耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

“強制連行・強制労働”とドイツ国家の姿勢

2007-03-29 20:49:32 | Weblog
 去る27日、『中国人強制連行・長崎訴訟』の判決で原告の請求が棄却された。「中国人の強制連行を巡る訴訟は、全国で14件が係争中で、05年6月の東京高裁判決以降、原告敗訴が続いている」と毎日新聞にある通り、つい先日、宮崎訴訟でも請求が棄却されたばかりであった。

 安部政権は、『性奴隷(従軍慰安婦)』の歴史的事実を歪曲するばかりか、侵略戦争そのものを否定しようとしているが、最近の司法の動向をみればこれと無関係ではないように見えてくる。加えて、「歴史正統派」を自任する桜井よし子らの妄言が一定の影響力を及ぼしているとみてよかろう。だが、軒並みに敗れてはいるものの、最近の国際世論をみれば、わが国司法の判断がこれで済まされるかどうか問われることになるだろう。安部首相の最近の言動が、厳しい国際世論の反応を受けて、宙に浮いた感じになってきたのが何よりの証明である。国内世論より国外世論に左右されるわが国政治の脆弱性は変わらない。

 国家犯罪の『強制労働』にドイツはどう対応したかみてみよう。ドイツは、ナチ被害者に対する補償を実行しながらも、「強制労働」については一貫して補償を拒み続けていた。しかし1999年、『強制労働補償基金』を創設、基金は100億DMでその二分の一は連邦政府が、二分の一は独企業が拠出し、うち81億DMが強制労働補償に充当された。ドイツの強制労働被害者は1200万人に及ぶとされているが、今回の基金による補償は、生存者を対象に「奴隷労働者」(24万人)一人当たり15,000DM、「強制労働者」(75万~100万人)一人当たり5,000DMの補償を行なうというものである。

 ドイツ連邦大統領ヨハネス・ラウ氏(当時)は1999年12月17日、強制労働補償金総額合意に関する大統領声明を行い、『強制労働者に許しを請う』と題して以下の通り演説した。(抜粋)

 <…国と企業がかつて行なわれた不正から生じた共同責任と道義的責任を表明するものです。…私たちはみな、犯罪の犠牲者が金銭によって本当は補償されないことを知っています。私たちはみな、何百万の男女に加えられた苦痛が取り返しのつかないことであることを知っています。…奴隷労働・強制労働は、正当な賃金未払いを意味するだけでなく、強制連行、故郷の喪失、権利の剥奪、人間の尊厳に対する暴力的蹂躙を意味したのです。それはしばしば人間を労働によって殺害するために計画的に行なわれました。当時、命を失ったすべての人にとって、補償は遅すぎました。
 
 …それゆえにこそ今、生存者は出来るだけ早く、本日合意に至った人道的給付を受け取ることが大切です。…私は、多くの人びとにとって金銭など全く重要でないことを知っています。彼らは自分の苦しみが苦しみとして認められ、自分たちに加えられた不正を不正としてみなされることを求めているのです。私はドイツの支配下で奴隷労働と強制労働を行なわねばならなかったすべての人びとに思いを馳せ、ドイツ国民の名において許しを請います。>

 わが国による中国人強制連行・強制労働の発端は、1942年11月27日、当時の東条内閣による『華人労務者内地移入に関する件』の閣議決定によるとされている。この時の商工大臣が岸信介である。華北から各地に送られた中国人の総数が744万人、そのうち満州に送られた中国人が717万人、日本に送られた中国人が3万8935人だという。現在係争中のいずれの裁判所の判決も強制連行・強制労働のこの事実だけは認めている。戦犯を逃れてのちに首相になった岸信介は、「華人労務者」強制連行政策遂行の最高責任者であったにもかかわらず、国会答弁では白を切り続けた。いま、その孫である安部晋三が祖父岸信介擁護に腐心しているとみえないだろうか。

 日本人の一人としてドイツ国民に恥ずかしい。百年前ドイツ人イェーリングは著書『権利のための闘争』で言っている。

 <私の理論によって批判されるのは、臆病や不精や怠慢によって漫然と不法を感受する態度だけである。>

(参照・http://ianhu.g.hatena.ne.jp/bbs/8/11

 


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