「アメリカの医療制度はビョーキ(sicko)だ!」と告発するマイケル・ムーア監督の『シッコ』を観た。“民営化”の行く末を暗示する“怖い”ハナシである。
参照:「予告編」http://sicko.gyao.jp/(画面を下にずらして「シッコ」をクリック)
先進国で唯一国民健康保険制度のないアメリカ。6人に一人が無保険で、毎年1.8万人が治療を受けられずに死んでいく。だが、映画『シッコ』が取り上げているのはこの無保険者の問題ではなく、保険に加入している人たちのハナシである。
救急車を呼んで緊急入院したら、「事前承認なしに救急車を呼んだ」という理由で保険会社は医療費を拒否する。
50代の夫婦で、夫が心臓発作を起こし、妻はガンを患った。二人が加入している保険はHMO(健康維持機構)で、保険料が安い代わりに質の低い保険。自己負担額を払えなくなった夫婦は住み慣れたわが家を手放し娘夫婦の地下室に引っ越す。
スーパーマーケットで毎日働く老人。会社を辞めて保険を失えば薬代が払えないからだ。健康保険をキープするだけの目的で、彼は死ぬまで働き続ける。
骨髄移植で命が救われるかもしれない重病の夫をかかえる妻。彼の家族の骨髄がマッチすると判明し、大喜びしたにもかかわらず、保険会社はなかなかお金を下ろしてくれない。待っているうちに夫は死んでしまった。こうなるのを保険会社は待っていたのだ。
保険会社の意のままになる医者。会社に有利な医療行為で成績を上げた医者にはそれに見合う「成功報酬」がある。保険会社は、自分たちに有利な法律を成立させるために政治家を買収する。ここでも「成功報酬」として、都合の良い法律の制定に寄与した政治家は保険会社に迎えられ、天下った政治家は年収2億円以上を手に入れる。このアメリカには、保険に加入しない市民が4700万人いて、WHO(世界保健機構)の調査ランキングで健康保険充実度は世界37位という。
ほかの国はどうか。ムーア監督はカナダ、イギリス、フランスを訪ね、事情を探る。これらの国では、医療は基本的に国が運営する保険でカバーされ、原則無料。医師は患者本位の医療を行なっている。イギリスの病院の「会計」は、医療費を徴収するのではなく、交通費を患者に支給する窓口である。フランスの中流家庭の夫人は「一番お金のかかるのは食費、次にバケーション」と答える。
最後に、9.11で救助作業に従事した人たち。猛烈な粉塵の中で必死の作業を行なった結果、呼吸器疾患に悩まされている者が多い。英雄的な働きをした彼らに対し、政府・保険会社ともきわめて冷淡である。ムーア監督は彼らをキューバのグアンタナモ米海軍基地に連れて行く。そこはアルカイダ一味が無料で医療が受けられる場所である。「9.11の英雄に容疑者たちと同じ治療を受けさせてくれ!」と基地に向かって監督は叫ぶ。無論、軍基地は無視。
そこでムーア監督は彼らを“敵国・キューバ”の病院に連れて行く。自国では望めない手厚いもてなしに彼らは感激。少ない収入で購入する薬も、自国では120ドルなのに、ここキューバではたったの5セントだという。
ムーア監督は叫ぶ。
「I am sick of it(もう沢山)!」
ドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアとはどんな人物か。彼の目的はたんなる「記録」でも「告発」でもなく、「現実を変えること」にあるという。『ボウリング・フォー・コロンバイン』ではアメリカの銃規制問題を取り上げ、大手スーパーに殴りこんで銃弾の販売を中止させ、全米ライフル協会会長の俳優チャールストン・へストンを直撃して追及する。『華氏911』は9.11をめぐるブッシュ大統領の疑惑の数々とイラク戦争の中止をねらった作品である。著書には『アホで マヌケな アメリカ白人』や『おい、ブッシュ、世界を返せ!』『華氏911の真実』などがある。(参照:http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=6362)
映画・『シッコ』は、「民営化」の行く末を暗示する。わが国でも小泉・竹中政権が、リース・金融・保険を手がけるオリックスの宮内美彦を規制改革・民間開放推進会議議長にすえて、公的保険の民間開放を積極的に進めてきた。「郵政民営化」はその象徴といえよう。小泉改革による最近の医療改革の本質を見抜けば、わが国医療制度の米国化が透けて見えてくる。
2003年11月発行の『おい、ブッシュ、世界を返せ!』で著者のマイケル・ムーアはこう書いている。
<大統領がつく嘘のうちで最悪のものはさあどっち?
