりゃロドリーゴのアランフェスを元ネタにしているので当然と言えば当然ですが・・・。恐らく想像ですがギル・エヴァンスのアレンジしたアランフェスでマイルスはどうソロをとったらいいのか悩んだのでは無いでしょうか?ギルはスパニッシュな曲調のこの曲に(これはスペインの曲ですから)フリジアンなどを基調とした音使いを指示したと思います。これは全体の調性を把握して共通するスケールで旋律的にアドリブをするモードの基本そのものです。
対して「Kind of Blue」はよりモードに傾倒した作品が多く収録されています。全体の雰囲気は明らかにまだバップなのですが例えば有名な「So What」などは、先の「MIlestones」の路線を踏襲し拡張した曲で、ツーモードで緊張感のあるパフォーマンスを聴かせます。

ところがこれ以後のマイルスは何故かワンモードやツーモードで展開するモードから離れてしまったように見えます。その後の録音である「Someday My Prince Will Come」などは明らかにバップのままです。と言うかバップに戻ってしまっています。
これは何故でしょう?

次回はモードの始祖という評価が定着しているマイルスが何ゆえバップに戻り、それでいて現在ではモードの始祖となりえたのか?を考察いたします。

スケッチ・オブ・スペイン - マイルス・デイビス


若いって・・・

2008-09-20 00:21:20 | Weblog

会社の人間と飲むのは実は大大大嫌いなんですが(すげぇ嫌いさが伝わる・・・)、今日は送別会なんでしぶしぶ飲んでいると、私より5年くらい年長のおっさんが自分が若く見えることを自慢し始めました。まぁよくあることですがそのうちに「お前の方が年上に見える」とか言い出したのは辟易です。

大昔ですが「ギミアブレイク」というバラエティー番組があり、そこで10分枠くらいで藤子不二雄Aさんの「笑うセールスマン(昔は「黒いセールスマン」と言ってましたが)」のアニメが放映されていました。
そのエピソードの一つに自分が若く見えると思っていた企業の管理職が、実は思っているほど周りがそうは見ていないことに愕然として、喪黒服蔵(セールスマン)から若返り特効薬を入手する。20代後半ぐらいにしか見えなくなったことをいいことに、若い娘さんとディスコで踊りまくっているうちに心臓に無理がきて・・・。という話でした。つまり外見だけ若く取り繕っても真の若さでは無いといったような啓蒙的な話です。ゲストで出演されていた藤子不二雄Aさんも「70歳くらいでボディービルで鍛えたじいさんとか見ると気持ち悪い」とかコメントされていたので、そういう気持ちがあるんでしょうね。
ちなみに藤子不二雄Aさんが現在「ジャンプSQ」で連載されている「PARマンの情熱的な日々」で、今月は「今まで大きな病気をしたことが無い」自慢をされていますが、正直若々しいとは言えない外見の藤子不二雄Aさんですが、こういった自慢こそが「若さ」自慢だと言いたいように感じました。

そう言えばやはり大昔の深夜の番組で「トゥナイト」というのがありましたが、そこで「お達者クラブ」風の特集で80歳くらいのじいさんが特集されていました。ハゲあがった皺くちゃのじいさんですが、「わしが剣道で早稲田に引っ張られたときは・・・」を連発し、今でも足を頭のあたりまで上げられるとかそんなどうでもいいことが自慢で、ディスコで手を幽霊みたいにブラブラさせながら踊っていました。もう何と言うかすき間風が吹いたような寒い雰囲気がただよっていたもんです。

「自分が若く見えること自慢」のおっさんの話がエスカレートし始めたので、「でも○○さん、歩く後ろ姿がトトロみたいですよ」とポツッと言うと、凄い顔色になってようやく離れて行きました。
やっぱり飲むなら家でマイルスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」でも聴きながら家内と飲みたいっすねぇ・・・。


