『クレイジー・ハート』という題名のアメリカ映画を観た。
先日、カメラの修理に出かけたとき、DVDショップで見つけたのである。
主演は、今年のアカデミー賞主演男優賞を授賞したジェフ・ブリッジス。
日本では、6月に公開されるらしい。
去年の作品なのに、賞が決まってからあたふたと輸入公開するところなどは、いかにも「賞」と「外圧」に弱い日本の文化界らしい。
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ジェフの役どころは、伝説のカントリーミュージックスターである。
私と同年の57歳になったいまはすっかり落ちぶれて、ひとりでクルマを運転しながらヨレヨレになってどさ回りを続けている。
お決まりのアル中で、ヘビースモーカー。
しきりに咳き込み、胃に病気も抱えているらしい。
結婚には、4回も失敗した。
4歳で別れた息子の消息すら知らない。
そんな彼が、あるどさ回り先でインタビューにきた子連れの女性ライターと恋に落ちる。
ジェフの役作りは絶妙で、ぶよぶよに太り、画面からはいかにも胸の悪くなりそうな中年臭が漂ってきそうである。
そんな男に女が惚れるかと思わせるほどの迫力なのだが、そこはやはり男と女である。
彼女の4歳の息子ともすっかり打ち解けて、次第に平安を取り戻していく。
しかし、ある日・・・。
と、そこで破局が訪れるのだが、そこからの再生の道をここで書くのはルール違反だろう。
結末は、悪くない。
57年間の生き方のツケとして、底深い寂寞は背負うしかないのだけれど、彼にはイノチの同義語としての音楽が残った。
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まあ、ストーリーにそれほどの新味はないが、アメリカでは大きな反響と共感を呼んだという。
カントリーミュージックの影響力は、日本人が考える以上に絶大だ。
その伝説的スターの再生物語となれば、なおさらである。
それに、アメリカ人は“人生のリベンジ”が、ことのほかお好きである。
挫折からの再挑戦を目指すものに対しては、惜しみなくチャンスを与える。
一度挫折した者を寄ってたかって再起不能にしてしまう日本とは、大違いだ。
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ミソは、57歳という主役の年齢だろう。
すでに先は見えているが、かといってリタイアにはまだ遠い。
諦めてしまうには早過ぎて、かえってあるかなきかの可能性にみっともなく惑う羽目となる。
うーん、なんだか自分のことを書いているような気分になってきた。
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どんなにボロボロになっても、どんなに年を食っても、人生の立て直しはできる。
たったひとつの信じられるもの(彼の場合は音楽)さえあれば。
それが、この映画のメッセージなのだろうが、誰もがその“信じられるもの”を持っているわけではない。
だから、この“年寄り映画”は若い衆にこそ観てもらいたいと思う。
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