「わたしはあのミス・ルインスキーという女性と性的関係をもったことはありません」
それとも…
「彼は大量破壊兵器を保有しています…それは世界一危険な兵器です…それはアメリカ合衆国と、われわれ国民と、われわれの同盟国に対する直接の脅威となっています」
第一の嘘をついた大統領は弾劾裁判にかけられた。二つ目の嘘をついた大統領は、やりたがっていた戦争がやれただけでなく、友人たちにビッグなビジネス・チャンスを与えることができて、次の選挙での圧勝をほぼ確実にすることができた。>
さらに同書の第4章は「お化けだぞ! とおどかすブッシュ~テロなんてそう簡単には起こらない」と見出しがついて、こんな書き出しで始まる。
<テロリストの脅威なんてない。
気をしずめて、体の力を抜いて、ようく聞いてほしい。そしてあとに続けて唱えてほしい。
テロリストの脅威なんてない。
テロリストの脅威なんてない!
テロリストの…脅威…なんて…ない!
気が楽になった? そうでもない? まあ、難しいよね。あれよあれよという間に、ぼくたちの心の中に深く深く、この国は…世界は…テロリストだらけだという思い込みがしみこんでしまったのだから。>(『おい、ブッシュ、世界を返せ!』/アーティストハウス)
確かに、ブッシュの演説を聞いていると、世界中に「テロリスト」が潜んでいて、“もぐら叩き”みたいに、どこから頭を出すか分からないから、“もぐら”の巣を根こそぎ破壊するということで、アフガニスタンやイラクの巣を攻撃したが、今のところうまくいかない。次に狙いをつけた“もぐら”の巣は、どうやら「イラン」にあるらしい。
折りしも、わが国では「テロ特措法」が話題になっている。マスコミでは“テロとの戦い”という言葉が氾濫し、テロリスト対策機材の展示会は大繁盛。“テロ”の危機を煽れば煽るほど儲かる企業が存在し、安部晋三のような“危機”を売りにする政治家が横行する。
マイケル・ムーアが言うように、気をしずめて、体の力を抜いて「テロリストの脅威なんてない!」と唱えよう!
これが“テロ”対策のもっとも有効な手段だ、と気づくべきではないか。
宮沢賢治詩集より。
“政治家”
あっちもこっちも
ひとさわぎおこして
いっぱい呑みたいやつらばかりだ
羊歯(しだ)の葉と雲
世界はそんなにつめたく暗い
けれどもまもなく
さういふやつらは
ひとりで腐(くさ)って
ひとりで雨に流される
あとはしんとした青い羊歯ばかり
そしてそれが人間の石炭紀であったと
どこかの透明な地質学者が記録するであらう
参照:「予告編」http://sicko.gyao.jp/(画面を下にずらして「シッコ」をクリック)
先進国で唯一国民健康保険制度のないアメリカ。6人に一人が無保険で、毎年1.8万人が治療を受けられずに死んでいく。だが、映画『シッコ』が取り上げているのはこの無保険者の問題ではなく、保険に加入している人たちのハナシである。
救急車を呼んで緊急入院したら、「事前承認なしに救急車を呼んだ」という理由で保険会社は医療費を拒否する。
50代の夫婦で、夫が心臓発作を起こし、妻はガンを患った。二人が加入している保険はHMO(健康維持機構)で、保険料が安い代わりに質の低い保険。自己負担額を払えなくなった夫婦は住み慣れたわが家を手放し娘夫婦の地下室に引っ越す。
スーパーマーケットで毎日働く老人。会社を辞めて保険を失えば薬代が払えないからだ。健康保険をキープするだけの目的で、彼は死ぬまで働き続ける。
骨髄移植で命が救われるかもしれない重病の夫をかかえる妻。彼の家族の骨髄がマッチすると判明し、大喜びしたにもかかわらず、保険会社はなかなかお金を下ろしてくれない。待っているうちに夫は死んでしまった。こうなるのを保険会社は待っていたのだ。
保険会社の意のままになる医者。会社に有利な医療行為で成績を上げた医者にはそれに見合う「成功報酬」がある。保険会社は、自分たちに有利な法律を成立させるために政治家を買収する。ここでも「成功報酬」として、都合の良い法律の制定に寄与した政治家は保険会社に迎えられ、天下った政治家は年収2億円以上を手に入れる。このアメリカには、保険に加入しない市民が4700万人いて、WHO(世界保健機構)の調査ランキングで健康保険充実度は世界37位という。
ほかの国はどうか。ムーア監督はカナダ、イギリス、フランスを訪ね、事情を探る。これらの国では、医療は基本的に国が運営する保険でカバーされ、原則無料。医師は患者本位の医療を行なっている。イギリスの病院の「会計」は、医療費を徴収するのではなく、交通費を患者に支給する窓口である。フランスの中流家庭の夫人は「一番お金のかかるのは食費、次にバケーション」と答える。
