耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

自衛隊は“軍隊”です

2007-04-01 10:14:11 | Weblog
 わが国の再軍備は1950年、警察予備隊の創設に始まる。2年後、保安隊に改変され、さらに2年後の1954年7月1日、自衛隊が創設されこんにちに至る。私が保安隊に入隊したのは1954年1月で、半年後に自衛隊になったわけだ。私は「戦後の軍隊」に2年間在籍した。

 その頃の隊員は国民から白い眼で見られ「税金ドロボウ」と言って蔑まれていた。なにしろ隊員の初任給は(「向こう飯、向こう糞」で)約6,000円、2年間在任すれば6万円の退職金を貰えたのだから、就職難の当時としては好待遇と言えた。国民の目に「税金ドロボウ」と写ったのも無理はない。

 国民の間では「再軍備論争」もまだ冷めてはいなかった。1962年4月発行の同人誌に私は『自衛のための戦力は必要か』と題する一文を寄せている。いわゆる「戦争放棄」の憲法のもとに戦力保持が許されるのか、そして保有しようとする戦力に限界はあるのかという素朴な疑問をまとめたものである。そこに以下のような引用文がある。

<古い話になるが、昭和27年当時、再軍備促進大会という集会で芦田均氏(元首相)は言った。「家の外に強盗が横行している以上、戸締りをするのは常識であります。戸締りをしたためにドロボウがはいるということはありません」(山川均著『日本の再軍備』より)。さらに同書は小泉信三著『平和論』から小泉氏の言葉を引いている。
「現に失火者があり、放火者もないとはいわれぬ今の世界で消防が無用であるとはいわれない。消防があるから火事がある。消防さえなければ火事がないとの結論に飛躍することは許されない。…」
 
 これに対し山川均氏は次のように反論する。
「日本に軍隊がなく、アメリカの兵隊がいなくても、ソ連の軍隊が攻め寄せてくる心配は絶対にないかと問われれば…絶対にないと保障することはできない。…絶対にないと保障することのできないのは、ソ連の侵略の危険だけではない。私は今外出しかけている。途中の踏み切りで列車にひかれるかも知れない。…心臓マヒを起こすかも知れない。…要するに私には、死ガイになって帰ってくる心配は絶対にないという保障はすこしもないのである。そこで私は、棺オケと葬式の用意をして家を出たとする。現実的な諸君は、きっと笑うだろう。なぜおかしいのか。絶対に死なぬという保障のないことは確実な事実である。しかしこの場合の危険の大きさと、それに備える準備の大きさとのあいだのツリ合いがとれないから、おかしいのであって、これを笑う人々の常識は健全である」。
 
 さらに山川均氏は注目すべきことに触れている。
「わが国でも、共産党の武力革命ということが、ことさらに大きく問題にされているようだが、無智な民衆に対する宣伝ならいざ知らず火炎ビンとラムネビンとせいぜい警官から盗み取ったピストルを武器とする革命のまえに、ほんとに戦リツしている人があるならコッケイというほかない。これに反してわが国に軍隊ができ、武器が貯蔵され、そして近代的な武器の使用を習得した人々ができたとき、初めてわが国でも、武力革命を真実に恐れてもコッケイでないときがくるだろう。」>

 私が在任した当時の武器はアメリカ軍の払い下げ品だった。カービン銃、ライフル銃、軽・重機関銃、ロケットランチャー、手榴弾、75ミリ迫撃砲、105ミリ・200ミリ榴弾砲など使い古しのものばかりだった。それでも旧日本軍の装備より優れていたのかも知れない。そんな状況下の1961年、山川均が予告したクーデター計画「三無事件」が発覚し、国民を震撼させた。

 「三無事件」:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%84%A1%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 こんにち「自衛隊」の「国防費」は世界第二位ともいわれ、半世紀前の「再軍備論争」など小学校の模擬国会にも及ばぬほど非現実のものになった感がする。だが、いつの間にか巨大化したわが国の「軍事力」はこれでいいのか、「自衛のための最小限度の戦力」は「憲法に違反しない」と繰り返し述べつつ「肥大化する戦力」にわれわれ国民は余りに「不感症」になったのではあるまいか。

 「自衛隊」:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A

 防衛庁が「省」に昇格し、自衛隊の「軍隊」への実質昇格も目前になった。これで海外派兵が一気に可能になる。石原慎太郎のような人物がのさばり続けることを許すような国民ならば、自衛隊が「天皇の軍隊」に変貌する日が来るだろう。そして、第二の「三無事件」が画策されてもおかしくない政情が目に浮かぶ。

 昨日の閣議で「イラク特措法」を2年延長する改正案が決定されたが、東京新聞が3月25日から連載をはじめた特集記事『変貌する自衛隊』に関する「 天木直人のブログ」の記事(3/29、3/30)に注目したい。陸上自衛隊が撤退した後、航空自衛隊が残ってバグダットや北部のアルビルとの間で多国籍軍の兵士や国連職員などの輸送を行なっているが、これが誠に危険な業務らしい。事はここまで進んでいるのだ。

 「天木直人のブログ」:http://www.amakiblog.com/

 「戦争中毒」のアメリカに追随する日本。米軍再編に3兆円もの税金を献上しようとしている安部政権。一方、「格差社会」で痛めつけられる弱者たち。狂っていると感じない国民が多いというのだろうか。



最新の画像もっと見る