観終わると陰鬱な気分になる映画第ニ弾「バスケットケース」

2008-09-18 00:36:28 | 映画

と言う事でほぼ100%みなさんが目をそむけるくだらなくて陰鬱な映画をご紹介します。

この映画はカルト・ホラー・ファンの間では超有名なんで今更ですかね。
シャム双生児として生まれた兄弟。兄は足も無くまるで腫瘍のような姿で弟に貼り付いた状態で生きています。こんな姿ながらも兄弟仲良く生きてきた二人でしたが、ある日彼らは分離手術を受けることとなります。抵抗空しく分離された二人ですが弟は肉塊となりゴミとして廃棄されていた兄を助け、バスケットケースに入れてこっそりと養います。
成長した二人は兄弟を分離した憎い医者や学者を探し出し復讐をするのですが(お~い、逆恨みじゃねぇ?)、五体満足な人生を謳歌し始めた弟にフラストレーションとジェラシーを感じ始める兄。そして弟にガールフレンドができたことから兄弟二人の愛憎は悲劇的な結末に向けて動き出すのです。

どの角度から観ても超低予算映画であることは疑いの余地もありません。
低予算だ低予算だと言われながらも殺される女優にはそこそこの美形が並ぶ「13金シリーズ」や「バーニング」に比較しても、一人としてグッと来る女優が皆無なのはもはや奇跡の配役です。数多いぶさいくからようやく選別したであろう女優がかろうじてヒロインを演じていますが、普通の青春映画とかだったらとっくにいじめられっ子のレベルです。

まぁ女優の質の劣悪さから言ったら同じ監督(フランク・ヘネンロッターと言うおっさん)の「フランケンフッカー」のほうが数枚上手なんでこれ以上つっこむのはこのへんで・・・。

で映画ですが「役者」はそのへんのスラム街で自給2ドルぐらいで雇ったような素人が、その都度監督の指示であっちへ歩いたり少し驚いたりしているのがモロわかりの眠たい演技。映像もわざとブラシをかけたように粗いし、肝心の双子の兄はメカニカル・パペットとモデル・アニメーションをメインにした特撮ですが、これを特撮と呼ぶと苦情が来そうなできです。
メカニカルはどっか一部ワイヤーが切れてるんじゃ無いかと疑うような微妙な動きしかしません。まるで風にゆれる木の枝のようなゆったりとした腕の動き、畸形だから。と言う理由を勘案しても乏しすぎる表情。
またモデル・アニメに至っては噴飯ものでアーダマン・スタジオに20年は丁稚に入ってもらわないといけないできです。まさに百聞は一見にしかず。兄がキレて部屋で暴れるシーンが一応モデル・アニメの見せ場なんですが思わず笑みがこぼれる不思議な恐怖シーンでした。

同じ母から同じ家に生まれた兄でありながら弟にしか頼らざるをえず、害虫のようにかくれて生きるしかない辛さ。夜空に向かいコヨーテのように叫ぶ兄の姿が悲しいです。
どうでもいい殺人シーンやとってつけたようなトホホお色気シーンなど吹き飛ばす、哀しく切ない兄弟愛を描いた名作(あくまで物語としての)です。

なお調子こいて続出した続編は観ないように。例え観ても観なかったことに。乱歩の「孤島の鬼」を劣化させた駄作だと思えばOKの作品で~す(笑。

バスケットケース(1982)


モード・ジャズと一口に言っても・・・(3)

2008-09-16 00:07:12 | 音楽(ジャズ)

どんどん複雑になるジャズの和声。刺激的な進化にこそリスナーが見出していた価値をどう維持していくのか?それがモードであったのかを引き続き考察させていただきます。

ここで一般論として語られることですが、バップがジャズのアイデンティティーを追求するあまり、コード進行が極度に複雑化しそれに乗るアヴェイラブル・ノート・スケール(以下スケール)が多様化、結果としジャズはマイルス・デイヴィスによってモードへと進化した。と言うジャズの歴史的な認識があります。これは大なり小なり異論はあれどおおむね一致した見解のように見えます。しかし本当にこのままの認識で正しいのでしょうか?
モードの先駆的作品としてよく引き合いに出されるのがマイルスの「Milestones」です。あえてコードで示せばC7だけの単純なバッキングの上にアドリブが展開される。複雑なバップの曲の中にあって「わびさび」のようにシンプルな雰囲気を持った曲で、当時のムーブメントの中では画期的だったろうと思います。
でこの曲が録音されたのが1958年です。その後マイルスはフランス近代の影響を感じる独特の和声感と、それまでは基本は「明るく能天気」なイメージのあったジャズに、ある種の静的な世界を持ち込んだビル・エヴァンスを迎えて「Kind of Blue」を1959年に録音します。また同年にギル・エヴァンス(名前似てるけど注意!)をアレンジャーとして「Sketches Of Spain」も録音されました。
どちらもモードの手法を提示している名盤と評価されていますが、その雰囲気はまったく異なるものでした。