最後に、9.11で救助作業に従事した人たち。猛烈な粉塵の中で必死の作業を行なった結果、呼吸器疾患に悩まされている者が多い。英雄的な働きをした彼らに対し、政府・保険会社ともきわめて冷淡である。ムーア監督は彼らをキューバのグアンタナモ米海軍基地に連れて行く。そこはアルカイダ一味が無料で医療が受けられる場所である。「9.11の英雄に容疑者たちと同じ治療を受けさせてくれ!」と基地に向かって監督は叫ぶ。無論、軍基地は無視。
そこでムーア監督は彼らを“敵国・キューバ”の病院に連れて行く。自国では望めない手厚いもてなしに彼らは感激。少ない収入で購入する薬も、自国では120ドルなのに、ここキューバではたったの5セントだという。
ムーア監督は叫ぶ。
「I am sick of it(もう沢山)!」
ドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアとはどんな人物か。彼の目的はたんなる「記録」でも「告発」でもなく、「現実を変えること」にあるという。『ボウリング・フォー・コロンバイン』ではアメリカの銃規制問題を取り上げ、大手スーパーに殴りこんで銃弾の販売を中止させ、全米ライフル協会会長の俳優チャールストン・へストンを直撃して追及する。『華氏911』は9.11をめぐるブッシュ大統領の疑惑の数々とイラク戦争の中止をねらった作品である。著書には『アホで マヌケな アメリカ白人』や『おい、ブッシュ、世界を返せ!』『華氏911の真実』などがある。(参照:http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=6362)
映画・『シッコ』は、「民営化」の行く末を暗示する。わが国でも小泉・竹中政権が、リース・金融・保険を手がけるオリックスの宮内美彦を規制改革・民間開放推進会議議長にすえて、公的保険の民間開放を積極的に進めてきた。「郵政民営化」はその象徴といえよう。小泉改革による最近の医療改革の本質を見抜けば、わが国医療制度の米国化が透けて見えてくる。
2003年11月発行の『おい、ブッシュ、世界を返せ!』で著者のマイケル・ムーアはこう書いている。
<大統領がつく嘘のうちで最悪のものはさあどっち?
「わたしはあのミス・ルインスキーという女性と性的関係をもったことはありません」
それとも…
「彼は大量破壊兵器を保有しています…それは世界一危険な兵器です…それはアメリカ合衆国と、われわれ国民と、われわれの同盟国に対する直接の脅威となっています」
第一の嘘をついた大統領は弾劾裁判にかけられた。二つ目の嘘をついた大統領は、やりたがっていた戦争がやれただけでなく、友人たちにビッグなビジネス・チャンスを与えることができて、次の選挙での圧勝をほぼ確実にすることができた。>
さらに同書の第4章は「お化けだぞ! とおどかすブッシュ~テロなんてそう簡単には起こらない」と見出しがついて、こんな書き出しで始まる。
<テロリストの脅威なんてない。
気をしずめて、体の力を抜いて、ようく聞いてほしい。そしてあとに続けて唱えてほしい。
テロリストの脅威なんてない。
テロリストの脅威なんてない!
テロリストの…脅威…なんて…ない!
気が楽になった? そうでもない? まあ、難しいよね。あれよあれよという間に、ぼくたちの心の中に深く深く、この国は…世界は…テロリストだらけだという思い込みがしみこんでしまったのだから。>(『おい、ブッシュ、世界を返せ!』/アーティストハウス)
確かに、ブッシュの演説を聞いていると、世界中に「テロリスト」が潜んでいて、“もぐら叩き”みたいに、どこから頭を出すか分からないから、“もぐら”の巣を根こそぎ破壊するということで、アフガニスタンやイラクの巣を攻撃したが、今のところうまくいかない。次に狙いをつけた“もぐら”の巣は、どうやら「イラン」にあるらしい。
折りしも、わが国では「テロ特措法」が話題になっている。マスコミでは“テロとの戦い”という言葉が氾濫し、テロリスト対策機材の展示会は大繁盛。“テロ”の危機を煽れば煽るほど儲かる企業が存在し、安部晋三のような“危機”を売りにする政治家が横行する。
マイケル・ムーアが言うように、気をしずめて、体の力を抜いて「テロリストの脅威なんてない!」と唱えよう!
これが“テロ”対策のもっとも有効な手段だ、と気づくべきではないか。
宮沢賢治詩集より。
“政治家”
あっちもこっちも
ひとさわぎおこして
いっぱい呑みたいやつらばかりだ
羊歯(しだ)の葉と雲
世界はそんなにつめたく暗い
けれどもまもなく
さういふやつらは
ひとりで腐(くさ)って
ひとりで雨に流される
あとはしんとした青い羊歯ばかり
そしてそれが人間の石炭紀であったと
どこかの透明な地質学者が記録するであらう