【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【髪洗いと餅菓子】

2009年04月25日 | アジア回帰
 

 めでたいはずのソンクラン(伝統正月)は、大喧嘩と共に開けた。

 犬も喰わぬ夫婦喧嘩であるからして詳細は省くが、嫁のラーは左腕の内側に黒い痣をつくって反省しきりなれど、私は「ソンクランが終わったら日本に帰る」と宣言して、嫁がいかに懐柔にかかっても無言を貫き通す。

 ただし、周囲のめでたい雰囲気を壊さぬよう、嫁が執り行う儀式には、煮えくり返るはらわたを鎮めつつ素直に従うことにした。

 その儀式とは、「髪洗い」である。

 まずは、マッカー厶に似た木の実(薬として使われておりなかなか手に入りにくい)を煮込んで黄色い煮汁を作る。

 嫁は、これを私の頭にかけてすりこむように頭皮と毛髪を洗い、なにやら呪文のようなカレン語を唱えている。

 「より良い年を迎えられますように」という仏陀への祈りだというが、今の私にとってそんなものは有難くもなんともない。

 私の髪洗いを終えると、嫁は次に自分の長い黒髪を洗い、続いて息子のポーの刈り込んだ短い髪を洗った。

 これがソンクラン初日の「家族の髪洗い」で、翌日は母親や叔母、近所の年寄りなど老人の家を訪ねてこの髪洗いを行い、新年の贈り物をするのだという。

       *

 そうこうするうちに、親戚のノイヌックが「カノンファーン(餅菓子)」を作るから家に来てほしい」と誘いにやってきた。

 もちろん、私は「今日は人と会う気になれない」と拒否したのであるが、隣家のプーノイがわが家の剣呑な気配を感じ取ったのか、仲裁がてら「一緒に行こう」と強引に誘いにかかるので、やむなく折れることにした。

 ノイヌックの家に着くと、すでに焚き火に大鍋が据えられ、3人の男たちが長い竹のへらで芋のざく切りのようなものに火を通している。

 私の顔を見ると、男のひとりがさっそくひときれをつまみあげて、味見をさせてくれた。

 正体はココナッツであったが、サツマ芋のような香ばしさだ。

 しんなりとしてきたところで、これに黒砂糖の山をどっと振りかけ、再び竹べらでひたすらかき回す。

 炎天下、焚き火のまわりの作業である。

 しかも、例によって焼酎が振る舞われるから、すぐに汗まみれだ。

 そこへ、娘たちが小さなバケツを抱えてやってきて、首筋のあたりにそっと水をかけてくれる。

 これが伝統的な“水掛け”で、娘たちの遠慮がちな仕草がとても奥床しい。

       *

 ココナッツと黒砂糖がしっかりと絡み合って、ねっとりとしてきたころ、もち米を搗いてあらかじめこねておいた直径10センチほどの平餅を20個ほど放り込み、あとはひたすらこねまわす。

 この餅のかたまりが焦げ付かぬように竹べらでこねまわすにはなかなかの力がいり、香ばしい薫りに惹かれて立ち寄った人々が、次々に交代してはこの作業に加わっていく。

 そして、餅が充分にこなれ、全体に黒砂糖の甘味が行き渡ったところで、これを一気にバナナの葉を敷いた大ざるに移し替える。

 これで、作業は終了だ。

      *

 かなり甘いが、搗きたての餅の歯ごたえとココナッツの香ばしさが相まって、なかなかの風味である。

 幼少のころ、わが家では雑煮の汁を啜ったあと、椀の底に残した餅に刻んだ黒砂糖をまぶして食していたものであるが、この餅菓子は、そんな懐かしい正月の食卓風景を思い起こさせてくれた。

 嫁のラーが、この餅菓子へのお礼にとヤン厶ンセン(春雨サラダ)を振る舞っている。

 ついつい餅を食いすぎて動けなくなった私は、すでに喧嘩の原因すら忘れて、酔っ払った男衆たちの冗談に付きあっている。

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