モードを洗練させていくマイルスですがそれではこの段階モードはどのようなものだったのでしょうか?次回はこの2枚のアルバムについて少し触れ、その後のマイルスのモードへのアプローチへとつなげていきたいと思います。

カインド・オブ・ブルー - マイルス・デイビス


福井県立恐竜博物館の特別展(5)

2008-09-13 00:19:33 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

出口には巨大な肉食の鳥「ガストルニス」の全身骨格の化石標本と生態復元模型があります。一般には「恐鳥類」と呼ばれている飛べない肉食の鳥の一種です。

鳥綱(Aves)
ガストルニス目(Gastornithiformes)
ガストルニス科(Gastornithidae)
ガストルニス(Gastornis ) 1855


「ガストルニス」より「ディアトリマ」とか「ジアトリマ」と呼んだほうが馴染みがありますが、「ディアトリマ」が北米で発見された際にすでにヨーロッパで発見され命名されていた、「ガストルニス」と同じ生物であるということで、「ディアトリマ」は無効となっているようです。この手の話はよくあることで有名なところでは竜脚類の恐竜「ブロントサウルス」が無効になり「アパトサウルス」と呼ばれている例があります。

で、この「ガストルニス」なんですが6500万年前に恐竜が絶滅した後に、ぽっかりとあいてしまった陸生の大型肉食生物の生態系上の地位を占めることになった生き物です。大きさは2mくらいですので恐竜時代の10m超えの肉食獣(アロサウルスとかティラノサウルス)には及びません。大きさから言えば少し大きめのディノニクスやユタラプトルくらいでしょうか?それで自然界の食物連鎖の頂点に君臨したわけですから白亜紀の終焉の後、いくら哺乳類の時代が始まったとは言えまだまだ哺乳類は小型のものしかいなかったわけです。「恐鳥類」は6500万年前から500万年前くらいまでは衰退しながらも地球上にいたようです。それだけ哺乳類の肉食生物がこの肉食の鳥に対抗できるまでに時間を要したと言えます。

姿は一見すると現生の「ダチョウ」やすでに絶滅した「モア」などに似ています。羽は退化し胴体も樽のように大きく体型から見ても飛べなくなっていることが理解できます。代わりにその後ろ足は恐竜のようにゴツくいかにも走るのに適した長さと力強さが感じられます。そして何より目を引くのが大きめの椰子の実のような頭と、そこに付いている鋭い嘴です。目いっぱい嘴を広げると小さめのボーリング・ボールぐらいなら噛み砕けそうな大きさと形をしています。一見すると翼も小さく肉食の獣脚類恐竜の腕にも見えるため恐竜のような骨格ですが、恥骨などの腰部の骨格はやはり鳥のもので獣脚類恐竜から進化した鳥のうち、二次的に飛べなくなった鳥であることが明確にわかります。ご興味があればこので会場で一度前に戻られて恐竜のコーナーに展示されている「インゲニア」あたりと比較されても面白いと思います。

以前に科学系の雑誌で「恐鳥類」の狩の方法を考察した研究成果を読んだことがあります。
要約すると次のような方法であったろうと推測されるそうです。

草むらや岩陰にかくれて獲物を待ち伏せします。この体つきですから大型の犬くらいの生き物ぐらいしか狩ることはできないと思いますが、新生代初期は実際その程度の大きさの哺乳類しかいませんでした。
のんびり草でも食べている獲物を見つけると獲物までの距離を測ります。鳥ですから両目が左右についており物を立体視はできませんが、現生のニワトリなどと同様に首を素早くふって片目づつで対象を見て距離を計算します。獲物が十分に近づいたら一気にダッシュし獲物に並走するまで距離を詰めます。このあたりはライオンなどの肉食哺乳類と同じと考えていいでしょう。
獲物と並走になったらピッタリと獲物の横につき、その強靭な後ろ足で獲物の脇や首筋にケリを一撃入れます。ショックで獲物がバランスを崩し倒れたらすぐに強力な嘴でくわえこみ、動けなくしておいてから首の筋肉で持ち上げると獲物が失神もしくは死亡するまで地面に叩きつけます。こうしてあとはゆっくり食餌をしていくわけです。

