珍しく、ラーの方から電話をかけてきた。
何か起こったのかと、一瞬ドキッとする。
「クンター、驚かせてごめんね。モーピーが、どうしてもクンターに挨拶したいって言うから・・・」
モーピーとは、村に住む霊媒師のことである。
彼はラーの主治医(?)でもあり、簡単な病気などは祈祷だけで治してしまう。
彼は長い間山奥に住んで修業をしていたのであるが、体を壊して村を離れていた。
1度ラーとふたりで見舞いに行こうと話し合ってこともあるのだけれど、彼の病気が結核という噂があり、周囲にとめられてしまった。
結局、彼の病気は結核ではなく肝臓病だったらしく、一時は命が危ういという情報も入ったくらいだったが、なんとか持ち直して最近村に戻ってきたという。
だが、山暮らしが長い彼はカレン語しか話さない。
「ラー、挨拶と言っても俺はカレン語チンプンカンプンだぞ」
「ううん、とにかくコンニチハだけだから」
「そうか、それならOKだ」
しかし、「クンター!」という大声から始まった彼の挨拶は延々と続き、なかなか止まらない。
「サワディークラップ(こんにちは)!サバイディーマイ(元気ですか)?」とタイ語で挨拶したあとの私は、ただ苦笑しながら彼の意味不明な、しかし心地よいリズムに乗ったカレン語の響きに耳を傾けるだけだ。
しばらくして電話を代わったラーが、私に通訳をしてくれる。
「クンター、日本での暮らしはどうですか?あなたが元気でやっているかどうか、とても心配でラーに無理を言ってしまいました。私が病気のときには、大変心配していただいてありがとう。あなたはとってもいい人で、村のみんながあなたの帰りを待っています。しかし、中には馬鹿な奴がいて、あなたには日本人の妻がいるとか、もう村には戻ってこないとか、やっかみ半分の噂を立ててラーに辛い思いをさせることがあります。しかし、そんな馬鹿どものことは決して心配しないでください。何かあったら、私がラーを守りますから、どうぞご心配なく。あなたの無事と早い帰りを、ラーと共に心から祈っています。
それでは、どうかご機嫌よう!」
モーピーの声は、低く力強い響きがあり、まるで何かの呪文を聞いているようだった。
祖霊と交信できるらしい彼ならば、きっとラーを守ってくれるだろう。
彼と一緒のせいか、ラーも今日は涙を流すことなく元気いっぱいだった。
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何か起こったのかと、一瞬ドキッとする。
「クンター、驚かせてごめんね。モーピーが、どうしてもクンターに挨拶したいって言うから・・・」
モーピーとは、村に住む霊媒師のことである。
彼はラーの主治医(?)でもあり、簡単な病気などは祈祷だけで治してしまう。
彼は長い間山奥に住んで修業をしていたのであるが、体を壊して村を離れていた。
1度ラーとふたりで見舞いに行こうと話し合ってこともあるのだけれど、彼の病気が結核という噂があり、周囲にとめられてしまった。
結局、彼の病気は結核ではなく肝臓病だったらしく、一時は命が危ういという情報も入ったくらいだったが、なんとか持ち直して最近村に戻ってきたという。
だが、山暮らしが長い彼はカレン語しか話さない。
「ラー、挨拶と言っても俺はカレン語チンプンカンプンだぞ」
「ううん、とにかくコンニチハだけだから」
「そうか、それならOKだ」
しかし、「クンター!」という大声から始まった彼の挨拶は延々と続き、なかなか止まらない。
「サワディークラップ(こんにちは)!サバイディーマイ(元気ですか)?」とタイ語で挨拶したあとの私は、ただ苦笑しながら彼の意味不明な、しかし心地よいリズムに乗ったカレン語の響きに耳を傾けるだけだ。
しばらくして電話を代わったラーが、私に通訳をしてくれる。
「クンター、日本での暮らしはどうですか?あなたが元気でやっているかどうか、とても心配でラーに無理を言ってしまいました。私が病気のときには、大変心配していただいてありがとう。あなたはとってもいい人で、村のみんながあなたの帰りを待っています。しかし、中には馬鹿な奴がいて、あなたには日本人の妻がいるとか、もう村には戻ってこないとか、やっかみ半分の噂を立ててラーに辛い思いをさせることがあります。しかし、そんな馬鹿どものことは決して心配しないでください。何かあったら、私がラーを守りますから、どうぞご心配なく。あなたの無事と早い帰りを、ラーと共に心から祈っています。
それでは、どうかご機嫌よう!」
モーピーの声は、低く力強い響きがあり、まるで何かの呪文を聞いているようだった。
祖霊と交信できるらしい彼ならば、きっとラーを守ってくれるだろう。
彼と一緒のせいか、ラーも今日は涙を流すことなく元気いっぱいだった。
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