ちなみに展示物の中に「ガストルニス」の他に現生の「」「ダチョウ」や絶滅した「モア」、また同じ「恐鳥類」の「フォルスラコス」の比較図のようなものがありますが、それぞれ別の分類の鳥ですからお間違いの無いように。「恐鳥類」は現代はすべて絶滅しているのに何か同じ仲間のような書きぶりで少し釈然としません。

以上で簡単ではありますが福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」についてのレポートを終わります。

一応お子さんにも楽しめるように恐竜の全身骨格なども展示されていますが、全体的には地味な印象はぬぐえません。この特別展に行かれるご予定があれば是非このレポートをお読みいただき、更にはネットや書籍等である程度の予備知識を持っていかれると楽しめると思います。お子さんにいろいろ説明してあげれば喜んでもらえて親の株も上がると言うものです。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(4)

2008-09-11 00:42:18 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

白亜紀後期の恐竜たちを抜けるとようやく主役の哺乳類たちに出会えます。
現在の我々を含む哺乳類である「有胎盤類」の祖先で現時点で発見されている最古の化石から展示は始まります。まだ発見され学名がついて1年くらいの最新の化石情報ですよ。

哺乳綱(Mammalia)
獣亜綱(Theria)
真獣下綱(Eutheria)
エオマイア・スカンソリア(Eomaia scansoria )

この真獣類「エオマイア」は我々の祖先とは言っても、胎盤を持って子供がかなり成熟するまで胎盤内で育てる「有胎盤類」では無いようです。確かに腰の骨は貧弱な感じで現在の我々の腰にある「骨盤」といった類の物には見えません。出産した子供は有袋類の子供のようにかなり未熟児の状態で生まれたのかもしれませんね。
ただこの真獣類が進化して現在の「有胎盤類」となったと考えられています。

哺乳類のコーナーでいくつか興味を持つことがあったのですが、特に興味深かったのは「奇蹄類(ウマ、サイ、バク)」と「偶蹄類(ウシやイノシシ、カバなど)」についてです。
我々にとって奇蹄類に属する「ウマ」は馴染みのある哺乳類です。何と言ってもその「走行」する姿が印象的で「西部劇」や「時代劇」の大切な脇役です。毎週のようにこの生き物が走る競争に大金を投じて一喜一憂する方々も多いです。
しかし「奇蹄類」は現在は極めて種類の少ない生き物の分類で、哺乳類の中では衰退した勢力です。対して「偶蹄類」は現在最も繁栄した大型草食獣です。彼らが繁栄したのはその「反芻」という能力にあると言う説明があり、「なるほど。一理あるなあ」と感じました。
どんな生物でも食餌中はきわめて無防備で命が危険にさらされる行為です。家族で暮らすという理由もありますが、あのライオンですら餌は安全な住処に持ち帰って見張りを置いて順番に食べます。
そんな自然界でとりあえず一気に胃の中にエサを詰め込み、複数の胃で何度も消化する方法は合理的な考えです。我々のように胃が1つしか無い場合は反芻したらもう二度と食べることはありませんが。

ところでこの展示では大型草食哺乳類は紹介されていますが、肉食の哺乳類が殆ど展示されていません。恐竜が絶滅した後の陸は大型肉食生物、草食生物の生態系のポジションがともに空洞になりました。草食生物こそ哺乳類がその地位を占めていったものの、肉食の大型生物に哺乳類が見られないのであれば、一体誰が肉食生物の頂点に君臨したのでしょうか?
そのあたりは次の最終回でレポートします。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(3)

2008-09-08 21:12:23 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

恐竜の全身骨格は白亜紀末ころの恐竜をセレクトしていくつか展示されています。
しかしやはり哺乳類の進化に重点を置いている関係なのか、それほどスペースを割いて展示に力を入れているわけではありません。この中で目を引くのは大型肉食恐竜である「ゴルゴサウルス」の全身骨格と「カルカロドントサウルス」「タルボサウルス」の頭骨の化石(レプリカ)でしょう。やっぱり肉食恐竜がみなさん好きですよね。

竜盤目(Saurischia)
獣脚亜目(Theropoda)
コエルロサウルス下目(Coelurosauria)
ティラノサウルス科(Tyrannosauridae)
ゴルゴサウルス属(Gorgosaurus)
ゴルゴサウルス(Gorgosaurus libratus)

白亜紀末の肉食恐竜と言えば定番は「ティラノサウルス」ですが、ここの博物館には過去に発見されたティラノの全身骨格では最も状態が良い「スタン」のレプリカがいます。「スー」?ダメダメ。でかいだけ!

ですからそれより少し前のティラノサウルスに近い恐竜として「ゴルゴサウルス」が選ばれたのでしょう。これ以外であれば「アルバートサウルス」か「ダスプレトサウルス」あたりになりますね。

「ゴルゴサウルス」と言えば私が子供のころは大型肉食恐竜としてそれなりの存在でしたが、その後「アルバートサウルス」と同じ恐竜とされていたように記憶しています。それが最近はまた違う恐竜と認識されています。よくあることですが例えば逆に雌雄や成長段階の差異程度を別種と認識してしまったりすることもあります。

全然、恐竜の生態とは関係ありませんが手塚治虫の漫画「ブラックジャック」の一エピソードに「ゴルゴサウルス」が登場したことがあります。
中学生か高校生ぐらいの少年が主人公なんですが、へそが異常に飛び出ていて知的障害もあるためいつもいじめられていた少年が、ある日何気なく化石を拾います。それを見た理科の教師は彼にいろいろな化石を見せてやります。それまで勉強もできず(障害があるのですから)運動もダメ。何事にも消極的であった少年はその日を境に物凄い集中力で化石を次々発見します。それは教師の知識を超えるようになり遂に古生物学者の研究所に少年を連れて行きます。
ますます化石に興味を持った少年はある日世紀の大発見「ゴルゴサウルス」の全身骨格化石を発掘するのでした。
でその後彼の異常に飛び出たヘソは病気で手術が必要となり、そのために化石発掘を中断することになるのですが・・・。とラストはご自身でお読みください。結構泣けるエピソードですよ。

昔これを読んだときは日本には恐竜の化石なんてまず出ない。と言われていました。まぁ太平洋側は関東ローム層を始めとしてせいぜい数100万年とか数万年の地層が多いので仕方無いのですが、今や福井の勝山など日本海側は国際的にも注目を集める恐竜化石の産地があるわけですから時代を感じます。
しかも北米産と考えられていたアメリカン・ダイナソーの象徴である「ティラノサウルス」はアジア大陸を起源としていて、それが大陸を渡って北米で進化したものである。モンゴルで発見されるティラノのそっくりさん「タルボサウルス」は収斂進化の結果である。と言う説があります。そうなると日本や中国などで収斂進化の結果として「アルバートサウルス」や「ゴルゴサウルス」のそっくりさんが発見されてもおかしくないですよね?
ご本人がどれほどの恐竜の知識がありどこまで意識してこのストーリーを考えられたか不明ですが、手塚治虫と言う天才漫画家の空想力には改めて感嘆します。

「ゴルゴサウルス」の全身骨格化石を見つめながらそんなことを考えたものでした。あんま古生物は関係無い話ですいません・・・。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」


福井県立恐竜博物館の特別展(2)

2008-09-06 00:24:11 | 古生物

福井県立恐竜博物館 特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」を見に行って来ました。非常に地味だけど玄人向けの内容の濃い展示であったと思います。まあいつもですが・・・。いくつか印象のあった展示をご紹介いたします。期間は2008年7月11日から同年10月13日までです。お出かけされる方は是非ご参考にしてください。

入り口を入ると最初に白亜紀の海がどのような状況であったかが説明されています。比較的知られた話ですがその時代はインド大陸での大噴火をはじめとして、火山活動が活発であったことから海面温度は33度であったそうです。一風呂浴びられる程度ですね。そんな中で海棲生物も非常に巨大なものが存在したわけです。

入り口の「リオプレウロドン」の頭骨隣にはおそらく北海道中川町の「エコミュージアムセンター自然誌博物館」が所有する物でしょうが、「モレノサウルス」の一種の全身骨格が展示されています。

双弓亜綱(Diapsida)
鰭竜類(Sauropterygia)
首長竜目(Plesiosauria)
エラスモサウルス科(Elasmosauridae)
モレノサウルス(Morenosaurus)→実際はその一種と考えられる化石

「モレノサウルス」は有名なプレシオサウルスなどと同じ首長竜と呼ばれる海棲の爬虫類です。今回の特別展では隣に展示されている「リオプレウロドン」も首長竜なんですが、こちらは首が短い種類です。
首の長い種類の首長竜は姿が竜脚類恐竜に似ていますが恐竜ではありません。生きていた時代も恐竜と同じ中生代の三畳紀の終わりから白亜紀末(約2億年前~6500万年前)なので、図鑑などでも同じように解説され間違いやすいのですが、恐竜とは系統がちがう海にすむ爬虫類です。
具体的に説明いたしますと

・爬虫類→主竜類→恐竜、ワニ、翼竜など

・爬虫類→鱗竜類→首長竜、魚竜、ヘビなど

という系統に分類されています。
また骨格での違いで顕著なのは頭骨に開いている穴で見分けがつきます。爬虫類の分類の基準に目の後ろの穴があります。側頭窓と呼びますが恐竜は目の後ろに「上側頭窓」と「下側頭窓」の2つの穴が開いています。対して首長竜は「上側頭窓」が1つ開いているだけです。

首長竜と言うだけあって一番の特徴はそのヘビのような首です。白亜紀の首長竜の「エラスモサウルス」などは頚椎が79個もあったそうです。ちなみに陸生哺乳類で首の長いことで知られるキリンは7個ですから、そのケタ違いの多さがわかると言うものです。これだけ頚椎が細かくなっていればまさに自由自在に首を曲げることができたと考えられます。
また体の前後にボートのオールのような薄い鰭がついており、これは4枚バラバラに前後に動かせたようです。ですから直進して泳ぐだけで無くきわめて複雑に水中をくねるように泳げたことでしょう。

水中をくねるように泳ぎまわりながら首も前後左右自由にくねらせ、ちょこまかと逃げ回る魚やアンモナイトなどを捕獲していたことと思われます。歯の形状も隣に展示されている「リオプレウロドン」同様に熊手のように前に傾斜し上下はしっかりと噛み合うようになっていて、水中のすべりやすい獲物を確実にキャッチできるようになっています。
 
今回のこの首長竜は1991年に北海道の中川町で発見されたもので、頭骨などは無いようですが他の骨格の特徴から「エラスモサウルス科のモレノサウルス属(Morenosaurus)」と考えられ、ロサンゼルス郡立自然史博物館に展示されているモレノサウルス・ストッキイ(Morenosaurus stocki)をもとに、全身骨格が製作されたようです。
全長11メートルの首長竜の全身骨格は日本最大のものですが、首長竜と言えばずいぶん昔(1968年)に福島で発掘された「フタバスズキリュウ」がいますね。ずっと愛称のままでしたが2006年にようやく「フタバサウルス・スズキイ」という学名がついたようです。こんなに長くかかることもあるんですねぇ。

この後、特別展の会場はアンモナイトが「これでもか!」とばかりに展示されています。日本の北の海はジュラ紀から白亜紀には非常に多くの海洋生物が生活していたことがよくわかる展示です。

ここを過ぎると突如、恐竜時代の最後の恐竜たちが展示されています。恐竜も少し出さないと・・・と言った感じですが。
続きは後日にさせていただきます。

特別展「K/T ―絶滅期の恐竜と新時代の生き物たち―」